人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
アダム「キラナ…!」
レッド「……………」
キラナ『あそこにあるの、ドギラゴンの記憶だよ。もしかしたら、色々解るはず!見てみようよ!』
アダム「あぁ」
「何故、今のドギラゴンが禁断へと堕ちてしまったのか…確かめねば」
アダムやキラナが、ドギラゴンの深層心理の世界の突入で目にし、示されたもの。それは、カレーパン屋という簡素で質素な建造物がある不可思議な空間だった。
そこには変哲のない、本当にただのカレーパン屋があるのみで、罠や仕掛けといった装い、風情もない。
「ここが、ドギラゴンの思い出の地…?」
キラナの不思議げな言葉の通り、そこにあるとすればそれは夢の持ち主の特別な思い出だけ。
「……………………」
レッドが沈黙していると、そっと夢に変化が起きる。
「アレは…」
そこには、神聖な雰囲気を纏う白髪と豊かな髭を齎すし好々爺と、小さくも圧倒的な力を纏いし竜。
「あのおじいちゃん、ノーデンスじゃないかな!」
キラナの言葉通り、その見た目は人ならざる神のもの。
それはノーデンス、並びに小さくスケールダウンされたドギラゴンその人であったのだ。二人はカレーパン屋に立ち寄り、ノーデンスが手慣れた手つきでカレーパンを買い求める。
「ドギラゴン…の、小さい版?」
小さくとも輝く鎧を纏ったドギラゴンは、ノーデンスの行動に理解できないというように停止しながらも、彼の買った二つ分のカレーパンに興味深げに視線を送っている。
「これは…ノーデンスとドギラゴンの日常の記憶、という事か」
アダムの推察と同時、声が響く。それはノーデンスと、ドギラゴンの声。
『ほれ、お前さんも食べてみぃ。こいつは日常、平和の味じゃよ。絶対気に入るわい』
『オレには不要だ。オレが宇宙を、生命を護るのは義務であり本能。そこに生きる生命に肩入れする気はない』
それは、かつて世界を救う為に戦っていた二人の…否。ドギラゴンの記憶。
『宇宙の意志から産まれたお前さんは、もう一つの生命。そう、生命体なのじゃ。だからこそ、自分の頭で、心で考える必要がある』
そしてカレーパン屋と、空に広がる宇宙に景色が変わる。そこはビッグバンのような眩しく輝く宇宙の誕生から、黄金の鎧を纏ったドギラゴンが生まれし光景が映し出される。
『世界を、人々を救う為に生きるのなら…せめてその価値と意味を把握しておかねばならんぞ』
『よく分からんな。使命に意味など必要なのか?』
『いるとも。高貴な意志、初志の貫徹はその意義を把握するとこから』
『…………』
『ほれ、百聞は一見にしかずじゃ。食うてみい!』
『!』
そしてノーデンスにカレーパンを振る舞われたドギラゴンは、静かに咀嚼し瞠目する。
『……………美味い。口の中が熱いが、不思議な感覚がするな』
『そうじゃろうそうじゃろう!こういう食の文化はの、平和で豊かな時代にしか生まれんもんなんじゃ。これがわしらが、守っていくべきもんなんじゃよ。ドギラゴン』
ノーデンスはベンチに座り、カレーパンを口にしながらカラカラと笑う。
『儂は無私無償のヒーローなんぞ胡散臭くて信用に値せんと日頃から思っておるわい。何の見返りもなく誰かを助けられる存在なんぞ、心ある存在がなるべきものでないし心ある存在である必要がない』
『オレのような存在は間違っていると?』
『心とは奇跡なんじゃ。見て、触れて、感じる。それは宇宙が生んだ奇跡…。そいつを態々殺すなんて贅沢で勿体ない真似、して欲しくないんじゃ』
『今のオレに、宇宙の端末機構でしかないオレに心を見出しているのか?』
『そうじゃ。心というものは、誰かと誰かの触れ合いや交流から生まれる』
儂はそいつを、お前に大切にしてほしいんじゃと、ノーデンスはドギラゴンに向けて笑いカレーパンを共に食べた。
『なんせこれから、一緒に宇宙を護る仲間、友なんじゃからのぅ!』
