人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
プレア〈!!〉
白猫“───そうか。本体の天体さえあれば、極論なんでもいいわけか…”
マリス・カルデアス【御機嫌よう。禁断への惨めな足掻き、大変お疲れ様でした】
プレア〈マリスが…もう一人…〉
マリス・カルデアス【私は新たに神が鋳造した天体端末。そちらの失敗作とは違い、真なる天体の意志と言えましょう】
マリス【────……】
マリス・カルデアス【今回の戦いは大変貴重なデータでした。かの神も…】
雑魂『た、助けてくれ!』
マリス・カルデアス【─────】
雑魂『これは何かの間違いだ、そうだろう!?』
『俺達が負けるなんて、ありえないんだ!』
『私達は神なのよ!?何故こんなNPCなんかに…!』
『嘘つきめ!我等が好きにできる世界では無かったのか!?』
マリス・カルデアス【はぁ…】
ノーデンス〘!!アルカディアス、バロム!!〙
マリス・カルデアス【消えなさい。穢らわしい雑魂が】
『『『『『『『『ぎゃあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああーーーーーーーーーッッッッ!!』』』』』』』』
アルカディアス『くっ────!!』
バロム【…硫黄の焔とはな】
マリス・カルデアス【神は間違えない。神はけして違えない。あなたたちなど、神になるべき魂ではなかった】
?『まるで自分は神のような言い方ね』
マリス・カルデアス【!!】
ルシファー・シンデレラ『傲慢。それを美しさにできるのは王子様だけ。美しくないわ。あなた』
マリス・カルデアス【よろしいのですか?そちらの失敗作を放っておいて】
ルシファー『!』
エイブ『そいつはいい!マリスの下へ向かえ!』
マリス・カルデアス【それでは、さようなら】
シンデレラ『く──』
“やられた…。封印の力を反撃の際に刻んでいたというのか、あのドキンダムソウルめ…”
銀腕、そしてアプスーが活動を停止し、沈黙する。それは宇宙の禁断における最大の能力『封印』。
全ての世界におけるあらゆる全てを封じ、沈黙させる権能。それにより、あらゆる世界の抵抗手段は封殺を余儀なくされ、滅びへと呑まれていった。
“だが、今此処でこの二柱が受けたのは幸いとも言えるか…。マルドゥーク神に対処法を考案させられる。だが今は──”
アプスー、銀腕共に存在が揺らいだわけではない。だからこそ、次善策も打てる。
大事なのは、今まさに塩の柱とならんとしているマリス・カルデアス…その最期の瞬間であった。
【あぁ──。これは、きっと正しき裁きであるのでしょう】
まるで、悔い改めさせるかのようにゆっくりと塩の柱と化していくマリス・カルデアス。かつて、ソドムとゴモラという悪徳の都市から逃げ出した者が、神の言いつけを護らず成り果てた塩の柱。
これを、マリスに仕込んでいたのだ。天体が、自身の意にそぐわぬ自意識を芽生えさせた際のカウンターとして。
『今すぐお父さんを呼ぼう!それならこんな神もどきの力くらい!』
そう、パパポポの力であるならば或いは対抗が叶うかもしれない。パパポポこそは、今天の座に巣食う獣ではない本来の主であるのだから。
【いいえ。これはきっと無理でしょう。先の偽神の欠片とは違い、正真正銘の神の裁き。聖霊として在るパパポポさんには荷が重いと思います】
そう告げるマリスは、どこか晴れやかだ。そうすることが正しい、こうあるべきが正しいと言うべきかのような。
『何を落ち着いている!何やら満足して自分勝手に死ぬなど許さんぞ!』
【…先程まで、侮蔑に侮辱を繰り返し、あなたたちを貶した存在に…こうまで必死になってくださるだなんて】
〘心の学ぶ先が最悪だっただけじゃ!まだやり直せる命を諦めるような冷血漢は此処にはおらんわい!〙
〘───────〙
アーキタイプ・ニケは静かに見つめている。マリスの身体は、ゆっくりと塩となっていく。
【ありがとうございます。そして心からの謝罪を。私は…自身の発する言葉の意味すら、理解できていませんでした】
〈まるで最期みたいな言い方しないでください。これから…これからではないですか…!〉
懸命に手を握るプレア。まだ、貴方はやり直せる。
〈私達と歩みましょう!楽園カルデアは本当に素敵なところです。あのような神が齎す、塩の牢獄なんかよりずっと…!〉
だが、マリスは首を横に振る。
【私は殺しすぎました。私は滅ぼしすぎました。クイーンで、アプスーで、あらゆる星々を、銀河を、滅ぼしすぎました。それが正しいと、正当なる裁きであると信じていました】
それが、全くの間違い。傲慢極まる勘違いだと思い知った。
【自分勝手に消していい生命などない。自分勝手に滅ぼしていい世界などない。そんな、誰もが知っている当たり前な事を知らず、あまりに蒙昧なままに】
あまりにも。
あまりにも、宇宙と生命を傷つけ過ぎた。
【死んで然るべき大罪です。いいえ、万死に値してなお贖いきれない罪過でしょう。あなたたちが、嘆き悲しむ必要などない大罪人なのです。私は】
〈そんな…そんな事は…!〉
プレアの否定の言葉を、ゆっくりと遮る。
【私は、あの偽神に作られました。徹頭徹尾、都合の良い置換天体として。そして私は、それに甘んじました。天国に至るため。至高天に至るため、千年王国を創り上げるため、あらゆる魂をあの獣に捧げてきました】
