人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
アダム「あぁ。もし良ければ君も…」
リリス【そうしてあげたいのは山々だけど、私もルシファーらと同じで、夢を汚染する立場なの。入り込めば、何が起こるか解らないわ】
パパポポ『せっかく拘束も外すことができたのに、またとは…』
リリス【勿論静観するつもりもないわ。いくらかのバックアップも考えておく】
アダム「それだけで十分だ。感謝する、リリス」
リリス【…アダム】
アダム「ん?」
リリス【…ごめんなさいね】
アダム「気にするな。素敵な女性は多忙なものだ」
〜
アベル「ユメさん、ですね。わかりました。こちらでも注視し、魂の動向を見守ります」
アダム「頼む。豊穣において、君ほど適任な人間はいないからな」
アベル「別世界とはいえ、大いなる父のあなたにそう言われるのは面映ゆいですね」
アダム「私は先生だ。一般教員に過ぎん。だからこそ…ユメを頼んだぞ。何かあったらアロナに伝えてくれ」
アベル「はい、アダム先生。そういえば、アダム先生はエデンに御子息は?」
アダム「数多いはしたが、皆自立していった。特にイヴは、EDENの未来を憂いて出奔を果たしてな」
(彼女も、戦っているのだろうか。宇宙の何処かで…)
「さて───」
ハワイの昼にて、アダムは選抜メンバーを選定する際の活動の傍ら、そっとオーマジオウの【御守り】たる時計…ライドウォッチを握る。
『かの王がもたらせしウォッチ、仮面ライダーなのは疑いがないが…随分と禍々しいな』
パパポポの言う通り、それは濃緑と赤の複眼のライダーが刻印されている。どのライダーとも違う、見かけないもの。
「…………」
だが、アダムには予感があった。このライダー、ライドウォッチの力と本質は、自分に通ずるものがあると。
「父よ、少し退いてほしい。このライドウォッチと向き合ってみよう」
『アダム』
「力の使い方…それを把握するのも、借り受ける側の礼儀というものだ」
そう告げ、アダムは託されたライドウォッチを回し、ボタンを押す。
【ゼッツ!】
「ゼッツ…?────!!」
そう口にした瞬間、アダムをドス黒い濃霧が包み込む。溢れ出たそれは、まさに悪しき力の発露とばかりに。
『アダム!』
パパポポの声音が空を裂く頃には…
其処には、何者も存在していなかった。
〜
【よう】
「!」
そこは、不可思議な空間であった。
紅い月が浮かび、全てが崩壊した空間。天地が砕けし世界。
【アンタが、オレの…崩壊の力を使おうっていう腹の人間か?】
瓦礫の山に、腰を下ろす【怪人】。
「君は…ゼッツとやらの力の根源か?」
【あぁ。俺の名はカタストロフ。ナイトメア…悪夢の存在だ】
ナイトメア。悪夢たるそれは明らかに人類の味方になるような存在ではない風格を醸し出せている。
【オーマのジジイから話は聞いてる。アンタに力を貸してやれって話だ。アンタはかつて、神がもたらした世界の全てを【壊した】って話だが…】
腰を上げ、カタストロフがアダムに問う。
【そりゃ本当か?】
「事実だ。神を殺すには、神を宿る全てを破壊し崩壊させる必要があったからな」
それは神殺しの逸話。アダムが成し遂げた人の究極。
【マジだった訳か。そりゃあいい。だったら、オレはアンタを尊敬させてもらうぜ】
「何…?」
【オレは、世界の全てを救うという夢から生まれた。そいつの悪夢が、全てを壊すという形で現れたのがこのオレだ】
カタストロフを名乗る悪夢は、アダムへ向けて語る。
【オレの目標は全てを崩壊させること。そいつを成し遂げたアンタには、リスペクトを以て接させてもらうぜ】
「破壊と崩壊を司るにしては、理性的だな。尊敬を理解できるとは」
その会話の成立する精神性を、意外に思いこそする否定はしないアダム。
【そりゃあそうだ。壊すには積み上げたものの大切さを理解できなきゃ意味がないからな】
そして、カタストロフは告げる。
【それに、アンタはいつかとびきりのものを壊すだろうからな】
「何…?」
【アンタ、先生なんだろ?それもとびきりの、アンタを好きにならないやつがいないような立派な職員、聖職者だ。それも、あのジジイから聞いたぜ】
アダムはそれを肯定も否定もしない。
【そんなアンタは、誰も彼もが慕うはずだ。明日も明後日も、ずっとアンタと過ごす青春を疑わない】
「何が言いたい」
【予言だよ。アンタはいつか、とびきりの夢を壊さなくちゃならん。現実から目を背け、永遠に楽しい青春を送りたいという無垢で、幼稚で、真っ直ぐで綺麗な夢をだ】
