【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート 作:バブ辻オギャン
少女は、麗にべったりと引っ付いていた。
僅かに香る血の匂いは、少女のものではなく、別の誰かの匂い。
斬り刻まれた家屋の跡地には、一室分の血の海が広がっていて、噎せ返るような血の匂いが、風で運ばれて辺りに散布されている。
男女の死体。
生き残りの少女。
まるで、過去の自分のようだとカナエは思った。
「あのひと、いない?」
「大丈夫、もういないよ」
年端も行かぬ少女は、溢れる涙を隠すように、麗に抱き着く。
他者の温かみ、それに集中する事で、麗の背後にある信じたくないものを、両親の死体から目を背けるかのように。
麗はそれを受け入れた。
嗚咽を、少女の恐怖を受け入れ続けた。
『隠』が到着するまでの間、ずっと。
「…………」
陽光に照らされて、ようやく露わになった麗の姿。
それを見て、カナエは少女の言っていた言葉の理由が、何となく分かったような気がした。
――灰の妖精。
髪色だけで見れば、同じ女の子に向ける言葉ではないだろうが、『鼠』だって想起してもおかしくない。
しかし、少女は麗を見て『灰』と表現した。
その理由は恐らく、毛先の色なのだろう。
灰色の髪と、先が真っ赤に染まる色合い。それはまさに『灰』らしい、不思議な容姿と言えるのだから。
まだ鬼狩りになる前、カナエも町ではかなりの大人から容姿を褒められた事がある。
今なら、そんな彼らの気持ちが分かる気がした。
「申し訳ありません、花柱様」
少女がやって来た『隠』によって保護されたのを確認してから。
麗は改まって、片膝をつき、カナエの前で頭を下げた。
「己の力不足により、上弦の頸を斬る絶好の機会を、隙を突く事ができませんでした」
遠目から見ても、童磨の放った冷気は恐ろしいものだった。
一瞬の攻防……否、一方的な暴力をぶつけた光景の中で、カナエが一瞬見たもの。
それは童磨の四肢が刹那で斬り落とされ、そこからあの『置き土産』が発動した場面。
麗の言う『隙を突く事ができなかった』とは、あの事を言っているのだろう。
――あれさえなければ。
もしくは、家屋に残された生き残りの少女と自分の両方がいなければ。
百年以上変わらなかった鬼殺隊の歴史が――『上弦の討伐』を果たすという、転換期が訪れたかもしれなかったというのに。
だから。
「どうしてあなたが謝るの」
謝るのは、むしろ――。
「私、あなたに助けられてばかりだったわ」
鬼殺隊を支える『柱』である自分が、それより下の『
……いいや、助けられるなんて次元の話ではない、むしろ自分がお荷物だったではないか。
『柱』として不甲斐なし。
『穴があったら入りたい』とは、この事を言うのだろう。
あの時、自分は童磨の事で手一杯で、『家屋の中』など考えもしなかった。
それに、気配にだって気づけなかった。
――なんて、情けない話なのだろう。
「私、何の役にも――」
「いいえ、それは絶対にあり得ません」
カナエの言葉を遮って、麗は言う。
「あなたのおかげで、あなたが時間を稼いでくれたおかげで、あの子が鬼の毒牙にかかる事がなかった。
「……」
「だからどうか、そんな事を言わないでください。……とても、辛く思います」
口調こそ丁寧であるが。
そこには、例え目上の『柱』であろうと、決して引き下がらない強い意志が宿っている。
(まるでしのぶみたい……)
妹のように強い目だ。
だが、妹の目に宿る強い怒りや憎悪、剥き出しの刃に近しいそれらとは違い、麗の目に宿るものは透き通っている。
空のように広く、大きい慈しみの色。
その目が見通すものは、自分が抱くものよりも――。
「ねぇ、花柳さん」
「さん付けは不要です」
「じゃあ麗ちゃん」
「……それでいいです」
麗が折れるのは早かった。
こちらが譲らない事を、聞いた声色でもう察したのだろう。
ニコニコとした優しい笑みを浮かべながら、カナエは問う。
「聞いて欲しいの。……私は、救いたい。人も鬼も両方」
数え切れない程人を殺した『上弦』と会っても。
ましてや、殺されそうになったとしても、カナエの思いは変わらない。
「おかしな話よね。あなたがいないと、その鬼に殺されてたかもしれないって言うのに。……それでも私は、そう思わずにはいられない」
「…………」
麗は眉一つ動かさずに聞く。
「一体でも多く鬼を倒して、誰かの幸せを壊されないようにしたい。同時に悲しみの連鎖を、因果から鬼も人も守りたい。……あなたは、どう?」
「…………――」
自分の在り方、それをどう思うか聞きたかった。
当然こんな考え、カナエ以外誰も理解者はいない。
殆どの人間にとって、鬼は須く悪しき存在であり、憎き生物。
誰かの命を守る為ならばともかく、鬼を倒す事により、鬼にも救いを与えるなど、気が狂ったのかと言われても否定できない。
むしろ殺す度に、憎き彼らの肉を裂く、それに喜びすら覚える者が普通なのだから。
