ロスモンティスの胴上げを一生眺め続けたい。
車両は一定のリズムを軋みながら進んでた。
窓の外には荒野が流れていき、
夕陽が赤く地平を染めている。
簡易ベッドに横たわるあの子は、まだ眠ってる。
小さな肩がかすかに上下し、
か細い呼吸の音が静かに響いている。
その様子を、私はずっと見つめていた。
胸の奥でざらつくように、残る感覚――この子と繋がっているという確信。
やっぱり、会ったことがあるのかな?
記録端末にもなにも残ってない。
でも確かな繋がりを感じられる。
さっきまでよりもずっと強くて、
まるで私がもう一人いるみたいだ。
こんな繋がり、
アーミヤよりもドクターよりも、
ロドスのみんなよりもずっと確かなもの。
それにこの子は私のことを知っていた。
また起きたときに聞いてみる?
……でもそれはなんだか嫌だった。
「ロスモンティス」
声をかけられて振り向くと、
ドクターとアーミヤが向かいに座っていた。
二人とも、眠る少女を見つめている。
「彼女の体調に大きな問題はない。
軽度の栄養失調と疲労だ。
じきに目を覚ますだろう」
ドクターが淡々と告げる。
アーミヤが小さく頷きながら、
不安そうに言葉を重ねた。
「彼女はいったい、何者なんでしょうか。
ロスモンティスさんと起こしたという干渉……
前例がない事態です。
なにかしらのアーツの影響なのか、
目覚めてからの対応とはなってしまいますね」
「そうだな。
ただ脅威にもなりかねない。
味方であって欲しいものだが……」
「――この子は味方だよ。間違いないんだ」
思わず強く言い切っていた。
ドクターとアーミヤが同時にこちらを見て、
少しだけ目を見開く。
「ロスモンティス」
ドクターの声は落ち着いていた。
「君がそこまで言うということは、
きっと敵ではないのだろう。
だが私にはロドスの皆を守る責任がある。
彼女が脅威になり得るかどうか判断せざるを得ないんだ」
「ロスモンティスさん、
私としても彼女を放っておくことは出来ません。
鉱石病への適切な処置は急務となります」
「うん。放っておけないよ。
あんな嫌な場所に一人ぼっちにさせたくない」
「……今から彼女が向かう先はロドスの医務室だ。
決して一人ぼっちにはならないさ」
ドクターの言葉に私は小さく頷いた。
なんだかとっても不思議な感覚。
会って間もないはずなのに、放っておけない。
……やっぱり昔、
この子と会ったことがあるのかな?
でも、すれ違ったとか近くに住んでいたとか、
そういう繋がりの強さでもない。
「ドクター、
私がロドスに来る前のことって知ってる?」
「……ああ。記録で閲覧した程度なら知っているよ」
「私は昔、この子と一緒に暮らしてたのかな?