カタストロフは、アダムを試すかのように語りかける。
【アンタと過ごす日々が素晴らしければ素晴らしいほど、生徒のガキ共の夢は育っていく。そして、やがてはアンタだけがいてくれればいいと思う生徒たちも現れるだろう。そんな生徒達の思い描く夢は…やがて現実をも否定する】
「…………」
【いつか成長も止め、明日に向かうことも放棄し、永遠のモラトリアムの中で過ごすことを生徒達が望むだろう。そりゃそうだ】
カタストロフはアダムに告げる。
【悪くなるかもしれない明日より、完璧な幸福に満ち足りた今の方がずっといい。生徒達は遅かれ早かれ、アンタという存在に夢をそんな夢を見るんだ。アンタは皆に、そんな夢を見させる程の力がある】
アダムは、沈黙する。
その夢を見せたのは、初めてではなかったからだ。
【だがアンタは先生だ。そんな甘ったれた夢をいつまでも許す訳にはいかない。大人は子供に現実を教えてやらなくちゃならん】
やがて、夢の美しい教室が目の前に広がる。
【生徒の誰もが望む夢を。生徒の誰もが夢見る理想を。現実の力でアンタは壊すんだ。そう──崩壊という悪夢でな】
「…………」
【どうだ?その決意と覚悟はあるか?大切な生徒達の『アンタと永遠に一緒にいたい』という夢を壊す事が出来るか?それが、アンタに力を貸す条件だ】
カタストロフはアダムへ提示する。崩壊の力を託す条件を。
アダムは思う。
かつて自身は、EDENを作り上げた。
自らの完璧を体現した結果、全ては極まり停滞に陥った。
予感がなかった訳では無い。
いつか、自身は同じ過ちを犯すのではないかと。
常日頃から、汎人類史の可能性を奪い去るのではないかと、片隅で考えていた。
しかし──先生たるものもまた、学び成長するものだ。
「──カタストロフよ、それは要らぬ心配だ」
【ほう?】
アダムは、確信を以て告げる。
「生徒の成長、大いなる自立を果たすための障害は私が全て破壊する。私は二度と、完璧という幻想で世界を終わらせるつもりはない」
【それがアンタの、愛する生徒達の願いでもか?】
「無論だ」
アダムは迷うこともなく、即断即決を下す。
「甘やかし、全てを受け入れるばかりが教職ではない。辛く、険しく、苦しい明日が存在するという事実を教え。青春はいつか終わるという事実を告げるのもまた…先を生きるものの使命だ」
その先に、巣立った後に残されるのだとしても。
「大きく翼を広げ飛び立つ生徒達を誇りに思えぬ者に、教壇に立つ資格はない。私は、生徒達の自立を阻む全てを破壊する」
それこそが、自身の本懐と誇りなのだと信じて。
「例えそれが、生徒達が望んだ甘い夢であろうとも。私は───」
【…………】
「───その夢を壊す事を、躊躇うことはしないだろう」
その時は。その瞬間は、
悪しき神を討ち果たした時の何倍もの苦悩を齎す事を理解しながら。
それでも、アダムは揺らぐことはないと告げる。
甘いだけの夢は、いつかその夢すらも腐らせる。
善き夢は、辛い現実を生き抜く力となる事を信じて。
アダムは、崩壊の化身に自らの決心を突き付けた。
【──成る程、合格だ。気質は真逆だが、確かにアンタは全てを崩壊させるに相応しい】
ナイトメアが、消えていく。
【どちらにせよ、アンタが壊すものはとびきりだろうからな。宿主に邪魔者扱いされて暇だったんだ。アンタに力を貸してやるさ】
そしてそれは、一つのツールに姿を変えていく。
【忘れるなよ、先生?アンタが悪夢の崩壊を齎すか。悪夢を越える夢を生徒達に見せるかはアンタ自身にかかってる。オレは別にどっちでも構いやしないが──】
それは、夢を護り悪夢を崩壊させる力。
【どっちも、壊れるのは秒だ。だからこそ、壊されたくないもんを必死こいて護り抜く事だな──】
それが、このハワイにおける…
託されし仮面ライダーの、力であった。
〜
「…!」
やがて、アダムは再び現実世界へ帰還する。
『アダム!なんかさっきから驚いてばかりだっポ私』
「父よ…」
『ん?』
アダムは父に告げる。
「先に生きる者として…示すべきものは数多いな」
『…?』
そう告げ、空を見上げるアダムの手には握られている。
デュアルメアカプセム。
崩壊と、創造の力を司る…
夢を護り、戦う力が示されていた。
アダム「………」
リッカ「すぅ……」
アダムはそっと、リッカの頭を撫でる。
アダム「先生だけでなく…」
今度は、父としても奮闘しなくては。
そう誓い、リッカの安らかな寝顔を暫し撫でるアダムであった。