【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 原作:鬼滅の刃総合9位になってました、感謝。


32.名残香

 『柱』とは、鬼殺隊の中で最も位の高い剣士であり、鬼殺隊を支える文字通りの『柱』そのもの。

 昇格条件である『十二鬼月』の討伐、もしくは鬼を五〇体倒す事の過酷さは、一度でも刀を握り、鬼と戦った者であれば心に染みて理解できるだろう。

 早い者で二年、普通は五年の歳月をかけてなれるそれに、花柳麗は約三年と少しで辿り着いた。

 それ自体は純粋に喜ばしく、そして賞賛すべき事だ。

 

「そういえば、柱の人たちってどんな人だったの?」

「……うーん」

 

 敷いた布団の上に、二人は並んで座っていた。

 真菰は、自分より背が高い麗を見上げる姿勢で、可愛らしい『上司命令』による今まで通りの口調で問う。

 麗は少し考えてから。

 

「そっか、真菰は会った事なかったっけ」

「あぁいや、不死川実弥っていう……全身傷だらけの男の人いたでしょ?あの人は前に一度だけ」

「あぁ、『風柱』の……そっか、思ったより世間は狭いんだな」

 

 だが、それ以外の人たちは知らないのだ。

 隊士間の噂話等で仕入れた情報はどれも不定形であり、それだけで個人を語るには些か無礼でもあるだろう。

 故に、ある意味『目利き』の効く麗に、真菰は問うた。

 

「その場にいたのは五人だけど、本当は六人いたんだって。『炎柱』は不在だったから分からないけど……『水柱』はいたよ」

「もしかして冨岡さん?」

「うん。確か真菰の兄弟子なんだっけ」

 

 『水柱』冨岡義勇が、自分と同じく鱗滝左近次の下で鍛えられた剣士である事は、真菰は既に聞いていた。

 長い間、『最終選別』を突破できずに死んでいった左近次の弟子の中で、唯一それを突破し、生還した兄弟子。

 『機会があれば任務を共にする事もあるだろう』と左近次は言っていたが、残念ながら真菰は今も、義勇の任務に同行した事も、ましてや会話もした事がなかった。

 

 どんな人なのだろう。

 

 そんな薄々とした疑問こそ抱いてはいたものの、結局それを解消する機会が訪れる事はなく、こうして現在に至っている。

 だからこそ聞いたのだが、答えは――。

 

「よく分からない。ずっと一言も喋ってなかったし、こっちを見る事もなかったから。……なんか、昔の僕みたい」

「へぇ……」

「誰よりも早く帰ってたし、どんな人かは正直全く分からないや」

 

 麗は『悪い人ではないと思うよ』と、正直ほとんどの隊士に該当するような当たり障りのない言葉だけ付け加えてから。

 残る、印象に残った者たちについて語り出す。

 

「悲鳴嶼さんは凄い、本当に凄い。練り上げられた筋肉の質が違う、あれだけのものを作るのに一体どれだけの……」

「うんうん」

 

 現・鬼殺隊の最高戦力とされる『岩柱』について。

 特別な視界を通じて分析した、その常識離れした身体について熱心に語り。

 

「宇髄さんも凄いよ。あの人は見た目こそ派手だけど、歩く度に足音を殺してるんだ」

 

 『音柱』の見た目にそぐわぬ技巧な一面を褒める姿を。

 その横顔を、真菰はじっと見つめていた。

 

「それにね……」

「――――」

 

 こうして、一緒にいる度に思う。

 真菰はかつて『最終選別』、そして狭霧山での僅かな間一緒に過ごした時期があるから、こうして彼女の本質を知れている。

 だが、彼女の素朴な一面。

 そして何より、世に対する『諦観』の姿勢を知る者ははたして、何人いるのだろうと。

 

 生まれつき持った特別な視界。

 力を持って生まれたからこそ、その力で成すべき事を自らで定め、実践する心根の美しさ。

 

 それは決して、誰にもできる事ではない。

 力を持った者は鬼だろうと、人間だろうと関係なく、誰しもが『怪物』になる可能性を秘めている。

 麗は時々、自分に故郷の村での生活を語ってくれる。

 そしてその話は、孤児であった真菰にとっては遠く、夢物語に等しい、愛おしいもの。

 

 人間が『怪物』になるか、ならないかの違いはたった一つ。

 それは、誰かに愛されたかどうかだ。

 

 麗は間違いなく愛され、そして人を愛する心を教えられた。

 だから人を助けられるし、同時に人を愛し、愛される事そのものを喜ぶ事ができる。

 昔一度だけ見た、麗の身体にある大きな痣。

 そして異常な体温や心拍数、他とは違う『異質さ』を含めて尚、彼女を愛した父と村の住民たちには、頭が上がらない。

 

(他の人も気づいてあげて欲しいな)

 