不思議なんだ。私は会ったことないはずなの。
記録にもないし、誰も知らないから。
でも、
ロドスのみんなよりずっと確かな繋がりを感じるんだ」
「絶対に無いとは言えない。
ただ限りなく可能性は低いだろう。
少なからず君の過去を知っている身としては、
そう判断を下すしかない」
「そっか。それじゃあ本当になんなんだろうね」
「ロスモンティスさんにとって、
それはどういった感覚なんですか?」
アーミヤが優しく問いかけてくる。
ただ揺れるその瞳の奥、
少しの戸惑いと覚悟が交差していた。
これは無くなってほしくないものだから、
ちゃんと大事だって、言葉にして伝えなくちゃ。
「あったかいんだ。
とっても確かであったかい。
この子と繋がった時、深くて、鋭くて、冷たい、
そんな嫌な感覚も一緒に来たんだけど、
もう気にならなくなっちゃった。
そんな感覚より、
温かい鎖が私を優しく包み込んでくれるんだ。
放っておけないよ。
この子と視線を交わした時から、
胸の奥でざらつくものが、脈打つみたいに強く訴えてくる。
とっても不思議で……初めての感覚だったの」
「だからロスモンティスさんは、
彼女のことを放ってはおけないんですね」
「うん。
アーミヤにもドクターにも、
この子を一緒に守って欲しいんだ」
少しだけ目を細め、
アーミヤとドクターは目を合わせ頷き合う。
ドクターが短く息を吐いた。
「ロスモンティス。
初めての感覚だからこそ、
君自身も慎重に確かめるんだ。
温かさだけで動いてしまえば、
君が傷つくことになりかねない。
私もアーミヤも、誰もそれは望まない」
「……うん。そうだね」
一瞬だけ視線を落とす。でもすぐに顔を上げて。
「でも、それでも大事にしたいの。
間違いじゃないって、胸の奥で訴えてるんだ」
アーミヤが小さく笑った。
「わかりました。
じゃあ、私たちも一緒に確かめましょう。
ロスモンティスさんが感じていることを。ねっ、ドクター?」
少女の静かな寝息が、
車両の軋みの音に混じって響いていた。
(=^・・^=)ニャー
車両の揺れが、
床下から小さく伝わってくる。
鉄のきしみと、遠い風の音。
座席の布に沈む匂いは、
砂と陽のあたたかさが混じっているだけだ。
私はベッドのそばに腰を寄せ、
眠るあの子の手に、自分の手をそっと重ねた。
指は細くて、少し冷たい。
けれど掌のいちばん奥で、
弱い鼓動がちゃんと生きていた。
「……ロスモンティス」
反対側で見守るドクターの声は、
わずかに低く落ちる。
アーミヤは静かに頷いて、
毛布の端を直してくれる。
私は何も言わず、
ただ手を包んだまま、呼吸を合わせる。
私が息を吸えば、彼女の胸もふわりと持ち上がる。
吐けば、同じように沈む。
そのたびに胸の奥のざらつきが――少しずつ、丸く、あたたかくなっていく。
同時に、ふっと冷たい影がかすめる。
今感じている温度も、明日には……と思ってしまう怖さが、ふっと胸をかすめた。
だから私は指を、
ほんの少しだけ強く重ねた。
……そこにいるね。
繋がってる。確かだよ。
車輪が大きめの段差を越えた。
その瞬間、
指先にほんの小さな抵抗が走る。
私の手を、
向こうから押し返すみたいにかすかな力。
私は肩をすくめず、そのまま待つ。
急がない。
脅かさない。
掌の熱だけを、少し深く、静かに渡していく。
沈黙が、車両の中を満たした。
エンジンの振動が骨に、
窓越しの夕陽が瞼にゆっくり染み込んでくる。
どこかでネジが鳴って、
すぐにまた静かになった。
もう一度、指が動く。
今度は、ぎゅっと。
私の人差し指を探すみたいに、
細い指が絡んでくる。
喉の奥で、
小さな呼吸が引っかかった音がした。
私は、息を止める。
ドクターも、アーミヤも、何も言わない。
車両全体が、
ひとつの心臓みたいに、静かに待っている。
長い、間。
ほんの数秒のはずなのに、
夕陽が少しだけ赤を深めた気がした。
まつ毛がふるえ、
瞼が重たそうに持ち上がる。
乾いた光が、
その瞳にゆっくり差し込んで――黒。
あの時見た、あの黒の確かさが、まっすぐに私へと届いた。
唇が、かすかに動いた。
最初は声にならない。
もう一度、息を集めて、
今度はほんのささやきで。
「……お姉ちゃん?」
胸の奥で、なにかがほどける音がした。
あの冷たい部屋の匂いも、
刺すような痛みも、ぜんぶ溶けていく。
代わりに残ったのは、
私とこの子をつなぐ、あたたかい鎖だけ。