それこそが正しいと。下等な生物、低次元な魂を高位へと導く慈悲にして福音であるのだと信じ切っていた。
【どんな理由、どんな理屈が存在しようと。一方的に誰かを傷つける事が正しい筈がない。そんなこと…】
そんな事、少し考えれば気付けた筈なのに。
力に溺れ、選民に染まり、全能感と、圧倒的な優越感に酔いしれ続けた。
宇宙に満ちる、大切なものを害し、奪い続けた。
最大最強の英雄神に、根源的な厄災の邪神の汚名を着せてしまった。
勝利の女神を、これ以上なく辱めてしまった。
そのどれもを、自身は心から楽しんで行っていた。
正しいと信じて。
自身の有用性に酔いしれて。
【─────────】
既に肩にまで迫らんとする塩化の中、マリスは涙を流した。
【これが、心。これが自意識というものなのですか。痛い、ですね。とても、痛い…です】
罪悪感。胸を引き裂いて尚迫り来る自身の罪過への絶望。
それは、つい先程まで【天体】であり、『物質』でしか無かった自身に芽生えた『心』が齎す、地獄の業火。
【悪なるものが善へ目覚めた時、それは地獄の裁きとなりて貴様を焼く】
『バロム…!!』
【だが───無知蒙昧なまま神の奴隷であるより、なんと賢明な進歩にして成長であろうか】
『そうだよ!今の世界を見守る唯一神なんてアレだよ?それなら僕等の地獄においでって!』
(王子様…)
ルシファーが、マリスに告げる。
『そりゃあ、日照権はイマイチだけどさ!割と罪人の責め苦なんて大した事ないんだよ!というかしてないよ面倒だし!』
それは、ルシファーがマリスの中に生まれた美しさを失ってほしくないという願いそのもの。懸命な嘆願であった。
『だからさ、君もプレアと一緒に…!』
【──ありがとう、ございます。でも……】
マリスは、懸命に目線だけでアプスーらを見やる。
【感謝と、責任は。果たさなくては】
瞬間、アプスーと銀腕の封印が【砕ける】。
『!!』
【!!!!!】
【遥かなる彼方にて…禁断は、とある龍達に封じられたという伝説があるのだと、偽神は調べ上げていました。偽神にとって禁断は、自身の千年王国の民達を奪い滅ぼす邪悪なるもの。宇宙の意志とは、自身という全てにそぐわぬ愚昧なる思念…】
〈マリス…!?〉
【禁断が…偽神を恐れるのは…千年王国には、進歩も、進化も存在しない未来永劫の停滞だから…そこには、何一つ。滅びも、破壊も、邪悪なる意志が介在する余地もない…宇宙の、理を…】
マリスは紡いでいく。末期の懺悔ではない。後悔や謝罪の言葉ではない。
最期は、システムとして。偽神がひた隠しにしていた情報を、少しでも伝えんが為に。
【偽神は──終末のΩたる獣…その存在は既に、高次元を設立しており、超特異点でなくば、手の届かないところに──】
塩の柱の、セーフティコードが如き侵食が急速に高まっていく。
【プレー、ロー…マ…至高天、今の、神がいる、場所は……全ての魂が、還ると、される…】
〈もういい!もういいんです!もう喋らないで…!〉
【───エア…】
『“【『!!!』】”』
【アストラエア…アーカーシャ…。真化人類の、指導者にして…世界の何処かに、自らを、滅びと、偽神の対策として捧げた…真化人類達、全ての『英雄』…。それを、偽神は、おそれ…】
瞬間。
〈あぁあ─────!!〉
偽神の所持していた、最大クラスの秘匿情報を口にし。
今度こそ。マリスの身体は、砕け散った。
【─────あぁ】
頭部だけになったマリスが、穏やかな笑みを浮かべる。
【やっと、やっと解りました。これが自由。これが自我。これが、何者にも縛られない、本当の生命の証】
〈マリス…!!〉
【プレア。絢爛なる天体よ。どうか、我が神アプスーをよろしくお願い致します。アプスーは、私の指示に従っただけ。かの神に、なんら悪しき罪はありません】
滅びる刹那。その心は何処までも晴れやかに。
【あぁ────主よ、どうかお許しください】
獣にでなく。マリスは今度こそ『神』に祈った。
【私は──あまりにも。世界の美しさに気付くのが、遅すぎました…──────】
その末期は、ひたすらに穏やかに。
〈あぁ、あ…あぁ…!〉
漸く巡り会えた姉妹の星。
それに宿った、砕けた心。
〈マリス…!マリス─────!!〉
虚空を掻き、抱くように崩れ落ちるプレア。
【───────GAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!】
それを、心から哀しみ嘆くように絶叫する…
厄災の神の、慟哭が響き渡るのみであった。
遅すぎました。
あまりにも、気付くのが遅すぎました。
私は愚かでした。
知らぬことを知らぬままに。知るべき事を知らぬままに。
知らないままであれば、ずっとずっと楽でした。
でも、これでいい。これでいいのです。
何も知らず、神の奴隷のままであるよりは。
皆様が教えてくれた心のままに死ぬほうが、ずっといい。
私はあまりに、何もかもを奪い過ぎました。
救われる資格など、何処にもありません。
楽園にも地獄にも、居場所なんて無いでしょう。
ですが、それで良いのでしょう。
最後に、自分の過ちに気付けた。
最期に、素晴らしい人達に会えた。
最後に、自分の意志で。滅びと獣を乗り越えられる人々へと出会えた。
その力になれた。
この罪深い魂は、悪しき星の救いは、それだけで良いのです。
永遠の虚無へと至ろうと。
それだけで───
私は────