人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
【そうだ、サバフェスの1週間をアダム先生が休んだ翌日の朝に繋げよう。ヤマト達も合流したし、大丈夫な筈だ】
〜
ミカ「アダム先生、おやすみかぁ〜…」
ナギサ「なんでも、カルデアでの大切なイベントに参加する、とか」
セイア「彼は世界を救う使命も担う。むしろ今まで、共にあってくれたのは奇跡だろう」
ミカ「ふふーん♪」
ナギサ「どうしたのですか?ミカさん?」
ミカ「べっつに〜?」
〜
『リッカの『父親』を全うしてくる』
『必ずまた、元気に会おう』
〜
ミカ(リッカちゃんのこと、アダム先生やオルガマリーさんから聞いてるよ)
(いーっぱい、家族に…ううん)
(アダム先生に、娘として甘えてね☆)
セイア「何をニヤニヤしているのか…」
ナギサ「不気味ですね…」
ハワイの夜。皆が寝静まり、新たなる朝を迎えるための静寂の時間。
本来ならばそこは無謬の安らぎのみがある時間なのだが、誰にも想定され得ぬ【不確定要素】が発生していた。
場所はハワイの森林、平原エリア。輪をかけて平穏、寝静まった空間であるべきそこに、似つかわぬ剣戟の音が響き渡る。
「─────!!」
冥府の剣を振るい、流星のように駆け抜ける闇の中の光。その光条が奔る時、無数の鮮血と、肉片が舞い飛び散る。
【グガァアァア!】
【ギャアアァアッ!!】
悍ましい断末魔をあげ、霧散するは人外の化生。ゴブリンやオーク、低級魔族や悪魔たち。
それらを薙ぎ払い、切り払い始末するもの。それは朝においてはウェイトレス、ライフセーバーとして活躍していた銀髪の美女。
「死に腐るべきです、肉塊共」
邪神の娘、ナイア。狩人たる彼女はひたすらに、月下に血煙の演舞を披露する。
それはタナトス、死神の刀剣。数多無数の剣戟が、舞い踊る剣術が闇に蠢く者共を始末していく。
「────」
その目に感情は無い。絶対零度の視線で、怪物人外魔境をひた駆け抜ける。
【モア達はエキドナとショッピングに興じ眠っている。この調子で秘密裏に処理するぞ】
「はい、お父さん」
耳にした邪神インカムから流れ出る美声。それはナイアのマネージャーであり父。
ニャルラトホテプ。混沌の邪神が、娘と共に溢れ出たバグを処理していたのだ。
「───!!」
本来現れるはずの無い、恐ろしき闇の化身たち。
完璧に管理されているハワイから湧き出たイレギュラー。
特に下級悪魔たちから『聖痕』なる紋様が刻まれていた。
その様な刻印を持つ輩は、当然偽神の手のものかと予想したが、ニャルラトホテプはそれを否定した。
『あの傲慢で尊大な輩が、こんな下級悪魔にわざわざ刻印を残すとは考えられんな』
「というと…偽神拘りのものではない、と?」
『あぁ。奴は天使の鋳型を有している。攻め落とすつもりなら仰々しい仕掛けをするはずだ。エンシェント・デイのようにな』
かつて精霊を滅するために現れた機械天使。
それがありながら、悪魔にわざわざ『洗礼』を施しはしないだろうと彼は説く。
『ルシ…サタンの企みの線かと疑ったが、それもあり得ないだろうな』
「私もそう思います。だって…」
『あぁ。エア姫との触れ合いで学んだ心と信念。それが嘘だったとは思いたくないのだよ』
あきれたものだ、とニャルラトホテプは自嘲する。
『まさか私が絆を信じ仮定を口にするとは。腑抜けたと笑うか?愛娘よ』
「いいえ。ロマンチストになったお父さんを祝福します」
『ありがとう。…この湧きどころ、誰かに勘付かれればBBの管理責任にも繋がってしまう。何せ、私と彼女の立案だからな』
ハワイの核。それはニャルラトホテプの神格という莫大な楔と動力そのもの。それを縛して活用し、BBが運用している。
今ハワイの朝昼に大規模な異変は起きていない。だが、夜の異変を知られればサバフェス運用にも支障が出てしまうし…
何より。『戦いを忘れたバカンス』の前提が破綻する。
故に、ニャルラトホテプは一人で戦おうとしたのだが…
〜
「どこへ行くのですか?お父さん」
彼には誤算があった。
焦っていたのだ。
ナイアにする、お休みの口づけを欠かした。
それを欠かす時は決まって、何かを企む時。
彼女が父の真意を汲まぬ理由はなく。
彼女は夜の安寧を、他者の平和の為に捧げたのだ。
〜
『すまなかった、ナイア』
「何がでしょうか?」
平原は四方が血に染まっていた。ナイアの身体には夥しい返り血。
