【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート 作:バブ辻オギャン
彼らがまた同じ場所まで辿り着くだろう。
数年前の、ある酷寒の夜の記憶。
それは、花柳麗が『煌柱』の座に就くよりも前の事だ。彼女が初めて、そして唯一遭遇した上弦の鬼であり、同時に彼女の剣士としての生涯において、初めて明確に魂へ刻み込まれた『敗北』の記憶。
剣戟の果て、結果だけを見れば、その戦いは鬼殺隊側の完全なる勝利であったと言えるかもしれない。
先に戦闘を開始していた胡蝶カナエを含めて死者は一人も出ず、誰一人として傷を負うこともなく、そこにあった全ての命を無事に守り抜いた。
上弦の鬼と遭遇しながらも犠牲者はいないという奇跡。
事の次第を知ったある者は麗の絶技を絶賛し、ある者は涙ながらに褒め称えた。
だが、他ならぬ麗本人の心は泥のように重い無力感に沈んでいた。
彼女は、自身の『敗北』を誰よりも正確に理解していたからだ。
生まれつき他者の肉体の内側――筋肉の収縮、骨格の動き、血流の巡りや神経すらも見透かす特別な視界。
『透き通る世界』と称される至高の領域に生まれつき入門していた麗の瞳は、童磨の内に潜む、醜悪な『切り札』を看破していた。
童磨の体内には常に、常軌を逸した密度の冷気が圧縮されていたのだ。
それは万が一、自身の頸が日輪刀によって斬り落とされようとも、肉体と頸の繋がりが絶たれたその瞬間に枷が外れ、蓄積された冷気が爆発的な勢いで周囲へ撒き散らされるという、悍ましい自爆の罠であった。
もしもあの場にいたのが麗一人であれば、たとえその爆発的な冷気が相手だろうと、圧倒的な反応速度と剣技で被害を最小限に抑え、童磨を完全に滅ぼすことは可能だった。
しかし、その時の戦場には『花柱』であるカナエがすぐ傍に迫っており、更にその近くには、怯える力なき一般人がいた。
童磨の頸を斬り落とせば、その瞬間に発生する広範囲の冷気爆発によりカナエも、無辜の民も一瞬にして絶命してしまう。
守り抜いた命は尊い。
だが、逃がした悪鬼は必ずまた誰かを喰らう。
その日から、麗は問い続けた。
考え続け、そして辿り着いた。
これまで九つしか存在しなかった『星の呼吸』の型に、新たな型を創造する。
自らの肉体に刻み込まれた無数の戦いの経験。肉体を視透かす特別な視界。そして生まれつきの痣と特別な身体能力。
これらが完璧な均衡で両立して結実した時、初めて放てるそれは、花柳麗の人生の集大成。
数年という歳月をかけ、己の魂を削り出してようやく辿り着いた奥義。
「星の呼吸」
――ドクンッ!!
その時、童磨の脳髄の奥底に突如、突き刺されたかのような激痛と幻覚が襲う。
鬼の細胞に深く刻み込まれた、絶対的な支配者の記憶。
それは鬼舞辻無惨の血が、細胞が記憶する根源的な『恐怖』の残滓。
(燃えるように赤い、赫刀)
童磨の虹色の瞳孔が極限まで収縮する。視界に映る麗の姿が揺らぐ。
無惨の細胞が悲鳴を上げている。それはかつて自分を追い詰め、その頸を斬りかけたという記憶――。
――
童磨の脳内で無意識下に歪曲され、矮小化されていた無惨の記憶。
それが目の前の圧倒的な熱量によって強引に修正され、真実の記憶を露わにしていく。
(無惨様を死の淵まで追い詰めた。
炎のように揺らめく痣。耳飾り。
そして、太陽そのもののような赫刀。
かつて戦国の世に存在した、最強の剣士。
童磨の瞳の奥で、その男の姿が、目の前で静かに赫刀を構える花柳麗の姿と寸分違わず重なり合った。
(姿が重なる――)
童磨が驚愕に目を見開き、防戦の態勢をとろうとしたその刹那。
麗の姿がふっと揺らぐ。
それは移動の予備動作すらも存在しない、物理法則を無視したかのような踏み込みだった。
空間が断裂する音すら遅れて響くほどの神速。
童磨が認識できたのは、自らの視界が唐突に天地を逆転させたことだけだった。
上弦の弐の強靭な頸が、両腕が、両足が、瞬き一つの間に全て同時に斬り落とされ、宙を舞う。
「――ッ!?」
声なき驚愕を浮かべる童磨の生首。
しかし、その切断から本当の戦いが始まった。
童磨の四肢と頸が切断されたその瞬間、肉体に蓄積されていた規格外の冷気が、ついにその制御を失った。
――ゴォオオオオッッ!!!!
