人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
エフェメロス「自己紹介はいいの!どうせいつか解るんだから。あなたね。アジ・ダハーカ…最悪の邪龍っていうのは」
リッカ「うん!リッカだよ!よろしくね!」
エフェメロス「…頼もしいわね。じゃあ早速支度なさい。あんたの家族は乗り込んでるわよ」
リッカ「オッケー!それじゃあ!」
ペレ『リッカさーーん!!』
リッカ「ふぁ?」
ペレ『はぁ、はぁ!すみません!今すぐあな屋に来てください!』
リッカ「あな屋に?」
ペレ『イザナミ様が、イザナミ様が…!?』
エフェメロス「あのおばあさまがなんだっていうのよ」
イプシロン「もしかしてぎっくり腰!?あわわ、行ってあげてください!!」
リッカ「わ、解った!」
ペレ『あんなイザナミ様、初めてですー!!』
リッカ(初めて…?まさか…!)
天沼矛が導くさま、リッカはイザナミが経営する和風料理亭『あな屋』へと向かう。
イザナミノミコト。通称イザナミばあちゃん。あなや神。イザナギと離縁する前の國造の女神としてあるカルデア最強神格の一柱。
その驚異的な力と神通力、全て打ち消して余りあるうっかりや思い込みやハチャメチャから『イザナ味』として親しまれるカルデアの御意見番である存在。普段は日本の民草、子らでもあるリッカとそうでない異国の民草も皆まとめて面倒を見てくれている(介護されている)とも言うべき御柱が、リッカを招いた。
「イザナミおばあちゃ〜ん…?」
それがあまりにも様変わりした雰囲気であるとペレに伝えられ、意を決してあな屋に足を踏み入れたリッカ。彼女から預かりし宝具『天沼矛』は、伊弉冉命が認めし今世における自らの神子、名代や直系の子たるを示す意味合いもあり、それの招牌に預かるリッカは一人で赴いた…
その時だった。
「!!」
『………………』
静謐なる神威、並ぶ者なき神聖さ。
嵐の最中、軋む音や風の唸りすら消え去らんが如き隔絶の神域と化したあな屋の舞台にて。
イザナミ…否。伊邪那美神が流麗なる舞を踊っていたのだ。
「───!!」
即座に膝をつき、頭を深々と下げ崇め奉るリッカ。
それは、神を目の当たりにした人間が即座に取る本能と同じもの。
自らのルーツ、その太母にリッカは敬意と共に平伏したのだ。
『───あぁ、あなや。あなや烈しい嵐の叫びあなや猛々しき風の慟哭。痛ましきかや、痛ましきかや』
伊邪那美神は、普段の気楽で親身な面影を見せず、何かを癒し鎮めるようにただただ舞う。音楽や音頭を取るは平将門公、日本武尊。そしてアマテラスことあまこー、月讀命。
日本の全てがそこにある。その神事に、リッカはひたすらに平伏し伊邪那美神を仰いだ。
『猛き嵐は稚児の嘆き。猛き雨は慟哭の嘆き。嗚呼、痛ましきかや、嘆かわしきかや』
「────イザナミ、様…?」
『おお、龍華や。どうかかんばせを見せたもう。畏まるは無粋なりや。面を上げ、愛くるしい顔を見せたもうや』
伊邪那美神の言葉に素早く顔を上げる。普段とは隔絶せど、その慈愛は変わっていない。
「イザナミばっばは、リッカに伝えておきたいことがあるんだって」
ぷぇー、と草笛と和太鼓をぽんぽこ叩くルゥの調子が、伊邪那美神の神格を和らげる。伊邪那美神は、優しく笑った。
『忙しき身に足労、あな申し訳なき。然れど妾、嵐の『せと』に向けし所感をそなたに託したもう』
「所感、でしょうか?」
ゆっくりと舞台から降り、リッカの前に正座する伊邪那美神。彼女に、伝えたい事があったのだと。
『せとなる神、その荒々しき事。妾には思い当たる子の顔浮かばせてならじ。その子もまた、荒々しき神にて後に英雄となりし男子』
「…もしかして、おばあちゃんそれって…!」
『然り。それは『素戔嗚』。快刀乱麻の傍若無人。天照を散々困らせ果てた暴れん坊。その荒ぶる面影、妾はせとより感じたもう』
神託にも似た伊邪那美神の言葉を、リッカは神妙に聞き受ける。
素戔嗚。天界にて天の岩戸事件を起こした元凶。天照に様々な嫌がらせを与え、天界を追放された後、ヤマタノオロチを討ち果たし日本の英雄となったもの。
