【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 原作:鬼滅の刃総合評価六位になってました、本当に感謝。


43.冨岡義勇外伝・中編

 女は、花柳麗はかじかんだ手指を温めるような小さな息を吐いた。

 約一時間経ってから、自分の元に鴉がやって来たから、それの案内を頼りに歩き出したところだった。

 

 麗が今日、このマタギの住む村にやって来たのと、恐らく任務中であろう水柱・冨岡義勇とばったり出会ったのは偶然。

 柱は基本、休む暇がなく忙しい。それはほとんどが広範囲の警備と、自身の剣術の研鑽の為に鍛錬をする時間がいっぱいで、それ以外に使える時間が少ないからだ。

 

 だが麗の身体は、神々の寵愛によって形作られている。

 

 本来人間は第一に睡眠、次に食事が全てであり、これを一度でも、一日でも欠かせばそれだけで能力(パフォーマンス)が著しく低下する。

 鬼の活動時間は夜であり、本来人間に課せられた活動時間とは真逆の鬼殺隊の日常とは、一般人とは比べ物にならない過酷なもの。

 故に、麗は常人では決して叶わない、数日分の警備以外の仕事を前倒し(不眠不休とも言う)を定期的に行い、その分浮いた時間を自由に消費しているのだった。

 その空いた時間を使い、麗は様々な柱の者たちと会話を交わした。

 もとより関わりのあった花柱・胡蝶カナエは当然、最近新たに『炎柱』を継いだ熱き男、煉獄杏寿郎。継子である時透兄弟や不死川実弥。

 同じ『柱』として、背中を預け合う仲間として絆を深め合う。……そんな中、唯一関わりがなかったのが、冨岡義勇という男である。

 

「こっち?」

 

 入り組んだ道を進みながら問う。

 その問いに、老いた鴉はしわがれた声で。

 

「コッチジャ……」

「……ここ、さっきも通ったよ」

「ナラコッチジャ……」

「そっちは帰り道ね」

 

 麗の両手のひらに包まるように、プルプルと震える老いた鎹鴉(名前は寛三郎(かんざぶろう)という)。

 それの案内に従い、麗は素直に道をあっちこっちへ、てくてくと歩き続けていた。

 

「次ハ左ジャ……」

「……道が二つあるけど」

「左ジャ……」

「ソッチハ右ダゼ」

 

 時折狂う寛三郎の案内。

 そして寛三郎が間違う度に、頭上に居座る麗の鎹鴉、江檀が訂正する。

 そんな事を繰り返して、ようやく。

 

「……あ、いた」

「…………」

 

 入り組んだ道を歩き、辿り着いた先には既に、何名もの『(カクシ)』が何かしらの交渉(もとい隠蔽?)活動をしており、忙しそうにしているのが見える。

 そしてそんな隠たちに囲まれている男こそ、麗が探していた人間、義勇である。

 周囲に集う野次馬たちによる、人の垣根の波を泳ぐ。

 すると、その先にいる人間に見覚えがあったので、麗はあっと声を上げた。

 以前会った隠、後藤だった。

 

「こんにちは、後藤さん」

 

 隠は皆、目元以外を黒一色の服で文字通り『隠す』。

 普段から会話を交わす仲などではなく、ただの下っ端の一人に過ぎない自分。それの目元を見て正体に気づくならば兎も角、背中だけを見て気づいたのだ。

 後藤はそれに大そう驚いたようだった。麗にとっては服があろうがなかろうが、()()()()()()ので関係がないだけなのだが。

 当然、そんな事を後藤が知る由もない。

 

「……驚きました、まさか一瞬で分かるとは」

 

 覚えていてくれた嬉しさ半分、どうして分かったのか?という疑問半分といった様子。

 いつもなら、ここであと二つ三つは会話を交わし、それから元の仕事に戻るのだろうが、今はそれどころではない。

 ふっと顔を横に向け、隣に無言で立っている義勇を一瞬見てから。

 

「後はお願いします、煌柱様」

「はい」

 

 きびきびした動きで去っていく後藤を見送り、麗は件の男へ久しぶりに話しかけた。

 相変わらずの鉄仮面、何を考えているかが分からない無表情だった。

 

「久しぶりです、冨岡さん」

「あぁ」

 

 変わらず無表情でそう言う義勇。

 しかも見事に、麗の透明な世界に至る力でも、口周りの筋肉の動きしか捉える事しかできなかったのだ。

 目元の動きやまばたきの回数。

 これらは人間の感情、表情に必然的に付随する変化の象徴であり、これにより麗は心理学には疎くとも、『なんとなく』で相手の感情の機微を察する事ができた。

 

「この子から聞きました、冨岡さんが僕を呼んだって」

「義勇ガ捕マッテ……出レナクテ困ッテテノウ……」

「……俺は困ってない」

 