それは、カナエ以外の『柱』も例外ではない。
だからこそ、カナエは問いたい。
時間を稼ぐ為とはいえ、童磨の問答に応えた姿。
鬼と戦っている間も、保護した少女を抱きしめている間も、ずっと穏やかな気配を放っていた彼女にこそ聞きたい。
――『柱』と同等か、もしくはそれ以上の力を持つからこその、彼女だけの視点や価値観。
それを知りたい。
自分の願いを、彼女は一体どのように捉えるのか。
カナエはただ、それが知りたく、そして――。
「
麗の口から出てきた言葉は、予想とは真逆のものだった。
「善良に生きた人が理不尽な目に遭い、悪人がのさばり続けている。平等なんて何処にもない、下手くそな出来の世だ」
「……」
「『極楽』……神や仏の実在の有無は、正直どっちでもいいと思う。……仮にいたとしても、それは鬼舞辻一体に天罰も下せない、どうしようもない役立たずだろうし」
「……――」
自分と、そう違わない歳の筈なのに。
その佇まい、言葉に込められた思いは、まるで悟りを開いた者特有の重みを感じさせられた。
「でも、それでいいと思う」
透き通った目で、麗は空を見上げた。
「世の中、酸いも甘いもあるように。そうして世は巡っていく、誰かを愛する人が、愛されて育った人がいる限り。人が人である証明で、恨み、呪い……愛する何かがいる限り。この世界は醜くも、同時に美しくもあり続けると、僕はそう思うから」
それは、一言で言えば『諦観』。
だけど同時に、自分も含めた世の全てを『醜い』と切り捨てつつも。
それと同じ位――。
「
彼女は、
「『命』は『命』に他ならない。死ねば鼓動が止まり、肉も骨も土に還る。……『命』の終わりに意味を見出せるのは、人間だけが持つ美しさだ」
いつの間にか、カナエは麗の瞳から目を離す事ができなかった。
深く、黒く輝くその両目がこちらを見据え。
そして紡がれる言葉を、カナエは一つも余す事なく聞く。
「僕は、あなたを否定しません。……むしろ、できません。あなたのその優しさは、この世に必要なものです」
「……――」
「だからどうか。あなたはそのままで、美しいままで居て下さい」
「――ふふっ」
思わず、カナエは笑ってしまった。
あまりにも熱烈な言葉に、思わず指先が熱っぽくなったような気もする。
「そんな情熱的な言葉、私初めて」
「……?」
きょとんとした表情で首を傾げる麗。
その可愛らしい様子を見て余計、カナエは笑みを堪え切れなかった。
胸中で燻っていた悔しさ。
僅かにひび割れた自尊心。
それらはもう――影も形もなかった。
切断された四肢の断面に走る、内臓を灼かれるような激痛。
それとは別の、
痛みが渋滞し過ぎていて、逆に痛くないようだ。
と、その時。
「あれれ?」
首から下がない事に、童磨は今になって気づいた。
あの赫色の刀で斬られた身体はともかく、首から下が再生できないのだけは分かる
何せ童磨の目の前にいる、
「――童磨」
例え童磨でも、決して敵わない『絶対』。
それが、首だけとなった童磨を、『上弦』の文字が刻まれた左目を抉りながら持ち上げていた。
紅梅色の瞳。
暴力的な生命力と、童磨を赤子扱いする圧倒的な『鬼気』を醸し出す男。
それは全ての鬼の頂点にして、始祖。
「貴様。なんだ?その体たらくは」
男――鬼舞辻無惨は、額に青筋を浮かべていた。
「これはこれは無惨様、確かに言い訳の一つもできませぬ。一体どのような形で詫びればよいのか……」
ペカーっとした笑顔で、童磨は詫びた。
余計。グチャリと、無惨の指が童磨の頭を更に深く抉る。
それでも笑顔を辞めない童磨に、無惨は青筋を更に増やす。
「貴様の片目に刻んだ文字は何だ?今一度認識し直せ。――『弐』だ、『上弦の弐』が、たかが女の柱に手傷を負わせる事もできず、ましてや『柱』でもない小娘にやられるだと?」
「本当に申し訳ありませぬ、御詫びに目玉でも……あぁでも、今もう貴方様が傷つけておられるので、代わりにそこの身体から内臓を……」
「いらぬ、貴様の内臓など」
無惨はそう言って、童磨の首を身体のある方へ雑に投げ捨てた。
コロコロと床を転がる童磨は相変わらず、薄っぺらい笑顔を浮かべたまま。
それに余計、無惨は苛立つ様子を見せる。
「あと、貴様は随分と無駄な『お喋り』をしてくれたな。私が『万世極楽教』を認めている理由を忘れたか?――
何もない空間に、まるで亀裂が走ったかのような。
凄まじい重圧が無惨から放たれる。
「貴様が『教祖』の真似事をしている事はいい、だが、どうしてそれを自分で漏らしておきながら、誰一人として処分できない?始末をつけられない?」
一言。
無惨が言葉を紡ぐたびに空間が軋み、童磨の首に、身体にひび割れたような傷が走る。
「鬼狩り共が『万世極楽教』と貴様との繋がりに勘付く可能性を、どうして潰しておかなかった?貴様のくだらないお喋りも、あいつらを始末さえすれば、仕方なく容認してやったというのにだ」
ピシッと、童磨の顔が裂け、鮮血が舞う。
「何故そこまで無様を晒せる、何故この私の妥協にすら応えられない?――なぁ童磨?」