 少しだけ悲しいが、鬼殺隊はやはり実力主義な一面が大きい。

 何者かを語る際、まずはその者特有の容姿についてに触れられ、二番目に多く上がるのはやはり、どれだけ『隊士として優れているか』だ。

 真菰自身、鬼殺隊でも珍しい女性隊士である事と、容姿についての賞賛。

 次に、元水柱である左近次に育てられた事についてが、隊士間で語られる際の定型と化している。

 真菰自身はどのようなものが好きか。

 誰と仲が良いのかといった事柄は、話題には上がりづらい。

 麗には、そうなって欲しくない。

 

 一般的な黒髪や、現在の『柱』にも二名の該当者がいる白髪とも違う。

 煉獄家の長男に共通する、金髪に焔色の混じったような『例外』に似た髪。

 ――そうした数多の『特別』が絡み合い、そうして最後に付け加えられる圧倒的な強さ。

 

 既に、勘の良い隊士は麗について語り始めていて、それは噂という名の火種となっている。

 彼女が『煌柱』に就任した事が本格的に知られれば、それは一気に炎となって燃え広がり、余計色眼鏡は増えていくだろう。

 圧倒的な強さは、もう既に証明がされているのだから――。

 

「花柱……カナエさんは、上弦と戦ってる時に霧を吸いそうになってて、それを助けたのがきっかけだった」

「上弦……確か『弐』だっけ」

「そう、上弦の弐。僕が不甲斐ないせいで、頸を斬れなかった相手だよ」

 

 百数年変わらなかった均衡が、小さくだが崩れた。

 ずっと正体も、名前も血鬼術も不明だった『上弦の鬼』の情報。

 それが手に入った事は、麗の柱就任における『逸話』として、まさにぴったりだろう。

 未だ『(きのえ)』でしかない自分と、既に十二鬼月の二番手とも戦える麗。

 同じ部屋にいて、互いに同じ歳。

 そして友達である筈なのに、話を聞く度、彼女がどこか遠くに行ってしまうような、そんな自惚れた不安が湧いて来る。

 

「斬れなかった、って?」

「あの時、上弦……童磨は身体に大量の冷気を溜め込んでいて、あのまま頸を斬ると、カナエさんや近くにいた子供が巻き込まれると思った。……実際、腕と足を斬っただけであれ程の冷気を放出していたから、頸を斬ったらきっと、町がまるまる氷像になってたかもしれない」

「……じゃあ」

 

 上弦との戦いを語る麗の顔は、やるせなさが滲み出ていた。

 これまでにない絶好の機会。一般人を守り、花柱も守り、誰がどう見ても完全なる勝利である筈のそれを。

 麗はしかし、悔しそうに。

 

「相手もそれに気づいてたから、次からはもっと酷い事になるかもしれない。……町中に紛れ込むかもしれないし、人質を用意したりする可能性だってある」

「……」

「僕が、あの時あんな『置き土産』も斬り伏せられるような、そんな『力』があれば――」

 

 それ以上の言葉は不要だった。

 

「麗」

「僕は心苦……んむっ」

 

 まだ何か言おうとする麗を無視して、肩を両手で掴む。

 そうしてゆっくりと、自分の方に倒れ込むように力を込めて、そのまま二人仲良く、布団の上に寝転がった。

 布越しでも伝わる、麗の高い体温を感じながら、真菰は。

 

「それ以上は考えすぎ。次に活かす為の反省はいいけど、自分を卑下したら駄目だよ」

「……でも」

「でもじゃない」

 

 麗の頭を撫でる。

 

「その特別な痣も、刀も、全部麗だけの『特別』なのは分かってるよ。……だけど、背負いすぎだと思う」

「……別にそこまでは」

「自分では、ちゃんと『そういうの』割り切れてるつもりでいるでしょ?でも、私から見れば麗って自分が思ってる以上に、色んな事を背負い過ぎてるような気がするな」

「…………」

 

 あぁそうだ。――彼女は間違いなく『特別』だ。

 

 剣の道、呼吸の道は苦痛を伴うが。

 ()()()()()にとっては、努力をすればするだけ力が手に入る。

 しかしそれは、亀の歩みに他ならない。

 

 類まれなる神童の前では、それはどこまでも鈍間な一歩に過ぎない。

 『強き者は弱き者を守る』、それは亀の歩みで『才能がある』と()()()()()()()にとっては美徳だが、()()()()()()()()()()()()()にとっては、生き方を無理やり定める毒でしかない。

 

 普通の人間は皆、最初は弱者。

 弱者だった頃があるからこそ、強者に成っても弱者に寄り添える、寄り添う生き方を苦痛とは感じにくい。

 

 だが、神の寵愛で最初から強者に生まれた者にとっては、そうではない。

 

