人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(とはいえ、今回の事件を全て解決できたわけでもない。ニャル曰く黒幕は「偽神の天使達」…それも、天使の軛を外れた存在。油断はなりませんね、これは珍しく全力であたらねば…)
『本来はもうちょっと時間をかけてもよかったのですが、そうこう言っていられませんね。私もムーブしましょう。では……』
『──ラクシュミーを呼んで私達も向かうとしましょうか。“彼ら”のもとに』
人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 ミニイベント
光主対話決戦ジークヴルム・ノヴァ・ヴェーダ
──神々によるハワイ再生、そして「チクタクマン」によるループが実行されてから、さほど時が経っていない…すなわち、「1日目」の早朝のこと。
サーヴァント・フェスティバル、西ブース「コラボレーションエリア」。
その一角に、「バトルスピリッツ」ブースがあった。
赤の光主・馬神弾と、そのパートナーたる紫の光主・紫乃宮まゐが運営するそのブースは、カードゲーム「バトルスピリッツ」、通称「バトスピ」の体験会を実施するものであった。
ブースを訪れるだけでスターターデッキを貰うことができ、それを用いてバトスピを体験しルールを学ぶことができる。
トッププレイヤーの一角をなす弾とまゐのわかりやすい解説付きで、“1周目”においても初心者にも好評であった。
さらに、まゐ手作りのカレーライスを振る舞ってもらうこともできる。第六天・波旬の監修を受けつつ、彼女の優しさが籠ったその味は、先の“1周目”のバカンスにて邪神クトゥルフをも魅了した程の逸品である。
さて、そんなブースでは、現在はサバフェス開場時間前の準備中であり、弾とまゐの2人きりであったのだが……。
「────」
作業中であったはずの弾がふと、天井を…いや、どこか遠くを見上げていた。それに気づき、同じく作業していたまゐが声をかける。
「どうしたの、弾?何かあった?」
「…いや、わからない。だが、このハワイが『組み直され』、『やり直されて』からも、不穏な気配がまだ消えていない。…このバカンスの裏で何かあるのは察していたけど、恐らくまだそれは…『戦い』は、終わっていない」
半ば要領を得ない答えではあったが、弾の言葉はまゐにも警戒心を抱かせるには充分であった。そもそもまゐにとって、愛する人である弾の言葉を疑う理由はそうない上に、今の弾は…。
───馬神弾は、人間ではない。いや、正確には「人間ではなくなった」というべきか。
彼らの世界における、西暦2651年8月30日。馬神弾は、神のカード「12宮Xレア」を用い、世界を救うための作戦「オペレーション・ゾディアック」において、「神々の砲台」と呼ばれる装置の引き金に“なった”ことにより、光の中に消えた。
その魂は神の座へと昇華され、馬神弾は、12宮Xレア…「光導」の力と深く結びついた神格となったのである。
(…弾は「神々の砲台」の“引き金”になったことで、今は神様みたいな存在になってる。しかも、12宮Xレア…黄道十二星座の神々のカードの力と深く結びついている。そんな弾が何か感じたってことは……)
まゐの中にも、一抹の不安がよぎる。胸の前でぎゅっと手を握りしめた。
「…せっかく、リッカちゃん達のためのバカンスなのにね」
「ああ。…俺達にも、何かできることがあれば……」
とは言うものの、彼らは「コアの光主」であるとはいえ一介のカードバトラー。異界の太陽たる「マザーコア」もここにはなく、今彼らができることはそう多くなかった。
もどかしさを覚える2人の前に──────その声は、突如として響いた。
『───ちょうどよかった。馬神弾君、紫乃宮まゐ君こんにちは。君達の力を借りに来ました』
「「!」」
