人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
アズライール【…………】
榊原「いきなりメイヴさんを殺そうとするなんて…あなたなりの、リッカへの協力?」
アズライール【そう判断した。性別リッカたる彼女には、女王メイヴに勝つことは不可能に近いと】
榊原「あなたらしい、優しい判断ね。でも…ちょっと待って?」
アズライール【?】
榊原「あなたのように…彼女もとても、立派になったのよ?」
緑川ユイ。
長き長髪に長身、四六時中タンクトップを着用しているリッカの学友の一人。
寡黙かつ、表情表現に乏しく無口。彼女は夏草において特殊な立場を担っている。
内海羅王を殺す為に送り込まれた刺客。それが彼女の来歴。
かつて彼女は、物心もつかぬ頃に両親を事故で亡くし、施設に引き取られた。
その際に、人間離れした身体能力と工作員としての才能に目を付けた国家権力側のエージェントとして引き取られる。
親の愛情も知らずに、訓練の日々を過ごした彼女は人間性の欠落した状態でありながら兵士、エージェントとして完成を見る。
その与えられた任務は、日本の首相として頭角を現しかねない──日本が善き方向へと向かうと困る日本に潜んだ官僚たち──の私兵として、内海を抹殺する事であった。
任務了解。思春期を殺された彼女は、内海を殺す為に彼の…夏草の下へと向かった。
そこで対峙した、内海羅王。
…結論から言えば、暗殺任務は失敗する。
ナイフも通らぬ鋼の肉体。
銃弾を掴み取る極限の見識。それは技術は完璧なれど幼き彼女に討ち果たせる存在ではなかったのだ。
捕虜とされ、死を覚悟し、首に付けられた自爆チョーカーを起動し口封じを発動せんとした刹那…
「君の生命、失うには惜しすぎる」
そう告げ、内海はユイを救った。
何故か、彼女は問うた。任務を果たせない自身に存在意義はないと。
『意義のために生きるのではない。希望の為に生きるのだ』
自身に、エージェントとして生きてきた自身に希望などないとユイは言う。
『無いなら共に見つけよう。共に育もう。私が作りたいのは、そういう国であるのだから』
ユイは内海の捕虜として、彼の意向に従う。
彼女は唯のユイだった。緑川とは、内海が用意した戸籍の名字である。
そして彼女は、小学生、中学生、高校生としての時間を夏草で過ごす。
その間、内海への恩義と自身の命を狙うかつての雇い主…日本に潜む闇や暗部に蠢く者達と、内海のエージェントとして戦い続けた。
かつての施設を破壊し日本を腐敗させんとする、帰化しながらも外患誘致を目論む者達。皮肉にも、彼らが育て上げたエージェントたるユイによって。
「所詮私に出来ることは、命を奪うことと破壊する事だけだ」
藤丸リッカや、うたうちゃん。内海や榊原先生、希望を以て日々を生きる友ら。
それらが日々を、世界を変えていく者だと確信しつつ、自分はけしてそうではない。
自身は生命を奪うことしか出来ない。何かを壊すことでしか、世界に対し貢献することができない。
だが、そうする事であの人々の生きる世界が良き方向に変わる助けになるのなら、と。彼女は法で裁けぬ闇と悪を討ち果たしていった。
そんな中、彼女は夏草にてとある子と出会う。
『私は、
黒い子犬を抱えた、椿姫と名乗る子。夏草に越してきた、小さき子。
『どうして公園でお眠りしてるの?おうちは?』
「……私に、帰る場所は無い」
本当の意味で、安らぎに身を置く資格はない。エージェントたる彼女は椿姫たる少女に告げる。
『よくわかんない…。じゃあ、私たちと一緒に遊ぼ!』
子犬と椿姫と知り合ったユイは、日々の数時間を彼女と共に過ごすこととなる。
普段の学園生活の『護るべき日々』とは異なる、彼女の人生としての時間。
それらは、彼女自身が初めて享受した『平穏』であったもの。
「──────」
『あ!笑った!ユイさん、笑った!』
「笑う?─────私が?」
そして、無垢な少女と子犬との触れ合いにより…彼女の失われた人間性は少しずつ取り戻されていった。
「ユイちゃん、笑顔が素敵になったね!」
リッカに言われた事からも、自身が変わることを自覚し始めたユイ。
『ユイ姉さん。私…私ね、もうすぐ遊べなくなっちゃうの』
そんな中、突如訪れた別れの言葉。
『私、病気でね。もうすぐ死んじゃうんだって。だから最期は、素敵な場所の…夏草で過ごしましょうって、お父さんと、お母さんが』
白血病、そして癌。彼女はそれを、同時併発していた。ドナーも抗癌治療も、どちらもその幼さから絶望的な状況。
彼女がこうして動けるのは、両親が代々伝わっていた『魔術』を使い、その病状の進行を和らげ、身体能力を回復させていたからだと後に聞き及ぶ。
魔術師ではなく、両親は娘のための魔術使いであったと。
だからせめて、素敵なロボットや綺麗な自然、優しい人達がたくさんいる場所になった夏草にて、最期の時を過ごそうと。家族と共にやってきたと。
そう。それは───末期の死に場所を求めていたのだと。
『くろを、お願いしてもいい?私、もうすぐ…寝たきりになっちゃうから』
子犬を託されたその手は、迫る死に震えていた。
『最後に、ユイお姉さんと出会えて良かった』
夕日に照らされたその笑顔は…。
『本当にありがとう!──さようなら!』
自身の死を覚悟し…浮かべた涙を心配させまいと振り切ったもので。
『わぅ…』
「──────……」
それ以降、彼女は出逢いの公園に来ることは無かった。
そして、エージェントとして椿姫の入院した病院を突き止め、謝絶された面会を厭わず垣間見た彼女を見てユイは衝撃を受ける。
チューブに繋がれ、ただ死を待つばかりの小さき身体。微かに上下する辛うじて動く胸。
未来と希望を懐くはずの身体に、死がすぐそこまで迫っている。
「────…」
何もできない。
死に行く彼女に、自分はそれに何もしてやることが出来ない。
何故彼女なのか?
