人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
じゃんぬ「な、なんでここに!?確か誰も入れないはずじゃ!?」
アンリマユ【へへへ、侮っちゃいけねぇよ?こう見えて私ら…神話の主神だぜ?】
アジーカ【がじがじがじがじ】
アンリマユ【ま、【救世主の魂を生贄に捧げられた悪神がソロモン召喚術で神霊として顕現し、リッカの殻を被らせてもらって現界してる】なんてややこしいことこの上ないけどな!】
じゃんぬ「マジでややこしいわね…」
アンリマユ【で、だ。助けに来たぜ?】
「!」
【悩んでるんだろ?あんた】
「…それは…」
【おーおー、こんなに作り倒しちゃってまぁ。アジーカの飼い主兼家族な私からしてみても感謝の言葉もないぜ。サンキューな、後輩ちゃんよ】
突如世界を切り裂き、来れないはずの空間にやってきた悪神アンリマユ、そして邪龍アジ・ダハーカ…の、魂アジーカ。リッカの殻を被り、セーヴァーの魂を以て英霊、いや神霊に収まりし彼女はリッカの姿にてけらけらと笑う。
【アジーカも喜んでるぜ?見ろよ、噛み付いてら】
「あ、ちょっとダメよ!味は度外視した試作品なんだから!食べるなら食べる用の作るってば!」
アジ・ダハーカの複製品。本人からしてみれば大層嬉しいものだったらしく、狂喜しながら自分の分身にかぶりつき、噛み付いている。その真心が、届いたのだろう。
【私らから見ても、存分にいい線言ってると思うんだが…我等が店長様は何がお気に召さないのかねぇ?】
「!」
【たくさん作ってるのに顔は晴れやかじゃねぇ。陶酔もなく作り積み上げるは研鑽ながら苦悶の表れってな。お悩みなら聞かせてもらうぜ?】
軽薄な口調ながら、リッカらしからぬ嗤い方ながら、その声音には本気の慮りが宿る。
黒き聖者…。そんな単語を頭によぎらせながら、じゃんぬは不思議と彼女らに悩みを告げる。
「定まらないのよ。リッカやアジ・ダハーカ、アジーカの一番魅力的な姿とか、形とかが」
【定まらないぃ?】
「ほら、カッコいいとか禍々しいとか、雄々しいとかあるでしょ?全部よ全部!アジーカとリッカのコンビにはその全部があるのよ!でも、それを全部再現しようとしたらどうしても…」
どうしても、技術が足りない。想いは溢れんばかりにあるはずなのに、それだけが、どうしてもできない。
「リッカと一緒に、あのピンクイーンをやっつけなきゃならない。それならとびっきりのアジーカを作らなきゃいけない。でも、そのとびっきりがどうしても…」
どうしても、形にできない。いや、出来るからこそどうすればいいのか、どれが正解なのかが解らない。
【成る程ねぇ。プロが陥るスランプ…イップスだかそんなんってやつか】
「茶化さないでよ、私は真面目に…」
【悩んでるってか?んなもん、私からすりゃ分かりきったモンなんですけどね。アジーカ!】
アジーカを呼ぶアンリマユ。アジーカはぴょこりと着地し、アンリマユの下へと至り…
【いででででで!?なんで噛むんだよ!?】
【アンリは飼い主ではない】
【私胴元だろーが!?ま、まぁいいや。このお姉さんがお前さんの魅力の再現にひじょーに苦心しておられる。被写体として、何かアドバイスして差し上げろ】
ほれ、と背中を押され、アジーカとじゃんぬが向かい合う。角と牙、鱗に包まれし幼少のリッカの姿の彼女。
「アジーカ…」
【知りたいこと何でも教えよう】
「そ、そういう感じ?それじゃあ…」
じゃんぬはアジーカに対し、疑問を投げかける。それは、彼女の…いや、悪神達への質問。
「世界を救ってみて、どうだった?」
【【───────】】
世界の敵。善の敵、絶対悪、人類悪。滅ぼされてしかるもの。
そんな彼女達が、リッカとなって世界を救った。人理を取り戻した。
悪なるものが、世界救済という前を成し遂げた。
じゃんぬはそれが聞いてみたかった。
悪神や悪龍は、世界を救いし境地で何を見て、何を思ったか。
それこそが、じゃんぬの聞いてみたかったこと。
或いは…そこに、この二人の核心がある気がして。
【アッハハハハハハ!!ヒャハハハハハハハハハ!!】
堰を切ったかのように笑い出すアンリマユ。しかしそれは、侮蔑でも愚弄でも、ましてや自嘲でもない。
【そりゃそうだ!今更に過ぎるわな!改めて見りゃ痛快でしかねぇ!最弱の英霊アンリマユが!気付けば世界救済の大偉業を成し遂げましたとさ!こりゃ改めて見たらとんだ逆張りだぜ!アッハハハハハハ!】
【うるさい…。店長は真面目に聞いてる。茶化してはならない】
【悪い悪い!だがよ店長、こいつが私の答えだぜ?正解は、楽しくて楽しくて仕方がなかった、だわな!】
楽しかった。リッカと共に世界を救ったことは、とてもとても楽しかったと。
【そりゃあそうだろ?私らは絶対悪。誰にとっても都合のいい悪、黒幕、ラスボス、生贄だ。倒して皆でハッピーエンド!そういう存在が私達だ。私も、こいつもな】
