人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
【あ、う…ぅ…】
『大丈夫!?色彩も追い払ったよ、早く脱出しなくちゃ…!』
【ぁ…あ…】
『何?何か言いたいの…?どうしたの!?』
【わ、たし…力…】
『力…?もしかして…』
【力が、欲しい…せめて、幸せな、世界を…】
『…!』
【幸せな、私達の…世界を、皆を…護れる…力を…】
『…それが、あなたの望みなの?』
【…お願い、私は、もう…】
『───解った』
『私の全部で、あなたに力を…!』
【ありがとう…あなたは…?】
『───イヴ』
『私の名前は、イヴ。生きとし生ける全部の味方だよ!』
【カァアァア……フゥウウゥゥ……!!!】
ぎしり、ぎしりと。恐ろしい音を立て、セリカなる少女がゆっくりと地下生活者へと迫りゆく。
その目は、その姿は徹底した殺戮と破壊を行う無慈悲なる形態。ゆっくりと、しかし確実に地下生活者に狙いを定めていた。
【ヒィィ…!な、なんだその姿は…なんだその存在は…!】
地下生活者から見ても、その存在は異形と言う他ないものだった。
自身に宿した神秘、生徒が擁する力を一点に歪めきり自らの力としている。自身の存在の全てを収斂し殺戮の一点に特化させた歪に極まる定向進化。
ゲマトリアですら、色彩の進化すら、科学すらも全てを取り込んだ一種の芸術品とすら言える改造。それが今、目の前で唸りを上げている。
どこから来たのか。この生徒は一体何者であるのか。それらは全て理解できるものではない。
それはただ───。
【ルゥウォオッ────カァアァアァァァオォオッ!!!】
灼熱に滾るような殺意を以て、地下生活者を…
否。ゲマトリアに類する全てを鏖殺せんと吠え猛った。
【ヒィィィイ!!来るな、来るなァァァ!!】
半狂乱に陥った地下生活者は、稚拙な影を作り出しセリカへと差し向ける。
それらは生徒達の力を無差別に再現したデッドコピー。自衛の為にそれらを肉壁へと展開したのだ。
【わ、わ、私を護れぇ!!】
だが、セリカの姿と力はそんな煩雑な守護をものともしない。
【ナァアァァァオォオーーーーーーーッ!!!】
咆哮と共に、全身の銃口にエネルギーがチャージされる。
一瞬で臨界以上にチャージされたそれは、周囲を纏めて討ち滅ぼす殺戮の鏖殺光線と化し、地下生活者の虚数空間を満たし尽くした。
【ヒィィィイィイィイィイィイッ!?】
位相の違う空間が仇となり、セリカ…セクメトの破壊の光線を空間もろともに受け止める羽目となった地下生活者。
科学、神秘、色彩の反転。それらが芸術的に調和した、ある意味で至高の芸術にまで至った神格の顕現。
ゲマトリアの探究の果てにいるようなセリカのその威容。地下生活者が抗えるような領域には存在していなかった。
【ルゥウォオァァァオォオッ!!!】
翼、咆哮、そして爪。あらゆる部位から、血風の嵐が周囲を満たす。
【ヒィィ、ギャアァァアァアァァーーーーーーッ!!!?】
自身をゲームプレイヤーと騙った愚かなる地下生活者は、本物の厄災、本物の神格の顕現に無様に転げ回ることしかできない。
【痛い、痛いぃい!クソッ、クソッ、畜生ォ!!痛いィイ───!!】
全身にズタズタになるまで傷を付けられ、半狂乱になった地下生活者は悶え苦しむ。それら全てが、生命を奪う事だけに特化した至高の殺戮機構。
【カァアァアァァァァァァ…!!フシャアァアァアッ…!!】
ドシリ、ドシリとゆっくり歩みを乗せるその姿には、恐ろしいまでの決意がある。
ゲマトリアに死を。全てに復讐を。
善き日々が、絶えず続かん事を。
【カァアァアァァァァァァ…!!】
裂けんばかりに開かれた口からは、絶え間なく祈りの咆哮が漏れ出す。
それは最早、人智が及ぶ領域にいない程に歪みきった神秘にして現れた神。
血塗られた神、セクメトそのものであった。
【こ、このままでは…このままでは…!!】
だが、地下生活者だけに留まらず、その顕現は恐ろしい事態を招こうとしていた。
この場は、ドギラゴンが見ている夢を題材にし、禁断が悪夢として利用しているもの。
それに対し、外来から神格という究極の質量が割り込み顕現してしまえば、夢という脆い規模の土台は一瞬で崩れ崩壊してしまう。
連鎖的に、地下生活者の虚数空間が地響きのような動きを立てて震え出す。限界が即座に迫ってきた事に他ならないのだ。