月光に照らされながら、ナイアは月を見上げ語らう。
『バカンスが、狩りに変わってしまったな』
「それが、謝罪の意図ですか?」
『そうだ。私一人で責任を負うつもりだったが…』
「バカンスですよ、お父さん」
『…何?』
「夜に出かける、ナイショのバカンス。そして──」
血から湧き出る、新たなる悪魔たち。
「家族水入らずの、正義の味方です」
棺桶を構え、力の限りに叩きつける。
内臓や鮮血が飛び散り、益々ナイアの美貌を染め上げる。
「強気に行きましょう、お父さん。もしかしたら、夜間アトラクションとしても売り出せる。でしょう?」
『あれは…まぁ、軽いジョークだったのだが』
「依頼者はサバフェス運営、報酬は皆様の最高に楽しい夏の一時。狩人が受ける依頼としては十分すぎるものです」
支援するは、ニャルが送る僅かな影。
日が昇るまで、ひたすらに殺し続ける。
それをナイアは、本懐と告げる。
「まずは突き止めましょう。これらを差し向ける悪意を」
『…あぁ、そうだな。少なくとも、何かを企んでいるのは確かだ』
十の影が、無数の鮮血と肉片に変わる。
月に照らされた冥府の狩人には、傷一つ無い。
さながらそれは、血染めの月下美人。
誰に知られずと咲き誇り、誰に知られずその花は煌めく。
「光溢れる世界の為、この身を捧げることに迷い無し」
棺桶を叩きつけ、強襲破壊兵器に変換させる。
「素敵な夏の思い出を、皆様に」
力強く足を叩きつけ、放たれる無数のミサイルとガトリング。
湧き出る無数の雑兵が、瞬く間に挽肉に成り果てていく。
「そして───邪魔する全てを、ゴミ箱に」
光り輝く棺桶を畳み、拾い上げる。
血染めの肉片は、もはや血の霧と化すほどに凄惨な現場となっていった。
「皆に素晴らしい一時がありますように」
傷一つない血塗れの狩人は、ハワイにおける掃除を続ける。
示されたポイントへ、湧いてきた全てを叩き潰すために歩む。
それらは誰にも知られぬ戦い。
夜に起きた、名誉なき戦い。
当たり前の平和を、守る戦い。
だが、報酬は確かにある。
『ナイア、ポイント南東に反応がある。行くぞ』
「はい、お父さん」
(リッちゃん様に、素敵な一時がありますように)
懸命に頑張り続けた一人の少女。
その娘が、戦いを完全に忘れ眠れる夜を。
(家族の皆が、安らかにありますように)
心で繋がった大切な家族。
その皆が、楽しいと感じられる日々を。
「どうか皆に、ニャルラトホテプの加護があらんことを…」
『その加護、欲しがる人いるかなぁ…』
そして何より…
心から人の幸せを願えるようになった、父の想いを穢さぬように。
血溜まりの池を、ゆっくりと歩いていくナイア。
それを示すは、ただ月の光のみ。
『明日になったら何か買ってあげよう。何がいい?』
「あ、では海の家に来てください。魔王様方が喜びになられます」
『魔王か…悪魔達の聖痕の事も尋ねてみるか』
月に吠えるものと、月に闇を狩るものの親子。
人々の安寧を目指し臨む、闇の中の者達は…
月光の導きのまま、歩みを進めていった。
……だが、彼女達は浮かれていたのだろう。この状況に。
【やれやれ、全く難儀な奴らじゃのう】
それらを見られていることに、気づいてはいなかった。
【皆を護ることと、お主らが楽しむことは両立できようて。まだまだ、親子としては半人前じゃのう】
黄衣の爺が、若々しき銀髪の青年の姿の風が愉快げに笑う。
【のう、そうは思わんか?】
「本当に、本当にそうだわ。あの意地悪邪神さま、何もわかっていないったら!」
「犠牲は出さないのが、カルデア流。自分達を犠牲にした幸せは、受け取れない」
【そういう事じゃ。どれ、明日からは手を貸してやるとしようぞ。ヨグソトースの娘にエイボンを継ぐものよ】
「えぇ、お爺さま。セイレムを思い出すわ!素敵な夜の演目にしましょう!」
「聖痕……気になるわ。エイボンの叡智で、突き止めてみる…」
【かかか。ならばわしも、適当な輩に声がけしてみるかの〜】
秘された夜は…
歪んだ喧騒を、導かんとしていた。
?【おもしれぇ事をやってるみてぇじゃねぇか】
アダム「わかるか、貴方にも」
【当然だ。朝や昼はどうにもキラキラして居心地が悪い】
【そこでだ、アダム。夜はお前の身体を貸せ。オレ様が暴れて、リッカの平穏を護ってやる】
アダム「それならば異論はない」
【安心しな。疲れも痕跡も残しはしねぇ】
【教えてやるぜ。オレ様の縄張りに入った末路をな…】