【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 戦闘シーン書くのも楽しいけど、心情云々書く方がもっと楽しい。


49.鮭大根

「…………」

「…………」

「…………」

 

 薄ぼんやりとした提灯の光に照らされる三人。

 まるで地面を行進する蟻を眺める幼子のように、手に持つ湯呑をじっと見つめる無表情の男を囲う二人の女性。

 その内の一人、小柄な女性は無表情の男と同じく、自身の湯呑に視線を全て注ぎ込んでおり、一言も喋っていない。

 

『…………』

 

 三つしかない席全てを占拠し、屋台を実質的に貸し切っている三人組は先ほどから一度も、互いに会話を交わしていないのだ。

 赤の他人同士が偶然同じ屋台を訪れたならまだしも、三人が揃って同じ時に店へ到着し、席に座っているのだから。

 空気こそ最悪であれ、三人は決して仲が悪いという訳ではないだろう。

 

「…………あ、あのぅ……」

 

 本当なら、茶を出してからすぐに聞くべきなのだろう。

 席に座ってからというもの、注文をする訳でもなく終始無言で居座るなど、悪質な冷やかしだと思っても仕方がない。

 が、店主の男からすれば、()()()()()()()()()()()、剣呑な触れにくい空気を醸し出し続けているのだから、触れようにも触れられなかった。

 だが、いい加減腹を決めねばなるまい。

 事情があるのだろう。

 自分が推し量る事のできない、何か込み入った経緯があるのだろう。

 しかし、こちらも『商売』なのだから、相手の注文は聞かなければならない。

 

「ご注文は……?」

「鮭大根を三つお願いします」

 

 ――あぁ、さっきからずっと品書きを見てたんですね。

 一人、素朴に無言を貫いていた方の女性、麗からの言葉で、店主の男はようやく思考を現実に戻す事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「食べないの?真菰」

 

 やがて三人分の鮭大根が卓上に並び、麗が箸を手に持ち一言。

 義勇を挟んだ一つ先の席に座る真菰の表情はまだ、暗い。

 

「……食べるけど」

「早く食べないと冷めちゃうよ。……いい匂い。冨岡さん、よくこんな店見つけましたね?」

「以前、任務で少しな。それにここの店主は『話』が通じる、だから偶に隠たちの情報共有の場としても使われたりする」

「なるほど」

「今日は他に客もいない、周りを気にせず話せる」

「はぁ……」

 

 麗はなんとなくの返事をしつつ、もきゅもきゅと大根を頬張った。

 口内で咀嚼を繰り返し、飲み込んでから僅かに声色を上擦らせ。

 

「……!美味しい」

「そうか」

 

 出汁を飲み、柔らかく煮込まれた鮭も口に入れた麗。

 その食べっぷりに感化され、遅れる形で義勇もようやく箸を手に取り、目の前に出された鮭大根を食べ始める。

 食事処に訪れて数分、ようやく食事処に来た意味を二人は果たした。

 一人を除いて。

 

「……」

「真菰?」

「怒ってる?」

 

 言葉を飾らない直球の疑問。

 真菰の言葉に、麗はすぐに返す。

 

「……怒ってはいないけど。ただ、どうしてかなって」

「…………」

「僕は君の事を信頼してるし、家族みたいに思ってる。……真菰は?」

「同じだよ。……本当に、おんなじ……」

「そっか、良かった」

 

 器の大根と鮭を食べ終え、残った出汁を飲み干しながら。

 

「でも、僕に隠してたのはどうして?」

「…………それは」

「……」

「それは、ごめん。でも私は――」

「俺が言わないように釘を刺しておいた」

 

 麗が鮭大根を完食したのと同じ頃合いに、義勇もまた目前の鮭大根の残り出汁を飲み干し。

 

「と言っても、柱合会議の前にお前には伝えていたか」

「そうでしたね。あの時は思わず動揺したけど」

「…………」

 

 事実、あの時麗は義勇の発言に驚き、内情から冷静さを消してしまった。

 今思っても、なんと自分らしくない事かと思う。

 そんな事を考えている間も、義勇は沈黙する。

 彼にしては珍しい、明確に言葉を選ぶ意味深な沈黙だった。

 

「俺は、あの()()は何かが違うのかもしれないと思った」

 

 そう言って、彼は無機質な黒い目を宙に向けた。

 

「鬼は人を喰う。兄弟だろうと親子だろうと、飢餓状態に陥れば等しく」

「でも、竈門禰豆子は違った」

「……鬼に変わった直後で、しかも俺に傷つけられ、血を流した重度の飢餓状態。……それでも尚、あれは家族を守る為に俺に牙を剥いた」

「それは、耀哉様が言っていた」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 義勇はそう付け加え。

 

「……うんざりする程に、家族だった者が鬼に変貌し、その絆に付け入られる場面を見てきた」

「……きっと、それは他の()もそうですよ」

()()()()()、俺はあの二人を信じてみようと思えた」

「…………」

「だが、他の人間は違うだろう」

 

