【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート 作:バブ辻オギャン
炭治郎たちの叫び声がやまびこのように響き渡り、数分後。
いくら本調子でないとはいえ鬼殺隊の身体能力に勝てる筈もなく、あっけなく少年は捕まった。
小鉄。そう名乗った彼は炭治郎によって事のあらましを問われ、それからゆっくりと語った。
刀鍛冶の里に眠る秘密の一つ。
その正体は、三百年近く前に作られた戦闘用絡繰人形『縁壱零式』。
同時に、その祖先の凄まじい技術力と他ならぬ自分自身の才能のなさに絶望した過去。
一度壊れたらそれで終わりという焦りと、最初、無一郎の願いを拒否し続けていた場面に至るまでの全てを語った。
だが炭治郎は、いつもの真っ直ぐな瞳で語りかけ、そして小鉄の心を解かした。
そうして小鉄は弱い過去の自分と決別し、固い決意を固めたのだった。
案内された森の奥で、『縁壱零式』を目にした炭治郎に全身の毛穴が開くような強い衝撃が走った。
それは六本の腕を持つ異形の絡繰人形。だがその佇まいや顔は、以前夢の中で見た、あの『耳飾りの剣士』そのものだった。
しかし。
「う"わ"ぁ"――――っ"!!??」
『……』
「どわぁっ!!??」
『…………』
「み"ゃ"っ"!!??」
現在、そんな謎の既視感の正体を暴く余裕など炭治郎にはなかった。
(ただの素振り棒なのに痛すぎる! こっちの弱点を的確に狙ってきているせいだ……!)
目の前で凶悪な旋風を巻き起こすのは、
刀ではなく、今はただの素振り棒を握らせている状態だが、それでも戦闘訓練用に作られているだけあって、ただ叩くという行為も洒落にならない。
メキメキッ! という、素振り棒が軋んでいるのか、それとも自分の骨が軋んでいるのか分からない鈍い音が、炭治郎の耳に聞こえてくる。
「遅い! 炭治郎さん遅い! ごちゃごちゃ考えてる暇があったらまず動く! あなたの癖なんて何の価値もないんですからね!」
「素振り棒でそれって本当に大丈夫? そんな動きじゃ五秒で首が飛ぶよ。分かってる? ちゃんと脳みそ入ってる?」
「ひ、ひぃ……」
痛めつけられる身体と並列に襲い掛かる、小鉄と無一郎による口撃もまた、炭治郎を追い詰める要因の一つだった。
元より小鉄は毒舌であり、父を亡くして鳴りを潜めていたのが炭治郎の励ましによって復活。
加えて無一郎は元より毒舌寄りで、更に口撃の手本とも呼べる、兄の有一郎の存在もあり、その切れ味は凄まじい。
「さっきのは右! その次は左下からの薙ぎ払い! 俺でも避ける方向が分かってるのになんであなたは分からないんです!? 遅いから掠り傷を負うんですよ! 子供でも分かる常識! 鼻が良いなら攻撃の風圧くらい嗅いでみたらどうなんですか!?」
「こ、小鉄くんちょ……」
「それに急所を庇う動作も無駄だらけだし、これじゃあ避ける避けないの話じゃないよ。あっ、さっきの続きなら多分首を狙ってくると思うからさ、いっそ頭を下げて前に踏み込んだら? まぁ失敗したら死ぬけど」
「無一郎さんの言う通りです! さぁ飛び込んで! 今すぐに……って遅い! もうとっくに隙がなくなりましたよ!」
「ま、待…………」
遠方から冷ややかに、かつ容赦なく飛んでくるふたりの毒舌と鋭すぎる分析。
小鉄の容赦ない罵倒と、無一郎の淡々としつつもスパルタすぎる助言が交錯する中、炭治郎は死の恐怖に悲鳴を上げながら、必死に地を這って六本腕の攻撃を避け続けるのだった。
「うがっ!?」
疾風のように繰り出される六本の素振り棒。
炭治郎は死力を尽くして地を蹴り、死角からの旋風を紙一重で躱した。
だが安堵したのも束の間、反対側から放たれた目にも留まらぬ薙ぎ払いが脇腹を直撃。
ドガァッ! という衝撃音と共に、炭治郎の身体は雑巾のように遠くの木々へと叩き飛ばされた。
「ぐっ……! がはっ……!」
胃液の混じった唾を吐き出しながら必死に立ち上がり、再び死線へと飛び込む。
躱し、捌き、だが次は頭上からの叩きつけに反応しきれず、再び泥の中に強く叩きつけられる。
躱しては飛ばされ、避けては吹き飛ばされる……そんな命懸けの攻防を三回ほど繰り返した頃には、炭治郎の体力は限界を迎え、荒い息を吐きながら地面に突っ伏していた。
同時に。
「あ、そろそろ僕の番だね」
無一郎が静かな声で前に出る。
その後、カチリという異音が響き、それから『縁壱零式』の動きがピタリと止まった。
遅れて、小鉄が止まった『縁壱零式』にトコトコと駆け寄り、その指や関節の絡繰を回しながら、手際よく微調整を繰り返していく。
「これでよし……あ、無一郎さんは前回と同じ防御主体の動きで行きますね。勿論動きそのものは前と違いますよ」
「うん、僕もそれでいいと思うよ」
「うーん……無一郎さんの場合、一瞬で間合いを詰める初動の踏み込みが尋常じゃなく速い奇襲型の戦法です。でもその分、身体の軸を前傾させすぎる癖があって、受けに回ったときに僅かな隙ができる」
「なるほど」
「だから六本腕の攻撃を全部捌き切るなら、軸をブレさせずに足裏全体で衝撃を逃がす意識を持たないと駄目です。じゃないと長時間の防衛戦で柄を握る指の力が削られますよ。今度はそれを意識してみましょう」
「……そっか、奇襲の癖がそれ以外の時にも出ちゃってたのか。分かった、重心を落とす瞬間の膝の緩め方を少し変えてみる」
(す、凄い……俺と違ってちゃんと『訓練』をしてる……!)
