人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
『戦車に乗った大量のチョコの山』
アキレウス「いやー、狩った狩った!大漁ならぬ大量チョコだな!」
クサントス『ブヒヒッ、あんまり上手くないですね』
アキレウス「(無言の石突)ヘラクレスの方はどうなった?向こうも仕損じたとはあり得ないだろうが…」
ヘラクレス(蟹の被り物)「む、アキレウスか。首尾は上々なようだな」
アキレウス「ぶっ───ははははははは!!アンタなんじゃそりゃ、その被り物はよぉ!?」
クサントス『大阪のカニ道楽ファッションですねー』
ヘラクレス「いや…何かヒュドラの下に踏み潰していた蟹がおり、不憫ゆえ被り物に加工したのだ。似合っているか?」
アキレウス「ぶはははははははは!!アンタさては天然のケがあるな!?流石リッカの師匠だぜ!!」
ヘラクレス「似合っているようだな…」
注 ヘラクレスの天然エピソードとして、ミスをした給仕を励まし肩に手を置いたら力が強すぎたため爆散させたというお茶目なものがあります。
アキレウス「さて、後はじゃんぬ店長のお手並み拝見だな。とびきりのやつ、作ってもらいてぇもんだ!」
ヘラクレス「……………」
アキレウス「お?どーしたよヘラクレス」
ヘラクレス「…いや」
「かつて、私が店長に見出したイアソンの相は、希望に満ちてはいれど…容易ではなかった事を思い出してな」
アキレウス「…どーいう意味だ?あんなヘタレと店長が一緒だってのか?」
ヘラクレス「どうかイアソンを馬鹿にしないでほしい。本当の事は友たる彼を傷付ける」
アキレウス「す、すまねぇ」
(ヘラクレス割と強火だよな、イアソン相手にはよ…)
クサントス(友誼は本物なんですねぇ)
「あ、帰ってきたわね!流石腕利きの職人&スタッフ!別に心配はしてなかったけど!」
ヘラクレスとアキレウスは、BBが用意したスペシャル素材収集エリアより帰還し、じゃんぬが待つスペシャル厨房エリアへと帰還する。そこはじゃんぬが作品を完成させるために用意された、時間と空間が歪んでいるBB謹製のエリア。
ここでは作品を完成させるまで時の影響を受けず、自由に製作が可能な犬空間の改良場所であり、じゃんぬがメイヴに太刀打ちできるようBBが特注したフィールドである。ただし、完成させるまで彼女たちは外に出ることができないデメリットも存在するが…
「はいよ、こいつらが材料だ!手間暇かけただけあって、どいつもこいつも品質は完璧な一級品だぜ!」
「あの娘は細やかなところで手を抜かぬ性分であろうことは存分に伝わった。店長も気兼ねなく力を振るえよう」
アキレウス、ヘラクレスは自身らの成果を惜しみなく披露する。チョコの材料、その山のごとき量を以てじゃんぬの度肝を抜き圧倒する。
「い、いきなり持ってきたわね…!何年分なのよこれ…」
「等身大のアジ・ダハーカともあれば、これでも足るに値するかは未知数であろう。ともすれば、アキレウスと共に持ち回りも考えねばなるまい」
「あぁ。ヒュドラ毒だのカニだのソウルイーターだの多彩だったが、その分品質はお墨付きだろ。いけるいける」
「いやヒュドラ毒って何よ!?食材が毒を持ってちゃいけないでしょ常識的に考えて!?」
ヘラクレス達の珍妙な体験に驚愕しながらも、じゃんぬはエプロン(ジャンヌ手製あべんじゃあ刺繍)を纏い気合いを入れる。
「それじゃあこれからは私の番ね。いつものスイーツと違って、これにリッカや皆の進退とかハワイの行く末がかかってるのよ、何よりリッカの半身だもの!ヘマはできないわ!」
「───────」
「とりあえず頭に完璧なイメージはできてる!取り掛かるわよ、見ていなさい!」
そしてじゃんぬは何時ものごとく、烈火の気迫でスイーツ作りへと移行する。
「絶対!最強最高のスイーツを作ってやるわよー!!」
「おお…!いつにもまして燃えてるぜ!こりゃあ期待できそうだな、ヘラクレス!」
「……………」
アキレウスの楽観に、ヘラクレスは頑と押し黙る。
「どした、ヘラクレス?さっきから微妙に煮え切らなくねえか?」
「いや…スムーズに、的確に終わるのであればそれに越した事はないのだ」
「〜?」
大英雄らしからぬ歯切れの悪さを怪訝に思うアキレウスだが、既にスイーツ作りは切って落とされた。
これはそう──聖杯を懸けた、究極のスイーツ作りなのだ。
〜
「とりあえず、ポーズのサンプルを手掛けてみたわ。スイーツとしての適性サイズだけど、作ってみたのを見てみなさい」
流石と言うべきか、本来の大きさのアジ・ダハーカチョコ…雄々しさ、凛々しさ、迫力を兼ね備えたスイーツは即座に完成品がヘラクレス達に提出された。
「うぉ〜!こりゃあすげぇ!まんま小さいアジ・ダハーカじゃねぇか!」
