人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(一週目では、皆が私のバカンスを護るために戦ってくれた。なら次は私の番!)
「よーし!!やるぞー!!…ん!?」
水着「お待たせ致しました、リッちゃん様!」
リッカ「おっっッッッ!!?」
クトゥーラ『ま、マスター!よろしくお願い致します!』
リッカ「おっ─────!?」
クトゥーラ『ま、マスター…?』
「────凄い!!」
夜の闇。深淵の時。そこには宇宙の深淵もまた芽吹き、光に生きる者たちを襲う。
それらを御し、返り討ちにして光溢れる世界のバカンスを護り抜く。今度はリッカが、皆のために。それこそが、リッカの戦いであった…のだが。
『リッちゃん様、此度の討伐はお任せ下さい。ニャルラトホテプの娘、夜のアルバイター狩人として万全のバックアップを、あなたに』
ナイアの出で立ちは、戦闘スタイルに水着姿を兼ね合わせたもの。棺桶を持ちロングコートを羽織ったという独特な衣装。
だが、その衣装がどんなものであれその圧倒的なスタイルの発露は水着である以上、制約があろう筈もなく。
『私はこの夏にて修行を行いました。ご覧ください。この様に蠱惑的な仕草や表情も、容易く』
くねりと腰を揺らし、ちゅっとリッカにナイアがセクシーな投げキッスを飛ばす。それはニャルラトホテプ曰く『油の切れた人形』とまで言われたナイアから想像出来ないほどに蠱惑的即ちセクシーであるもの。
「ウッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」
当然ながらリッカに莫大な効力を齎し甚大な被害を齎す。戦う前からバタリと左胸を抑え倒れ伏すリッカに慌ててクトゥーラは駆け寄る。
『い、一体何を!?マスターを倒してどうするのです!?』
『これはリッちゃん様への成長報告であり、大切な進歩報告なのですよクトゥーラ。XXにももう壊れたブリキ人形とは言わせません』
えっへん、と胸を張るナイアに対しリッカは倒れながらサムズアップを送る。
「よくぞ、よくぞここまで育ってくれました…天晴、本当に天晴ですハイ…」
『ま、マスター…?大丈夫なのですか、本当に…?』
「ぬっ!?」
美女の誘惑に倒されたと思えば、自身を介抱する存在もまた美女。しかも自身にはまだない気弱ながら気丈な献身的な姿勢を持つたおやかな淑女という属性を持つ美女。
「あ…」
しかもナイアの扇情的で蠱惑的なビキニとは違う、パレオを纏った貴賓なる令嬢といった全く違う魅力的な衣装。
『あ…?』
そんな邪神の宝石たちにゼロ距離で介抱されたり魅了を飛ばされたりすれば、彼女に耐えきれと言うは至難の業であり。
「ありがとうございます…久しぶりの、全面降伏でございました…」
『マスター!?』
『リッちゃんを無事昇天させることが出来ました。大成功ですね。やった!』
最大戦力の(自主的な)撃沈に、無邪気に喜ぶナイアと困惑と当惑を隠せないクトゥーラであった。
〜
「お見苦しいところをお見せしました…!こっからは真面目にやるよ!」
敵対者の前でいつまでも鼻を伸ばすわけにもいかない。リッカは気合を入れ直し自らの担当エリアにてナイアらと共に立つ。
「そういえばナイちゃん、XXはどったの?いてくれたらとても頼もしいし盤石だと思うんだけどなぁ」
『私も全く同じ気持ちです。しかし、声をかけたのですがすげなく断られてしまいました…』
失われたアーティファクトを手に入れ、再び私は新たなるヒロインとして覚醒する必要があります。具体的には邪神系を皆殺しにできるパワーを身につけたハイパーヒロインとして!
