人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
クラース『はい。我が母リリスは私を産み出し、放浪の呪いにてハワイより追放されました』
パパポポ『別次元には言っていない。観測できる場所にいるだろう』
アダム「良かった…。クラース。ならば私が君の義父という事になる。君の身柄を、私が父として預かろう」
クラース『ありがとうございます。私の使命は、大母リリスの代わりにあなたをサポートすることですから』
アダム「サポートか…ならば教えてくれるか?」
クラース『なんでしょう』
アダム「君の得意なこと、君が意識することはなんだ?」
クラース『………大母から賜った生命に報いる方法を、質問の答えにしてもよろしいでしょうか』
アダム「勿論だ」
クラース『人の…』
『人の嫌がることを、進んでやることです』
「お父さん、お話があるって言ってたけど…なんだろ?」
冥府の微睡みより目覚めたリッカが受けた一報、それは父アダムからの対話の要請だった。
『とても良い報せだ。楽しみにしてほしい』
そう端末で告げられたアダムの声音は感嘆と、少しの緊張が混じっていたもの。リッカもやや緊張を孕みながら、ソファに腰を下ろす
「大丈夫ですよ、リッカ。あのアダム様が私達を裏切るような事はなさいません。落ち着いて、報せを待てばよいのです」
母、頼光の優しい嗜めを受けながら、リッカは待つ。尊敬する父が一人の帰還を。
「まさか、また姉妹ができたりとか?いやそんなまさかぁ〜!」
冗談交じりに語るリッカに、頼光が満面の笑みを浮かべる。
「あらあらまぁまぁ!リッカに次いで可愛らしい家族が増えるのならば大歓迎です!」
頼光はリッカの心の母。家族が増えることに歓迎こそすれ、怒ることなどあろうはずもない。
そもそも、リッカが自らを母と慕う限り彼女の母性は決して暴走することがない。未だリッカの器に彼女の愛は注ぎ足りないと自認しているのだから。
「私も!家族はいればいるほどいいもんね!それにお父さんなら…」
いつの間にか子供が増えていてもおかしくない。そうリッカが告げようとした時…
「リッカ、頼光。戻った」
玄関より、アダムの気風に満ちた声が届く。
「あ!お帰りなさい、お父さ……」
そこには、アダムとパパポポ、そして…
『こんにちは、藤丸龍華』
「ふぁっ!?」
『私は、クラース。リリスの産み出した娘…リリム、クラースと申します』
「まぁ………!!」
驚きのリッカ、喜色満面の頼光。
先の予想が形となる様子が…そこに在った。
〜
モロコシとは拡散と爆発 ルゥ・アンセス
〜
「〜~♪〜♪」
自身に愛すべき子と娘が増えた。その事実に文字通り有頂天になった頼光はキッチンで上機嫌に家事を進めている。そうするだけの驚天動地が其処にはあった。
「じゃあ、クラースちゃんはリリスさんが遺した最後の子供…」
『ハワイから離れざるを得なかったリリスは、最後にクラースをアダムに託した。異母であれ、間違いなく彼女はリリスがアダムに託した…』
事のあらましを、アダムとパパポポから聞き及ぶリッカ。それは、クラースの誕生した経緯と仔細であった。
『私は、母が産み出した生命です。どうあるか、どう生きるべきかを命じ、定められる前に生み出されました。そして、私は母の願いを指標にし、ここにいます』
本来託される筈の、生きるための使命と願い。クラースはそれを自身で、最後の命にし定めたという。
『アダム・カドモン。私はあなたに報いる為に生み出されました。ですので、私はその命を全うするつもりです』
そう答えるクラースの答えは透徹し、達観していた。それは、母の本来の理知と聡明さを確かに継いでいた。
『母が行えなかったことを果たす。リリスの娘として、私が出来る、成すべき事を果たす為に必要な事なのですから』
クラースの言葉は揺らがず、普遍的かつ絶対的な使命の下に行動している。
普段産み出される使い魔の夢魔以上にクラースが使命感を抱き、譲ろうとしない。
「クラースちゃん…」
その時、リッカは思い出す。かつて親だった者達と間で、自身は子として親に報いる為に全てを懸けてきた。
それは決して正しいものではない。子の人生は、何処まで行っても親そのものにはなり得ない。
「あなたは、優しいね」
頑なに、母に報いようとする一人の生命。
リッカはそこに、親に報いらんとする子のひたむきさを感じ取った。
