人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
シンデレラ『そうよ、王子様。今成すべき事を違えるのは美しくないわ』
ルシファー『解ってるよ。だから今は確認するだけさ』
ロア『…』
ルシファー『もし、思想を違えていたところで…』
『始末するのに一秒もかからないからさ』
ロア。プリテンダーとして『英雄姫』の役を羽織った魔神たち。七十二全員の総意を以て、楽園カルデアに協力の意志を見せる者達の総称。それはフラウロスと呼ばれる者の決起の号令により示し合わせた、超特異点における彼らの償いの意志。
だが、それにおいて納得できぬ者も現れるのは無理からぬ話。『至高の輝き』を『僭称する』とあれば、反発するものもあるのは当然の話だ。
そう。とりわけ…『至尊の輝き』を至上とする、このルシファーにおいては。
『大丈夫かい?レヴィアタン』
ルシファーはまずは、レヴィアタンへと優しく語りかける。
『君は確かに痛みを知り、辛さを知る者だ。それ故君が一番防御と防衛に向いていると確かに伝えた』
ルシファーはそっと穿たれた痛々しい傷跡の前に立つ。
【ルシファー、様…】
『だけどね。別に君が傷付いてほしかった訳じゃないんだよ』
彼女の抉れ、焦げた肉の部分に手を翳し…。
『あまり、自暴自棄になってはいけないよ。皆が心配するからね』
【!!ルシファー様、だめ!!】
そっと【自分の肉体にその傷を転写した】。
【あぁ…!!】
ルシファーの肉体の1割、右腕から肩が一瞬で消し飛び、肉塊が塵芥と化した。血煙を以てレヴィアタンの傷を代用したのだ。
【なんで…!なんという事を…!!】
自分が傷付いた何倍も悲嘆に歪んだ慟哭を漏らすレヴィアタン。ルシファーは何てことのないように告げる。
『君はハワイの要だ。こんなところで満身創痍になってもらっては困ってしまうよ』
そっと消し飛んだ右腕を見やり、ルシファーは微笑む。
『さっきも言ったろ?自己犠牲をしてほしいわけじゃない。ちょっとケラウノスの力を計算に入れていなかった僕への罰だ。これはね』
申し訳なさげに告げた後。ルシファーは当然のように肉体を『修復』『復活』させた。
【万能の翼。願望機と同じ六つの羽根…。治すより移し替えた方が早いというわけか】
ロアはその愛くるしい童顔を不機嫌そうに歪めながら、冷静にルシファーの規格外さを慮る。
無駄話なのは理解している。そう時間はかけないとばかりにルシファーはレヴィアタンを修復し、再びロアへと問うた。
『エアに至尊を説かれ、残らず昇華されていたとされた魔神たち。夏草に根付いたマルコシアスたちやアンドロマリウス。魔法少女に命を捧げたグラシャラボラスや色々救済されて良かったゼパル。それぞれ命題ややり残しを除き皆納得した筈だ』
【…】
『それなのに、わざわざ英雄姫の姿をしてまで舞い戻った理由はなんだい?彼女の姿を羽織って、君たちは何を願い、何を望む?