肩で息をしながらそのやり取りを聞いていた炭治郎は、地面に突っ伏したまま内心で感心する。
ただ闇雲に甚振られているだけの自分とは違い、そこには洗練された戦術の解析と、己の弱点を冷静に補強し合う確固たる信頼関係が存在している。
自分よりも若いが、既にその域にまで辿り着いている無一郎と小鉄らに、炭治郎は尊敬すら抱いていた。
「それじゃあ行きますよー!」
小鉄のかけ声と共に再び『縁壱零式』が起動する。
だが、その手には先ほどまでの素振り棒ではなく、ギラリと冷たい光を放つ本物の刀が握られていた。
一気に跳ね上がる危険度。
それでも無一郎は動じることもなく、六本の刃が描き出す死の弾幕の中へ踏み込み、それからまるで水が流れるようにするすると斬撃を躱し、高度な訓練を始めてみせた。
「で、炭治郎さん」
静かに歩み寄ってきた小鉄が、倒れている炭治郎を上から見下ろす。
「倒れて休んでいる暇なんてないですよ。さっきの三回目の吹っ飛び方、完全に逃げ腰でしたよね? 恐怖に負けて足腰の軸がぶれているからあんな風に遠くまで吹き飛ぶんです。鼻が良いのが自慢なら、そんな自分の逃げ腰な匂いでも嗅いで反省したらどうですか?」
「は、はい……」
「もう一度言うけど勘で動いてるんですよ炭治郎さんあなた。相手の動きを見てから判断してるんじゃないから駄目なんです。あぁこれもさっき言いましたね、だからまずは徹底的に基礎を鍛えます。いいですね? 大前提に足腰を鍛える! それからあなたのよわっちぃ動体視力を補う為に肉体の反射を鍛える! その為に吹き飛ばされる回数を重ねます、まぁまだ素振り棒なので死にはしませんし? 安心して吹っ飛ばされてください炭治郎さん」
「…………はい」
炭治郎は小さな声を絞り出し、小鉄による容赦ない毒舌と的確な解説をしっかりと胸に刻み込むのであった。
それから時は流れ、一週間後。
炭治郎が送った日々は、まさにいつ死んでもおかしくない程に濃密なものだった。
小鉄の恐るべき分析力と容赦のない毒舌の下、朝から晩まで徹底的にしごかれ抜く毎日。
彼の観察眼、そして解析力は的確そのものであったが、しかし当の彼自身は剣術の素人である。
そのため人間の肉体の限界というものをまるで理解しておらず、あわや『飯抜きで死ぬまで訓練』という狂気の暴挙に出ようとしたこともあった。
だが、その惨劇を止めてくれたのは他ならぬ無一郎だった。
『死んじゃうと訓練にならないし、それに動きももっと鈍るからご飯は食べさせた方がいいよ』という、無一郎の静かな一言で難を逃れた時、炭治郎は人生で最も深く無一郎に感謝したのだった。
「――って事があってさ」
ボリボリ、と香ばしい音を立てて煎餅を噛み砕きながら、炭治郎はそう語った。
場所は刀鍛冶の里にある宿の一室。
そこで炭治郎は、まるで昔からの仲という風に目の前の人物へ気さくに話しかけている。
「それから何度も訓練を繰り返すうちに、俺も少しずつ人形の動きが見えるようになってさ。そしたら修行の最中にとうとう人形に限界が来て壊しちゃってさ。でも驚いたなぁ、壊れた首の奥から三百年前の刀が出てきたんだから!」
煎餅のくずを口元から払いながら、炭治郎は更に言葉を続ける。
「しかもその後、山の奥から猛修行を終えた鋼鐵塚さん……あ、俺が探してた担当の刀鍛冶の人が突然来てさ……! 研いでやるから絶対に邪魔するなって言って、それからまた山の奥に引きこもっちゃったんだよ」
炭治郎はどこか誇らしげに、けれど少しだけ困ったように眉を下げた。