彼女は親子との仲も良く、愛されていた少女だった。自分とは違う。生きるべき生命だ。
何故自分ではないのか?
命を奪い、破壊することしかできない自分が、何故彼女より生きるのか?
「私は…───」
彼女は理解する。破壊し、殺し、奪うだけで変えられる未来などちっぽけなものだと。
本当に大切な未来は、そんなものでは救えない。
内海や榊原、仲間たちや友達とは違う自分では、救える生命はない。
「私は───」
その時、彼女は一筋の涙を流す。
それは、彼女という殺された人間性が蘇った証にして瞬間。
「私は、助けたい…。生命を…彼女を…!」
見つけた願い。
日々を懸命に生きる生命を、助けたい。
彼女に、未来を生きてほしい。
破壊者たる自分が、それでも懐いた願い。
【───彼女を救いたいか?】
「!」
その時。彼女に声が語りかける。
【彼女に齎されし死の運命。退ける事は叶う。お前が、私と共に在るならば】
その声は、自らを【死】と名乗った。
【私はアズライール。当代の我が依代たる者よ。その命運、私と共に委ねてはみないか?】
アズライール。死を告げる天使。彼女に齎された死の運命すらも退ける事が叶う。
【但し──お前自身の命運、天命と引き換えだ。お前の生きるべき生は…三十を待たず尽きる】
彼女の寿命を極限まで削れば、椿姫は助かる。それが条件だと。
【どうだ?その生を、彼女の為に捧げる覚悟はあるか?】
そう告げられたユイの決意は、揺るがなかった。
「持っていけ。二十歳まで生きていられれば十分だ。そして、私はお前の依り代になる」
寿命と運命力の譲渡。それによる、アズライールとしての新生。
「生命はとても尊いものだ。────私以外は」
【………良いだろう】
「お前の力を貸してもらうぞ、アズライール。私が、私自身の救いたい生命を救うために」
────そして、椿姫は奇跡的に癌が治癒し、骨髄ドナーも見つかるという奇跡の二重により全快する事となる。
『お姉さん!ユイお姉さーん!!』
その奇跡を噛み締めながら、彼女はかつて共に遊んだ公園に走る。
『私ね、治ったの!治ったんだよ!また一緒に!また…!』
また一緒に、遊べるんだよ。
『わんっ!』
『あれ…?』
いつも待ち合わせていた、公園の木陰。
『お姉、さん…?』
そこにいたのは、彼女に預けていたくろがいるのみ。
『くろ、お姉さんは…?』
『わぅ〜……』
────アズライールの力を使い、自身をドナーとして椿姫を救ったユイ。
【良かったのか?】
椿姫はやがて、自身の故郷へと帰ることになったという。だが、彼女は、お姉さんがいる夏草にいたいと頑として聞かなかったとユイは聞き及んだ。
故に──彼女は、カルデアへと向かうことにした。
今生の別れとして、椿姫に黙って。
「彼女はもう生きていける。死の天使など必要ない」
アズライールとなったユイは、飛翔する。
「私の任務は、世界中の椿姫を救うこと。その為なら…私自身の人生など安いものだ」
【─────】
(さよなら、椿姫…)
こうして、ユイはアズライールの依り代としてカルデアへ至り…
ハワイにて、メイヴへの暗殺を試みていたのだった。
榊原「いまのリッカや、皆を知ってほしいの、ユイ。人は変われる。彼女が救った世界で、どれほど彼女が素敵になったか…」
アズライール【リッカが…】
榊原「あなたも、彼女を助けてあげてほしいの。同じ学友として。カルデアに至った…仲間として」
アズライール【……任務了解】
【暗殺ではなく、リッカのサポートへと回る。案内してほしい】
榊原「えぇ。今も皆で、頑張っているはずだから」
「できればあなたも…笑顔を、見せてあげてね?」
【───…………………】