人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
ランクEX 種別 対人宝具
アルス・アルマデル・サロモニス。
第三宝具。人類終了のお知らせビーム。
護身用として振るう、人類史全てを熱量に変えた極太レーザー…の、ハリボテ。
見た目は再現しているが、かつての火力には及ばない。
ロリータ・エアの渾身の魔神スマイルは必見。トラウマ必至。
(感想返信は今から行います!)
掃除を終え、夏草の公園…静かな朝の、ベンチに座る。
【───……】
夏草。アンドロマリウスが贖罪の地に選んだ、藤丸龍華の故郷。
ここは結論から言えば、『悲劇がない』。『苦しみが少ない』といった評価だ。
アンドロマリウスの廃棄口の術式が、悪性を捉え破棄している。それ故、人の悪性の発露が極めて抑制されているが故だ。
【…………(もぐ)】
腰を下ろし、パンケーキを食べる。グラシャラボラスの考案した『少女が喜ぶおやつ』に、ハーゲンティが自ら立候補した完全栄養食。
『パンケーキと少女の二つは鉄板』という提言を、ロアは真面目に受け止めていたのだ。当然ながら食べている間は声帯エア化である。
──魔神に招集をかけたのは、アンドロマリウスとフラウロスであった。
ロマニに歪みながらも友情を感じたフラウロス。
何よりも、龍華への仕打ちを嘆き省みたアンドロマリウス。
それらにゼパル、バアル、フェニクス、ラウムが声を上げ、あれよあれよと魔神達は再結集。
全てはレメゲトン、並びに我等の愚行にて辱めた娘のために。そうして今、レメゲトンの皮を被っている。
【─────…………】
景色を、見上げる。夏草の町並みと、空と緑の美しい風景。
身体の部分は、レメゲトンの名を触媒に彼女の主観と感覚を主軸にしている。金色の瞳が、紅い眼なのはその理由だ。
散々と、節穴の愚かな選択をしてきた。それ故、『視点』『主観』のみを、レメゲトンと同期したのだ。
【…………………】
結論から言えば……、
レメゲトンの見ていた景色は、例え用もなく美しかった。
【あなたの目には、世界がこう見えていたのか】
空はどこまでも青く、流れる雲は自由気ままに。
草木は青く、大地は揺るがず。
人々は笑い、日々の幸せを謳歌し噛み締める。
これが、世界に満ちる魔神たちの『見えなかったもの』
輝かしい、愛と希望の物語たち。
【───────……】
目を閉じる。
全てが燃えている。人も、空も、大地も、営みも、何もかも。
自らが焼き払った景色。悲劇を超克するために行った業。
物事を片方から見据えただけの末の愚行が、レメゲトンの視界を切ればいつでもそこにある。
【………………】
後悔するつもりはない。した事を取り消すつもりもない。
ただ、【己のみの主観を絶対とした】事だけは、愚行であった。
ソロモン王の、言葉なき嘆きも。
レメゲトンの、言葉なき労りも。
知らぬがゆえ、知ろうとせぬが故に。間違いばかりを犯してきた。
【……………】
目を開く。我等はもう、節穴ではいられない。
正しき目で、正しき思いで、やり残しを清算しなくてはならない。
そう──レメゲトンからの『預かりもの』を、いつか返さなくてはならないのだ。
【冠位霊基…我らに捧げられたそれを、返さなくてはならぬ】
かつて、時間神殿において捧げられた、彼女の全能。
冠位。全ての英霊における頂点の座。
カルデアにおいて認定されるソレとは、何もかも格が違うもの。
賢王の天命の粘土板。作家サーヴァントの宝具、根源接続者の協力。
魔神達が、プリテンダーとして破綻することなく共に在れるのはこの冠位霊基に由来する。
彼女が、自身らに託した…我らの偉業の報酬として、託されたもの。
これを──レメゲトンに、返さなくてはならない。
それこそが、七十二柱全員の意志。
彼女に果たすべき、返礼。
【ただの冠位では、最早不足だ。カルデアは、王の本懐すらも越える力を有するだろう】
グランドアーチャー、ギルガメッシュすらもカルデアは越えていく。
ただのグランドでは、彼女とその愉快な王には不足なのだ。
全世界、全時空、全次元を背負う王ならば。
この冠は、再び彼女に返さなくてはならない。
【フ───】
当然ながら、それを意味するところを魔神達は理解する。
この霊基を返す為だけに身に着けた、ロリータ・エアの宝具。プリテンダーの自身らが繰り出せる宝具。
それが意味するところ、それは『魔神達の昇華』。
冠位霊基を返却し、魔神達は受肉した身体を捨て、本来の高度でスマートな『術式』に戻る。
即ち、ゲーティアとしての『終わり』。獣としての【死】。
レメゲトンの使い魔として、彼女の魔術として永遠に修まる事を意味する。
ビーストⅠ・ゲーティアは完全に消滅する。
レメゲトン…冠位たる彼女の魔術になるのだ。
それを、魔神たちは皮肉と捉える。
あれほど忌避した終わり。
あれほど嫌悪した断絶に。
自分たちは、身を投じようと言うのだ。
あれほど死を、終わりを疎んじた我等が。
それらを乗り越えんとした我等が。
それらに、殉じようと言うのだ。
【ははははは───!】
笑わずにいられない。全く以て痛快だ。
これ程、様変わりをするものか。
これ程、心がわりをするものか。
人は、これ程までに自己改革を果たせるものか!
