【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート 作:バブ辻オギャン
なので……
「こんな所で百年待っても、お前の親は迎えに来ない」
「…………」
あれは、雪の降る寒い日だった。
今思えば、そんな景色も悪いあの日だからこそ、自分は連れてこられたのだろうと思う。
「それでも待ち続けるか、骨になるまで」
「……でも」
それでも、自分はきっと信じたかったんだろう。
だから、指が凍えて腐る寸前になっても、そこから動こうとはしなかったし、迎えが来ることを期待してた。
「迎えに来るって、言ったから」
「それは嘘だ」
――優しい人。
かけられる言葉とは裏腹に、目の前に立つ男に対し、少女が抱いた印象はそれだった。
顔は
「ここにお前を捨てて行って騒がれたり、泣かれたりすると面倒だから嘘を吐いたんだ」
「……」
「そうでなければ、とうの昔に迎えが来ている。三日も放置しない。帰り道が分からないように連れてこられたろう」
雪。
今日、この日に自分を外に連れ出したのは、『万が一』すらも起こらないように……なのだろうか。
元より少女は、ここに至るまでの道のりは分からない。
しんしんと降り続ける雪は、見事に少女の視界を埋め尽くしていて、もはや自分がどの方角から来たのかすらも、分からなくなっていた。
「……家族が、兄弟か姉妹が多かったんじゃないか」
「……………うん」
口減らし。
答えは単純、たった一つの単純で、残酷なもの。
生活の為、子供が多かったから、
この時代ではありふれた、しかし悍ましい答え。
「
「……」
「お前と同じ境遇の子供を預かる場所に行くか、儂と一緒に来るか、それともまた別の道を探すか」
「……もし」
少女は問う。
「もし、一緒に行く道を選んだら?」
「……――」
男は答える。
「本物の不幸に見舞われた人は、自らの意思で何かを選ぶ事などできない」
「…………」
「だが、この道を選んだのなら。――不幸に負けぬ強さを手にできる」
「――――」
少女の答えは、もう決まっていた。
鬼殺隊、その数およそ数百名。
政府から
だが古より存在していて、今日も鬼を狩る。
少女に手を差し伸べた男、名を鱗滝左近次。
彼曰く、自分は山ほどいる『育手』の一人であり、少女に課した修行の全ては
重要なのは――彼は
彼には過去、たくさんの弟子がいた。
等しく愛情を注ぎ、技術を叩き込んだ愛おしい子供たちだ。
だが誰も、鬼殺隊に入る条件である『最終選別』を突破できず、骨も残らず消えてしまった。
皆が鬼の腹の中、弔う事もできない哀れな末路。
それから、左近次は弟子を取ろうという気持ちがなくなっていた。
未来ある子供に鬼殺の未来を示し、命を燃やす道を半ば強制させておいて、子供の死に苦しむ二律背反。
彼は歳をとり過ぎた。使命や復讐、昔は溶岩のようにぐつぐつと燃え滾っていたそれらは、加齢によって落ち着いてしまい。
結果として、今まで無視できていた心の内、良心の呵責とも言うべきそれらを。
今まで通り無視できる熱量を失ってしまったのだ。
だから、教えこそすれど、本当の意味で弟子には取らないと、そう決めていた。
唯一の誤算。
それは新たに引き取った少女の、親代わりとなった自分への愛情と敬意――何より、剣士としての才能である。
少女は
例え修行をつけ、力を手にしようとも、『最終選別』にさえ行かせなければいい。
そんな左近次の甘い考えを、文字通り少女は一刀両断して見せた。
彼女には無理だろうと、本来のものより二回り大きい岩を用意したというのに、少女は左近次の予想を裏切った。
十三歳、修行をつけてたった一年だった。
「お前を『最終選別』に行かせるつもりはなかった。……もう、子供が死ぬのは見たくなかった」
だから、絶対に斬れないであろう大きい岩を用意したのだと告げた。
少女は変わらず、ふわふわとした表情のままだった。
「よく頑張ったな」
「……えへへ」
それから左近次は、少女の為に面を作った。
『厄除の面』という、今まで育てた弟子にも贈った狐の面だ。
少女の着物は、桜色の可愛らしいものであったから、面もそれに負けず劣らずの、可愛らしいものにするべきだろう。
左近次は彫り終えた狐の面の口元に、少女の着物と同じ、花の模様を付け加えた。
「ありがとう、行ってきます!」
少女はまるで、野遊びにでも行くかのような気楽さで駆け出していく。
最後に、左近次の方を振り返って。
「
「――――――」
少女の言葉に、左近次は目に見えて固まる。
だが、少女はもうとっくに山を本格的に下り始め、左近次の方を見ていない。
故に、その様子も。
その後の言葉にも、気づかなかった。
「……
――死んだあの子の名を知っている。
山の中には、生け捕りにされた鬼たちが放たれており、七日間生き延びた者だけが、鬼殺隊として認められる。
険しく苦しい道。
悪鬼滅殺に命を燃やす存在への志望、その動機は復讐かそれとも――。
「……こんなに」
少女――真菰は眼前に広がる光景に思わず、そんな声を洩らした。
季節外れの藤の花が狂い咲く下には、真菰と同じか、僅かに年上であろう子供たちが皆、刀を手に黙している。
人によって、その様子は様々だ。
これからの『戦い』に怯えて肩を震わせる者、または己か家族か、それへの復讐を果たせる機会を待ち望み、武者震いするもの。
一つ、言えるのは。
誰も彼も、息の詰まる『怒り』の気配を身に纏っている事だ。
「…………」
しょうがない、のだろう。
真菰は孤児だが、それの原因は単純な家庭環境のものであり、鬼による悲劇ではない。
この『最終選別』の為に集まった者は、そのほとんどが何かしらの形で幸せを鬼に壊され、復讐と使命感で身を奮い立たせる者だから。
むしろこれが当然で、鬼に対する嫌悪感がそこまでな自分こそが、この場において『
(まだ始まるまで時間があるのかな……?)
