人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
ハルモニア『『『─────』』』
ニャル【クトゥーラ、良いのか?】
クトゥーラ「何がだ!」
ニャル【私はお前の父を…】
BB【ちょ、それ今言う事です…!?】
クトゥーラ「───良くはない!決して!お前は私の父を嘲笑った外道であり、宇宙の敵だ!」
ニャル【そうだよな…】
クトゥーラ「だが──友の父だ!」
ニャル【!】
クトゥーラ「憎む理由は消えん…」
「だが、護る理由もまた増えた!それだけの事だ!」
ニャル【……そうか】
【ありがとう、支配者の娘よ】
クトゥーラ「うむ、恩に着ろ!」
「っつ……!!」
銀髪に瑠璃色の瞳を持つクトゥルフの娘、クトゥーラ。両手に銀の刃を持ち、ハルモニア達との格闘戦を演じる。
『『『邪なる神に、滅びを。安寧の安らぎを』』』
相対するは3体のハルモニア。英雄の武器を握る三人に、クトゥーラは懸命に武器を振るい対応する。
【ナイアとダゴネットはどうした、クトゥーラ!】
「別件だ!私はナイアに頼まれたのだ…!私のお父さんを頼む、とな!」
ナイア、ダゴネットは別任務にてこの場にはいない。クトゥーラは彼女に託されここにいる。彼女はナイアに、肉親を託されたのだ。
「貴様は憎いが、ナイアは好きだ!そしてハワイを…我が親子を省みる機会をくれた貴様に感謝している!」
【──…】
「そこの娘諸共護り抜く!だからそこで見ていろ、ニャルラトホテプ!」
三対一との戦いでありながら、果敢にクトゥーラは挑む。恨む理由はある。憎む理由もある。
しかし、それ以上に大切な理由もある。故にこそ、彼女は武器を手に取りここに来たのだ。ニャルラトホテプを、友の家族を護るために。
(立派な娘じゃないか。そしてちゃんと、血も繋がっている)
ニャルは感慨深げに彼女を見守る。
面白半分に娘のカルデアの踏み台にしたクトゥルフは、その実輝く至宝を持っていたのだと。
「はぁあぁあーーーーーッ!!」
……だが。
『『『…!』』』
ハルモニアに果敢に挑む彼女だが、ハルモニア達もまた素早く陣形とフォーメーションを組み対応する。
「くっ!?」
斧を持つハルモニアが、クトゥーラを阻み。
「ああっ!?」
槍を持つハルモニアが、クトゥーラを離し。
「ぐぅうっ!?」
斧槍を持つハルモニアが、クトゥーラを薙ぎ払った。
ハルモニア達もまた、安寧を齎す意志の代行者。生半可な実力で下せる相手では決してない。そのコンビネーションは、生半に崩せるものではなかった。
「お、のれぇ…!」
そしてクトゥーラ自身の実力は、決して強いとは言えないものであった。
彼女は邪神の娘でありながら、冒涜的な強化や改造、正気を喪う恐ろしい邪法といったものとは無縁に育てられ、戦闘経験も乏しい。
ニャルラトホテプの手により改造を受け、また闇の全てを狩る狩人として無限の研鑽を積んだナイアとは違う、武術は全て独学で行ったもの。帝王学や座学は教わったが、戦闘経験には極めて乏しい。
【あの娘さん、ホントに箱入り娘なんですね…】
BBの言葉の通り…、彼女は、荒事の経験が少なすぎたのだ。
【それが普通であって、恥じる事では断じてないけれどね】
ニャルは告げる。その育成、その育て方に向き合い方は決して間違い等ではない。
【娘に危ないことはさせない、させたくない。…生かすためとは言え、細胞レベルまで改造するよりよっぽど素晴らしい教育方針だ】
ニャルは彼女の弱さを、美徳と称した。そこには、親子のニュートラルな愛と情があるからこその弱さなのだと。
「何故だ…!何故、私はこんなにも弱い…!」
しかし、クトゥーラにとっては忸怩たる想い、やるかたない恥の現状でもある。
「支配者の娘でありながら…!世を正しく支配するものとして生まれておきながら!何故私は、こんなにも不甲斐ないのだ…!」
護るものは、世界全ての筈だ。背負うものは、世界全ての筈だ。
それなのに、人を二人護ることがこんなにも難しい。自身の力が、及ばず足りていない。
「こんな事で…!こんな事で私は…!」
護るべきものの大切さを知った。護るべきものの大きさを知った。
懸命に懸命に鍛錬を重ね、懸命に懸命に支配者たる努力をした。
『『『────』』』
しかし、目の前の安寧の使者たちは自身よりも遥かに強い。
護るために行う戦いにおいて、自身は何も成し遂げられないというのか?