 麗はそれを否定しなかった。

 

「俺の勝手な期待を、同じようにあの人(鱗滝左近次)も信じてくれた」

「それは、他の誰でもないあなただからこそでしょう」

「……………………それでもだ」

「それでも?」

「本来なら、俺たちの『()()』はあってはならないものだ。勿論、俺はあの二人に『万が一』がないと信じてはいる。が、それでも」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、自分は『柱』であるのだから。

 その小さな可能性の事を踏まえ、事の始末を考慮しなければならなかった。

 未だ、かつて一生の罪悪感を作った過去に苛まれる義勇には、その背負うものはあまりにも大きい。

 

「……花柳」

 

 今度は虚空ではなく、しっかりと麗と目を合わせて。

 

「あの時言った通り、これは俺たち『水の呼吸一門』の話だ。そこにお前を巻き込む事はしたくなかった、だから真菰にも、この事は伝えないように言っておいた」

「……はい」

「すまなかった」

 

 その言葉は意外で、麗は思わず目を丸くした。

 向こうの席で、同じような表情を真菰もしているのが見えた。

 そんな二人の反応に構わず、義勇は真剣な雰囲気で。

 

「矛盾しているだろう、自分から、皆を(水の呼吸を)巻き込んでおいてどの口が、と思うだろう」

「……そんな事ありませんよ」

 

 本当に、麗は義勇にそんな悪感情は抱いていない。

 彼は口下手でこそあれ、誰かの為に怒り、刀を振るえる人間だという事はもう、充分過ぎる程に分かっていた。

 

「本当なら、俺一人がやるべきだった」

「……」

「炭治郎たちを庇い、信じる事に後悔も何もない。ただ、それでも……」

 

 それが間違いとは言わない。

 思ってもいないが、しかし、一般的に考えれば、それが周りからはどれ程に『異端』で。

 ……悪い言い方をすれば、どれ程自分たちの評価に泥を塗る行為であるかを、義勇は理解していた。

 だと言うのに、結局はこうして左近次や真菰を巻き込んでいるのだ。

 自分一人で、背負う覚悟がないだけだと――そう言われても否定できない。そう義勇は言った。

 

「花柳、お前には俺を恨む権利がある」

「……なんでですか」

「これは自分たちの問題だと、お前を勝手に部外者にして守りつつ。しかし結局、俺自身が水の呼吸一門を巻き込んだ立場でありながら、お前が最も苦しむ行動を、真菰を巻き込む事を選んでしまった」

「…………」

「改めて、今のお前の気持ちを知りたい」

 

 淡々と。

 だが、決して浅くない思いを込めた声色。

 許す許さないの話でもなく、そもそもそこは論点でもない。

 一言、二言では表し切れない複雑な感情。臓腑からにじみ出る悪感情を、今この場で自分にぶつけても良い、むしろぶつける価値があると、暗に義勇はそう言っているのだ。

 そんな義勇の問いに、麗は。

 

「――信じますよ」

 

 不動。

 凛と透き通るような声でそう返す。

 花柳麗、彼女に悪感情は――堪えられない呪詛などない。

 真っすぐ、黒曜石のように煌々と輝く瞳を義勇に向けていた。

 

「と言っても、まずはある程度ですけど」

「……そうか」

「裁判の時言ったように。鬼殺隊……鬼狩りという歴史における『例外』は、いずれどこかでの亀裂を生むのに充分過ぎるものです。耀哉様に言われても、そこだけは譲れない」

「……」

「だけど、僕はあなた達が信じるものを信じたい。……だから僕も、僕自身の目で、ちゃんとこれからあの二人(竈門兄妹)を見てみようと思ってます」

「――――」

 

 今度の沈黙は、先ほどの半分以下の時間で済んだ。

 今まで顔のみを動かし、目を合わせていた義勇は真向きに麗を見つめ、言う。

 

「……お前は強いな」

 

 神々の寵愛を一身に受けた肉体、才を自覚する麗にとって、その褒め言葉は聞き慣れたもの。

 しかし、その『強い』という言葉は今まで聞いてきたものとは違う、もっと別の意味である事は分かった。

 だからこそ、謙遜する。

 

「……僕は、他の人たちと違って鬼に幸せを奪われていません。鬼を恨む気持ちに、憎む気持ちには寄り添えない」

 

 大好きな父も、近所に住む家族同然の知り合いも皆、今も元気にあの村で暮らしている。

 

「…………」

「でも、冨岡さんは前にマタギの鬼狩りで言いました。『俺はたまたま同じ「奪われた側」』であると」

「…………」

「鬼を恨み、憎む気持ちを持ちながら、あなたは竈門禰豆子を信じる事ができた。……僕は奪われた幸せを知らないから、ただ無責任にあなた達を信じるだけだけど、あなたは違う」

 