まだ立会人らしき人物の姿は見当たらず、皆が静かに待機を続けている。
どこもかしこも『怒り』の気配に満ちていて、息が詰まりそうになりながらも、真菰はどこか座れる場所がないか探した。
『最終選別』は七日間、例え些細な時間であっても、体力を温存するのは悪手ではない。
人と人の隙間を掻い潜り、真菰はより奥へ、奥へと歩を進めていく。
その時。
「おい、何だあれ」
ひそひそと、誰かが話し合う声が聞こえてくる。
「あれも一応鬼殺隊志望のやつだよな?」
「刀持ってるし、ここにいるし……まぁそうだろ?」
「いや、でも……」
困惑している。
同じく『育手』による苛烈な訓練を経ている筈の彼らが、困惑している。
(なんだろう……?)
悪いものではない、気配がそれを教えてくれる。
声は小さいが、内容は陰口のそれではないし、何より、彼らが発する声の抑揚からは『蔑み』や『怒り』ではない、純粋な『困惑』のみが込められている。
一体、何が。
真菰は身体が小さい為、人の垣根を掻い潜る事はできても、背筋を伸ばしても、彼らの上から覗く事ができない。
故に、ひょいと身体を横に傾け、それを見た。
そこには、自分より年上の少女が地面に座っていた。
刀を傍に置き、黒曜石のように美しい瞳が陽光のように輝いていた。
だが、表情はどこか抜けている。
真菰はその時、少女の背後に『ぬぼーっ』という謎の効果音を幻視した。
何より。
「…………」
少女の周りには、凄まじい数の動物が集まっていた。
いや、動物だけではない。虫も大量に少女の周りに集まっている。
拳大ほどの蝶が少女の頭に居座り、まるで髪飾りのようになっていて。
更に胸元には、思わず二度見してしまうほどの、それはもう立派なカブトムシが居座っていた。
しかも三匹。
まるで整列でもしているかのようなカブトムシたちの姿に、真菰は服の留め具を想起した。
「ここがいい?」
「カァ~~ッ!」
少女の周りには、狸や狐だけでなく鳥までいた。
しかもその内の一匹は、先程から妙に人間みたいな声で鳴く鴉で、少女の腕に抱かれている。
そんな鴉はと言うと、少女に頭を優しくさらり、さらりと撫でられる度、恍惚の声を洩らしている。
周りの困惑は一層止まらない。
「カァ、クカァ……」
「気持ちいい?」
「ソ、ソコモット撫デテ……」
「はいはい……」
しかも喋った。
どうやら人間というのは、予想外が同時に何個か襲い掛かってくると、最低限の反応すらできなくなるらしい。
何故鴉が喋るのか、それに言及する者は一人もいなかった。
と、その時。
「……あ」
そこでようやく、少女は自分の周りを囲う人々に気づいたらしい。
皆が皆、『困惑』の文字を顔に浮かべて、自分を見下ろす現実。
きょろきょろと右へ左へと視線を動かして。
ピタリと、真菰の方を見て固まった。
「……」
「……」
ぺこりと、少女はお辞儀。
「……どうも?」
「どうも」
ついそれに釣られて、真菰も同じようにお辞儀。
命を賭けた『最終選別』の始まりの直前にあった。
何とも締まらぬ一幕である。
メインヒロイン登場。
彼女の過去は『鬼殺の流』に出てくる流の過去オマージュです。
鰐先生の作風ってこの頃から既に面白いっすね(特に過狩り狩り)。
主人公の将来的な身長はどれがいいか
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166cm
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172cm
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184cm