人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜   作:札切 龍哦

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ロリータ・エア

クラス プリテンダー

ある『やり残し』から至尊の姫の皮を被った魔神王、或いは人王。

真名をゲーティア。

愛称はロア。

エアのために、そして自らの愚行にて生まれた者への贖いのために、七十二柱全員が立ち上がった。


憐憫と悔恨

【─────】

 

かつて時間神殿、星空の極点にて討ち果たされた獣、ビーストⅠ・ゲーティア。

 

生命の断絶を嘆き、憐憫の理を以て世界を焼却したもの。

 

その偉業は破却、否定され。至尊の理と、少女の意思により…人王、魔神王共に敗北を認めたもの。

 

レメゲトン。自らを束ねる小さな鍵としての魂に『御礼』を告げられ、それを以て自身らは表舞台から退場したもの。

 

だが、今こうして彼等は再結集の決議を果たし、七十二柱全員が今活動を再開している。

 

その姿は、レメゲトンと呼んだ者…の、幼少の姿。

 

色彩は落ち、紅い瞳のみが色を放つ。

 

ロリータ・エア。略してロア。

 

名乗るつもりも、何者であるつもりもなかったが、定義上呼び名が必要だと付けた名前。

 

彼女…否、彼等がこうして再起動したのには、理由がある。

 

彼等曰く『やり残し』。『まだやれる事がある』

 

否。『やらなくてはならない事がある』。それは、二つ程のタスク。

 

彼等は自身らが敗者である事を受け入れている。今更、世界をどうこうするつもりはない。

 

一つはレメゲトン、エアの使い魔としての役割。

 

そして、世界を尊ぶ彼女が『見れない』ものを観て、彼女に届ける事。

 

レメゲトン…エアへの奉仕に献身。

 

そして、もう一つ。

 

彼には、彼らには、なすべき事があった。

 

 

【これが金脈、埋蔵金、敵対者の弱点に未来に起こる事態だ。精々活用してみせろ】

 

そこは夏草。ロアは、リストを纏めとある人物に手渡していた。

 

「ありがとう、人王。必ずや、この国の未来の為に活用すると誓うよ」

 

それを受け取ったのは…夏草にて総裁選に向け準備を続ける『内海 羅王』。彼に、ロアは地位を盤石にする知恵を授けていた。

 

ゲーティア、即ちソロモンの魔神たち。

 

ソロモンでなき身にて、かの王の魔術は使えない。だが彼等には七十二柱、一柱一柱に使役できる魔術や権能がある。

 

それさえあれば、たかだか人間一人を国のトップにするなど容易い。

 

【そうしろ。ヤツの故郷…より良く変える努力を惜しむな】

 

ロアは、活動の地を夏草へと定めていた。

 

そこは【藤丸龍華】の故郷にて生誕の地。

 

そこを主軸にして、七十二柱は『日本の守護』の為に活動していた。

 

燃えたぎる郷土愛と人類愛を持つ内海の政界進出を助け。

 

アンドロマリウスを通じて悪性を廃棄し。

 

七十二柱の総出で、日本を穢し脅かす外来者…不法滞在者や国に紛れ込むスパイを人知れず始末し。

 

龍華の故郷の、清浄と浄化に勤しんでいたのだ。

 

【では、約束通り管理権限を行使する】

 

「勿論だ。君になら託せるよ。魔術王の頼もしき魔神たちよ」

 

【…褒め言葉として受け止めるか、判断に困るな、それは】

 

彼は内海に許可を貰い、管理を申し出た。

 

自身らが生み落とした、あり得ざる獣。

 

その──救いの運命となった者の住処を。

 

 

【……………】

 

白き、潔白の家。人知れず、しかし前任者が何度も手を入れた家へと足を踏み入れる。

 

そう、そこはグドーシの家。現代に降臨した覚者…そのホムンクルスが生きていた家。

 

ビーストα…アジ・ダハーカが、善性を知った家。

 

人理救済の、始まりの場所。ロアは静かに、手入れを始める。

 

【…………】

 

彼のもう一つの、成すべき事。

 

決して誰にも口外しないその使命。

 

それは『藤丸龍華への贖罪』であった。

 

【────】

 

無言で拭き掃除、掃き掃除、雑巾がけといった地道な清掃を続けるロア。

 

……彼等は、人理焼却を悪とは思っていない。

 

哀しみを、終わりある生命を打破しようと挑んだ偉業。それにより燃料にした者らへの哀悼など持ちようはずがない。

 

だが───藤丸龍華への仕打ちは、わけが違う。

 

【『んしょ、んしょ…』】

 

清掃中は声帯をエアのものにする徹底な羽織りぶりを見せ、清掃を続ける。

 

藤丸龍華は、カルデアに至るマスターだと千里眼で見抜いたゲーティアは、彼女を埋伏の毒に仕立てた。

 

計画に盤石を期すため、魔術師どもを食い破る毒に。

 