「お母さんのくれた意味と願いを必死に果たそうとしてる。クトゥーラちゃんともまた違った、最初から示されていた道を絶対に行こうとする決意、かな?」
その根底。その本質には、願いを託された子のいじらしさと決意がある。リッカほそれを見抜いた。
「でもね、一つだけ言うことがあるとするなら…。あなたの人生そのものは、あなた自身のもの。それを覆す事は、誰にもできない」
生まれたものは生命を持ち、生命は生命以上にはなれない。
それをリッカは、何よりも強く知り実感していた。
「だから、クラースちゃん。あなたは自身の意思と想いをもっともっと成長させたり、見つけなくちゃいけない。あなたを産み出したお母さんの願いを、呪いには変えちゃだめ」
『願いを、呪いに…』
「あなたのリリスさんは、子供とお父さんに呪いをかけたかったんじゃない。きっと、祝福と願いを乗せた筈だと私は思うから。だから…」
生きることを。
自らの人生を生きる事を、決して諦めてはいけないのだと。
「あなたの意志でも、お父さんを助けてみたいと思ったのなら嬉しいな!」
『…!』
「私が気になった事はそれだけ!生まれた親は違っても、家族になる事は出来るからね!」
クラースの生命観に切り込んだ後、リッカは朗らかに手をさしだす。
『…これは?』
「握手だよ!誓いや約束、それに大切な想いを共有するための儀式ってとこかな!」
朗らかに差し出された手と、与えられたいみを、クラースは静かに受け止め、理解する。
『…藤丸龍華。先の言葉は使命と言いましたが、私には、これを果たそうとする決意のようなものに溢れていました』
「!」
『それは母が消えてしまう刹那に見せた事象、様子にあります。私には、リリスの最後の思いが伝わって来ていました』
もっとあの人と生きてみたかった。
理想のあなたの隣に立ってみたかった。
あなたを献身的に、支えてみたかった。
あなたの妻に、なりたかった。
言葉は少なく、別れはすぐに訪れた。余りにも早すぎる子離れの刹那において、クラースは母より数多のものを受け取っていた。
『生まれた生命は、産み出した親に報いるもの。リリムは皆、母たるリリスにそう誓います』
「……」
『ですが、私は少し特殊な生まれ方をしました。使い魔だけでなく、自らの願いを託されたのです。私が出来なかったこと、してあげたかった事をしてあげて、と』
ですので、と。
『私は、母と母が愛したアダム・カドモンへと報いる為に生きます。それは、私の願いの結晶でもあり、そして、その家族である龍華、あなたとも』
「!」
『制作過程や時期からして、私は龍華と異母姉妹という形になるでしょうか。私は母と、母の愛した夫アダムと…』
おずおずと、クラースは手を差し出す。
『その大切な娘である、あなたのためにも私は生きます。どうかこれから先、共によろしくお願い致します。リッカ』
それは、握手の意志に応える友好の証。
『人の嫌がることを進んでやる。それがリリスが胸に秘めていた信念であり理念でした。この世界で嫌がることや、してはならないことはどんなことか。父アダムと共に、私にどうかご指導ください』
彼女は当たり前のように、リッカをアダムの子として認め愛したのだ。
それが母の、そして自分の願いであるのだと信じて。
「うん!勿論!」
リッカはクラースの手を、力強く握り返す。
「これからよろしくね、クラース!一緒にお父さんとお母さんをお手本に、頑張ろう!」
其処から伝わってくる力強さ、生命力。
それこそが、自身が見習い学ぶべきもの。
『───はい。龍華』
その熱さと力強さは…
クラースにとって、『好ましいもの』として、確かに心に刻まれたのだった。
アダム「───この成長は早いな。私が口を挟む余地など無いほどに」
クラース『父アダム…』
リッカ「目標にしてる背中が素敵だからだよ、きっと!」
アダム「本当に嬉しいことを言ってくれる。それでは、更に友誼と絆を深めようではないか!」
クラース『?』
アダム「どうやらハワイにも…」
『シュレディンガーのラーメン屋』
「ラーメン屋があったそうなのでな!仲よくなるには、ラーメンが一番だ!!」
クラース『らぁめん…』
リッカ「そうかな…?そうかも…」
アダム「さぁ準備だ頼光!先を生きるものとして、家庭も仕事も完璧に両立し守らなくてはな!」
パパポポ『アダム…』
さっきまで静かだったのは、これを探してたからじゃあるまいな…?
パパポポは静かに、マイペースな始まりの男を見つめるのであった。