人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(だが奴は黒幕に対する穴を開けたか。あの天使共でなく、本来の糸を引く者を覗いたわけだ)
【元だが邪神。領域外を覗き見るのは得意技だ。さぁ見せてもらおう、我々のバカンスを台無しにする【黒幕】を】
【───誰だか知らんが邪神憎しになりふり構わぬなど…『ノーデンス』のやり口を履き違えた輩に、何としても落とし前を付けてやらねばな…!】
「あぁ……堪能した…。堪能したぞ。これが生きる生命、生きる営み、数多無数の生命の織り成し。私が…いや。力あるものが守り抜くべき星の文様なのだな…」
クトゥーラ、そしてナイアはモンモンブースの皆の触れ合いにより、地球に在る文化と生命の多様性、素晴らしさに感銘を受けた様子でグッズに囲まれながら嘆息を漏らしていた。
それは、盤面や教科書にある記録や記憶ではない生の暖かさ。ポケモンやデジモン、クリーチャーやモンスターによる多様性や違いを肌で感じた事による、高貴なるものの責務の芽生えであった。
「はい。私も…かつてノーデンス様が仰有っていた言葉の意味の一端を理解できたような気がします」
「!ナイア、そなたもノーデンスを知っているのだな!?」
クトゥーラは偶然にも、ナイアが口にしたその者に興味を示す。ノーデンスとは、邪神の旧神たるもの。
「はい。彼は苛烈で、邪神の存在を毛嫌いし憎む方でありましたが…。それでも、人々を愛する神でありました。畏れながら、私にもその愛を示してくださったのです」
それは、ナイアがクトゥグアの神格討滅をする折に現れていた。生ける炎、クトゥグアの討伐をもって狩人の名を轟かさんとしていたナイアの前に、ノーデンスは現れた。
〜
『えっ!?お嬢ちゃま一人でクトゥグアを!?いやー、ちょっぴりそりゃあ無茶なんでない?ニャルとかいう腐れ野郎にはもったない君が焼け死ぬなんて忍びないよ〜?や、万が一の話ね?』
『ん〜、しゃーないなー!じゃあこれ、ノーデンス耐火Creamあげる!これね、クトゥグアを仕留めようとワシが作った秘蔵品ね!売ってないから!』
『死んじゃアカンよ、ニャル野郎の娘さん。もしかしたら、もしかしたらお前さんがあの邪神の希望に…エルダーサインになるかもなんじゃからね!』
〜
「そのゆかいさと親しみやすさは、お父さんを憎みながら私を憎まないと言った公正さからのものでした。右も左も分からない頃、ノーデンス様に幾度も導いてくださったこともあり…父も、その事を咎めはしませんでした」
ナイアはノーデンスの評を語る。そしてクトゥーラもうむうむとそれに同意する。
「出会ったのはかなり前ではあるのだがな。我が父上と何度も何度も戦いを繰り返していたのだ。我等は支配者として宇宙進出を狙っていたからな」
〜
『支配者を騙る前に!父親として立派な背中を子に見せんかいボケェ!!』
『そこなる娘!こんな父親に憧れるのはやめなさい悪いことは言わないから!まずはお友達!お友達を作ることから!』
『小さな幸福を知らない者に、大きな偉業は成し遂げられない!これノーデンスの豆知識ね!いや真理でもあるんだけど!忘れないでね!』
〜
「敵対者の痴れ言だと、一顧だにしない言葉であったが。事実今の今まで忘れられず…そしてこうして事実となった。あの方はやはり、邪神と向き合い戦ってきただけの事はあったんだな」
「シゲル・チバとか、ビン・シマダとか。行く先々でファンキーなおじいちゃんとしてこっそり助けてもらったと、アンゴル姉妹方も仰有っていました。根本的に世話焼きのおじいちゃんであったのでしょう。ハス爺様のような軽やかさのない、頑固お爺のような」
違いない!クトゥーラは共に語り合い、笑い合う。
「邪神に対しては徹底的に嫌い…、いや、敵のスタンスを貫いていたが。今の我々の姿を見た時、彼は何というのだろうか?」
クトゥーラは思う。今、人と邪神が共にあり世界を救う為の戦いに身を投じている事実を。
