人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
『私の望むこと。私にもたらされる祝福、か…』
ブラフマーが認めた『この世で最も苦しんだもの』。大英雄、ヘラクレスに齎されるというブラフマーの祝福。
『あぁ。君にはその資格があるよ。ブラフマーも、勿論オレ自身もそう信じている』
ヘラクレス。不撓不屈の大英雄、全ての英雄の頂点。『全ての英雄達の王』たる英雄王とは異なれど、紛れもなく究極の存在。
しかしその生は忍耐と贖罪、苦難に満ち溢れたものだ。波の英雄が一つ打ち立てれば永劫讃えられる難行を、十二も成し遂げた究極の大英雄。
ならばこそ、その魂と想いには報いがあってほしい。宇宙の創造神、ブラフマーは岸波白野を通して彼に告げたのだ。
『そうか…。我が人生、インドの果てまで届いていたという事実。面映ゆくもあるが…光栄と言うべきなのだろうな』
ヘラクレスがやや、照れたように笑いながら自省する。自分も、遠いところに来たものだと。
「いいんじゃねぇか?アンタが自分の願いを叶えたって、文句を言う奴は何処にもいねぇよ」
アキレウスは嫉妬や羨望とは無縁の存在だ。ヘラクレスが今まさに神の祝福を受け取ろうとしているところを、朗らかに笑いながら迎え入れている。
『ふむ…』
ヘラクレスは思い悩む。
ただでさえ今の自分は、バーサーカーの霊基から数多のバックアップを受けアーチャーとして霊基を変化させた身だ。
更にこの身には夏草の寺より譲り受けたセイバーの霊基が存在する。金狼の力を受けし、セイバーの自身。
セイバーにアーチャー。三騎士の2角の力を受け入れたこの身に、さらなる祝福を受けようとすれば…それは一体何が相応しいのか?
『なら、キャスターの霊基を貰っちゃえばいいんじゃないですか?』
カピバラの着ぐるみを着用したカーマが、いそいそとホワイトボードを片付けながらヘラクレスへと告げる。
『キャスターになってみたい。まぁあなたみたいな筋肉ダルマが目指すようなクラスではないんですけど…。今はバカンス。バカな真似、上等でしょう?』
カーマは、大英雄の願いも肯定する。
『それに、インドには貴方を元にした神もいるとかいないとか。それならこちらも、パクリ返してやればいいんですよ』
『…そうか。許されるのだな』
これもまた一夏の危うい冒険、アバンチュールというものか。ヘラクレスはニヒルに笑い、ブラフマーへと向き直る。
『では告げよう。我が名ヘラクレス。この身にキャスタークラスの霊基を望む』
『キャスタークラスの霊基か。本来君には無い逸話だけど素養が無いわけじゃない。師が大賢者ケイローンだしね』
「おうよ。ケイローン先生にできねぇことはないのさ!」
熱く語るアキレウスに頷き、ヘラクレスははっきりと自身の願いを告げる。
『そしてキャスタークラスの霊基である時は、我が身はヘラクレスではなく人の名、アルケイデスを名乗ろう』
「!オイ、そりゃあ…」
楽園には記録が集う。数多無数の世界の記録が。
当然ヘラクレスが変容した姿、復讐者たる【アルケイデス】の存在も確認されているのだ。
神の復讐を誓い、神の祝福を脱ぎ捨て人であった頃の自身の名、アルケイデス。それを、キャスターの際に名乗ろうという。
『フッ。案ずるな。復讐に堕した我が身の愚を犯そうという訳では無い』
しかし、ヘラクレスには自身の狙いがあった。
『私は思えば奪い、簒奪し、掠め取るだけの人生であった。栄光を、成果を、あらゆるものを簒奪してきた』
天津風の簒奪者。そう称する程にまで、ヘラクレスはあらゆるものを栄光として手にしてきた。
それは相違なく、奪い取ったに他ならない。
『あり得ざる可能性であるならば、私は師ケイローンのように齎すものでありたい。自身の人生にて得た成果を、逸話を、祝福を』