 が、利かない。

 今の言葉もそうだ、声色からして、麗は義勇の言葉に僅かな不満を秘めた反抗の意があるのだろう……と推測自体はできる。

 だがそれ以外の要素……普通の人間なら『見えて』当然の、肉体の反射や感情の予備動作を把握できない。

 決して、決して一切の反応が見えない訳ではない。

 義勇はれっきとした人間で、別に意識して無表情を貫こうとしている訳でもないのだから。

 ただ……純粋に小さすぎる。

 表に出てくる感情の機微が、あまりにも小さく、見逃してしまうだけなのだ。

 

(これは真菰も苦労する訳だ……)

 

 長く会えていない友の顔を思い出しながら、麗は問うた。

 

「それで、どうして冨岡さんはここに?」

「話さないと分からないか?」

 

 麗は戸惑って、考える素振りすらなく答えを返す。

 

「任務ですか」

「あぁ」

「あの時話しかけていた子……八重さんが?」

「そうだ、十中八九鬼を見ているだろうな」

 

 そう言って歩く義勇は一度も、麗の顔を見なかった。

 口下手。……信頼する友がそう評した言葉を信じて、麗は話しかけ続けた。

 

「もしかして……十二鬼月関連だったり」

「それはない。ならばもっと被害者は多いか、骨の一つも残さずに喰われている」

「……そうですか」

「あぁ」

 

 会話が続かない。

 

「……そういえば」

「なんだ」

「真菰……は僕の友達で、冨岡さんの事も、彼女から聞きました」

「そうか」

「もう今は柱だし、前みたいに気軽に会えないから……その」

「あぁ」

「真菰は元気ですか?」

「知らない」

 

 続けて義勇は。

 

「お前が知らないのなら、俺も知らない」

「……」

 

 最初、寛三郎の案内によって、行きは何十分も過ぎたかのように思えた。

 その反面、帰りは迷う事なく、すぐに終わると思っていた移動時間が、まるで最初の行きと変わっていない。

 

(会話、難しいな……僕はずっと話しかけられる立場だったから……どうすればいいのかが分からない……)

 

 もし、これが真菰かカナエならば、この気まずい空気もどうにかできたのだろうか?

 それか、彼の刺々しい発言も、上手く宥める事ができたのだろうか……?

 

(真菰は『誤解されやすいけどいい人』だからって言ってたし……『あれ』も多分、本当に口下手なだけだと思うと……)

 

 思い返す、度々の柱合会議の事。

 皆がそれぞれある程度決まった相手と、日常の会話をしたり、稽古の誘いをしたりする中。

 たった一人、庭の隅に立つのが義勇なのだ。

 会議中、これといった発言は当然せず、会議が終わればてくてくと即座に去る。

 そのあまりの気配の薄さに、無一郎が思わず『置き物みたい』だと発言し、音柱・宇髄天元の腹筋を破壊(バースト)させたのは記憶に新しい。

 正直、今こうして話しているだけでも、その理由が何となく分かる。

 風柱・不死川実弥は明確に義勇を嫌っているし、同じく有一郎も、下手をすれば実弥以上に彼を嫌っている。

 

(それ以外は普通って感じだし、明確に好意?というか心配してるのはカナエさんとしのぶくらいか……)

 

 ……そう考えると、今の義勇の立場はかなり危ないのではないだろうか?

 思い返してみれば真菰は度々、手紙で義勇の事に触れ『話しかけてみて』や『悪い人じゃないから』とばかり言っていた。

 妹弟子として、やはり彼の事は心配しているのだろう。

 

「冨岡さん、最近している事って何ですか?」

「……俺たち鬼殺隊の仕事は」

「それはそれとして、ですよ。僕は本を読むのと、外食をするのが好きです」

 

 柱合会議で出会うとはいえ、こうして会話を交わす事自体は初めてだ。

 もっと仲を深めていれば、もっと自然に相手から会話の火種を引き出す事もできただろうし、会話の選択肢も多くなる筈だ。

 

「暇があっていいな」

「はい。それで冨岡さんは?好きな食べ物とかないんですか?」

「…………」

 

 義勇は迷って、歩きながら考える風だった。

 それから。

 

「鮭大根」

「へぇ、こだわりとかってあります?」

「……昆布が入っているものはいい」

「ははぁ…………」

 

 思えば、麗は普通の煮込み大根を食べた経験こそあれど、鮭大根は食べた事がなかった。

 

「僕、まだ食べた事ないんですよね。鮭大根」

「そうか」

「良ければ、一緒に食べに行きませんか?」

「行かない。もう既に昼は済ませた」

「今日じゃなくて、いつか暇ができたらですよ。今は任務中でしょう?」

「……あぁ」

 

 そんな事を言いながら、やはり一度も振り返る事はなく。

 麗と義勇の二人は、(恐らく)鬼の目撃者であるマタギの娘、八重の眠る宿場に到着した。

 外から聞こえた足音に反応し、宿場の奥から女中が駆けつけてくるのが見えた。

 

