人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜   作:札切 龍哦

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はくのん「精神分析」

BB「へぶぁっ!!?」

はくのん「良かった。成功した」

BB「はっ、私…!?あれ!?先輩大丈夫なんですか!?」

はくのん「フィリアのお陰。しかしニャルラトホテプ…ちょっと想像を超えてた」

ニャル【抜け殻を叩き起こしてこれとはな…。自認ではそんなに大した事無いつもりだったんだが…】

はくのん「脚本家のくせに役者もできる、みたいな?」

ニャル【そういやできたな、くらいの認識だったよ…。だがまだ希望はある。───】

クトゥーラ「ぁ、あ…」

ニャル【大丈夫かい?クトゥー…】

クトゥーラ「ひっ…!」

ニャル【──…】

クトゥーラ「あ、あれが…あれが。外なる神…真正の、邪神…」

倒そうなどと、思い上がっていた。

自分なら、必ずやと。

それらは、愚かな思い上がりだった。

無理やり起動された抜け殻、魂なきものですらこの絶望。

本来の外にある神。

勝てる筈がない。

皆、死ぬ。

「ぁ、あ…でも、私は…」

ふらふらと、放送機に近寄る。

「私は、支配者だから。なんとか、しなきゃ…」

そう。なんとかしなきゃいけない。

迷えるものを、悩めるものを救わなくては。

なんとかしなくては。自分がなんとか、なんとか…

ナイアーラトテップ『──────■■■■■■■■!!!!』

クトゥーラ「ひいっ…!」

月に吼える、混沌の邪神。

クトゥーラ「うっ、ううっ…!」

それだけで。

クトゥーラの心は折れる。

クトゥーラ「……ぁ」

言ってはならない言葉が抑えられない。

支配者として、決して言ってはならない言葉を。

父に、口にしてはならないとされた言葉を。

「───けて」

スピーカーから聞こえる発狂者の怒号、発狂を免れた者が沈静を図る声。

ぐちゃぐちゃの混沌の中で、その声はか細く。

クトゥルフの娘は…

否。小さな娘は口にする。

「助けて……誰か……」

神が全てを終わらせようとする中、遂げられた無垢なる祈り。

神ではなく、人として紡がれた言葉。

そんなものは、当然かき消され───





















『────勿論だ。良く勇気を出してくれた』

クトゥーラ「!!」

基地に、声が響く。

『助けを求める事には、勇気がいる。自身の弱さを認め、他者を信じる強さがいる。それは、誰にも出来ることではない』

クトゥーラ「え…?」

力強い『人間』の声。

邪神が『下等』と蔑む人間の声が、これ以上ない程力強く響き渡る。

『だが──勇気と共に差し出された手を、決して手離し逃しはしない。必ず、その願いに応えよう』

ニャル【───固有結界で切り離されていた事が功を奏したのか…!!】

はくのん「や っ た ぜ」

BB「まさかまさかの!?え、大丈夫なのですか!?」

クトゥーラは、呆然と呟く。

「あな、たは──」

声は返す。

『アダム・カドモン。藤丸龍華の父であり──』

『今から娘の為に、神を殴り飛ばす予定のモンスター・ペアレントだ』





リアルマン・マンチキン・テーブルブレイカー

『───────■■■■■■■■!!!』

 

崩壊していくハワイの海の最中にて、吠え猛る暴走状態のナイアーラトテップ。それらは聖属性の過剰な反作用により、ニャルラトホテプの精神と魂を欠いた状態で暴れ狂う綿の詰まった着ぐるみのようなもの。

 

とはいえ、その知性体特効とも言える性質があまりにも刺さりすぎたが故の大惨事であるが、この男においてはそれが意味を成さない。

 

「トリックスターにして鮮やかなる邪悪のニャルラトホテプを、こんな雑な舞台装置にするとはな。モモイとプレイしたTRPG『全部ニャルラトホテプのせいだよーっ!』並に雑だ」

 

『登場人物全員ニャルラトホテプなのは雑を越えた雑だと思うっポよ』

 

アダム・カドモン。グランドバーサーカーの座を人理に献上されし始まりの人類。

 

彼の狂気は、ニャルラトホテプが齎す…否。邪神らにて乱される狂気を真っ向から捻じ伏せている。

 