魔神王…否、人王は笑う。
【全く、人間という奴は…】
呆れるほどに現金だ。呆れるほどに短絡的だ。
だが──それを否定は、出来なかった。
【あぁ…】
何故なら、我らは。
【嬉しかったのだから…そうとも、仕方があるまい】
我等の真意。我等の偉業。
人を全て焼き払った業。
世界の全てに憎まれる偉業。
それに彼女は、礼を告げたのだ。
【我々に…感謝の気持ちを、教えてくれたのだから】
それに、アンドロマリウスもそうだ。
赦してくれ、赦してくれと嘆き続けた彼を、夏草の民達は赦した。
焼き払った獣たる自身を、赦した。
感動と、感謝の想いを教えられた。
愛知らぬ獣である自身らに、それらを。
いまだ未熟であり、いまだ愚かであり、世界には悲劇が満ちている。
だが、決してそれだけではないと。今の魔神達は理解している。
そう、それだけではない。
目の前に広がる、彼女達が護った世界。
自身らから取り返した未来が広がる光景にて、彼等は思う。
【なんともまぁ、厄介な者達を相手取ってしまったものだよ】
敵に回すにはあまりにも鮮烈すぎて。
焼き払うにはあまりにも大切すぎた。
それを、自身らは徹底的に教えられた。
だからこそ、今の自身たちに選べる選択肢。
自身らの贖罪の最後が、魔神という自身らの消滅だとしても。
だがそれは、死と断絶ではない。
【──至尊を謳う】
縁は出会い、紡がれ。
歴史を織り上げ、死を越える。
ならば、自身らの決断すらも歴史として織り上げ、死を越えるのだろう。
そう。自身らの選択に待つものは死であり、断絶ではない。
自身らの思いを、決議を、決断を。必ずや彼女は次に紡いでくれるだろう。
人生とはそういうもの。
人の生とは、そういうもの。
【死と断絶を越え、愛と希望を抱き…】
──尊き生命を、謳う旅なり。
その言葉を胸に刻み、思い浮かべる。
神殿を覆った、七色の風。
その中心で、慈愛の笑みを浮かべる彼女を。
【……答えは得たぞ、レメゲトン】
ならば、自身らも向かわなければなるまい。
かつて病的に恐れた終わりへ。
かつて乗り越えようとした終わりへ。
そこに待つのは断崖ではない。
バトンを受け取ろうと、手を差し出している貴方がいる。
我等を忘れぬ、貴方がいてくれる。
【ならば、其処に向かって…】
貴方が渡したものと、貴方が知らないものと、貴方が知るために必要なものを。
全て抱えて、貴方に会いに行こう。
全力で、荒野を駆け抜けよう。
花畑が似合う貴方に向けて。
胸を張って、再び再会できるように。
【──オレたちも、これからも頑張っていかなくてはな】
やがて、偽りの幼姫は立ち上がる。
日本は拠点だが、その活動は世界へと。
尊重の理において【見なくてはならない】悲劇と嘆きを、少しでも減らすために。
そして、沢山の『美しいもの』を、貴方に届けるために。
これからも、ずっとずっと。
貴方の姿で、貴方の人生の彩りとして。
ずっとずっと、頑張っていくから。
あぁ、だから──
【──その生誕に、祝福を】
そして。
【──我等を尊んでくれて、ありがとう──】
羽織らぬ言葉。
人王の言葉。
それらは──
夏草の爽やかな風に運ばれ。
蒼き空に、溶けていった。
『殉教の時きたれり、基は至尊を言祝ぐもの』
ランク EX 種別 対人宝具
アルス・エア。
ソロモン王の第一宝具を、彼等の意志で再現したもの。
彼等の偉業、彼等の理想、彼等の誕生の真意を手放す贖罪の果て。
この宝具を発動すると、ロリータ・エアを構成する魔神達は受肉と術式を昇華し、『レメゲトン』という名に紐付けられし術式へと還る。
効果はゲーティアの死、消滅。
並びに冠位の返還、対照者へ『ソロモン七十二の魔神』魔術の譲渡。
彼等という個体の、永遠の断絶である。
しかし、彼等はこの宝具を誇りとして掲げる。
何故なら、死と断絶は結末ではない。
必ずや、続く誰かが自身らの事を受け継いで、託されて、走り出してくれる。
我等を、愛と希望の物語の力としてくれる。
そう信じているからこそ、彼等はこの決議を宝具として有する。
憐憫の獣は、知ったのだ。
至尊を通じて、愛と希望の物語を。
アルス・ノヴァと違い、EXランクの理由。
それは、『あらゆる時空における憐憫の獣が、本来決して辿り着けない答え』故である。