そのため、この世すべての悪を生み出した儀式を、ソロモンの神業の領域で再現し彼女を放り込んだ。

 

【『よいしょ』】

 

名前を剥ぎ取り、存在を剥ぎ取り、【誰もが貶めていい誰か】と、存在を貶めた。

 

現代社会のあらゆる悪意が、彼女に注がれた。

 

節穴ぶりも発揮し、彼女が偽神が寄越した【神の供物】である事を見抜けずに。

 

始まりの娘は失墜し、人を知らないながら人を愛する【未知】の獣…あり得ざる獣達の始祖となった。

 

ビースト達の、自身の土台すら脅かす最悪な獣。

 

それらを、自身らは手掛けてしまった。

 

そして、あろうことか破棄しようとまでした。

 

全て、人理焼却の偉業では片付けられぬ行いであり。

 

その報いとして、自身らは討たれた。

 

未知の獣に。魔神王として敗れたのだ。

 

【『ふぅ…』】

 

自身らの、悪への不理解。悪への無知。

 

その為に、一人の人間を地獄へ落とした。

 

結果的に、彼女は悪を宿し戦うマスターとなったわけだが…それで、自身らの所業が消されるわけではない。

 

故に、自身らの『償い』のもう一つのタスク。

 

エアのために世界を見る他に、もう一つ。

 

『彼女の帰るべき土地と、家を護る』。それが、魔神たちの成すべきタスクだと決議したのだ。

 

【…………】

 

生活の気配がない、静まり返った部屋を見返す。

 

ここにいた、一人のホムンクルス。

 

粗悪に作られ、醜悪と捨てられた生命。

 

グドーシと名乗りし、龍の救いとなった者。

 

彼との交流が、彼女を獣でありながら人の心持たせし者と踏みとどまらせた。

 

自身が預かり知らぬところで、絶望と希望は満ちていた。

 

それが巡って、やがて世界全てを…宇宙全てを巻き込んだ決戦へと彼女を導いた。

 

その奇跡は、かつてかの王が示した奇跡に遜色ないものであると。魔神達は決議していた。

 

そして、獣にも人にも、帰るべき場所は必要だ。

 

それ故、彼はカルデアでなく夏草を拠点に世界を、日本を守護する事を選んだのだ。

 

静かに、ソファに座る。

 

獣の孵化すら留めた、無償の愛。無償の献身。

 

魔神達は、思う。

 

覚者の大悟。覚者の知見、覚者の体験。

 

それは、獣を人にするほどのもの。

 

獣に、愛を教えるもの。

 

それが、今まさにここにて生まれていたのだ。

 

【────………】

 

人類に詫びることなど無い。ただ一人を除いて、誰にも我等が真意を理解してもらう必要などない。

 

だが、あの神殿にて。彼女が叫んだ言葉。

 

 

お前が無価値と焼き捨てた今日は!!

 

グドーシが、死ぬ程生きたかった明日なんだ────!!!

 

 

【獣に、愛を齎す真理…か】

 

それに、魔神達は興味を持つ。

 

この地にて、語り合った事。

 

この地にて、話し合った事。

 

彼と彼女は、一体何を語ったのだろうか。

 

彼と彼女は、一体何を観ていたのだろうか。

 

それを、自身も知れば…過たなかったのだろうか。

 

かの王は、哀しみや不幸を観て嗤っている愚王ではなかった。

 

そもそも、考える自由を失っていた。

 

非人間であれと、神に強いられた人形であった。

 

我々は、間違えていた。

 

かの王の真意を知らず、獣に墜ちた。

 

十の指輪は、今かの王の下に。

 

もう、ソロモンを騙ることも無い。

 

故にこそ、過ちがあるとすれば。

 

【……愛なき獣が、真に偉業を果たせる理由もなく】

 

魔術式が知らぬもの。

 

藤丸龍華が知ったもの。

 

それを、此度の決意にて。

 

それを、此度の贖罪にて。

 

少しでも、知り得ることができたなら──。

 

【……続けると、しようか】

 

都合のいいユメだと、彼は笑い。

 

再び、贖罪の道へと戻る。

 

これが、魔神達のもう一つの成すべき事。

 

戦いを終え、平和という鞘に収まり、再び戻るであろう場所を護る。

 

故に、再会とは凶兆なのだ。

 

この、徹頭徹尾の静かな…穏やかな時間が終わること。

 

戦火が再び、獣を呼ぶことに他ならない。

 

それは──

 

憐憫の獣たちが、魔術式すら捨て。

 

物言わぬ魔術に、戻る事なのだから。

 

 




ロア【ひとつだけ…】

そう。一つだけ、告げることがあるとするならば。

ロア【──きっと、私という獣に…その救いは、遠すぎるのだろうね】

彼の償いは誰も知らない。

誰にも、知られることはない。

彼女が帰宅した際、綺麗な家に驚くだけ。

残り香すらない。

だが、それでいい。

それこそが、贖罪というものだと彼等は納得し…

静かに、また家を出るのであった。
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