「とは言え、こうして見るとやはり迫力が違う。流石はメジャーなる邪神の代表格だ」

 

その狂気とは『あらゆる場面において正気を保つ』というもの。彼は決して、自身を喪失することはない。

 

世界が自らを残し滅びようと。

 

大切な者が自らを置いていこうと。

 

自らが死ぬ瞬間であろうと。

 

彼は始まりの人類として、全てを背負い先を生きるものとして。

 

『自身が、自身であることから逃げない』という、自らの内に世界の全てを内包するかのような自我の下に。

 

全ての狂気を、全ての発狂を捻じ伏せる。

 

全ての狂乱を叩き潰し、その上であらゆる場面で正常を保つという『狂気』。

 

故にこそ、彼はグランドバーサーカー。温羅という天明の鬼神にしてアルテミット・ワンの領域に、人としてあるもの。

 

その彼が今──ホテルと、最愛の家族を置いてハワイに固有結界から抜け出てきたのだ。

 

迷い、惑い、狂う子供達を起こす為に。

 

不安に震える子供達の背中を、そっと擦ってやるために。

 

そして、個人的な理由がもう一つ。

 

「神としての貴様から見れば、今の彼は夢のようなものであろう」

 

それは、邪神ナイアーラトテップの名誉と安らぎの為に。

 

「家族を持ち、娘達に囲まれ、償いの火に焼かれようと自身が手にしたものと向き合い続ける」

 

『…………!!』

 

「邪神が見る、真夏の夜の夢。その夢を他ならぬ貴様自身が壊さぬよう…。神の対処に一過言ある私が手を貸そうという訳だ」

 

ニャルラトホテプが考案してくれた、『皆を楽しませる為のバカンス』

 

彼が見ている『光あふれる世界』という夢。

 

その夢を、他ならぬ自身が壊すという悪夢を叶えさせぬ為に。

 

 

「貴様自身にも御せぬ、狂気の混沌。僭越ながら私が止めるために一役買おう」

 

全ての先を生きる者は今、砂浜に立っているのだ。

 

神の枠を捨て、人となり。

 

『背に続くもの』となった、一人の神の今と未来を護るため。

 

そして何より──

 

「リッカを起こされる訳にはいかないのでな」

 

愛する娘の、バカンスの為に。

 

 

『───────□□□□□□□□□□□□!!!!』

 

そんなアダムの決意など露知らず、ナイアーラトテップは狂乱の歌を掻き奏でる。全ての存在を混沌に、狂乱に叩き落とす外なる歌唱。

 

それはアザトースに捧げられる痴なるボーカルであり、ナイアーラトテップの逃れ得ぬ使命にして権能。

 

故にこそ、人も何もかも。それらをまともに受けられる筈がない。

 

筈がない、のだが。

 

「──────────」

 

ここに、例外が存在する。

 

不動屹立にて、月に吼えるナイアーラトテップの狂乱を真正面から受けるアダム・カドモン。

 

耳にしたものを狂乱に引きずり込む這い寄る終焉を、彼はものともしない。

 

「響かんな。心なき空虚なる絶叫など」

 

彼は発狂する理性など有していない。

 

諸法無我、天衣無縫、唯我独尊。

 

始まりの人として、人かくあるべきと示す者。

 

キャラクター的に言えば…

 

彼には、正気度が設定されていないのだ。

 

発狂とは、即ち理解し難きもの、領域外におけるものへの未知、不理解から来る自身の価値観の喪失。

 

解析が事象をゼロにするのなら、未知や不理解は事象を無限にする。

 

覗き込んだ海の底が見えないから、人は恐れる。

 

山の頂上がどんな景色か分からないから、人は畏れる。

 

領域外の神々は、その不条理と不特定、不定形を権能として使役する。

 

ならばその対策とは『知らないものを無くせばよい』という事。

 

邪神という神、神話体系、来歴、成り立ち、それら全て。

 

神の持つ権能と領域を『理解』し『把握』し『解析』してしまえば。

 

不定形にして冒涜的な『邪神』という恐怖は、打開可能な『障害』へと零落する。

 

アダムは殴ると言ったが、何も殴るのは拳を持って何かを破壊することを指すのではない。

 