『友…平和の味か…』
そうして、夢の中におけるドギラゴンはノーデンスと共にあらゆる次元、あらゆる時空を渡り歩き戦った。
その種類、その次元は多種多様…多岐に渡り、あらゆる生命を、あらゆる世界を護るために奮闘していった。
その度にノーデンスはドギラゴンに世界の文化や在り方、生命の多様性に触れさせた。宇宙の生きようとする意思、そこから産み落とされし龍なる機構。
それらが有していた心と想いを、使命ではなく確かな力と願いにする事によって。
「……成る程。善神と呼ばれるのも頷ける」
アダムの言葉通り、ノーデンスは善なる神と呼ぶに相応しい人格を有していた。
宇宙が存続するために、そして自分の眷属として利用するのではなく。一つの生命としてドギラゴンを尊重する。
モアやナイアに慕われ、愛された理由はここにあった。
彼は、尊重を有した神であったのだ。
『ジジイ。あんたに色々付き合ってオレは様変わりしちまった』
『そうじゃな。口が減らぬようになりおったわ』
『オレは、この宇宙とそこに生きる世界の生命の価値と尊さを知ったわけだ。そいつは庇護するべきであり、特に何かを感じることも無かったが…』
そしてそれに触れ、ドギラゴンは晴れやかに笑った。
『護りてぇよ。今はそう思う。カレーパンみたいな美味いもんを作るヤツらを、オレはオレの意思で護りてぇ』
宇宙から産み出された意志は、心を持ったのだ
『─────ほほっ。そうかそうか』
ノーデンスは、この上なく嬉しげに笑った。
『守り抜こうぞ。共に、生きとし生ける全てをのう』
『おうよ!じゃあカレーパン食おう!カレーパン!』
『もう儂飽きてきたんじゃが…』
『別腹だぜ、オレはな!いくらだって食えちまうわ!』
そうして、それがカレーパンの由来であった。
カレーパンは、神に与えられた世界の色彩。
彼が守ると誓った世界の祝福であったのだ。
『素敵、ですね』
テイルモンの感慨に、皆が頷く。
ノーデンスとドギラゴンは、友情と絆で結ばれていた。
その事実が、彼等の心を暖かくしていた。
……だが。
その始まりは、残酷な終わりを齎した。
〜
『やめろおおおっ!!畜生、畜生!!なんてことしやがる!!』
それは、偽神における銀河の消滅。
銀河系を丸ごと削り取る暴挙は、ドギラゴンが有した心…護るべき全てを奪われる事に等しかった。
『今消えた銀河に、宇宙に…!どれだけの生命があったと思ってんだ!!』
そして、ノーデンスの命を懸けた宇宙の存続。
『ジジイ!!何やってんだジジイ!!』
そして、宇宙の削り取られた生命…
ドギラゴンの消滅を防ぐ為、ノーデンスの自身を懸けた宇宙の生命の補填。
『やめろ、やめろよ…!アンタにはこれからも護っていく世界が、未来があるだろうが!』
そして、ドギラゴンの弱体化に付け込む禁断の汚染。
『おおお、ぐおぁあぁあぁあぁあぁっ!!』
宇宙の破滅を願う意志。
殺され、消された銀河たちの無念。
ノーデンス…相棒の消失の怒りと悲しみ。
それを齎した、偽神への憎しみ。
【許さねぇ、絶対に許さねぇ…!!必ずら必ずテメェら禁断を、偽神を叩き潰してやる…!!】
皮肉にも、心を持ったが故に禁断たちに付け込まれるドギラゴン。
【例えオレがどうなろうと!!テメェらに叩きつけてやる…!!】
喪われていった者たちの。そして相棒の消滅に、得た心が禁断の感情に染まる。
【必ずテメェらに報いを!!復讐の怨嗟を叩きつけてやる!!オレが、必ず!!貴様らに裁きを────!!】
そして、ノーデンスとドギラゴンは禁断に堕ちた。
そしてそれを苗床に、悪夢は無限に湧き出ており…
ハワイを、生命を脅かす禁断の尖兵と化しているのだ。
キラナ『………………』
アダム「…キラナ」
キラナ『助けて、あげよう』
レッド「………………」
キラナ『心を持ったから辛くて、苦しいなんて…悲しすぎるから』
テイルモン『…はい』
アダム「あぁ」
「悪夢は、必ず醒めるものだ」