【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 ファンブック弐が近くに売ってない悲しみ。


6.『星』の煌めき

 真菰の目の前にいる少女は、やはり四日前から変わっていない。

 闘気も覇気もない姿。

 これが『最終選別』が始まって直ぐか、二日目くらいに見たのなら、まだ無理矢理にでも納得できた。

 命の危機、死を予感する力が鈍いのだろうと、そう一方的に決めつけられた。

 

 だが、今日は『四日目』なのだ。

 

 鬼の飢餓状態も見ただろう、襲われもしただろう。

 藤襲山は広いが、だからと言って、鬼に襲われない都合の良い場所がある筈もない。

 作られたものとは言え、ここは『戦場』である筈なのに。

 彼女は少しも、負の気配を見せていなかった。

 

「それ、もしかしてここに持ち込んだの?」

「うん。面白い」

 

 真菰が首を傾げながら問うと、少女も同じように首を傾げた。

 

「駄目だろうか?」

「うーん、ちょっと私には分からないなぁ」

 

 最初の印象は、どこか掴み切れない子だった。

 少女の在り方は言葉も含め、どこか()()()()しているような印象を与えてくるから。

 しかし、こうして改めて対峙して分かる事もある。

 悪人ではないのは確かだろうが、同時に少女からは薄っすらと、形容し難い『底知れなさ』も感じる。

 自分が言うのも何だが、やっぱり不思議な子だと真菰は思う。

 

「他には何を持って来てるの?」

「水と……食事を少々」

 

 そう言って少女が袂から取り出したのは、とっくに使い終わったのであろう乾いた竹皮。

 続いての疑問。

 

「さっきは何を読んでたの?」

「『高瀬舟』。他にも『鼻』とか『芋粥』もある、持ってきた」

「食事より本を優先しちゃったんだ?」

「した」

「しちゃったかぁ」

 

 ――うん、悪い子じゃないな。

 それは間違いない、間違いなのだが。

 真菰は思わず。

 

「怖くない?」

 

 純粋な疑問だった。

 真菰自身、怖いか怖くないかで言えば前者だ。いくら厳しい鍛錬で力を身に着けたとは言え、やはり実戦は違う。

 圧し掛かる重圧。

 いくらでもやり直しの利く修行と違って、失敗の許されない『命』のやり取りで発生する疲労は桁違いだ。

 例え鬼との戦いに勝ったとしても、その疲労の深さは、足腰の力が抜けそうになる程。

 だが、この少女は違う。

 ずっと逃げてた訳でも、ましてや運のみで生き延びた訳でもなく、()()()()()()()()()()()()

 半ば答えを確信しつつも、真菰は問うた。

 そして、返って来た言葉も――。

 

「うん」

 

 淀みのない言葉と、曇りのない綺麗な目。

 それは、この四日間で真菰が見てきた人間のものとは、やはり違った色だった。

 

「僕は頑丈だから。()()()()()、自分以外の誰かの方が心配だ」

「……」

「向こうの方を見てくる、じゃあね」

 

 少し見てくる。と、そう言って。

 少女はまるで宝物のようにして、隣に積み重ねていた本を布にくるんで、懐にしまい込んだ。

 そしてそのまま、刀を片手にてくてくと歩き始めたのだ。

 自分以外の誰か。心配。

 それらの言葉を聞けば、彼女はこれから何をするつもりなのか、それがすぐに分かった。

 

 ――助けようとしている。

 

 皆が皆、自分の事で精一杯な『最終選別』で、唯一与えられた『昼』という名の安寧を捨ててまで。

 この優しさは、まるで――。

 

「………」

 

 似ているのだ。

 かつて、震えて蹲っていた自分を救い、強く育ててくれたあの人(左近次)に。

 

「なら、私も手伝うよ」

 

 『情けは人の為ならず』、なんて言葉を、馬鹿正直に信じて実践するつもりな訳ではない。

 ただ、ここで彼女を追いかけなければ、()()()()()()()()()()()()()