などと意味不明な供述を行いヒロインXXはブラックホールに消えた。邪神案件や宇宙の本能や生命の活動に負けぬパワーを手に入れるために。
『心配ではありますが、彼女が死ぬような未来などイメージ出来ません。ひょっこり帰ってくるのを適当に待つくらいが丁度良いでしょう』
長い付き合いだからこその、信頼から来る放逐宣言。リッカはナイアを信じそれ以上を追求せずクトゥーラへと向き直る。
『クトゥーラ、大丈夫?やれそう?』
『は、はい!私は父、クトゥルフに戦闘術を学びました。足手まといにはなりません!』
ニャルラトホテプにDNAレベルの改造と調整を受けたナイアとは対照的に、彼女の肉体は不老長寿以外の自己改造は全く受けていない。邪神譲りの頑強さを除けば、それは人類の範疇に過ぎないものだ。
「そっか。──ニャルパパとは違うけど、でも同じくらい愛されたんだね」
『えっ…?』
自身が改造されなかった理由。それをそっと推察し口にしたリッカに瞠目する。
「ニャルパパから聞いたよ。妻より先に娘を得た私と違い、妻との間に生まれた麗しい娘を改造するような歪んだ愛から、あなたは生まれてきてないって」
『ニャルラト、ホテプが…そのような事を…?』
かつてクトゥルフを敵対視し、貶めた不倶戴天の存在。
それが、クトゥルフとクトゥーラの親子関係をそう評価していたという事実にクトゥーラは瞠目する。
『はい。かつてはすべてを嘲笑い、貶め、破滅に導く宇宙規模の腐れ外道のクソ野郎だったのですが…楽園の皆様のお陰で、お父さんは素晴らしいダークヒーローへと真化なさったのです』
「うん!それにお父さんを攫われたままって事も、皆を歌声で助けてくれたって事も聞いたよ!」
クトゥーラに、リッカは手を差し出す。
「ありがとう!一緒に戦えて光栄だよ!楽しい思い出もお父さんも、全部取り返そうね!」
『ナイア…リッカ様…』
感激と共に、差し出された手を握らんとする。
『ありが───』
…その時だった。
【滅べ、生ある者よ…】
【進むは暗黒…それが運命…】
夜のハワイの虚空より、【それ】らは現れる。
「!」
『っ…!』
それらは、霊魂ともシャドウサーヴァントとも違う。それらは、そこにあるだけで、生命の摂理を【歪める】もの。
本来、数兆、那由多や不可思議の時を繰り返しながら滅びと新生を繰り返す筈である宇宙の意志の、死へ向かうものたる発露。
【全ては無意味…全ては無価値…】
【御座に在る獣にて、全ては終焉に向かう…】
それこそは、宇宙における負の側面、怨念や絶望といった暗部そのもの。
宇宙のバランスを崩している存在により世界に溢れ出しつつ在る【終焉を告げる予兆】そのものである。
そして、それらは光溢れる世界や生命を無作為に、無秩序に、無差別に飲み込まんとする。
それらを食い止める為には、生命の力と強さを以て乗り越え、宇宙に満ちる力を正の方面に向けて持っていくしかない。
即ち、始まっているのだ。『超特異点』たる時空と、偽神や宇宙が齎す【滅び】との世界の命運をかけた生存競争は。
そして当然、敗北すれば未来はない。超特異点が塗り潰されれば宇宙において希望は潰えるのだ。
全ての希望が備わるということは、敗北した瞬間全てが潰えるということ。
『っ……』
そののしかかるあまりの責任の重さと圧に、武器を握る手が震えるクトゥーラ。
「大丈夫だよ」
『!』
しかし、その震えと不安をそっとリッカが受け止める。
「一人で命運を背負う必要なんてないんだよ。貴方には世界がついてる。そこに生きる皆がついてる!」
リッカは笑い、クトゥーラの不安を和らげるためにサムズアップを見せる。
「今を生きる世界と、そこにいる皆は皆で護って救っていくんだよ!」
『リッカ、様…』
彼女の言葉が、振る舞いが、クトゥーラの重圧を払っていく。
『その通りです、クトゥーラ。私達はちっぽけな生命体なことに変わりはありません』
ナイアは優しげに、頷く。
『ですが私達には、こうして握り合える手や触れ合える肉体があります。その力を重ねれば、怖いものなんてありません』
力を合わせ、魂を合わせて立ち向かう。宇宙そのものの意志にすらも。
『成長していきましょう。私も貴方も、邪神を親に持った以上、邪悪を自らの光で乗り越える義務があります。それが…』
それが、心の光を持つ人の義務であるのだと。
『────……』
リッカのナイアの言葉を、静かに受け止め…
『──はい!私も、成すべきことを果たしてみせます!』
「うん!その意気だよ!」
『よく言いました。後は行動あるのみです!』
『行きましょう、お二人とも!──奪われた全てと、護るべき全てを手にする為に…!』
震えを止め、決意に満ちた表情にて敵対者を睨む。
此処に、最初で最後のループ…
2周目となるハワイの防衛戦が、幕を開けるのだった。
アルケイデス『うむ、それでこそだ』
『ならば、まずはリッカよ。受け取れ』
『──我が十二の試練にて手にした、栄光の全てを!』
アルケイデスが、高らかにヴァジュラを打ち鳴らした時。
『彼の宝具と化した逸話と祝福が、対象者の宝具となって譲渡される』効果を持つ…
対人宝具『十二の英雄譚』が、発動したのだった。