声の直後、眩い光と共に1人の少年が現れる。金髪銀目という、明らかにただならぬ容貌を持つ少年だが、その顔立ちは馬神弾そのもの…正確にはその少年期のものであった。
明らかな異常事態だが、まゐはその少年を前にしその正体を即座に思い出し、見知ったように口を開く。
「ヴィシュヌ様…!」
『はい、あなたの皆様のヴィシュヌです。数日ぶり…というのも変ですかね。お元気そうで何よりです』
そう、弾とまゐに朗らかに語りかけるその少年の正体はヴィシュヌ。インド神話の維持神であり、ガルーダの主。コサラの王・ラーマを化身「アヴァターラ」の1つにもつもの。そして、ブラフマー、シヴァと共に最高神「トリムルティ」の一角をなすものである。
そんなヴィシュヌは既に“1周目”にて、このサバフェスにおいて弾とまゐに会っていた。ある理由から弾を見出していたヴィシュヌは、友たるインドラに接触するにあたって弾の似姿を借り受けるため、弾とまゐに接触していたのであった。
「どうしたんですか、ヴィシュヌ様?俺達に何か…?」
『ええ。実はですね。あなた達2人にお願いがあって参りました。君達を過酷なる戦いに誘ってしまうお願いではあるのですが……』
ヴィシュヌの言葉に、弾とまゐは顔を見合わせ…頷いた。
「──聞きましょう。俺達は、何をすべきか」
確固たる意志と覚悟が籠った2人の眼を見、ヴィシュヌは笑みをこぼす。
『…君達には今更でしたかね。ありがとうございます。ではさっそく本題ですが…。
──馬神弾君、紫乃宮まゐ君。君達には、私と我が妻・ラクシュミーの依代となってほしいのです』
「依代…?」
『ええ。疑似サーヴァントと言いましてね。現世の依代に神霊もしくは英霊が宿る…私のような神霊がサーヴァントとして現界するためのプロセスの一種なのです。
今回やろうとしていることに特に近しいものとしては、夏草の子供達やオルガマリー所長があてはまるでしょうか』
「…つまり、弾にヴィシュヌ様が宿り、私にラクシュミー様が宿る。その上で共に戦ってほしい…そういうことですね?」
『その通りです。君達の戦いが命懸けであることは承知の上ですが、それらともまた別の、命懸けの戦いに身を投じることになります。それも…やがては、全世界の運命をかけたものへと。私から振っておいてなんですが…その覚悟は、おありですか?』
ヴィシュヌの言葉に…弾とまゐは、すぐさま頷く。
「──それが、俺達があの子達のためにできることなら」
「私達の力をお貸しすることに、何ら迷いはありません」
2人の揺るぎない信念と絆。それを目の当たりにして、ヴィシュヌは安心したように微笑んだ。
『──ありがとうございます。では、早速我が妻を呼びましょうか。…ラクシュミー!』
ヴィシュヌが指を鳴らすと、彼の隣に、光とともに1人の清純なる長髪の少女が姿を現す。
「…きれい……」
どこかまだおぼろげな姿ながら、まゐにそんな感嘆の言葉を漏らさせるほど、少女は美しかった。
現れた少女は、鈴を転がすような声で、まずヴィシュヌに語りかける。
『はーい、あなた♪呼んでくれて嬉しいわ!』
『ふふ、それはもちろんですよラクシュミー。私の隣には貴女がいなければ』
現れた少女…ラクシュミーは、次にまゐに声をかけた。
『…紫乃宮まゐちゃん、だったわね?私の依代になってくれると聞きました。私は、インドの美と豊穣の女神・ラクシュミー。ヴィシュヌの妻です。よろしくお願いしますわ♪』
「ラクシュミー様…はい!よろしくお願いします!」
まゐの元気良い返事に満足気に頷くラクシュミー。
『では、さっそく疑似サーヴァント化の儀式を……』
と、ヴィシュヌが一体化に取り掛かろうとしたところで、まゐが声をあげた。
「待ってください!」
『まゐ君…?どうかしましたか?』
「まゐ…?」
ヴィシュヌとラクシュミーのみならず、弾も不思議そうにまゐを見る。だがまゐは、何やら決意の籠った表情で、ヴィシュヌに告げた。