【お、お、お前は!この夢全てを滅ぼすというのか!?お前は全てを…】
【カァアッ!!】
【うぎゃあぁあぁあぁあぁぁ!!?】
詭弁を黙らせるかのように、セクメトの爪が地下生活者の口を引き裂いた。
【あががっ、くちが、くちがぁ…!!】
悶え苦しむ地下生活者に、ずしり、ずしりとセクメトが歩み寄る
【世界を護る…皆を護る…!!】
【ぁひ、ひぃ…!】
【その為に、悪い大人を…ゲマトリアを全て殺す!!】
最早血染めの赤に染まりきったセクメトの眼光が、真っ直ぐに向けられる。
【地下生活者…!まずは、お前からだ!!】
【ひぃいっ!?】
【お前を生かしておけば、アビドスの皆が惑わされる…!だから、だから今!!】
靭やかに身体が引き絞られる。じゃきり、と首を狙う牙が光り輝く。
【ここで死ねェェエェエェエェエェエーーーーーーッ!!!】
【ヒィィ、ィイィイィイィイィイーーーーーーッ!!】
地下生活者の吹聴していた、死と苦しみ。それらを体現する存在が実際に現れた今、脆弱な生命は悶え、震え、逃げ惑うことしかできない。
目の前にいる存在は、何者かが仕上げ、手掛け、そして完成させた本当の神、神格であるのだ。
人に抗える道理はない。地下生活者へもたらされる死に、逃れる術は無いのだ。
ゆえにこそ、裁きは正しく下される。
そう、それは逃れ得ぬもの。
だが─────
『だめーーーーーーーーーッ!』
【!!】
だが、それを。
『目の前で生徒が人を殺す悪夢』を、容認する理由にはならなかった。
『ダメだよ、落ち着いて!セリカちゃん!』
【!?…!?】
セリカに呼びかける声。それに聞き覚えは全くない。
しかし、セリカを…セクメトを押し留める神格。それはオシリスという最高の神のものであり。
何より、自身を阻むその盾は──かつての先輩が所持していた…。
【く、梔子、ユメ…!?】
「貴様を殺すつもりで来たのだが、貴様如きに関わっている場合ではなくなった」
そう、地下生活者の眼前には。先程戦っていた梔子ユメ、並びに…
「貴様の事だ。そこにいる存在も実体では無いのだろう」
アダム・カドモン。人類の、あらゆる全ての先に存在するものが殺戮を阻んでいた。
「少なくとも彼女は私の知るセリカだ。殺戮を容認するわけにはいかない」
【ひ、ヒィィ…】
「故に─────」
ぐるり、と。振り返り。
「此処で、私の手により死ね」
【は────】
ぐしゃり、と。アダムの唸る鉄拳が地下生活者の顔面を、果実のように粉々に粉砕した。
飛び散る脳、肉片、力なく倒れる肉体。──しかしそれらは、霧のように霧散する。
「腰抜けめ。やはり遠隔からの投射だったか」
すっと拳を引き、ゆっくりと目を細める。
「まぁいい…。次は本体に同じ事をするまでだ」
そんな些事はいい、と。目の前にいるセリカに目を向ける。
「─────セリカ」
あまりに、あまりにも痛ましい姿であった。全てを擲ち、殺戮にのみ特化した様なその威容。アダムの胸を、痛痒が満たす。
【カァアァア、ァ…フゥウウゥゥッ…!!】
肩で荒く息をするセリカは、アダムと目の前の謎の生徒を見据え動揺を顕とする。
【アダム・カドモン…。アダム、先生…?】
「!?解るのか、私が!?」
【解る…あなたは、アナタ先生の…そして…】
そして、セリカは、衝撃的な言葉を発する。
【あなたは、皆の…私達の、希望…】
頭を振り、セリカは再び構えを取る。
【そこをどいて!ゲマトリアは、全員殺さなくちゃいけないの…!!】
「セリカ…!」
【もうここにしか、あなたのセリカにしか!私の望んだ幸せは無いの!奪われるわけにはいかないの!だから、だから───】
じゃきり、と再び殺戮の構えを取る。
【私は、皆の幸せを護る!そこをどいて、アダム先生────!!】
再び、セクメトが動き出す。
自らの願いを、叶えるために。
アダム「───ユメ!セリカを無力化する。力を貸してくれ!」
ユメ『は、はい!でも…よろしいんですか!?』
アダム「まずは落ち着かせなくては話も出来ん、全てはそれからだ!」
セリカ【カァアァアァァァッ!!ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!】
「セリカ…君の願いは間違っている」
「君だって、幸せになって良いのだ…!」
ユメ『──はい!』
『大切な後輩を、先輩として止めてみせますっ!』