 父を、母を殺された者がいた。

 弟や妹を、恋人を殺され、殺した鬼を憎む者がたくさんいた。

 皆が鬼に呪詛を吐く、殺意を向ける、命を燃やす。

 奪われた者であるが故の、他者を守る魂の叫びを尊いものだと思った数は、数え切れない程に存在する。

 

「何もない僕と違って、自分の中にある確かな悪感情を割り切って、新しい希望を信じる事を選べたあなたを、僕は心の底から尊敬します」

「…………」

 

 予想を裏切る直球の褒め言葉に、義勇はらしくもなく僅かにたじろいだ。

 再び、沈黙。

 時間にして、およそ十秒。

 

「…………そうか」

 

 そして、そんな十秒の沈黙で絞り出した言葉がこれである。

 

「――ふふっ」

 

 そんな言葉に思わず、ずっと重苦しい沈黙を貫いていた

 義勇が次の言葉を発するまでの、言葉の合間を縫う形で真菰が口を開く。

 

「義勇さん照れてる?」

「……別にそういうのじゃない。すまないが鮭大根をもう一つ頼む」

「あいよ」

 

 誤魔化しついでに鮭大根の追加注文をして、義勇はため息を吐いた。

 最初にあった剣呑な気配はどこにもなく、一気に空気が穏やかなものへ弛緩していくのが目に見えて分かった。

 暫くしてから、再び三人の前に出される鮭大根。

 寸分違わず、三人が一斉に箸を手に取り、食事の時間が再開された。

 

「んぐっ……でも、いくら義勇さんでも駄目だからね?麗はあげないからね?」

「……お前は花柳の母か何かか?」

 

 つい先ほどまで、気まずさから一言も発せていなかった少女とは思えない程の変わりようである。

 麗もまた、そんないつもの調子を取り戻した真菰に安心すると同時に、悪戯心。

 

「でも真菰、次からは僕に隠し事は駄目だからね?」

「うっ……で、でもでも!今回は義勇さんが悪いんだもん」

「……否定できない」

 

 僅かに声を沈ませた義勇とは反対に、麗は声を僅かに上擦らせて。

 

「大丈夫、これからは『視て』判断する事にするからね。嘘なんてすぐに見破るから」

「……もう隠し事できないじゃん、それ」

「まぁ、それをすると君の本当の顔と身体が見れなくなるのは残念だけ……」

「うわああああっ!?その言い方やめて!なんかちょっと変な気持ちになってくる!」

(何を聞かされているんだ俺は……)

 

 両手に華……にしては、どこかズレた乙女の会話を両耳から捉えながら、義勇は黙々と鮭大根を食べ続けていた。

 

「なら誓って?これからは僕に一切の隠し事はなし、冨岡さんもそうだし、他の誰よりも僕を優先してよ」

「……それはまぁ」

「あ、当然耀哉様も例外じゃないからね。僕もそうする」

「ふぁ!?」

 

 直球に、鬼殺隊の頂点よりも自分を優先しろと言い切ってみせる麗に、真菰は素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちょ、その発言は色々と……」

「僕、最初に君が隠し事してたって知って凄く落ち込んだんだけどなぁ」

「うっ」

「正直内心ぐちゃぐちゃだったし、本気で『何で』って思ったんだけどねぇ」

「うぐぐっ」

「まぁすぐに慣れたけどさ」

 

 今更襲い掛かって来る罪悪感に真菰が苦悶の声を上げる中、麗は悪戯に成功したと言わんばかりに、ケラケラと楽しそうに笑っていた。

 実際、麗にとってはもう既に終わった事であり、一時的な内情の混沌……禰豆子関連の衝撃(ショック)はもうとっくに受け入れたもの。

 そもそも、裁判が終わってから麗は、後にあの会話を冷静に考え直し、義勇の妙に尖った発言の真意やらを悟ってからは、その悪感情は自分の思い過ごしであると理解している。

 既に終わった話。

 だからこそ、麗はこうして気兼ねなく相手を弄れるのだ。

 

「……変わったね、麗」

「何が?」

「だってさぁ、昔はもっと物静かというか、何と言うか……」

「嫌いになっちゃった?」

「まさか、昔からずっと大好きだよ」

 

 ――『もっと欲張れ、もっと欲しがれ』。

 かつて自分に向けられた、鉄井戸の言葉が脳内を過ぎる。

 

「よく笑うし、凄く良い変化だと思うけど。何が理由なのかなって」

「……」

 

 ――『もっと子供らしくねぇと、いつか「仙人」みてぇになっちまうぞ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がいてくれたから」

 

 昔とは違う、人間味溢れる。

 しかし凛とした、美しい笑みを。

 

「君がいたから、僕はこうして『人間』らしくいれるんだよ」

 

 最大級の好意を秘めた言葉と笑みを、麗は真菰に注ぎ続けた。




 ・冨岡義勇との友好度が上がった!
 ・真菰との友好度が上がった!
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