【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 今回も後書き(解説?)かなり長いので注意してください。


29.『違和感』

 少女は、麗にべったりと引っ付いていた。

 僅かに香る血の匂いは、少女のものではなく、別の誰かの匂い。

 斬り刻まれた家屋の跡地には、一室分の血の海が広がっていて、噎せ返るような血の匂いが、風で運ばれて辺りに散布されている。

 

 男女の死体。

 生き残りの少女。

 

 まるで、過去の自分のようだとカナエは思った。

 

「あのひと、いない?」

「大丈夫、もういないよ」

 

 年端も行かぬ少女は、溢れる涙を隠すように、麗に抱き着く。

 他者の温かみ、それに集中する事で、麗の背後にある信じたくないものを、両親の死体から目を背けるかのように。

 

 麗はそれを受け入れた。

 嗚咽を、少女の恐怖を受け入れ続けた。

 

 『隠』が到着するまでの間、ずっと。

 

「…………」

 

 陽光に照らされて、ようやく露わになった麗の姿。

 それを見て、カナエは少女の言っていた言葉の理由が、何となく分かったような気がした。

 

 ――灰の妖精。

 

 髪色だけで見れば、同じ女の子に向ける言葉ではないだろうが、『鼠』だって想起してもおかしくない。

 しかし、少女は麗を見て『灰』と表現した。

 その理由は恐らく、毛先の色なのだろう。

 灰色の髪と、先が真っ赤に染まる色合い。それはまさに『灰』らしい、不思議な容姿と言えるのだから。

 まだ鬼狩りになる前、カナエも町ではかなりの大人から容姿を褒められた事がある。

 今なら、そんな彼らの気持ちが分かる気がした。

 

「申し訳ありません、花柱様」

 

 少女がやって来た『隠』によって保護されたのを確認してから。

 麗は改まって、片膝をつき、カナエの前で頭を下げた。

 

「己の力不足により、上弦の頸を斬る絶好の機会を、隙を突く事ができませんでした」

 

 遠目から見ても、童磨の放った冷気は恐ろしいものだった。

 一瞬の攻防……否、一方的な暴力をぶつけた光景の中で、カナエが一瞬見たもの。

 それは童磨の四肢が刹那で斬り落とされ、そこからあの『置き土産』が発動した場面。

 麗の言う『隙を突く事ができなかった』とは、あの事を言っているのだろう。

 

 ――あれさえなければ。

 

 もしくは、家屋に残された生き残りの少女と自分の両方がいなければ。

 百年以上変わらなかった鬼殺隊の歴史が――『上弦の討伐』を果たすという、転換期が訪れたかもしれなかったというのに。

 だから。

 

「どうしてあなたが謝るの」

 

 謝るのは、むしろ――。

 

「私、あなたに助けられてばかりだったわ」

 

 鬼殺隊を支える『柱』である自分が、それより下の『(きのえ)』に助けられる。

 ……いいや、助けられるなんて次元の話ではない、むしろ自分がお荷物だったではないか。

 極小の霧(粉凍り)も、分身による波状攻撃も、自分はいなすので精一杯。

 『柱』として不甲斐なし。

 『穴があったら入りたい』とは、この事を言うのだろう。

 

 あの時、自分は童磨の事で手一杯で、『家屋の中』など考えもしなかった。

 それに、気配にだって気づけなかった。

 

 ――なんて、情けない話なのだろう。

 

「私、何の役にも――」

「いいえ、それは絶対にあり得ません」

 

 カナエの言葉を遮って、麗は言う。

 

「あなたのおかげで、あなたが時間を稼いでくれたおかげで、あの子が鬼の毒牙にかかる事がなかった。()も、ちゃんと間に合った」

「……」

「だからどうか、そんな事を言わないでください。……とても、辛く思います」

 

 口調こそ丁寧であるが。

 そこには、例え目上の『柱』であろうと、決して引き下がらない強い意志が宿っている。

 

(まるでしのぶみたい……)

 

 妹のように強い目だ。

 だが、妹の目に宿る強い怒りや憎悪、剥き出しの刃に近しいそれらとは違い、麗の目に宿るものは透き通っている。

 

 空のように広く、大きい慈しみの色。

 