切断面から爆発的に吹き出す冷気。
それは周囲の空間を一瞬で凍てつかせ、この退避壕はおろか、地上に広がる刀鍛冶の里の全てを巨大な氷山の中に永久に閉じ込めてしまう程の、桁外れの力を秘めた、童磨の最期の罠。
数年前であれば、麗を退かせた致死の暴風。
だが、今の彼女は違う。
「拾ノ型」
極度に凝縮され、引き延ばされた時間の中。
冷気による白銀の濁流が押し寄せる中、麗は赫刀を正眼に構え、その黒曜石のような双眸を一瞬動かす。
その時、麗の中ではこれから先の冷気の流れ、氷の微粒子の軌道、童磨の肉片の飛散する方向、そして退避壕の崩落する岩片の数々。
それら全てが、脳内で一つの数式として処理された。
「――
刃が閃く。
それはもはや、剣術という枠組みを超越した神仏の業。
麗の身体から放たれたのは、一切の予備動作を持たずに繰り出される斬撃の嵐。
神速の一振り目が冷気の塊を蒸発させ、二振り目が童磨の胴体を両断し、三振り目が降り注ぐ岩片を粉砕する。
彼女の刀の届く範囲内――その領域内に入った対象全てが最適な順序で縦横無尽に斬り刻まれていく。
右上から左下へ、左下から真横へ、真横から斜め上へ。
斬撃の軌道は円を描き、螺旋を描き、空間そのものを灼熱の『曼荼羅模様』で埋め尽くしていく。
だが、その技の真に恐るべきは剣理の構造。
麗は自らの身体を軸とし、斬撃を放つごとに生じる反作用と遠心力を次の一撃へ、更に次の一撃へと完全に転用した。
一撃目より二撃目、二撃目より十撃目、十撃目より百撃目。
その斬撃の連鎖が続く程に、麗の刀の威力と速度は何倍にも跳ね上がり、その斬撃は視界全てを焼き尽くすほどの閃光へと昇華されていく。
幾千、幾万もの赫き斬線が空間に重なり合う。
童磨の切断面から吹き出そうとしていた致死の冷気は周囲へ拡散する前に、その高密度の斬撃の檻に閉じ込められ、一瞬にして蒸発させられていく。
里を飲み込もうとしていた氷の罠が、童磨の執念が、麗の『火輪曼荼羅』という絶対的な太陽の前に、為す術もなく焼き尽くされていく。
「――――」
その時、童磨が見たものは。
自らの肉体が、自らの生み出した氷像の残骸が、そして自らの誇る最高位の血鬼術の全てが、数万回という不可視の斬撃によって細胞一つ残さず粉微塵にされる光景。
反撃する事すらも許されない。ただ圧倒的な暴力と美しさの前に、自分の全てが塵へと還っていく光景。
そしてその直後。
――ガキンッ!!
退避壕の静寂を取り戻しつつある空間に、不吉で鈍い金属音が鋭く響き渡った。
燃えるように赤く染まり、太陽の如き輝きを放っていた麗の日輪刀。
彼女の手に握られていたその刀身が、自らの振るった限界を超えた威力の連鎖と遠心力に耐えきれず、鍔のすぐ上の根元から真っ二つに折れ飛んだ。
宙を舞い、石の床に突き刺さる熱を帯びた刃。
柄だけを握りしめたまま、静かに息を吐き出す花柳麗。
刀が折れる。それは剣士にとって死を意味するかもしれない致命の事態だ。
だが、その時にはもう全てが終わっていた。
何千、何万という数の斬撃の嵐が通り過ぎた後の空間。
そこには上弦の弐という、絶対的な脅威として君臨していた童磨の姿はどこにもない。
彼の胴体も、四肢も、そして全てを破壊しようとしていた『霧氷・睡蓮菩薩』も、罠として放たれた致死の冷気すらも、麗の絶技によって全てが無に帰した。
床に転がり、後はただ灰となって崩れ去っていくのを待つだけの童磨の頭。
それが、たった一つ残された、彼の存在した痕跡であった。
「……ふぅ」
かつての因縁を断ち切り、里の人々を守り抜いた麗は折れた刀の柄を静かに下ろし、崩れゆく悪鬼の最期を静かに見下ろしていた。
「私たちの勝ちだ、鬼狩り共」
「血鬼術
玉壺の口から歓喜と確信に満ちた宣告が放たれ同時に出現した巨大な氷の菩薩像。
それが、冷気を渦巻かせた巨大な氷の掌を今まさに、無一郎と小芭内の命を押し潰さんと振り下ろされようとした、まさにその時であった。
――ピシッ!