「私に、私にもっと力があれば……!!」
全てを護れる力。全てを正しく支配する力。それを強く欲するクトゥーラ。
「偉大なるクトゥルフの娘として…!支配者たる娘として!もっと、もっと力を…!」
『『『────』』』
力を望み、無念を噛みしめるクトゥーラ。
──しかし。
【強さなら、既に君はもう持っているよ】
「!」
その悩める姿に、邪神であり…父となったニャルは声をかける。
【敵を斃し、滅ぼすことだけが力ではない。君の力は方向性が違うだけだ】
「方向性が、違う…?」
【君の、君だけの力を見誤らないでほしい。…胡散臭い、ゲス野郎からのアドバイスだ。信じるに値しないかもしれないが】
そう告げるニャルだが、クトゥーラはすぐに思案を行う。
(方向性の違う…私の、強さ…)
彼女はナイアと同じ、またはそれ以上に純粋であった。
例え父を貶めた憎き敵であろうと、その助言と言葉は素直に、確かに受け止める。
(私の目指す、いや。既に宿している強さとは…)
『『『────』』』
ハルモニアは動かない。クトゥーラの沈黙を、末期の懺悔と受け取ったか。
(────!)
その時、クトゥーラは思い起こす。かつて自身が生誕する…その前。
母の胎内にて、おぼろげながら聞こえていたその強さ。
〜
『元気に生まれてきてね。何を成せなくとも、何者になれなくとも構わない』
微睡みの中で聞こえていた、母の祝福。
『私とお父さんが望んだあなたが生まれてくれる。それ以上の幸せは無いのよ』
自身の生誕を願う、安らかな声。
『強くなくともいい。ただ…優しい子であってね』
その声を、邪神の寵児であるが故に確かに聞き及んでいた。
故にこそ──。
〜
「──」
そこに、答えがあった。クトゥーラは立ち上がる。
『『『!』』』
そして彼女は、武器を投げ捨てる。意外の行動に、ハルモニアは瞠目する。
「─────」
丸腰となったクトゥーラは、息を吸う。
「─────□□□□□─────」
そして、音階を発する。その喉から、その言葉から。
【!これは…!】
ニャルがその言葉を聞き及んだ事により驚愕を見せる。そして、変化がハルモニア達にも起きる。
『ぅ………』『っ………』『く……』
ハルモニア達が、膝を折る。武器を支えに立たんとするも、その抵抗は長くは続かず。
『『『………………────すぅ………』』』
【え…?】
BBの細声と同時に、ハルモニア達はなんと【眠り】についたのだ。
それは、精神という最も無防備な箇所に滑り込む歌。
クトゥーラとクトゥルフの、旧き時代に隆盛を極めた眠れる都市。
【成る程…。こういった方面のスペシャリストだったのか。道理で戦闘はイマイチだったわけだ】
【あ、あの。これってまさか…】
BBの言葉に、ニャルは確信を以て頷く。
【間違いない。これはルルイエから響く精神干渉…『クトゥルフの呼び声』だ】
クトゥルフの呼び声。ルルイエからのテレパシー。
それは精神活動を行う生命体全てに作用する、神の権能。
それらは逃れ得ぬ深淵からの手招きとして、相手を招き引きずり込む。
「……かつて、私を身籠った母は…、私の生誕を願い、祝福の歌を歌ってくれていた」
ハルモニア達を静かに見据えながら、クトゥーラは思い返すように呟く。
「誰も傷つけず、生命を育み…そして産む。貴様の言った斃すことなき強さ…これに、通ずる強さを私は既に知っていたのだ」
それこそが、自身に宿っていた…自身が支配する為の力。
「安寧、そして平穏を導き齎す支配。それは母上より授かった、私の力…」
それこそが、彼女が見出した力。彼女という存在が授かった力というものの在り方。
「ルルイエより、世界の全てに平穏と安寧を齎す為。…感謝するぞ、ニャルラトホテプ」
【礼を言うのはこちらの方だ。…感謝するよ】
そして、もうひとつ。
【君の強さはもう一つ。その純真さと、その素直さだ】
「!」
【失わないでくれ。君だけの支配者たる力…その魅力をね】
「…ふん!」
ニャルラトホテプの言葉に…
クトゥーラは照れ隠のように、背を向けるのだった。
縷々「どこだ、どこに穴はある!どこに…!?」
ペレ『こちらです』
縷々「!?」
『こちらが、ハワイの穴となります』
縷々「あなたは、ガイドさん!?何故…!?」
『さぁ、どうぞこちらを』
縷々「───分かりました!」
「全員に告ぐ!ハワイの穴の座標を送る!皆、全霊で撃て───!!」