然るに、素戔嗚はかつて根の国にて涙を流し泣いていた事があるという。
母に会いたい。母に会いたいと。イザナギから生まれた素戔嗚は、伊邪那美神との縁はないはずにも関わらずだ。
『世には、一つの手でしか示せぬ想いがあり、それを伝える想いが一つとして知る由なき者があれり。怒れし神、悪なる神。『そう在れかしとされし者』、それしか成し得ぬ願いを伝える想い、災いなりし、破壊なりし。それしか出来ぬは、神なれど神なれば。神なるやこそ。それがあまりに、あはれなり』
「あわれ…?」
『真意はそこに無きや。その者、嵐であれかしとされ、災いであれかしと定まりしもの。さぁ、見やるべし』
伊邪那美神の言葉に、天照が鏡を照らし台風を映す。
「これ…!」
セトの神体。それは欠損と、損害が激しき満身創痍。それで尚、憤怒のままに突き進む威容。
『聖杯…人が創りし便利なこっぷ。それを核に、おしりすの全てを破壊せんとのみ動く』
「バーサーカー…!?」
『あなや。その様がいとあはれ、いと悲しきかと妾は想い、そなた、龍華やに託し願わん』
嵐の神の鎮魂を、と。
『更にて聖杯、あの聖なるこっぷには、欠けし黄泉の神の神秘が注がれり』
「そ、それって…オシリスっていう神様!?」
『然り。せとの背後、邪悪なる意志にて神を謀りし者らあり。おしりすなる神の復活、せとの内側で阻めり。せと、知らずとおしりすの誅伐永劫に願えり』
セトの神格は、聖杯にて呼び出されている。
その聖杯には、オシリスの喪われた神秘が燃料として入っている。
故にオシリスの縁が、セトを呼び全てを破壊する。
バーサーカーとして、嵐と厄災の神として荒ぶるセトとして永遠に。
オシリスの復活に、永劫怯えながら。
『龍華や』
伊邪那美神は静かに希う。
『あびどす、なる地区の復興。我等の力だけなく、せとの力も不可欠なるや』
「セトも…?」
『せと、悪神のみの神ならず。戦においても比類なきなり。生徒達を脅かす、悪しき人の目論見。そして介する権謀術数。退けし戦神となりや』
きっと、皆の力になってくれる。そう、伊邪那美神は告げたのだ。
『せとを蝕む邪なる気配、妾は感じたもう。せとの睾丸、身体を蝕むものが巣食いて猛らせしもの。名を…あぽぴす』
「あぽぴす…聖杯と、セトを動かすための…」
『妾に出来る範囲にて、そなたらの険しき道行きと…嵐の鎮魂を、助力したもうや』
そっと、リッカに伊邪那美神は託す。
「…QRコード?」
それは紙に記された『いざなみあぷり』と書かれたQRコードの紙。
『あだむ父君の、世の敷物を塗り替える板。それを読み込ませたもう。神秘宿す神の縁、辿りて招きを果たさん』
「神霊呼びアプリ!?」
『そなたの絆あらば、きっと為せましょう。信じ、どうか信じたもうや』
そっと伊邪那美神は、リッカを抱き寄せる。
「おっっ……」
『休みなれど、憩いなれど。人も神も救わんとするそなたに心からの祝福あらん事を妾は願いたもう』
だからどうか。
『元気に、健やかに帰ってきておくれ。当代の我が愛娘や。我が孫娘や。皆のふぇす、皆のいべんと。心より愉しみなるや。その顛末も愉しみなるや』
無事に帰ってきてほしいと。伊邪那美神は静かにそう願った。
「勿論です、イザナミ様!」
力強く、リッカはイザナミを抱き返す。
「意志があるなら、神様だって仲良くできる!私は敵を倒すより、そういう方が好みです!」
その時、あな屋が軋み揺れる。神威の風は、生半ではけして無い。
「だから、済ませたあとはここで食べさせてください!とびきりのイザナミおばあちゃんのご飯!」
『────えぇ、然り。勿論なるや。龍華や』
最後に視線を交わし、リッカは立ち上がる。
「八百万の神様。その元締めイザナミ様!」
力強く、二礼二泊一礼を返し。
「大和撫子、藤丸龍華!!行ってまいります!!」
腹の底から挨拶を交わし。
リッカは振り返らず…
死地へと向かった。
リッカ「!」
メイヴ「…………」
リッカ「メイヴちゃん…」
メイヴ「解ってるわよね」
リッカ「勿論」
メイヴ「負けちゃ…」
「ダメよ」
リッカ「勿論!」
それだけを交わし。
静かにハイタッチを交わし。
二人はすれ違い…
2体の太祖竜が、飛び立った。