「うん。ここにいるよ」
私も声を落として答える。
手を離さないで、
指をもう一度、ゆっくり絡め直す。
彼女は瞬きをひとつ、ふたつ。
探るように顔を僅かに動かし、
やがて私を真っすぐ見据える。
それから、あの時見せてくれたのと同じ、
ふわりとした笑顔を浮かべた。
喉が乾いているみたいで、言葉は続かない。
でも、その笑顔だけで十分だった。
「意識は戻ったのか。
ロスモンティス、そのまま支えていてくれ」
ドクターの声が、そっと現実に線を引く。
アーミヤが水筒の蓋を開け、
布に少しだけ含ませて差し出す。
私は目で礼を言って受け取り、
彼女の唇を濡らしてあげる。
「……だいじょうぶ?」
問いかけると、
黒い瞳がまた私を見上げ、こくりと小さく頷いた。
その動きに合わせて、
指先の力が少しだけ強くなる。
離さないで、という合図みたいに。
「帰ったら、ちゃんと診てもらおうね」
彼女はもう一度、小さく頷く。
肩から肘にかけての鉱石は、
放っておいて良いものじゃないから。
しっかりとした治療を受けて欲しいかな。
「……お姉ちゃんも一緒に、来てくれる、の?」
「うん。もちろん、一緒だよ」
「それなら、安心だなぁ……」
短く途切れ途切れの言葉。
でもその一つ一つから、
ブレイズが前で戦ってくれてる時のような、
絶対的に任せられる仲間に守られているかのような安心感が届いてくる。
小さな吐息が、私の掌にあたたかく触れた。
「お姉ちゃん」
「どうしたの?」
そのか細い指で、私の指を握り直してくれる。
「お名前、教えてくれる?」
「ロスモンティス。私の名前」
私の名前を聞いた瞬間、彼女の目が見開かれる。
小さな声で、
3回ほど私の名前を繰り返したかと思えば、
空いた手で、その名前を大事に握りしめるみたいに、丸めて胸へと押し当てもした。
明らかに私のことを知っているような反応だった。
空っぽの大地で小さな花を見つけた、そんな喜びようだ。
私も自分のことのように、
嬉しくなってくる。
名前は、忘却の外側に結び目をつくる。
そこへ戻ってこられるから。
「覚えたから。忘れないから、安心してね」
「ありがとう。えっと……」
「私はね、エリサラ。
ロスモンティスお姉ちゃんには、名前で呼んで欲しいな」
「うん、よろしくね。エリサラ。私も覚えたから」
力強くエリサラは頷いた。
エリサラ、エリサラ……
やっぱり初めて聞く名前だった。
その響きにも、声の雰囲気にも覚えはない。
私は一体なにを忘れているのだろうか……
いや、今考えることじゃない。
気がつけば、
聞こえてくるのは小さく規則的な吐息。
エリサラは目を閉じて、再び眠りに落ちている。
その呼吸に合わせて、
私も二拍だけ深く息をする。
重なった息にも、繋がりがある。
夕陽が、窓の縁まで来ていた。
車両の揺れは相変わらずだけど、もう不安には響かない。
エリサラの手と私の手とが、
揺れに合わせて、やさしく鈴みたいに鳴っている。
「ドクター」
私は顔だけ向ける。
「うん、見ていたよ。問題ない。ゆっくりでいい」
その声は、陽だまりの匂いがした。
私は再び、彼女に視線を戻す。
空いている手で、
彼女の少しくすんだ黒くて長い髪を撫でる。
少しでも、エリサラが安心できますように。
そんな、か細い祈りを込めながら。
この時間を、私の中から零れ落とさないように。
心にも、記録端末にも、残しておくんだ。
その名前も、温かさも、確かな感覚も。
指先を、もうひとつ分だけ強く握る。
返ってきた温度は、たしかに、ここにあった。
ロスモンティス
絶賛、成長期。
エリサラ
合法的にロスモンティスをお姉ちゃん呼びしても許されるぐらいの見た目。
アーミヤ
ロスモンティスを支える精神的な大黒柱。
ドクターの膝
アーミヤが物欲しげな顔で眺めている。
ロスモンティスはかわいい?
-
かわいい
-
かわいくない
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俺の嫁
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夢に良く出てくる
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幸せの象徴
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ただの兵器