自身の逸話が昇華された宝具、十二の試練。
それをキャスターとして『誰かに付与することが出来るキャスターとなりたい』。
『今を賢明に生きるものに、自らの人生を捧ぐ。比喩ではなく、そういった魔術を行使する。その為に、ヘラの名は余分なのだ』
逸話や人生を第三者にて見つめるようなもの。
十二の試練も、十二の栄光も。宝具として他者に授けられるような魔術師に。
自身に真理に至る叡智はない。小手先の器用さはそれほど無い。
他者に示せる奇跡、魔術といえばやはり、自身には自身の人生しか無いのだから。
『なるほど。君はつまり、自身の人生を操るキャスターになりたいという事だね』
『そうだ。例えば我がマスターに『十二の栄光』を。または『十二の試練』を我が人生を魔術として捧げる事が出来たならば』
リッカの命を護る十二の試練。
リッカの力と成る十二の栄光。
そして、何よりも。
『大英雄として、簒奪してきた自身が他者に分け与える事が出来るのならば…それに勝る望みなど、果たしてあろうものか』
ヘラクレスは、そう告げた。
自身の人生は今更否定、改変できるものではない。
ならば、その人生そのものを魔術として振るう魔術師としての姿を。
『参ったな。祝福とは言ったけれど、君の人生に代替できるようなものはやっぱり見当たらなかったよ』
ブラフマーは申し訳なさげに告げる。
『だから申し訳ないけれど、君の要望をそのまま叶えるカタチで履行させてもらうよ。それでもいいかい?』
ヘラクレスは頷く。迷いなどない、そういう確信を以て。
『十二の試練は使い切り、十二の栄光は使い潰した。ならば次はヘラ、貴様の番だ』
ヘラクレスは確信する。
『貴様に振り回された我が人生の全て。貴様との確執で生まれた我が人生の全てを、我が魔術とさせてもらうぞ』
ヘラの神官など冗談ではない。故に、キャスターで名乗るはアルケイデスだ。
半神ではなく、人として。真理に至り、成長した賢王ギルガメッシュのように。
『解った。喜んで君の願いを叶えさせてもらうよ』
ブラフマーは頷き、ヘラクレスの霊基に祝福を施した。
『君が望む魔術師の霊基を。君が望む可能性の姿を。さぁ、今此処に示す時だ!』
高らかに叫び、ブラフマーはヘラクレスの身に祝福を齎す。
『─────』
ヘラクレスの身に、不思議な感覚が舞い降りる。それは自身の生涯が、自身の逸話が、自身の栄光が自らの手に収まり玉となっているかのような感覚。
「おぉ…!マジでキャスターになるってのか!」
輝き始めたヘラクレス達に、目を抑えながらアキレウスが感嘆する。
『隣の芝は青く見える…でもないですけど。不思議なものですねー』
誰もが憧れる頂点が、誰もが知らない一面を持つ。
簒奪者たる英雄ではなく、誰かに『授ける』ものを魔術師と、ヘラクレスは認識していたのだ。
それは、やはりケイローンの影響であるだろうか。彼にとっての魔術師は、矮小で下賤なものでなく。
破壊し、殺し、突き進む英雄の姿ではなく。
今もなお、駆け抜け続ける魔術師たちのように──
『ヘラクレス、否アルケイデスよ!ヴァジュラを杖として新たなる一面、新たなる側面アルケイデスを開眼せよ!』
それは、目指すに値する姿であったのだ。
…そしてやがて、ヘラクレスの霊基に新たなる一面が加わる。
『おぉ〜、馬子にも衣装ですね〜』
カーマがパチパチと感嘆と共に感想を送り。
「おぉ…アンタ割と似合うじゃねぇか!」
アキレウスが笑いながら手を叩く。
そこには──
『──解るぞ。今この身には、全く新しい可能性が芽生えている』
彼自身をモチーフとしたインドの神を彷彿させるかのような…
『これならば、人理の最先端を往く我が愛弟子の助けになれそうだ』
圧倒的な風格を備えし魔術師。
キャスター・アルケイデスがその場にへと降臨していたのだった。