人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
作者が誕生日を迎えました。
人生かけて作品は完結させます!
マリス【─────?】
マリスは、目を覚ました。
そこは、宇宙ではない。
深淵より暗き空、絶え間なく響き渡る天雷と噴火の轟音。
生命の息吹など微塵も感じられない、まさに──
マリス【地獄…】
そう形容する他無い、末世の絶望の具現。
【お?なんだ、珍しいのが落ちてきたじゃねぇの】
そこには───
マリス【…アンリ・マユ…この世全ての悪…】
アンリマユ【なんだ、知ってるのかよ?俺のファンかい?】
この世全ての悪が、待ち構えていた。
【挿絵表示】
【ここは…地獄、なのですか?】
先に、塩の柱となって砕け散ったマリス。その生命は完全に砕け消え去った筈だった。
しかし、超特異点において密かに…そう、秘密裏に形成されている空間、固有結界にも近しき領域があり、そこにマリスは紛れ込んだのだ。
目の前のあまりにも、あまりにも巨大なる悪神にマリスは呆然と、ある意味で夢心地で問いかける。
【地獄、ってのはちょいと違うな。そもそも地獄なんてもんは後世の創作だよ。死の本質、死んだら全て無に還るって道理を厭った後世の連中のな】
気持ちは解るがねぇ、と悪神はケラケラ笑う。
【此処はオレ…悪神アンリマユの固有結界にして生誕の地。物質世界にオレが産まれる前の土壌…まぁあの金ピカ王様風に言えば、【地獄】のアーキタイプ。原典ってやつだ】
この、一切の希望が微塵も介在しないような窮極の絶望の地。それこそが、アンリマユの故郷であるという。マリスは、息を呑んだ。
【それで?こんなペンペン草も望めねぇ地獄になんの用だい?見たところ、そんな悪辣外道の魂にゃ見えませんが】
マリスに語りかける悪神は、気安くあるがその神威は絶大だ。目の前にあるだけで、次の瞬間全てが吹き飛び、砕け散ってしまうかのような恐ろしさがある。
【私は…ここに相応しい魂です】
【ほぉ?】
【私は…宇宙を、生命を、殺しすぎました】
そして悪神に、マリスは告解する。自身の罪、自身の行い、自身の全ての過ちを。
あらゆるものを殺した。あらゆるものを滅ぼした。そしてそれらが、取り返しのつかない罪だと知った。
だから、永劫の罰こそがこの身に相応しいと。悪神に包み隠さず伝え、懺悔した。
【─────────………】
悪神は、黙ってそれを聞いていた。マリスの心のままに吐露されるそれを、真摯に。
【はぁ、はぁ…はぁ…】
果たしてそれはどれ程の時間が経っていたか。やがて、マリスが一息付いて顔を上げる。
【だから…だから、どうか、どうか私を…裁いてください】
上げた顔は、涙と後悔…そして、苦悶に満ちていた。
【私は、神を騙る獣に自身を売り渡した、大罪人なのです】
悪神は組んでいた腕を、ゆっくりと解く。
【成る程ね、よーく解った】
悪神が腕を、振り上げる。
【それじゃあ───裁いてやるよ。マリスちゃん】
【───!!】
その腕は、星の如き巨大な手はマリスに振り下ろされ──。
【……、え…?】
マリスの目の前に、差し出されていた。
【さっさと乗りな。地上に返してやるからよ】
悪神はあっけらかんとそう告げる。
【お前さんの罪とやらは、死んだくらいでチャラにならねぇよ。あの地獄よりも地獄な現世で、とっととカルマ清算してきな】
【なっ───】
【気まずいよなぁ?恥ずかしいよなぁ?あんな今生の別れみたいなセリフを吐いといて、今更楽園にノコノコ協力しにいくなんてよ。オレなら恥ずかしくてとてもとても!あー、生き恥ってやつだなぁ!ヒャハハハハハハハ!】
悪神の言葉に、困惑と恥辱の混じった表情を浮かべるマリス。
【で!ですから私は大罪人で!地獄に落ちるべき大罪人で───ッ!?】
瞬間、悪神の腕がマリスを鷲掴みにした。その巨大な腕の力は、世界の摂理の如くに重い。
【あんまり地獄を舐めるんじゃねえぞ、クソガキ】
先程とは打ってかわり、その声音には冷徹と威厳が満ち溢れていた。それはまさに、神の如く。
【傲慢、暴食、憤怒、怠惰、色欲、嫉妬、強欲。オレから言わせりゃどいつもこいつも下らねぇ。イチイチ誰かが誰かを殺した程度に地獄なんぞに落ちるわけねぇだろ】
【え───】
【命を奪う、何かを滅ぼすなんて全ての生命がやってんだよ。そいつが多いか少ないかなんて些細な事だ。夏場にプンプンウゼェ蚊を潰したら地獄行きか?笑わせんなよ】
ギリギリと、悪神はマリスの勘違いを糺す。