「…………」

 

 てくてくと、変わらず無言で歩く義勇を追っていると。

 

「……東にある店に、美味い鮭大根が置いてある」

「……!」

「予定が合えば、一緒に食べに行ってもいい」

 

 それだけ言ってから、義勇は宿場の奥へ進んで行ってしまう。

 それを見て麗は、自分がこうも苦労するなんて……そう思いつつかぶりを振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここに来て問題が一つ生じた。

 義勇が担当する任務、雪山に棲む鬼の退治は、現在何名もの猟師が犠牲となった痛ましいものだ。

 その喰われた猟師……マタギに生き残りは現状、たった一人しかおらず、しかもその少女は今、過度な疲労でぐっすりと眠っている状態。

 これでは、話の一つも聞けはしない。

 よって、今はとりあえず少女八重が目覚めるまで、義勇たちは宿場に滞在する事となったのだが――。

 

「グルルルルルルルル……!!」

「…………」

 

 先ほどまでの、妖精の如き愛嬌を振りまいていた犬はどこへやら。

 義勇をまるで仇と見るかの如く、犬歯を剥き出しに低く唸る猟犬のタロと、それに抵抗する義勇。

 今、もしもこの場に胡蝶しのぶがいるとすれば。

 

『冨岡さん……柱の方々だけでなく、動物にも嫌われてるんですね……』

 

 なんて言ってのけただろう。

 いつものお転婆な様子とは違い、本気で憂う(ガチトーンな)しのぶの姿が、何故かその時、義勇と麗の脳内に鮮明に表示された。

 思わず、独り言。

 

「……俺は嫌われてない」

「ガルルルルッ!!」

 

 ガブッ!と、剣士の鍛え上げられた拳など知った事ではないと示すように、タロが義勇の手に噛みついた。

 それだけではない、タロはブンブンと首を左右に振りまくる事で、相手の肉と骨に刺激を与え、喰い千切る為の動きすらしていた。

 猟犬が本番の狩りで見せる、本気で相手を喰い殺す時の動きだ。

 一体、義勇の何がタロの逆鱗に触れてしまったのだろうか……?

 右へ左へビッタンビッタンと。

 さながら鰐のように暴れ散らかすタロの姿に、傍の女中も絶句していた。

 

「……花柳」

 

 いくら絶望的な言葉足らず、無表情の擬人化とも言える彼であっても、次の言葉を相手に察せられる事はできた。

 助けてくれ――。

 噛みつきが効かないと悟ってから、今度は爪で顔に攻撃を仕掛けようとするタロに、麗は恐る恐る手を伸ばし――。

 

「落ち着いて」

「わふぅん……」

 

 と、麗の小さな手がタロに触れるよりも前。

 何なら声をかけた時にはもう、タロはぺっ!と不味いものでも食べていたかのように、義勇の手から口を離した。

 そして、ごろんっと寝転がり、麗に腹を見せてにへらと笑った。

 

「よしよし……」

「あぅぅん……」

「もふもふだね」

「わふっ!」

 

 先ほどまでの、鬼気迫る猟犬の姿はどこへやら。

 そのあまりにもデレデレな様子に、噛まれた跡をよすよすと摩る義勇は『なんで?』という顔のまま。

 

「……慣れているな」

「義勇さん、犬に触れる時は、犬の目線より下から手を出すんです」

「……そうか」

「ゆっくり、ですよ」

 

 その昔、犬に尻を噛まれた経験から義勇は動物全般に苦手意識を抱いていた。

 が、麗の助言もあり、今少しでも犬と触れ合っておいて、その苦手意識を和らげてみるのもいいかもしれない……そう内心で納得した。

 麗がタロを起き上がらせ、義勇の挑戦を補助する。

 

「よしよし……」

「わふんっ!」

 

 麗がタロの機嫌をとる。

 その隙を狙い、義勇はゆっくりと下から、タロに刺激を与えないように手のひらを――。

 

「ガルルルルッ!!」

 

 再び、バクンッと手を噛まれた。

 

「…………」

「グルルルル…………!」

 

 もしやこのタロなる犬、こちらの苦手意識を察知でもしているのだろうか?

 今度こそ義勇を仕留めようと、また鰐のような動き(デスロール)を再開したタロを麗が宥めるのを、僅かに痛む手を摩りながら義勇は思った。




 冨岡語録解説


「話さないと分からないか?」
(私は鬼殺隊なので)鬼狩りとしてここにいる以外、何もありません。

「お前が知らないのなら、俺も知らない」
あなたとは違い、私は兄弟子なだけですし詳しくありません。

「暇があっていいな」
(大変不本意とはいえ)柱の仕事で忙しい私とは違い、しっかり自分の時間を作れて偉いと思います。
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