 たったそれだけだった。

 

「……いいの?」

「いいよ」

「分かった。じゃあ行こう」

「うん」

 

 それ以上の言葉は必要なかった。

 深く聞く事もなく。そしてこれから、何をどうするかの具体的な案も何もない。

 二人で仲良く並び、そして歩を進める。

 少女の顔は、相変わらず覇気も何もない静かなもの。

 

「私は真菰」

 

 真菰は柔らかい笑みを浮かべ、少女の顔を覗き込む形で言う。

 四日ぶりの邂逅。

 向こうは、一度しか会話を交わさなかった自分の事を、覚えているのだろうか?

 覚えてくれたら嬉しいな。そう淡い期待を胸に秘めて。

 そして。

 

「あなたの名前は?」

「……花柳、花柳麗」

 

 少女、麗は真菰と目を合わせ、続けた。

 

「――改めて『久しぶり』、真菰」

「うん、『久しぶり』」

 

 その『言葉』が何を意味するか。

 深掘りするのかは、当人のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終選別・五日目の夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り二日。

 ここまで来ると、いくら()()()()()()()()()()でも、知恵を使った戦い方をしてくる。

 初日と三日目、特に飢餓状態に陥った鬼は、一言で表せば『愚直』な攻め方だった。

 声を潜める事も、気配を殺す事もせず、目の前の人肉に歓喜して叫び、まっすぐ走る。

 これでは『さぁ殺してくれ』と言ってるようなもので、実際真菰も、彼らからはかすり傷の一つすら負っていない。

 だが、()()()()()()()は違う。

 

 『彼ら』は戦う事なく隠れ潜み、じっと時が経つのを待っていた。

 

 藤襲山にいる人間は皆、育手から『全集中の呼吸』を教わっているが、それでも限度はある。

 確かに呼吸は、人を文字通り鬼のように強くする。しかし結局は人間で、動けば動く程肉体は疲労し、動きが鈍る。

 何より、『最終選別』は七日間続くのが大きい。

 昼夜を逆転させた、普段とは違う意識の覚醒。

 寝る場所や、その日の食事と言ったあらゆる要素が、鬼の有利として働いている。

 残り二日、されど二日。

 

「ギヒャアッ!」

「――ッ」

 

 木陰に潜む鬼の不意打ち。

 不意打ちの成功を確信し、下卑た笑いを洩らす鬼。

 自分で自分の作戦を台無しにする知能の低さは哀れなものだが、仮に彼が笑い声を出さずとも、真菰なら簡単に回避できたであろう。

 その事実が、余計彼を惨めにしているのだが、その真実に気付く者はいない。

 

「シィィィ――」

 

 余裕をもって攻撃を避けた真菰は、その一瞬で呼吸を整え、刀を強く握り直す。

 使うは、元水柱・鱗滝左近次と同じ呼吸。

 

「水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨」

 

 鬼より速く動き、そして頸を斬る。

 鬼は、自分が斬られた事にすら気づいておらず、頭と胴が別れた直後は、その顔を憤怒の色に染め上げ。

 頭がごとり、と地面に落ちてようやく、自分が斬られた事に気づいたらしい。

 負け惜しみを言おうとした時にはもう、肉体の消失反応が始まっていて。

 そのまま、鬼は一言も発する事もできず、消えていった。

 

「大丈夫?」

「は、はい」

 

 真菰が声をかけた先。

 そこには、折れた刀を手にし、足を負傷して動けなくなっていた少年がいた。

 刀も、足も奪われた上に、分かりやすく『放置』された姿。

 つい先ほどの、木陰から『不意打ち』を仕掛けてきた鬼。

 答えは、一つに絞られる。

 

「よ、よかった……俺のせいで、あいつにやられたらって、ずっと……っ」

「大丈夫。だって、私強いもん」

「は、はは……確かにそうだったな。……本当に、よかった」

 