「『ワシは絶対に邪神とは相容れぬ。そうでなければ、理の外に潜み蠢く奴等を誰も捉えられぬからだ』」
「『だが、奴等が築き紡いだ絆や宝まで否定はせんよ。そういう暖かい奇跡を踏みにじる奴等ゆえ、油断はできんが…』」
「『そういう事くらい、ビッグバンも起きる宇宙ではあり得るじゃろ!』…うむ、やはりそちらもそう言っていたのだな」
「はい。仮にも神格に、こういった評価は不敬なのではと思うのですが…」
ナイアは言う。
「とても人間味があり、それでいて正義というものを信じ…宇宙における奇跡を信じているお方。私は、そう思うのです」
「そうだな。そうでなくば無数に蠢き犇めく我等相手に、年老いながら戦い宇宙を守護する役目を殉じれようか」
クトゥーラは空を見上げる。
「本来ならば…、あの御仁こそ、このカルデアに招かれるべきであろうに」
「はい。『腰がなー!あー腰がなー!お前さんらの邪悪な神々のせいで腰がなー!誰か気立てのよい娘が気を利かせてくれんかなー!』と日々仰有っていましたから」
「我が父クトゥルフは『いずれ殺す相手だ、毒でも盛ってやれ』と言っていたが…そちらはどうだ?」
「【アイツは最悪お前だけは保護してくれるだろうから、親戚のジジイ面しているうちは恩を売っておけ。お前だけは悪いようにはしない筈だから】と、お父さんは言っていましたよ」
「ははは!やはりか!お前の父はやはり、お前が何より大切なのだな!」
「ふふ…。クトゥーラもきっと、クトゥルフさんとこうなれますよ」
「そ、そうだろうか?」
「はい!だってあなたは愛されていますもの。前にも言ったかも知れませんが…お母様からいただいたそのお姿に、何一つ冒涜的な施術をされておりません」
ナイアとニャルは『そう』でないからこそ、その素晴らしさを彼女は理解する。
「それは亡きご夫妻の忘れ形見である貴方様を、何よりそのありのままを。お父様が尊んだのだと私は思うのです。それを、『愛』と呼ぶのではありませんか?」
「───。あぁ、そうか。…そうか…」
そうか、とクトゥーラは深く息を吐く。
「支配者たれ。支配する側であれと私は言われてきた。苛烈であり、妥協のない教育だった。それは当然の責務であり義務だと私は疑わなかった。愛など挟まる余地はないと」
「クトゥーラ…」
「そうか。父には愛があったのだ。改めて…父は妻を愛していたし、父は妻が遺した私を愛してくれていたから、私をこのまま…神から見れば弱い人のままにしていたのか…」
父のように、人を捨てた神となれば強くは在れただろう。二つの武器しか握れぬ人の身をもどかしく思った事もある。
それは試練だと思っていた。弱き人の身を知り、支配者の暁に捨てる枷だと。
しかしそれは…自らの子を産んだ母に、妻に捧ぐ物言わぬ愛であった。
あやつが遺した宝に、自らの手など加えはしない。
弱くとも、未熟でも、それでもよいと。
邪神の胤を妊しながら、それでも銀髪の美しい娘という形で神の娘となったクトゥーラ。
その奇跡を何よりも尊んでいたのは、彼だったと。
「…ノーデンスは、それを知っていたのかもしれんな。我等を排さず、それとなく助言を遺してくれたのは」
「はい。あの賢明なる邪神のライバルである好々爺なら、きっと」
彼女や娘達にしか見せなかった、神たるノーデンスの顔。
「いつかカルデアに来たる日があれば、存分に礼を言わなくばなるまいな」
「はい!私達の御家族を、胸を張って紹介いたしましょう!」
「うむ!ハスターお祖父様がいる以上、親戚の頑固親父しか枠は沸いておらぬがな!」
ナイア、クトゥーラは共に語り合う。
かつて小さき頃、或いは未熟な頃。決して相容れることはなくとも気に掛け、さりげなく導いてくれたり助けてくれたりもした…
親戚の厳しくも優しい頑固親父のような、邪神の敵にして人を愛する偉大なる神の…
かつての、遠い記憶に。
ニャル【────────…いや】
【……誰だよ、こいつ…?】