 その目が見通すものは、自分が抱くものよりも――。

 

「ねぇ、花柳さん」

「さん付けは不要です」

「じゃあ麗ちゃん」

「……それでいいです」

 

 麗が折れるのは早かった。

 こちらが譲らない事を、聞いた声色でもう察したのだろう。

 ニコニコとした優しい笑みを浮かべながら、カナエは問う。

 

「聞いて欲しいの。……私は、救いたい。人も鬼も両方」

 

 数え切れない程人を殺した『上弦』と会っても。

 ましてや、殺されそうになったとしても、カナエの思いは変わらない。

 

「おかしな話よね。あなたがいないと、その鬼に殺されてたかもしれないって言うのに。……それでも私は、そう思わずにはいられない」

「…………」

 

 麗は眉一つ動かさずに聞く。

 

「一体でも多く鬼を倒して、誰かの幸せを壊されないようにしたい。同時に悲しみの連鎖を、因果から鬼も人も守りたい。……あなたは、どう?」

「…………――」

 

 自分の在り方、それをどう思うか聞きたかった。

 当然こんな考え、カナエ以外誰も理解者はいない。

 

 殆どの人間にとって、鬼は須く悪しき存在であり、憎き生物。

 

 誰かの命を守る為ならばともかく、鬼を倒す事により、鬼にも救いを与えるなど、気が狂ったのかと言われても否定できない。

 むしろ殺す度に、憎き彼らの肉を裂く、それに喜びすら覚える者が普通なのだから。

 それは、カナエ以外の『柱』も例外ではない。

 

 だからこそ、カナエは問いたい。

 

 時間を稼ぐ為とはいえ、童磨の問答に応えた姿。

 鬼と戦っている間も、保護した少女を抱きしめている間も、ずっと穏やかな気配を放っていた彼女にこそ聞きたい。

 

 ――『柱』と同等か、もしくはそれ以上の力を持つからこその、彼女だけの視点や価値観。

 

 それを知りたい。

 自分の願いを、彼女は一体どのように捉えるのか。

 カナエはただ、それが知りたく、そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 麗の口から出てきた言葉は、予想とは真逆のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「善良に生きた人が理不尽な目に遭い、悪人がのさばり続けている。平等なんて何処にもない、下手くそな出来の世だ」

「……」

「『極楽』……神や仏の実在の有無は、正直どっちでもいいと思う。……仮にいたとしても、それは鬼舞辻一体に天罰も下せない、どうしようもない役立たずだろうし」

「……――」

 

 自分と、そう違わない歳の筈なのに。

 その佇まい、言葉に込められた思いは、まるで悟りを開いた者特有の重みを感じさせられた。

 

「でも、それでいいと思う」

 

 透き通った目で、麗は空を見上げた。

 

「世の中、酸いも甘いもあるように。そうして世は巡っていく、誰かを愛する人が、愛されて育った人がいる限り。人が人である証明で、恨み、呪い……愛する何かがいる限り。この世界は醜くも、同時に美しくもあり続けると、僕はそう思うから」

 

 それは、一言で言えば『諦観』。

 だけど同時に、自分も含めた世の全てを『醜い』と切り捨てつつも。

 それと同じ位――。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女は、()()()()世にあるもの全てを『美しい』ものであると肯定するのだ。

 

「『命』は『命』に他ならない。死ねば鼓動が止まり、肉も骨も土に還る。……『命』の終わりに意味を見出せるのは、人間だけが持つ美しさだ」

 

 いつの間にか、カナエは麗の瞳から目を離す事ができなかった。

 深く、黒く輝くその両目がこちらを見据え。

 そして紡がれる言葉を、カナエは一つも余す事なく聞く。

 

「僕は、あなたを否定しません。……むしろ、できません。あなたのその優しさは、この世に必要なものです」

「……――」

「だからどうか。あなたはそのままで、美しいままで居て下さい」

「――ふふっ」

 

 思わず、カナエは笑ってしまった。

 あまりにも熱烈な言葉に、思わず指先が熱っぽくなったような気もする。

 

「そんな情熱的な言葉、私初めて」

「……?」

 