【教えといてやる。地獄に落ちる魂ってのはな。どんな事をしても反省しねぇ。悪くも思わねぇ。自分の事を微塵も悔やまねぇような救いのねぇカスの事を言うんだよ。そういうのの為にこの地獄はあり、そういう魂を未来永劫弄ぶ為にオレがいるんだ】
【……無慙、無愧…】
恥じず、悔いず、自身を悪いと微塵も思わない。
それこそが、七つの大罪を越える究極の罪。
それを裁き、永遠の責め苦を与える為にのみ地獄はある。
【そんなオレの前で、宇宙を滅ぼしました〜。いっぱい殺しちゃいました〜。反省してます裁いてください〜だぁ?オレは暇じゃねぇんだ。テメェのプリチーなケツくらいテメェで拭けや!】
空間を震わす咆哮。
しかしそれは、マリスの心情に寄り添ったもの。
【では…では私は、どうすれば…】
マリスは、悪神の前で声を殺して涙する。
【あ?んなもんも分からねぇのか。決まってんだろ】
悪神は、手を離す。
【偽神を殺せ。この世界を騒がせてるあの神モドキをぶっ殺せ。どんな手段を使おうが、どんだけ時間がかかろうがな】
【!!】
【奪ったもんに報いてぇなら、奪ったもんと同じくらいのもんを救い、そして奪い続けているモンを止めろ。テメェの償いってのは、そういうもんだろ】
【わ、私は…】
【死んで楽になれると思うなよ?奪ったもんに報いたいと願ったんなら、テメェはこれから一生奪ったもんに縛られていく。悪党の狗にはお似合いの末路じゃねぇか】
ケラケラと笑い、天を指す。
【だがまぁ、見た感じお前さんにはまだまだ救いがある。聞こえるだろ?お前さんを望む声がよ。地獄に来る魂には、あり得ない声だぜ】
その先には、地獄の闇を切り裂く光がマリスに暖かく振り注いでいた。
【アイツらと力を合わせるのをオススメするぜ。テメェの償いは、宇宙まるごと救わなきゃ釣り合わねぇ。幸いな事に、アイツらはそいつを楽しんでやり遂げようとする筈だ。相乗りしちまえよ、どうせなら】
【わ、私にプレアや、プレアの仲間たちと共に…?で、できません!】
【何でだ】
【あまりにも、あまりにも無礼や狼藉を働きすぎました!今更、どんな顔で…!】
【出来ないか?】
【出来ません!】
それに対し、悪神は嗤う。
【じゃあ死ぬ気でやりな。どっかの偉くてめちゃくちゃ強い先生が言ってたぜ?『できるわけがない、やれるわけが無いことをやる。人はそれを償いと呼ぶ』ってな】
【!!!】
【テメェの都合や心境なんぞ知った事かよ。償いが、罰が、免罪符が必要だってんなら、テメェが死ぬ気でソイツを掴むしかねぇんだ。テメェの罪を許す免罪符の発行場所は…】
トン、と、優しく悪神はマリスの胸を突く。
【そこにしかねぇ。自分に免罪符を発行してやれるその日まで。精々恥かいてベソかきながら頑張りな】
【アンリ、マユ…様…】
【この地獄は、とびきりの1×那由多無量大数様の御予約が入ってる。テメェなんぞのスペース…】
いや、とアンリマユが言い直す。
【────そもそも、誰のスペースもねぇよ。悪であれ善であれ、その生命を駆け抜けたんなら。死んだ後にとやかく言える筈もねぇやな。そういうのは、ローカルの地方裁判所にお任せするわ】
マリスが、ゆっくりと昇天していく。
【あ、あっ…!アンリマユ様…!】
【じゃあな。二度とガキの反省にオレを付き合わせるんじゃねぇぞ。オレは今美少女高校生に転生して世界を救うロールプレイングゲームで忙しいんだからよ】
【私は、私は────!!】
【ただの天体のスケールモデルが死ぬわけねぇだろ。そういうのは壊れたっていうんだ。んで、モノが死ぬわけねぇ。つまり…】
地獄の底から、悪神が穏やかにマリスを見送る。
【テメェはもう生きてんだよ。せっかく産まれたモン、もう二度と雑に投げ捨てるんじゃねぇぞ】
【───────!!!】
【アイツらに言っとけ!!地獄なんぞそうそう落ちれやしねぇ、ハメ外しすぎない程度に人生は楽しめってな!ヒャハハハハハハハ────!!】
哄笑と共に見送られ。
マリスの魂は、地獄より弾き出される事となった。
悪龍【良かったの?】
悪神【あん?】
悪龍【その気になれば、頭をかっぴらいて全部情報抜けた】
悪神【そんな悪いこと考えちゃいけません】
悪龍【反省】
悪神【なぁに、無慙無愧なままだったらそうしたさ。だがチョロい事に、産まれた心を愛したお人好しがたくさんいて…何より【必要悪】からのお達しもあったんでな】
悪龍【世話焼き。だからキラナに懐かれた】
悪神【うるせぇ。性分なんだよ。ただまぁ──】
【───生まれたばかりの何かってのは、優しく抱き上げて見守ってやるもんだろうが。それが赤子でも、心でもよ】