 恐らく、この少年は『まき餌』に近い扱いだったのだろう。

 一刻でも早く人肉を貪り、腹を満たしたいとしか考えられない筈の、藤襲山の下級の鬼。

 そんな『下級』でも、追い詰められるとここまで悪知恵を働かせる事ができるのか――。

 

(一層気を付けないと……)

 

 それに――。

 

(あの子も心配だなぁ)

 

 真菰が思い浮かべるのは、あの『ぬぼーっ』とした少女、麗だ。

 育手は違うだろうがそれでも、彼女とて『最終選別』の場に自ら赴き、刀を手にしているのだから、最低限の実力はあるだろう。

 だが、それでも心配してしまう。

 何せ闘気も覇気もない。

 そんな植物のような気配を、自分と話してる時だけならば兎も角、鬼と遭遇した時でさえ醸し出しているのだから、心配するなと言う方が無理な話だろう。

 

 唯一安心できるのは、そんな()()()()()()()()()()()()()()事だった。

 

 夜、真菰は襲い掛かって来る鬼を相手にしながら、彼女が怪我をした他参加者を背負って走っていくのを後目に見た。

 ()()()()()()()()()()()()()()()が、どうやら鬼の対処は問題なくできているらしい。

 それだけではない。人間は身体を動かせば動かす程、それ相応の量の食事が必要の筈だが、麗はそんな事お構いなしに動いた。

 

 昼は負傷した参加者を助け、余った時間には本を読む。

 それこそ、食事を抜いてまで。

 

 その事に言及すると、麗はなんて事もないように言った。

 

『多分三日ぐらい食べてないけど大丈夫』

 

 真菰は怒った(キレた)

 こちらの絶句した反応を、会話の終わりと勘違いした麗は読書に戻ったが、当然それを許す筈もない。

 ぽこぽこ頭を叩いてから、無理やり食事を分け与えた。

 

「…………」

 

 改めて思う、やはり心配だ。

 と言うか安心できる所がどこにもない。

 ちゃんと食事はとっているだろうか、ちゃんと寝ているだろうか。

 まるで我が子を心配する母親の態度だが、真菰の内心で完結しているそれに、当然突っ込む者はいない。

 と、その時。

 

「~~ッ」

 

 ――異臭。

 鼻がねじ曲がってしまいそうな、血と臓物が腐る匂い。

 真菰の鼻は左近次ほど優れていないが、それでもこの異臭は不快でたまらない。

 何か。

 何かが、こっちに来ている――!

 

「水の呼吸――!」

 

 次の瞬間、木陰から飛び出す緑一色の巨腕。

 何本もの腕が絡みつき、ボコボコと肉が膨れ上がる耳障りな音。

 それが、真菰と傍にいた少年を狙い――。

 

「肆ノ型……ッ」

 

 岸辺に打ち付ける潮の如く、淀みのない斬撃を繰り出す技、打ち潮。

 真菰の放ったそれにより、木陰から飛び出た巨腕は血しぶきを上げて、元の場所に回帰する。

 異臭が強くなる。

 ぬらりと、『それ』が姿を見せただけで、周りの空気が重くなったような気がした。

 全身は緑一色で、何本もの巨大な腕が、己の身体に無造作に巻き付いている。

 正に、異形と言える鬼だった。

 

「ヒ、ヒヒッ」

 

 ――ここには、人間を二~三人喰った鬼しかいない筈。

 目の前に現れた鬼は、気味の悪い笑い声を出しながら。

 

「また来たな、俺の可愛い狐が……」

 

 その目が見ているのは、真菰ではなく――。

 

「お前、鱗滝の弟子だろ?お前で『十三』だ」

「ッ――何を」

「俺が喰った鱗滝の弟子の数さ、あいつの弟子は全員殺すって決めてるんだ……」

 

 ――『もう、子供が死ぬのは見たくなかった』。

 狭霧山を出発する前の、左近次が洩らした本音が想起される。

 