 きょとんとした表情で首を傾げる麗。

 その可愛らしい様子を見て余計、カナエは笑みを堪え切れなかった。

 

 胸中で燻っていた悔しさ。

 僅かにひび割れた自尊心。

 

 それらはもう――影も形もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切断された四肢の断面に走る、内臓を灼かれるような激痛。

 それとは別の、()()()()に走る感覚。

 痛みが渋滞し過ぎていて、逆に痛くないようだ。

 と、その時。

 

「あれれ?」

 

 首から下がない事に、童磨は今になって気づいた。

 あの赫色の刀で斬られた身体はともかく、首から下が再生できないのだけは分かる

 何せ童磨の目の前にいる、()()()()()()()()()()

 

「――童磨」

 

 例え童磨でも、決して敵わない『絶対』。

 それが、首だけとなった童磨を、『上弦』の文字が刻まれた左目を抉りながら持ち上げていた。

 

 紅梅色の瞳。

 暴力的な生命力と、童磨を赤子扱いする圧倒的な『鬼気』を醸し出す男。

 

 それは全ての鬼の頂点にして、始祖。

 

「貴様。なんだ?その体たらくは」

 

 男――鬼舞辻無惨は、額に青筋を浮かべていた。

 

「これはこれは無惨様、確かに言い訳の一つもできませぬ。一体どのような形で詫びればよいのか……」

 

 ペカーっとした笑顔で、童磨は詫びた。

 余計。グチャリと、無惨の指が童磨の頭を更に深く抉る。

 それでも笑顔を辞めない童磨に、無惨は青筋を更に増やす。

 

「貴様の片目に刻んだ文字は何だ?今一度認識し直せ。――『弐』だ、『上弦の弐』が、たかが女の柱に手傷を負わせる事もできず、ましてや『柱』でもない小娘にやられるだと?」

「本当に申し訳ありませぬ、御詫びに目玉でも……あぁでも、今もう貴方様が傷つけておられるので、代わりにそこの身体から内臓を……」

「いらぬ、貴様の内臓など」

 

 無惨はそう言って、童磨の首を身体のある方へ雑に投げ捨てた。

 コロコロと床を転がる童磨は相変わらず、薄っぺらい笑顔を浮かべたまま。

 それに余計、無惨は苛立つ様子を見せる。

 

「あと、貴様は随分と無駄な『お喋り』をしてくれたな。私が『万世極楽教』を認めている理由を忘れたか?――()()()()は?何故情報を残した?」

 

 何もない空間に、まるで亀裂が走ったかのような。

 凄まじい重圧が無惨から放たれる。

 

「貴様が『教祖』の真似事をしている事はいい、だが、どうしてそれを自分で漏らしておきながら、誰一人として処分できない?始末をつけられない?」

 

 一言。

 無惨が言葉を紡ぐたびに空間が軋み、童磨の首に、身体にひび割れたような傷が走る。

 

「鬼狩り共が『万世極楽教』と貴様との繋がりに勘付く可能性を、どうして潰しておかなかった?貴様のくだらないお喋りも、あいつらを始末さえすれば、仕方なく容認してやったというのにだ」

 

 ピシッと、童磨の顔が裂け、鮮血が舞う。

 

「何故そこまで無様を晒せる、何故この私の妥協にすら応えられない?――なぁ童磨?」

 

 残る童磨の顔が。

 

「――童磨!!」

 

 目が裂け、溶けて。

 

「――童磨!!!!」

 

 そうしてようやく。

 頭がぐずぐずに溶け、再生もできず、あと一歩で死ぬ寸前になってようやく、無惨は止まった。

 童磨の首を、ぐずぐずに溶けたそれを見下す目。

 紅梅色の瞳に宿るのは、心の底からの失望。

 

「私はどうやら、貴様を自分で思う以上に甘やかしていたようだ」

 

 そして、嫌悪。

 

「『保存』した人間はまだいるだろう、暫くはそれで腹を満たせ。当然、これから十数年は外を出歩くな。――そして、貴様にはもう二度と『遊歩』の許可は下りないと思え」

「あやや……」

「信者の数も減らせ、半分かそれ以上だ。――妥協すら満たせないお前には、それくらいが丁度いい」

 