邪龍でありながら、逞しい四肢に9本の角に9枚の翼。両手の龍頭の篭手に禍々しい黒き鱗。それはまさにスケールダウンしたアジ・ダハーカそのもの。それはスイーツというよりフィギュア、インテリアの領分に通ずる出来栄えだ。
「うむ、素晴らしい。よく龍華を見据え、観察し、魂に焼き付ければこその出来栄えだ」
「そりゃあそうよ。リッカとはそう、セプテムからの付き合いのオンリーワンよ。わかる?唯一無二なわけ!当然ってやつよね!」
じゃんぬはガッツポーズを取る。そう、彼女にかかればリッカの周辺を形作ることなど容易い、造作もない事であるのだ。
「これをデカくできりゃあ、優勝はもらったようなもんだな!ドーンと頼むぜ、じゃんぬ店長!」
「任せておきなさい、私はことリッカに関してはガチなんだから!あんなピンククイーン、ピンクイーンには負けられないわ!」
そしてサンプルの製作も終わり、いよいよ超巨大等身大アジ・ダハーカに着手することになったじゃんぬ。
ここまではまさにトントン拍子、順風満帆そのものな始まりにして進行であったのだが…
「…………アキレウスよ。私がアルゴナウタイに乗っていた時期は意外な程に短い。とある兄弟の策略にハマり、置いていかれてな」
「まぁアンタいりゃ大体なんとかなったろうし、バランス調整的なアレもあったんだろうがよ」
「だが、そんな私でも一つ把握している、把握できた事があるのだ」
ヘラクレスは、じゃんぬの背を見つめながらアキレウスにポツリと零す。
「おぉ?なんかの天啓でも降りたってか?」
「あぁ。それは、私自身の人生にも通じるが」
そう、数多の試練や数多の理不尽を淘汰してきた大英雄ならばこその『真理』。
「順風満帆は、決して長く続かないと言うことだ」
そしてその言葉は、的中することとなる。
〜
「違うわ!!リッカは、アジ・ダハーカはこんなものじゃない!もっと、もっと輝けるはずよ!!」
巨大アジ・ダハーカの製作は、極めて難航することとなる。
材料が少ないわけではない。アキレウスとヘラクレスがいれば、それが枯渇することは無い。
じゃんぬの腕前が鈍ったわけではない。彼女の情熱と研鑽は、紛れもなくプロを超えた神域にある。
では何故?何故じゃんぬはアジ・ダハーカに辿り着けないのか?
「私の中のリッカは、こんなチンケなものじゃない───!!」
そう、それはじゃんぬのリッカに対する極熱の情に起因するものである。
リッカという自身の運命。
アジ・ダハーカという、楽園を代表する黒き人理の守護龍。
それを創り上げ、サバフェスにおいて最高峰のものを創らんとするじゃんぬは、自身に一切の妥協を許さず、決して生半可なものを作ろうとしない。
「なんだありゃ…足下作って壊してを繰り返して、何やってんだよ店長は?」
「やはりか…。大海賊黒髭の言っていた通りとなった」
ヘラクレスは、じゃんぬが行き当たるであろう障害、懸念を見て一人得心が言ったと頷く。
「どういう事だよヘラクレス!?」
「推しを象り、ましてやコンテストに出すのであれば。そこに加わる熱量や情熱は常軌を逸するものだ」
そう。推し…自身より信を置くものであれば、そしてそれに命運を託すともなれば。そこにかかる情熱、手間暇、自己採点に自己審議は相当に高まり、妥協を許さぬものとなる。
そしてそれがプロに至るレベル、ましてやコンテストに出すのであればより一層尚の事、蟻地獄のように製作者を囚えるのだ。
「店長は龍華を近くで見てきた。見続けてきた。故にこそ、彼女の中の理想の姿は、彼女自身を囚えて離すまい」
「そりゃあ、つまり…」
「うむ。龍華の国のタルタロスには、賽の河原なるものがあると聞き及んだ。今の店長の陥っている状態こそが、そうなのであろう」
自身の理想を求めて邁進するあまり、本来の実力を発揮できない。
いやむしろ、発揮しすぎ、発揮しようとし続けているからこそその理想、その欲求には決して際限がない。
一定の実力、一定の達人にこそ訪れる罠にして、惑わせる森のような現象。
「まさしく、だ。イアソンの懐いていた理想、それに纏わりついていた難題そのもの…」
『頭打ち』。理想が高く、能力を有すが故に必ずや突き当たる、天井の蓋。
「もっと、もっと力強く!もっとたくましく!もっと美しく、もっと禍々しく…!!」
彼女の積み上げた研鑽、技量、技術。リッカへの親愛、敬愛、情愛。
それら全てが…、
今、じゃんぬに牙を剥いていた。
ヘラクレス「行くぞ、アキレウス」
アキレウス「お、おお!?」
ヘラクレス「あの戦いには加勢できん。自らが答えを探すしか無いのだ。我等はせめて、打ち込む試行回数を増やしてやろう」
アキレウス「そうだな…俺らぁもっぱら、材料集めに奔走するほかねぇか!」
ヘラクレス「この場で才能潰えるか、開花するか。正念場だぞ、店長」
じゃんぬ「ああ…!うあああ〜!!!」