「『絶対覗きに来るな』って強く言われてるんだけど……話によるとその研磨術? はすっごく過酷で、過去に死んじゃった人もいるらしくて……心配だし見に行ってもいいかな?」
「…………ッ」
ぽつりと投げかけられたその無邪気な相談に、それまでずっと苦虫を噛み潰したような顔で黙っていた部屋の主。
――少年、不死川玄弥の忍耐がついに限界を迎えた。
「知らねぇよ出ていけお前!! 友達みてぇな面してんじゃねぇ!!」
部屋中に響き渡る玄弥の怒号に、炭治郎は煎餅を口にくわえたままパチクリと目を丸くする。
「えっ? 俺たち友達じゃないの!?」
「んな訳ねぇだろボケが!!」
玄弥は炭治郎を指さす。
「大体な、テメェは『最終選別』の時に俺の腕を折りやがったからな! 忘れたとは言わせねぇ!」
血相を変えて怒鳴り散らす玄弥に対し、炭治郎は微塵も怯む様子を見せず、いやいやと顔の前でひらひらと手を振った。
「あれは女の子を殴った玄弥が全面的に悪いし仕方ないよ」
「馴れ馴れしく下の名前で呼ぶんじゃねぇ!」
更に青筋を立てて激昂する玄弥。
だが、その大口を開けて叫ぶ顔をじっと見つめていた炭治郎は、ふと首を傾げた。
(……あれ?)
そして玄弥の口の中に視線を集中させる。
「あれ、歯が……抜けてなかったっけ、前歯……温泉で」
「――――」
その言葉が出た瞬間、玄弥の激しい動きと怒号がぴたりと止まった。
「――……」
部屋の中に重苦しい静寂が落ちる。
玄弥は感情を一切削ぎ落としたような、凄みのこもった冷たい目つきで炭治郎を睨みつけた。
「…………テメェの見間違いだろ」
そう、低く静かに言い放つ。
だが炭治郎は、至って真面目な顔のまま首を横に振った。
「いや見間違いじゃないよ。だってほら、あの時落ちてた歯を……」
そう言って懐に手を伸ばし、大切に保管していた前歯を取り出そうとした。
――その時だった。
「……ん? 誰か来てる?」
炭治郎の手がピタリと止まる。
鼻腔を掠めたのは、温泉の硫黄臭や鉄を打つ煤の匂いとは根底から異なる、ずっしりと重く冷ややかな異質の気配。
研ぎ澄まされた嗅覚が、廊下の向こうから近づいてくる何者かの存在に強く反応したのだ。
「…………アァ?」
炭治郎の空気が一変したのを察し、玄弥もまた険しい怒りの表情を隠さないまま、炭治郎と同じ視線――静まり返った廊下と部屋を隔てる襖の方へと向けた。
静寂の中、足音すら立てずに近づいてきた異物。
やがて、その襖が音もなく、ゆっくりと開き――。
静かな夜の闇が深く広がる山の中。
ひんやりとした静寂が漂う石造りの道を、ひょっとこの面をつけた鍛冶師の男が、ぽつぽつとそこに足跡を刻んでいた。
男は湯上りでほんのりと火照った身体を心地よい夜風で冷やしながら、溜息まじりにぽつりと独り言を漏らす。
「ちょっとのんびり長湯し過ぎたな、明日も早朝から作業だってのに……」
首にかけた手拭いを軽く整え、明日の仕事を思って脚を早めつつ、月明かりの射す道をしばらく歩いていく。
「ん?」
すると男は、前方の暗がりに浮き出た不自然な影を見つけて足を止める。
目を凝らしてよく見ると、その石畳の中央にぽつんと置かれていたのは、怪しげな模様の施された一つの壺だった。
「危ねぇなぁ、誰だ? こんなところに壺なんか置い……」
夜道で誰かが躓いて怪我でもしたら大変だと、親切心から男はその壺へと手を伸ばし――。
「て……?」
その影から、ちょこんと飛び出す小さな影。
それはまるで、
いざ行こう、里へ!(by童磨)