神に単身挑み、神の領域を踏破し、神の神秘を暴くこと。

 

神という存在の絶対性を破壊し、人の齎す物語へと編纂すること。

 

それをするには、神威を目の当たりにし、その身一つで挑戦し、乗り越えなくてはならないが。

 

「ダイスを振ってやろう、空虚なる混沌よ」

 

そんなものはアダムにとってとうに踏み越えた試練。

 

『正気度チェック。100面ダイスを1回だ、アダム』

 

とうに轍を刻んだ、踏破の足跡でしかない。

 

「────01。どうやらダイスの女神は私に満面の笑みを捧げているようだな」

 

邪神の降臨イベントを、クリティカルで回避生存する。

 

アダムがしたのは、そういったイベント処理。

 

拳や物理ではなく、概念で邪神を『殴る』。

 

誰かが概念レベルで設定した終わりと終焉を『クソGM乙』と突き返すといったもの。

 

「さぁ、クリティカル処理をしてもらおうか。ナイアーラトテップ」

 

そして、逆に。

 

「貴様の神秘。【ハワイを滅ぼす混沌の邪神】という筋書きは…今、此処に失墜した!」

 

『───□□!、■■…!?』

 

『狂気の中にて、けして陰らぬ正気』という、理解不可能な概念に触れた…

 

触れてしまった、ナイアーラトテップは。

 

 

『───────■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』

 

頭を抱え、身を捩り…その狂気を、喪失することとなる。

 

狂うはずの人間が、狂わない。

 

正気を喪う筈が、喪わない。

 

恐怖を感じるはずが、感じていない。

 

何故?何故?何故?

 

どうして?どうして?どうして?

 

何がどうして?一体どうなって?

 

おかしいのは自分なのか?もしくは人間なのか?

 

何が正しい?何が間違っている?

 

何が、一体何が。

 

何が、何が、何が。

 

何が、何が、何が。

 

 

 

何が、何が、何が。

 

何が、何が、何が。

何何何何何何何何

何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何──────────

 

 

そして。

 

『狂気の中にて揺らぐことなき絶対の正常』という最高の【狂気】に触れてしまったナイアーラトテップ。

 

本来のニャルラトホテプなら、絶対にこんな愚策を講じはしなかっただろう。

 

彼という存在を、徹底的に歓待し事件に関与すらさせなかっただろう。

 

これらは全て【ニャルラトホテプ】という神格を稚拙に、粗末に扱ったGMの怠慢。

 

『発狂してしまったぞ、あのナイアーラトテップ』

 

殴って倒せるトリックスターなぞ、ヘイトタンクのサンドバッグ。都合のいいボスアイコンでしかない。

 

「所詮、ニャル殿が投げ捨てた抜け殻ではこんなものだ」

 

『随分肩を持つな、アダム?』

 

「当然だろう?何故ならば」

 

そう、何故ならば。

 

「私を含め…クトゥルフ神話を知るものにおいて、【ニャルラトホテプ】を愛さないプレイヤーなどいないのだからな」

 

アダムにとっての、この介入は──

 

ニャルラトホテプファンとして、このテーブルにおける稚拙なニャルラトホテプメイキングに。

 

『クソGM乙』と、叩きつけてやるものでもあったのだから。




この作品のロックは解除されました。
理由 リアルマン(脳筋の中の脳筋)・アダム・カドモンのフルパワー・マンチキン(テーブル破壊迷惑行為)


アダム「これであの抜け殻の絶対性は崩した。此度の私は先生ではなくリッカのパパ。物理的な打破は他の皆に任せよう」

パパポポ『だがハワイの崩落は止まっていない。アロナちゃんは発狂中だし』



アロナ『あばばばばば〜!いちご、いちご牛乳〜!』



パパポポ『ここからは私の番だっポ、アダム』

アダム「父よ、手があるのだな」

パパポポ『勿論。それは即ち…『ムーンセル』と『カルデアス』によるワールドメイキングだっポ〜!』

アダム「おぉ…」

パパポポ『その為には皆を正気に戻さねば…ん?』

アダム「これは…」

「───呼び声?歌…か?先の、彼女の…?」

震えながらも、響く歌。

クトゥルフの呼び声が、混沌のハワイに響き渡る──。
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