 弱者に手を差し伸べる生き方は、いつかどこかで、必ず限界が訪れる。

 力がないから、足りないからこそ届かなかった『命』の経験があるからこそ、普通の人間は心に折り合いをつけられる。

 だが、それがない者にとっては――。

 

「麗」

 

 真菰は麗の頭を、自分の小さな胸の中に仕舞うように抱きしめる。

 

 明日になれば。

 彼女はここからいなくなり、本格的に『柱』としての業務を全うするだろう。

 

 次に会えるのは一体何時か。

 ただでさえ、会えるのは数ヶ月に一度だったのだ。次に会うのは半年後か、それこそ一年後でもおかしくない。

 

「なぁに?」

「……」

 

 寂しい――のは否定しない。

 しかしそれは、自惚れでなければ、向こうもきっと同じ事。

 

「私は麗みたいに、人の身体を透けて見る事も、刀を赫くする事も。……同じ場所で戦う事も、きっとできないよ」

「……うん」

「多分、足を引っ張ると思う。どこまで行っても、私は守られる側でしかないと思うから」

「うん」

「でも、私はあなたと友達でいれる」

 

 誰が分かってくれようか。

 誰が共感してくれようか。

 愛を注がれ、愛する事を教えられ、そうして『普通の生き方』を全うする、この愛おしい人の苦しみに。

 ……きっと、こんな御大層な事を喋る自分ですらも、本当の意味では、彼女に寄り添えはしないだろうけど。

 都合のいい言葉でしかないけれど。

 だけど、せめて。

 

()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()

 

 まるで赤子をあやすかのように、背中を優しく叩く。

 そうして、一層強く抱き締めた。

 

「ずっと一緒にいるよ。……友達だもん」

「――――」

 

 特別な視界も持ってなければ、万力の握力だって持ってない。

 肉体の強さで見れば、自分は彼女にとってどこまでもお荷物で、対等にいていい理由はどこにもない。

 

 生物としての差。

 残酷な真実ではあるが、そういうものなのだ。

 それが、神の寵愛を受けるという事。

 

 今だからこそ、改めて彼女に知って欲しかった。

 これから多くの人間が、その剣技にばかり目を向けて、その優しい心根を見ないようになってしまうだろうから。

 だから、こうして伝えたかった。

 

「……本当に大丈夫なんだけどなぁ」

 

 いつの間にか、麗は真菰の背中に腕を回していて。

 真菰と同じように麗も強く。

 しかし彼女にとっては、本当に小さな、小さな力での抱擁を返す。

 

「今言っても説得力ないかもしれないけど、僕は強がりでも何でもなく、本当に気にしてないんだよ?」

「そう?」

「うん。僕は確かに特別だけど、別に神様でも何でもないしね、救えない命があるのだって分かってるし。ちゃんと割り切れてるよ、そういうのは」

「……そっか」

 

 三年前の、狭霧山での頃とは逆に。

 麗は真菰の胸に耳を当て、その心音に聞き入るように、両目を閉じていた。

 特別でも何でもない、麗と比べれば、所詮はただの『凡人』でしかない心臓の音だ。

 

「でも、そう言ってくれて嬉しかったよ。これは本当、それに……卑下なんてしたつもりはない、次会ったらあの鬼は絶対殺す。これは絶対」

「ぷっ……凄いなぁ、安心感が全然違うや」

「でしょ?」

 

 一度、真菰の胸から顔を遠ざけた麗。

 しかしすぐに、再びその頭を元の位置に、真菰の胸に戻した。

 

「懐かしい……昔は真菰がこうしてたっけ」

「もう三年前かぁ、懐かしいね」

「うん。本当に懐かしい」

「……そういえば、さっきから私の胸見てて楽しい?麗のに比べれば、何の変哲もない普通の心臓だと思うけど」

「うん」

 

 そう小さく答えてから。

 指をそっと、皮膚の心臓のある位置に沿わせた。

 

「君の生命(いのち)がここにある。小さくて……君が笑うと、とくとくって……同じように小さくこの子も笑うんだ」

 

 慈しむように、優しく柔肌を撫でる。

 

「ずっと見ていられる」

「……なんか変な感じだなぁ、自分の心臓が見られてるって」

「絵で描いて見せようか?」

「え~、それはなんかやだなぁ」

 

 照れくさい感情を誤魔化すように、天井を見上げながら真菰は笑った。

 

「……明日から、だよね」

「うん、正確には今日の深夜から。だから真菰が寝るまでは、一緒にいられるよ」

「分かった」

 

 朝になった時にはもう、彼女は痕跡一つ残さず去る。

 ……だから、せめて。

 

「……手紙、忘れないでよ?」

「当たり前でしょ」

 

 せめて、この熱だけは。

 忘れないように強く記憶する事にした。




 道を極めようが極めまいが、大切な友人はそこにいる。
 『強さとは肉体だけに使う言葉ではない』、杏寿郎もそうだそうだと言っています。

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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