凍り付いた空間に、小さな、しかし不吉な音が響き渡った。
それは振り下ろされる寸前でピタリと静止した、氷像の顔面に走った亀裂の音。
「……?」
玉壺の薄気味悪い笑みが、僅かに硬直する。
しかも、亀裂は一つに留まらなかった。ピキピキッ! と、蜘蛛の巣が広がるかのように、瞬く間に数十メートルに及ぶ巨大な氷像の全身へと連鎖していく。
そしてその直後。
ザザァアアアアッッ……!!
大気を震わせていた氷像は、突如としてその形態を維持する力を失い、まるで陽光を浴びた淡雪のように、あっという間に崩れ落ちた。
頭上から迫っていた致死の掌も、美しい氷の花も、近くにあった『結晶ノ御子』も全てが形を失い、ただの冷たい氷の粉末と化して夜風の中に溶けていく。
後に残されたのは、ただの冷たい夜の静寂だけ。
先程までの、天地を揺るがすような絶望感は文字通り、跡形もなく消え去っていた。
「……は?」
玉壺の口から、間の抜けた声が漏れる。
その異形の顔面には、理解が全く追いついていない完全な空白が浮かんでいた。
だがそれも仕方がない事だろう。自身が確信していた『勝利』が前触れもなく突然手元から滑り落ちたのだ。思考が停止するのは当然である。
そしてそれは、死すらも覚悟していた無一郎と小芭内も同様であった。
「伊黒さん、これは……」
無一郎が舞い散る氷の粉末を瞬きしながら見つめ、呆気にとられた声で隣に問いかけたその直後。
「カァァァッ! カァァァッ!」
突如、闇夜の静寂を切り裂くように、空から鴉の鳴き声が響き渡った。
無一郎と小芭内が咄嗟に空を見上げると、そこには月明かりを背にして羽ばたく一匹の鎹鴉の姿があった。
その鴉は大声で、ある信じがたい戦果を叫び始めた。
「麗! 花柳麗ニヨリ上弦ノ弐撃破!! 撃破ァ!!」
その言葉が意味する事実の重さに、小芭内は両目を大きく見開く。そして柄を握る手に力が籠もった。
「上弦の弐を単独で討ち取ったか……!」
小芭内の全身に驚愕と、そしてそれ以上の強烈な戦慄と高揚が駆け巡る。
だが、隣に立つ無一郎の反応は、小芭内のそれとは全く異なっていた。
驚愕の色は一切ない。彼の透き通るような瞳には、むしろ優しく、誇らしげな光が宿っていた。
その口元には、普段の無感情な彼からは想像もつかないほどの、柔らかで安堵に満ちた笑みが浮かんでいる。
「そっか。ついにだね、師範」
無一郎は、夜空を見上げたままポツリと呟いた。
彼は最初から、麗の勝利を微塵も疑ってなどいなかったのだ。
かつて彼女自身から聞いた、『煌柱』になる前に味わった敗北。あの夜からずっと心に巣食っていたであろう影。それを今、彼女は自らの刃で完全に振り払ったのだ。
無一郎はただ、自身の敬愛する師がようやく雪辱を果たす機会を掴み、そして見事にそれを成し遂げたという事実を心の底から喜んでいた。
「…………」
二人の柱が鴉の報告に耳を傾けてそれぞれの感慨に浸る中、玉壺は全くの無言であった。
ピクリとも動かず、鱗に覆われた腕をだらりと下げたまま、ただ空を見つめている。
風が吹き抜ける。木々の葉が擦れる音も聞こえるが、それでも玉壺は動かない。
沈黙。
それはあまりにも不自然で、長すぎる沈黙。
「おいどうした、現実逃避か?」
「…………………………………………」
小芭内が怪しんで声をかけるが、玉壺は反応しない。
先程までの狂ったような高笑いも、醜悪なまでの自信も、その全てが嘘のように消え失せ、ただの奇妙な置物のように固まっている。
無一郎もまた、刀を構え直しながら不思議そうに小芭内へ目配せをした。
いくら上弦の鬼とはいえ、味方の敗北を聞かされてこれほどまでに思考が停止するものなのだろうか? と。
「………………………………………………………………」
無言の玉壺。
だが、永遠に続くかと思われたその沈黙の果てに、ようやく彼の異形の顔色が変わった。
ピクピクと、額のあたりの筋肉が痙攣を引き起こす。