ぽむぽむと頭を叩かれるアジーカ。しかし、彼女はその意見に同意していた。
【その環の中に私らはどうあっても入れねぇ。世界に拒絶され、嫌われ、滅ぼされておしまいの悪だ。そういうもんだし、そういったもんだし、そうなるもんだ。特にそれに思うことはなかったさ。ただ──】
ただ。アレは違った。この旅路における、見上げた南極の空は。
【一番助けてもらいたかったガキが、いつの間にか皆のために全てを滅ぼす悪になり、救った世界に祝福されながら見上げたあの空。……アレだけは、私…いや【オレ】にとっても、特別な想いがあったさ】
セーヴァーが縛り付けられた、山で見続けた人の営み。
キラナと二人だけの、僅かな、しかし暖かな団欒。
それに通ずるものが、絶対悪たるアンリマユの胸にも灯ったあの日。
【そうだねぇ。この物語っぽく言わせてもらうなら…】
絶対悪、暗黒の聖者は目を細め笑う。
【尊い、って。言うもんなんじゃねえかい?あの、山のてっぺんから景色を見たような。腹からヒリ出た赤子を抱いたような、そんな感覚を表す言葉はよ】
「!!」
【壊し、犯し、涜し、滅ぼすしかしないオレ達が、初めて成した善行。とびきり丸ごと世界を救ったあの日。あの日だけは…】
そう、あの日だけは。
【オレ達は感じたのさ。ずっと遠巻きに見るしかなかった『ハッピーエンドの輪』。その暖かさ、祝福ってやつを。そいつを言葉にしきるには…今のお前さんと同じくらい、頭を捻らなきゃならんなぁ】
かかかっ、と笑う二元論の究極の片割れ。悪でありながら、善を尊ぶ悪神は、悪戯げに笑ってみせる。
【私も語る】
ずいっと、アジーカも歩みを見せる。彼女はアンリマユと共に、リッカを助け担い続けた魂の半身。
【私はアジ・ダハーカの魂。肉体はダマーヴァンド山に生き埋め、精神はザッハークのうんち野郎になって、魂は私になった】
最強の悪龍は、その三位一体が分かれ別々に活動している。
肉体は、いつか復活の時を待ち眠り続け。
精神は、邪悪なる存在として暗躍を続け。
魂は、ゲーティアの儀式にてリッカに招かれた。
【悪を成すのは私達の本能。そこになんの感慨もない。ただ作られたように、成すべき事をするだけの事】
そこに、なんの感慨もなかった。リッカに宿る前はそうだった。
【でも…願いは、あった】
魂が懐く願い。邪悪なる精神、強靭なる肉体から離れたアジーカが故に感じた事。
【私も、一度くらいは。『善いこと』を知ってみたかった。してみたかった】
故にこそ、グドーシとの出会いで、彼女が得た『善の味』は、彼女自身の比類なき甘露となった。
目の前に広がる【悪】の懐石料理やバイキングではない。
ほんのちょっぴりの、金平糖のような『善』をこそ、アジーカは好んだ。
【そして、その味を皆が教えてくれた。その味が、私は大好きになった】
量はほんの一欠片。悪に比べてあまりに食べ応えがない質量。
しかし、その味わいは、例え世界が終わろうとも忘れはしない。
【だから私は、リッカと一緒に世界を護る。たくさんの、リッカの護りたい『善』を一緒に護る】
ほんの少しの、人間の悪性に負けない善のために。
肉体から引き剥がれ、精神に無様と嗤われようと。
あの『おいしい』を、ずっとずっと味わうために。
【だから…】
だから、アジーカはじゃんぬに。
英霊に。
人理に。
こう告げる。
【私を、『環の中』に入れてくれて…ありがとう】
「──────!!!」
その笑みに…。
「──────これよ、これだわ…!!」
【?】
「見つけたわ!!アジーカの、アジ・ダハーカの表現するべきもの!!」
アジーカを掲げ、狂喜する。
「あはははははは!見つけた!見つけたわ!!ありがとうアンリマユ!ありがとうアジーカ!これなら、絶対に行けるわー!!」
【?????】
【…壊れちまったか?】
天啓に対し…
ピンときていない、二人であった。
ヘラクレス『答えを得たか、店長』
じゃんぬ「えぇ!これなら大丈夫!もう迷わないわ。確信が持てるわ!」
アキレウス「そりゃあいい!それじゃ、材料集めの仕上げと行こうぜ!」
じゃんぬ「仕上げ?」
ヘラクレス『実は、チョコで再現されたタイタン族に絶賛攻めあぐねていてな。さしずめチョコノマキアか』
じゃんぬ「真顔で変なこと言うわよねあんた…」
アキレウス「ここはアジーカとアンリマユも連れて総力戦といかねぇか?オレ達なら負けねぇはずだぜ!」
アンリマユ【お、いいねー!リッカでいる内のオレは間違いなく最強最悪だ、そいつをみせてやっか!】
アジーカ【チョコ道とは死ぬことと見つけたり】
じゃんぬ「死なないの!(ほっぺむにー)」
アジーカ【とりっかるっ…】
じゃんぬ「まぁいいわ!ちょうど材料も必要数が見えたし!」
「全員で!!ブッ壊すわよ!!」
『「【【おう!!】】」』
こうして、じゃんぬが夢見るスイーツは…
完成の披露目を、待つのみとなる。