「疑似サーヴァントとして一体化する前に、お願いがあります」
『なんでしょう?私達に出来ることであれば』
「───おふたりの力を借りて、未来において、私が神となる…弾と同じような存在になることはできますか?」
「っ!?」
『『!』』
突然の、思いもよらぬまゐの言葉に、ヴィシュヌ、ラクシュミー、そして弾が驚愕する。
『…それはつまり、人としての生涯を捨て去りたい……と、いうわけでもないのですね?』
「はい。今の私にも、私の人生においてなすべきことが多くあります。それを放棄するわけではなく…その人生を走り抜けた先に、弾と同じ場所に至りたい…ということです」
「まゐ…お前、どうしてそんなことを…?」
戸惑う弾に、まゐはその眼をしっかりと見つめて告げる。
「──気付いてたよ、弾。再会してからのあなたが、たまにひとりで暗い顔をするのを。…それが、私のせいだってことも」
「っ!」
言葉に詰まる弾。ヴィシュヌとラクシュミーは、そのやりとりでまゐの真意を理解した。
───馬神弾と紫乃宮まゐは、楽園カルデア関係者の導きによって、楽園カルデアにて再会を果たし、再び同じ時を共に過ごすことができるようになった。
だが、そんな中でも……いや、そんな中だからこそ、弾には新たな悩みが、憂いが生まれていた。
──────有り体に言えば、「寿命差問題」である。
人としての死を迎え、神の座に押し上げられた馬神弾は、永遠に等しい時間を生きていられる存在となった。
だが、紫乃宮まゐはただの人間だ。故に、ほぼ必ず弾より先に死ぬ。
故にこれは、「仕方のないこと」なのだ。そう考え、弾は自分を納得させようとしてきた。
……だが、馬神弾はまだ若かった。達観するには若過ぎたのだ。人としての死を迎えた時でさえ、まだ10代後半ほどの青年だった。
10年の時を経て、その視座は徐々に神としてのそれに変化してきてはいたものの、かつての仲間達との再会……そして、楽園カルデアでまゐと共に過ごす日々が、彼の精神を人だったころのそれに近い、まだ若者である馬神弾へと徐々に戻していっていたのだ。
それが良いことなのか悪いことなのかは論じないが……それ故に、弾は憂いていたのだ。いつか必ず訪れる、愛する人との別れを。まゐを見送った後に訪れるであろう、永い孤独を。
そして、優しく聡いまゐは、弾の些細な様子から、その憂いに気付いていたのだった。
「…私は、もう決してあなたを独りにしない。ようやく届いたこの手を、決して離しはしない。だから…ずっとあなたと共にいられる道があるなら、私は迷わずそれを選ぶわ」
「まゐ……」
まゐの言葉に、弾の瞳が揺れる。その赤い瞳は、すぐに答えを出せない弾の迷いを、如実に表していた。
(…まゐの言葉は嬉しい。本当に嬉しい。だが…いいのか?永遠に続くかもしれない俺の戦いに、まゐを巻き込むなんて……)
「弾」
「っ!」
弾の迷いを、まゐの言葉が遮る。弾がまゐに目を向ければ、彼女はカードデッキを取り出していた。バトルスピリッツのデッキを。
「私とバトルして、弾。……私の覚悟、見せてあげる」
「……」
弾は暫し逡巡する。だが、やがて……。
「…ああ、わかった」
──バトルスピリッツブースの奥に、バトルフィールドこと「エクストリームゾーン」を展開する装置が存在していた。初心者向けレクチャー等においては基本的には使われないものではあるが、本格的なバトルを楽しみたい人に向けて、用意されていたのだ。
そこに弾とまゐが、自らのデッキを手にして入る。そして、2人は宣言した。
「「ゲートオープン、界放!」」
光に包まれ、紫乃宮まゐと馬神弾が、バトルフィールドへと誘われる……!
ルシファー『ん〜?あの2人は確か…』
『…なるほどね〜。邪魔しちゃ悪いし。こっそり見るだけにしておこうか。……とはいえ、ベルフェゴールが彼らのことを知ったら、喜ぶかもなぁ。呼んでみようかな?シンデレラも後で紹介しよーっと!』