そして、爆発は唐突に訪れた。
「な。な、ななっ、なななななななななななな何ィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!??????」
鼓膜を破らんばかりの、絶叫。
それは恐怖とも、怒りとも、悲観ともつかない。
ただの純粋な混乱に陥った者の金切り声だ。玉壺は自らの頭を両手で激しく抱え込み、太い尾をバタバタと無様に地面に打ち付けながら、狂ったように身悶えを始めた。
「ば、馬鹿な!? ど、童磨殿!? どどどど童磨殿ォ!!??」
先程の『私たちの勝ちだ』と高らかに宣言した威厳ある姿とは真逆の、あんまりなその態度。
上弦の弐という後ろ盾が消滅した瞬間、玉壺の中にあった余裕の鱗は完全に剥がれ落ちてしまった。
そこにはただ取り乱し、狼狽えるだけの醜い怪物の姿しかない。
そのあまりにも滑稽な姿を前に、無一郎の口から容赦のない言葉がこぼれ落ちる。
「ねぇどうしたの? 急に大声なんか出して、さっきまでの威勢はどこに行っちゃったわけ?」
無一郎は小首を傾げ、まるで路傍の石でも見るかのような冷徹な視線を玉壺へ向ける。
「本当に可哀想な生き物だね、お前は。その汚い壺の中身と同じで、その頭の中も自信も、結局は全部空っぽだったって事だ」
無一郎の容赦のない言葉に続き、小芭内もまた這い寄る蛇のようにネチネチと、そして毒を孕んだ言葉を玉壺へ浴びせかける。
「滑稽だな。他の威を借るしか能のない出来損ないが」
小芭内は変形刀の切っ先を玉壺の喉元へ向け、嘲るように目を細めた。
「今更喚き散らしたところで無駄だ。お前はここで自身の無能さと浅ましさを嘆きながら、頸を斬り落とされるだけの存在に成り下がったんだ。少しはその醜い顔に見合った頭脳を働かせ、自身の無価値さを理解しろ」
二人の柱から容赦なく浴びせられる、侮蔑と嘲笑の言葉の数々。
それに晒された玉壺は、混乱状態から一転し、全身の血管を膨れ上がらせて歯を軋ませた。
あまりの怒りと屈辱に、両目から血の涙が滲み出しそうなほどの形相。
「キィィイイッ!! 黙れ、黙れ黙れ黙れェェエエエエ!!」
まだ童磨の死という事実への驚愕と動揺は完全に抜けきっていない。しかし、それ以上に自らの芸術と存在を根底から否定されたことに対する強烈な怒りが、玉壺の理性を完全に焼き切っていた。
上弦の伍としての尊厳。たとえ後ろ盾を失おうとも、自らの身一つでこの場に立つ柱たちを蹂躙し、無惨への忠誠を示すという歪んだ執念。
狂気と絶望が入り混じった顔を歪めながら、玉壺は這いずるような声で言い放った。
「良いだろう……童磨殿が死んだという悪夢はこの際、隅に置いておいてやろう……! だがな、貴様ら如きがこの私を追い詰めた気になっているのは大間違いだ!!」
極限の劣勢。
味方の喪失。死の予感。
その全てを喰らい尽くすような、醜悪な笑みが玉壺の顔面に張り付く。
「私は理に反するのが大好きだ、故に!」
玉壺の殺気が、夜の森を再び支配する。
「この修羅場すら切り抜けてみせよう」
このあと玉壺は滅茶苦茶斬られた。
改めて技一覧をば。
壱
身体を一周する円を描くような斬撃。
弐
刀を両腕で握り、回転させることで真空を生み出す。
参
小細工のない全力の突進と突き。
肆
斬り上げと共に跳躍し、波状攻撃を空中で行う。
伍
特殊な足運びによる花を象るような斬撃を十発放つ。
陸
特殊な身体の捻りにより刀身が消える(身体を消して回避にも使える)。
漆
鉤爪のような斬撃を雨のように複数打ち込む。
捌
上半身と下半身の激しい『ねじり』により巨大な面の斬撃を放つ。
玖
×字形の二つの斬撃(太陽の赤と月の紫)を放ちながら、前方に突進する技。
拾
兄上、星の呼吸の奥義を生み出すのはそう難しい事ではない。
ただ『透き通る世界』で凪をバージョンアップさせ、そこに生生流転による無限攻撃バフを組み合わせれば良いだけです。