 ちょっと、いや結構悲しいと童磨は思った。

 夜、頭の悪い可哀想な信者たちの相手をする事なく、ぷらぷらと歩いて見繕った、可愛い娘を好きに喰らう。

 たくさんの人を救う為とはいえ、教祖の仕事ばかりは気が滅入るのだし、あの『遊歩』はかなり心の癒しだったのだ。

 しかし、今回ばかりは仕方ない。

 遊び過ぎた自分が悪いのだから、これくらいの罰は甘んじなければ。

 

「っとと……よいしょ」

 

 もぞもぞと身体を動かし、何とか首を繋げた童磨。

 無惨の効力も消え、首の再生阻害がなくなった為、泣き別れとなった首と胴の再会は一瞬だった。

 しかし。

 

「あれ、あれれれ……?」

 

 切断された四肢。

 花柳麗に斬られた場所だけは、一向に再生の兆しを見せなかった。

 意識を集中させてみても、血管の一つも生えはしない。

 

(うーん……?再生の感覚自体はあるのになぁ……)

 

 無惨が先ほどしていたような、明確な再生阻害とは違う。

 肉を増やそうとする感覚、骨や血管が修復されようとする感覚はしっかりと認識できる。

 だが、一向に失った手足が生えようとして来ない。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 特殊な術が絡まないとなると、必然的に答えはそれに絞られるのだが、余計ありえない。

 しかしそれ以外に、らしい理由が思いつかないのも確か。

 

 やはり、あの少女は面白い。

 

 童磨はケラケラと笑いながら、達磨状態となった自分の身体を無惨に見せつけた。

 

「見てください無惨様、何故か再生しません!」

「…………」

「この調子だと、治すのに()()()()()()がかかりそうです!」

 

 ――違和感。

 

「しかもこれ、今も結構痛いです。いやぁどうしてなんでしょうねぇ……あの赫色の刀が理由なんでしょうか?」

「……――」

「うーん痛い!痛いです無惨様!それに腕がないと食事が難しい!どうしましょう無惨様」

 

 ――違和感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

「無惨様ー?」

 

 ――違和感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさと治せ」

 

 ベンッ!という琵琶の音と共に、無惨は童磨の言葉を無視して消えた。

 部屋には変わらず、達磨状態の童磨のみ。

 童磨は四肢のない身体をバタバタと動かし、そうして暫くして、だらりと脱力した。

 

「……むぅ…………寂しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――致命的な『違和感』には、誰も気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨。彼がその代償を支払う事になるのは、あと――。














 無惨様視点で麗ちゃんをどう捉えるか、それはもう非常に悩みました。

 感想欄でよく予想されてた『無惨様童磨嫌ってるし、情報共有遮断してて気づかなかったんやろうなぁ』もそれはそれでいいんですが、作者的に『いくら無惨様でもそこまで甘くないだろう』と考えました。

 それから更に考えました。考えて考えて、次第に夢の中に無惨様が出てくる程に考え、そうして辿り着いたのが今回の結論、プライドです。

 思い出したくない敗北の記憶、恐怖の象徴たる『赫刀』を喰らったのにも拘らず、ヘラヘラと笑う自分が嫌っている童磨。

 赫刀を喰らって、自分はあれだけ苦しかったのに。
 奥歯が砕ける程の屈辱を、恐怖を味わったというのに。
 ――目の前の傷をあれ(縁壱)を同等と認めれば、こうして痛みを気にせずヘラヘラと笑う、嫌っている男より自分は下になってしまう。

 誰よりも生存本能が強い、生きる為に恥など知らない男が、己の自尊心を守る為――『男としてのプライド』のせいで『違和感』に気づけず。

 何より、ここでより鮮明に心を読めば、童磨の『痛がっている』様子が本心である事にも気づけたのに、――『あんまり好きじゃない』童磨の心を読みたくないという、自分の『人間性』のせいで、余計全てが台無しになってしまう。
 結果、致命的な認識のズレが発生し、何もかもがお終いに。

 …美しい、これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう。
 あなたが嫌い、見下した『人間性』の失敗、それを無限城で悟り、晒してようやくこの作品は完成を迎えるのです。

 ……えー、現場からは以上です。

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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