人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
『私も、新しき力を手にするべきだと思うのだ』
夕刻、別次元にて。数多のチョコエネミーを始末し尽くしたヘラクレスがアキレウスにふとそう零した。
「新しき力ぁ?イアソン辺りが聞いたら卒倒か憤慨するんじゃねぇか?『お前のどこにそんなもの望む余地がある!?ほしがりさんめ!』ってな」
『ありありと目に浮かぶな。しかし、これは切実な問題でもあるのだアキレウス』
彼はヘラクレス。押しも押されぬ大英雄にして不撓不屈。忍耐の究極たる存在。
バーサーカーですら戦慄と武勇を巻き起こす絶対者でありながら、今のヘラクレスは最強のアーチャー。ギルガメッシュを除いて、騎士王とクー・フーリンに連なる楽園最強のサーヴァントだ。
『クー・フーリンは…キャスタークラスでもあるだろう』
クー・フーリン。ヘラクレスと肩を並べるに相応しい押しも押されぬクランの猛犬。
武勇は言わずもがな、そのルーン魔術の冴えはキャスタークラスにすら適性を持つ。槍がねぇと本調子じゃねぇとは本人の談だが、ヘラクレスからしてみれば十分に過ぎた。
「おー、確かにめちゃくちゃ器用だよな。アルスターは皆ああなのかね?」
「私もキャスターになりたいのだ」
「おー…………────は?」
突拍子も現実味もない発言に、最速の英雄のレスポンスが遅れる。
キャスター。魔術師のクラス。陣地工房を生成し、敵を欺き魔力を扱うクラス。
当然ながらマキリアインツベルン遠坂のインチキ出来レースの為セイバーランサーアーチャーには対魔力が搭載されており、メディアクラスの神代の魔術師かソロモンレベルの超絶ランクのグランドサーヴァントでもなければ聖杯戦争にて呼び出すクラスとしては自殺行為なクラス。
しかし。ソロモンのように何事にも例外がある。何を隠そうこのヘラクレスはキャスタークラス『のみ』を所有していない。
マルミアドワーズを振り回す豪快なセイバー。
冒険家として最大適正なアーチャー。
アマゾネスが子を願うゼウスの血を齎すランサー。
密かに忍び寄るしかなかった鹿捕まえのアサシン。
ケルベロスを締め上げ乗りこなしたライダー。
はいはいヘラのせいヘラのせいなバーサーカー。
これほどの武芸百般を究め尽くしたヘラクレスですら、彼には『魔術師』のクラスの資格を有していないのである。
しかしそれも宜なるかな、といったところであろう。
彼が作ったのは栄光と怪物の死体の山のみ。ポーションの一つ試しに作ってみたことすらないのだから。伝承という伝承に残ろうはずもないのだ。
「星に願いでも捧げてみたらどうだ?オレたちに足りないのはそういうロマンチックさなんじゃないのかね」
「星座か…」
カルデアに来て、さまざまな星座や来歴を調べ上げた。しし座や蟹座、射手座の由来…
「被害者とトラウマしか空に浮かんでいないことに気付いてしまった時の事を思い出してしまった…」
ゼウス達の確執や被害者、気付かずに踏み潰された蟹といった大体被害者の会たる空の絢爛な星に遠い目をもたらすヘラクレス。
しし座は彼が絞め落としたネメアの獅子、蟹座はヘラクレスが踏み潰した蟹。そんなんばっかの展覧会となっている。
『お星さまになったのよ、とは言うが。大抵天に返した側であった事に気付いたのだ。祈る最中でな』
「祈りはしたんだな…変なとこで真面目、いや天然だなアンタ…」
それにしても、アキレウスは告げる。
「夏休みデビュー、ってのがリッカの時代にはあるみたいだが…アンタもその口か?」
『知恵と力を引き継いで冒険をやり直したいとは常日頃から考えているが』
「ヘラクレスだもんなぁ…。まぁソイツはともかく。アンタなりの心変わりか、それとも自己啓発でもしたのかい?」
アキレウスの言葉に、ヘラクレスは空を見上げる。
『大英雄、英霊の頂点と呼ばれ私は久しい。事実、そうであるという自覚もある』
「イヤミにも聞こえねえよ。アンタが言うとな」
ちなみにギリシャで最高の英雄は?と聞くと、ヘラクレス1位を前提とした2位決定戦が始まるとか何とか。
『……店長も、我が弟子もそうだが。今、彼女達は今よりも善い自身、善い自分を掴もうと懸命に挑んでいるだろう』
じゃんぬはスペシャルなスイーツを手掛けるパティシエとして。
リッカは戦いの中以外でも輝きを放てるよう、絢爛な女子として。
いまの自身に納得することなく、懸命に足掻いている。
『私はそういった、自身を磨く戦いや旅というものはしてこなかった。全てが償いであり贖いであったからだ』
「の割には馬小屋掃除の時見返り要求してたよなアンタ」
『その話はやめよう。…ともあれ、その在り方が私には尊く映ったのだ』
そう。サーヴァントとは人理の影法師。よほどのことが無ければ成長や進化するなどあり得ない。
だが、じゃんぬ店長に然り、リッカに然り。何より敵対者たるメイヴに然り。
それぞれが理屈めいた今ではなく、懸命に未来に変わってみせようと足掻いているのだ。
その輝きこそは、あらゆる栄光も試練も及ばぬ輝きであるとヘラクレスは確信を懐いた。
今に甘んじず、懸命に生きる事にサーヴァントや生身など変わりはない。
生命は、よりよい方向に変わっていけるのだ。であれば…
インテリな魔術師になるくらい、自身にだって出来るはずだ。
「ギルガメッシュといい、キャスターって流行ってんのか?」
アキレウスに関してはそういった悩みや迷いすら振り切った流星のような生き方をしてきたため、今回のヘラクレスへの共感は薄めだ。
「アルトリアにばかり別クラス制覇を許すわけにはいかん。何とかして手がかりを探し…」
自身にさらなる霊基の変化を願うヘラクレス。
しかし、そこは隔離された空間であるのだ。そのようなチャンスは安々と降りてくるものではない。
例えどれほど神の血が濃かろうと、定められた座の刻限を上回る事はそうない。
…そう、ないはずだった。
『あ、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが』
それは、極めて軽い挨拶にて齎される。
「誰だ!?いつから!?」
アキレウス、ヘラクレスが警戒するも。
『いやいや、自分は未熟者だから戦ったりしないよ』
その男は、静かにスポーツラフの格好をしている。トレーニングコースから外れでもしたのだろうか。
『何もしないですって!聞きたいことがあるんですよ』
その青年は静かに、言葉を紡ぐ。
『ここは超特異点、太陽系第三惑星地球であることには間違いないかな?』
「ッッ…!」
余りにも自然体すぎる、目の前の存在。
だが、余りにも知りすぎている。
「まずは名乗りな。敵対者かどうかをはっきりさせる」
アキレウスが油断なく槍の穂先を向け威嚇する。
『フフ、流石は超特異点。さまざまな可能性がもうごっちゃごちゃだ』
そして、男は名乗る。
『オレは白野。岸波白野、故あって…宇宙の管理をしているよ』
その青年は…
驚愕の事実を、口にした
『或いはこういったほうが良いかな?』
ブラフマー『創造神ブラフマー。その擬似サーヴァントだってさ』
アキレウス「ブラフマー?誰だよそいつは!」
ブラフマー『───────やっぱり』
ヘラクレス『?』
『やっぱり、あの二柱に比べられちゃなぁ…』
ヘラクレス『貴様…?』
ブラフマーを名乗る少年は…
なんと、凹んでいた。