残る童磨の顔が。
「――童磨!!」
目が裂け、溶けて。
「――童磨!!!!」
そうしてようやく。
頭がぐずぐずに溶け、再生もできず、あと一歩で死ぬ寸前になってようやく、無惨は止まった。
童磨の首を、ぐずぐずに溶けたそれを見下す目。
紅梅色の瞳に宿るのは、心の底からの失望。
「私はどうやら、貴様を自分で思う以上に甘やかしていたようだ」
そして、嫌悪。
「『保存』した人間はまだいるだろう、暫くはそれで腹を満たせ。当然、これから十数年は外を出歩くな。――そして、貴様にはもう二度と『遊歩』の許可は下りないと思え」
「あやや……」
「信者の数も減らせ、半分かそれ以上だ。――妥協すら満たせないお前には、それくらいが丁度いい」
ちょっと、いや結構悲しいと童磨は思った。
夜、頭の悪い可哀想な信者たちの相手をする事なく、ぷらぷらと歩いて見繕った、可愛い娘を好きに喰らう。
たくさんの人を救う為とはいえ、教祖の仕事ばかりは気が滅入るのだし、あの『遊歩』はかなり心の癒しだったのだ。
しかし、今回ばかりは仕方ない。
遊び過ぎた自分が悪いのだから、これくらいの罰は甘んじなければ。
「っとと……よいしょ」
もぞもぞと身体を動かし、何とか首を繋げた童磨。
無惨の効力も消え、首の再生阻害がなくなった為、泣き別れとなった首と胴の再会は一瞬だった。
しかし。
「あれ、あれれれ……?」
切断された四肢。
花柳麗に斬られた場所だけは、一向に再生の兆しを見せなかった。
意識を集中させてみても、血管の一つも生えはしない。
(うーん……?再生の感覚自体はあるのになぁ……)
無惨が先ほどしていたような、明確な再生阻害とは違う。
肉を増やそうとする感覚、骨や血管が修復されようとする感覚はしっかりと認識できる。
だが、一向に失った手足が生えようとして来ない。
――
特殊な術が絡まないとなると、必然的に答えはそれに絞られるのだが、余計ありえない。
しかしそれ以外に、らしい理由が思いつかないのも確か。
やはり、あの少女は面白い。
童磨はケラケラと笑いながら、達磨状態となった自分の身体を無惨に見せつけた。
「見てください無惨様、何故か再生しません!」
「…………」
「この調子だと、治すのに
――違和感。
「しかもこれ、今も結構痛いです。いやぁどうしてなんでしょうねぇ……あの赫色の刀が理由なんでしょうか?」
「……――」
「うーん痛い!痛いです無惨様!それに腕がないと食事が難しい!どうしましょう無惨様」
――違和感。
「――――」
「無惨様ー?」
――違和感。
「さっさと治せ」
ベンッ!という琵琶の音と共に、無惨は童磨の言葉を無視して消えた。
部屋には変わらず、達磨状態の童磨のみ。
童磨は四肢のない身体をバタバタと動かし、そうして暫くして、だらりと脱力した。
「……むぅ…………寂しいなぁ」
――致命的な『違和感』には、誰も気づけなかった。
鬼舞辻無惨。彼がその代償を支払う事になるのは、あと――。
無惨様視点で麗ちゃんをどう捉えるか、それはもう非常に悩みました。
感想欄でよく予想されてた『無惨様童磨嫌ってるし、情報共有遮断してて気づかなかったんやろうなぁ』もそれはそれでいいんですが、作者的に『いくら無惨様でもそこまで甘くないだろう』と考えました。
それから更に考えました。考えて考えて、次第に夢の中に無惨様が出てくる程に考え、そうして辿り着いたのが今回の結論、プライドです。
思い出したくない敗北の記憶、恐怖の象徴たる『赫刀』を喰らったのにも拘らず、ヘラヘラと笑う自分が嫌っている童磨。
赫刀を喰らって、自分はあれだけ苦しかったのに。
奥歯が砕ける程の屈辱を、恐怖を味わったというのに。
――目の前の傷を
誰よりも生存本能が強い、生きる為に恥など知らない男が、己の自尊心を守る為――『男としてのプライド』のせいで『違和感』に気づけず。
何より、ここでより鮮明に心を読めば、童磨の『痛がっている』様子が本心である事にも気づけたのに、――『あんまり好きじゃない』童磨の心を読みたくないという、自分の『人間性』のせいで、余計全てが台無しになってしまう。
結果、致命的な認識のズレが発生し、何もかもがお終いに。
…美しい、これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう。
あなたが嫌い、見下した『人間性』の失敗、それを無限城で悟り、晒してようやくこの作品は完成を迎えるのです。
……えー、現場からは以上です。
主人公の将来的な身長はどれがいいか
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166cm
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172cm
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184cm