「目印なんだよ、あいつの面は今でも覚えてる。あいつの木目を俺は覚えてる、弟子に渡すって言う『厄除の面』も、あいつが付けてた天狗の面と同じ彫り方だ」

「――ッ、――――」

「それを付けてるせいで俺に喰われた、全員俺が殺してやった。ヒ、ヒヒヒッ!いいや……全員鱗滝が殺したようなもんだなぁ」

「ッッ、フゥ――ッ……!」

「その中でも特に印象に残ってるのは……そうだ、あのガキだ。珍しい毛色の、()()()()()()()()()……」

 

 ――全集中・水の呼吸。

 

「黙って――ッ!!」

「ヒヒ、ケヒヒッ!」

 

 もう、限界だった。

 呼吸が乱れている事にも気づかず、真菰は駆け出した。

 目前の異形、手鬼はそんな真菰の怒りを真正面から受け止め、顔を愉悦で歪めていた。

 視界いっぱいに広がる手鬼の曲腕。

 足場を埋め尽くすそれらによって、()()()()()()では頸に近づけない。

 そう判断した真菰は、この場において最も相応しい技を選択。

 

 動作中の着地時間・着地面積を最小限にして、縦横無尽に動く技。

 

 玖ノ型 水流飛沫・乱。

 

(間合いに、もっと間合いの内側に……!)

 

 その型の名の通り、正に飛沫が舞うかの如く。

 小柄な体躯を最大限に利用した、真菰の『水流飛沫・乱』は、純粋な速度のみで見れば、鱗滝のそれを超える。

 だが、それも――。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 ――呼吸が乱れていない時に限る。

 怒りによって冷静さを失い、本来の実力の八割も発揮できていない今、手鬼にとって真菰の動きは、あまりにもお粗末なものだった。

 細く枝分かれした一本の手鬼の腕、それが真菰の足を掴む。

 縦横無尽に動ける玖ノ型であろうと、拘束されてしまえば意味がない。

 ガクンッ、と真菰の動きが無理矢理に封じられ、足首に決して軽くない負担が掛かる。

 死――。

 

「ッ、捌ノ――」

 

 すぐに刀を握り直し、足を掴む腕を斬ろうと刀を振り上げる。

 滝から流れ落ちる水流の如く、真下に向かって渾身の斬撃を放つ『滝壺』を、その後すぐに『打ち潮』で周りに斬撃を――。

 そんな甘い考えを嘲笑するかのように、手鬼が今までで一番太い腕をこちらに伸ばしてくるのを、真菰は緩やかな時間の中で見た。

 死――。

 今までの修行の中で、似たような現象は何度か経験した。

 だが、これはそれらよりもっと、もっと強い――。

 

(死……)

 

 大きな腕。

 大きな手の平が、憎き鬼の腕が、自分の身体に群がってくる。

 ギシリ――、肉が強く握られる音が聞こえる。

 引き千切られる、頭を強く握り潰される。

 もう、避けられない。

 

 ここで、終わり?

 

 次の瞬きで、自分は終わってしまうという確信があった。

 だが、もうどうする事もできない。

 最後に浮かんだのは、大好きな育手、父親代わりの左近次の姿と――。

 あの、藍鼠色の髪をした――。

 

 

 

 

「――コォォォォォ」

 

 重厚な呼吸音と共に、手鬼との間に割り込む影。

 

 

 

 

 手鬼の腕に力が込められ、真菰の身体が潰れるより前。

 刹那。放たれるのは、星が煌めいたような光の斬撃。

 それが手鬼の腕を斬り裂いて、真菰の身体は解放される。

 ゆっくりと流れる時間の中で。

 

「――漆ノ型  星雨光芒(せいうこうぼう)

 

 あの、黒曜石のように綺麗な瞳と。

 真菰はまた目が合った。




 継国縁壱の一番やばい所。
 常時万力の握力ができるパワーキャラの癖に燃費が激軽(十日ほどぼんやりと亡骸を抱えられる省エネっぷり)。

 主人公の呼吸はお察しの通りです。

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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