人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
シンデレラ『やったの…かしら?』
マリス【…………】
シンデレラ『カルデアス…あなたと同型機と聞いているけれど』
カルデアス〈…ルシファーとあなたの力に、不手際はありません〉
〈ですが…どうやら、アプスーが彼女を守った様ですね〉
マリス【アプスー…】
【あなたは、何故…私を…】
マリス・カルデアスは当惑、困惑を顕にしていた。神の如き輝きを持つルシファー、それと一体化したシンデレラの最大火力を受けたマリス…
否、正確には厄災神アプスー。マリス・カルデアスを討ち果たすあるべき一撃を、アプスーの両腕が防御、阻んでいたのだ。
アプスーに、そんな機能は本来備わっていない。いや、正確にはそういった活動自体があり得ない事なのだ。
マルドゥークを再現し、禁断を詰め込んだ空洞の神。それがアプスーという、マリスが手掛けた神であったはず。
それが、自身を庇った。その事実を、把握し受け止めきれないカルデアス。
〈天体は空洞なり。そして、虚空には神ありき〉
ある種呆然とするマリスに対し、同型機…或いは姉妹機が如きプレシャス・カルデアスが問いかける。
〈しかし、この彩りに満ちた世界において。完璧に空洞、空虚でいられるような存在がどれ程いるのでしょうか〉
プレシャス・カルデアスは語る。自身と同じ、それでも異なる『もしも』である自身に向けて。
〈様々な世界のあらゆる全てに触れて、生き物は色彩を得ていく。そうして星は、輝く天体へと姿形を変えていく。それは私も、あなたも、同じ事なのです〉
【…何を言っているのです。私には、そのような…】
〈貴方の作ったアプスーが、その証拠です。貴方が複製しただけだと思っていた厄災の神は、今確かに貴方を救ったではありませんか〉
マルドゥークの写し身、アプスー。それがなくば、マリスは撃ち抜かれ滅び去っていた。
〈私には、マリスビリーの理念がよく解っていませんでした。というか、今もマリスビリーの思想自体を理解できているとは言えません。あなたも、同じでしょう〉
【……】
〈世界を良くし、誰かを助けられる力を持ちながら、空っぽであり続けなくてはならない。私には少なくとも、そんな生き方は出来ないと…したくないと、思ってしまいました。ルシファー様や天使たちの皆様も、きっとそう〉
そこに意志がある限り、きっと空っぽのままではいられないのだと、プレアは説く。
〈この世界に在るかぎり、私達は誰かを尊重し、影響を受け、変わっていく。善き方にも、悪い方にも。それはきっと、マリスビリーの理想の真意を見据える事にも繋がる筈〉
【…………】
〈『中身など関係ない。他人を他人であるがまま受け入れられたらいい』。魔術師という性根が狂った存在のフィルターを取り払えば…恐らく、そういう事なのではないのでしょうか〉
マリスが顔を上げる。プレアは微笑んでいた。
〈私は、カルデアの皆様からそういった答えを学びました。性別も種族も違う人や存在が、共に学び、受け入れ合い高め合う。そうする事で、宇宙を揺るがす奇跡を起こしてきた。それこそが、真理とでも言うかのように〉
そして、それは決して間違いなどではない。プレアは確信を以て告げる。
〈私も変われたのです。ならあなたも変われない道理はない。お互いに、隣人たる星としての成長を果たせる。自身の輝きを、世界の全てを照らす道標としたルシファー様のように〉
シンデレラ…否、共にあるルシファーが、静かに頷く。
〈アプスーの元は、英雄神マルドゥーク。あらゆる神を上回りながら、後に生きる全ての為に世を去ったかの神を複製した神。そんな存在が、ただ破壊のみに生きる空虚なる存在であるはずがない〉
そう。宿した器が、やがてなにものでもない何かを産み出す。
〈空虚であれとされた星が、自意識を持って何かを成す。そんな奇跡に比べれば…必然とも言うべき結果であるとは、思いませんか?〉
【アプスー…】
アプスーの腕は、何も応えない。損傷を受けながらも、甚大な被害を負いながらも、マリスに反抗する素振りは見せない。
それはまるで、見守っているかのようだ。哀れで、愚かでありながら…
決して見捨てることのできぬ、肉親を見守るように。
〈私達は偽神を討ち果たします。そして、宇宙の意志も乗り越えてみせる。王と姫の旅路は、それから始まるのですから〉
その為にも、マリス・カルデアスには…
〈あなたも、せめて滅ぼされる悪などでなく。競い合うライバルのような存在になってはもらえないでしょうか?〉
悪意に満ちたラーニングを止め、もっと爽やかで、後腐れないような関係であってほしい。
自身らは相容れずとも、相容れないままにあり、そして互いを理解しながら共に生きていける。
不倶戴天、滅ぼすだけの存在ではない、きっと新しい関係性を模索する事だってできるのだと。
〈同じ同型機として、あなたがこのまま宇宙の恥として愚行を晒し続けていくのは、私としても耐え難いので〉
やや、棘のある言葉を差し込みながらも…。
〈あなたを庇ってくれた、神の真意から。ラーニングを始めてはみませんか?〉
【…………】
あれほど、自身の醜態に怒りを見せていた筈なのに。
アプスーの、不明な誤作動を受けて。何か希望を見出したとでも言いたげなプレシャス・カルデアスの態度に思うところを見せつつも。
自身すら、予測しようも無かった事態が起きているのは間違いない。
クイーン・リリスが討ち果たされるということも。
自身がアプスーに護られる事も。何もかも予測できなかった。
自身に何が起こっているのか。
これから、何をどうすればいいのか。
それを演算、予測する必要が、あるのかもしれない。
【………私は……】
アプスーは何も言わず、佇んでいる。
自身は、果たして…どこを目指すべきなのか。
そう、アプスーに向けて示そうとした───
その時であった。
【───我が力、徒に弄ぶに飽き足らず…よもや土を付けられようとは…!】
『!!』
シンデレラ…
否、ルシファーが弾かれたように反応する。
『────おお、我が星よ。惑う事なかれ。迷う事なかれ』
そして同時に…
【その醜態、その愚行───死して贖え!!】
『おぞましき大罪…──神に仇なせし拳を齎せし愚者に裁きを』
空間に、それぞれの裁きが下る。
【─────】
一つは、マリス・カルデアスに撃ち放たれし【禁断の意志】。
一つは『神殺しの拳』を再現した事による神の裁き。
それぞれが、この宇宙の果ての空間にて──
一瞬にて、放たれた。
そして、それらはそれぞれの結末をみる。
マリス・カルデアス【─────!!】
マリス・カルデアスを庇う、アプスーの腕。
マリス【アプスー…!!】
シンデレラ『────くうっ…!』
マルクト{───!}
マルクトを庇う、シンデレラとルシファー。
宇宙の果てにおいて…
星達の命運が、問われようとしていた。