』
容易く右腕を軽く握りしめながら、静かに魔王は魔神たちの覚悟を説いた。
『至尊の理に一番近くで触れた君達がそれを悪用し、踏み躙るなんて真似はしないとは思うけど…それでも、聞いておかなくちゃいけないんだ』
これだけは譲れないからね。ルシファーは目を細めた。
【火急の時だ。お前ほどの存在に虚言を重ねる気もない】
ロアのメイン人格、フラウロスはルシファー…大魔王にして同じ理を支持する同志に対して所感を告げた。
【この世界、カルデアの旅路。順風満帆に見えて実際は英雄姫と英雄王の反則技で首の皮一枚、断崖に半歩踏み込んでいる状態だ。宇宙の滅び、神を偽る獣。終局の兆しは余りに多い】
『そうだね。その通りだ』
【何のことはない。その際に【レメゲトンだけにその重荷を背負わせていいのか】【まだやり残しがあるのではないのか】と、叫んだ魔神がいただけの話さ】
答えは得た。
だが、その先に走っていく我等の真なる総括にして至尊の魔神を、過酷な旅路に放っていていいのか。
至尊の恩を受けたなら、せめて彼女がこの世界にいていい理由を作ってあげるべきではないのか。
そう、魔神達に声を上げた馬鹿者が、お節介がいた。
【全知全能の聖杯…それにはマスターユニットが必要だ】
『!』
【全てを知り、全てを成すもの。それはただの概念でしかない。どうあがいても、それには視座がいる。それは永遠に囚われ、聖杯を汲み取る誰かが必要となる】
『─────君は………』
ルシファーは。
魔神達が『何を』成そうとしたのか。
魔神達が『英雄姫』を名乗り、『何を』成そうとしているのか。
七十二の決意を、理解した。
【そう言う事だ。言われなくても、されずとも。無間地獄に落ちる覚悟は出来ているんだよ。こちらはね】
呆れたように、皮肉げに。愛くるしい顔はニヒルな笑みを浮かべた。
【とは言っても、この狂い果て捻じくれた特異点には問題が山積みだ。地獄に堕ちる前に、彼女が至るべき門の前が霧散散らかしている。それではあまりにやりきれないし、あんまりというものだろう】
と、彼女は手を翳す。
【偽神、禁断。世界運営のためのロストベルト。ロストベルト・ゼロからアンリミテッド・シュレディンガーへと変化した世界卵たる超特異点。ここでしくじれば、何もかもが無に帰す大一番】
無数に湧き出る魔神柱。決起した魔神達が、ケラウノスの第三射へと身をさらす。
【そんな折に、彼岸で腕組みヅラしてレメゲトンを見守っている場合ではないと考えたに過ぎない。我々の決議はそんなところだ】
納得したか?大魔王。魔神達は静かに笑った。
『…成る程ね』
とっくに地獄に堕ちる覚悟は出来ていた。
至尊を僭称したツケを払う覚悟は出来ている。
生半可な覚悟でこの姿をしていない。
その決議を、ルシファーは痛いほど強く汲み取った。
だって、それは。
『きっと僕も、そうする決断だ』
ルシファーが、痛いほど理解できる…。
彼女の為に成し遂げようとする、恩返しだったから。
『おーい、君達!?今状況解ってる!フラウロス、君って雑談するようなタイプだっけ!?』
その時、気弱気な魔術王の声が響き露骨にうんざりげに顔を歪ませるロアをルシファーは見やった。
【黙っていろ。ちょっと同担拒否気味の大魔王を説き伏せていたんだよ、こちらは】
『あ、そっか!君達解釈違いとかしたら殺しに行くタイプだもんね!』
『おバカ!!今そんなことしてる場合じゃないでしょう!?ゼウスの雷霆を相手にしているのよ!大魔王も魔神たちも力を合わせてもらわなくては困ります!』
オルガマリーの声が、二人を叱る。
『カルデア所長として、大魔王ルシファーとプリテンダー・ロアに正直な所感を伝えます!よく聞いて!』
『!』
【…】
『英雄姫が一番悲しむのは、自分の想いを理解してくれた者達が争うことではないのかしら!?』
ロマニ、オルガマリーの言葉に瞠目する二人。
『──それはそうだ!』
【相変わらず、落ち着いた時の君は厄介だなオルガマリー。思えば君の残留したカケラから全てが始まったのだった】
二人は剣呑険悪から、一気に同じ方向を見やる。
『ゲーティア!いずれ君達は人類を燃料にした報いを受ける覚悟でその姿を羽織った。その決意を認めよう!』
【大魔王の貴様、そして魔王達。楽園の糧となる礎を選んだ貴様らも同じ末路を辿るのを認めよう】
『お互い、成し遂げなくてはならない事があるのなら!』
【お互いに、足を引っ張り合う暇などないという事だ】
羽根が輝き、物理的に表れたソロモンの神殿が防御と化す。
『その瞬間まで、苦しみを積み上げる巡礼を共に歩もう!至尊を抱いた同志たちよ!』
【あくまで贖罪なのは私達だけだがね。敵対者のお前たちとはいずれお別れだ】
『そうだね!ならそうなる前に──!』
三射目のケラウノスが、魔神柱と神殿を直撃する。
『思い切り、先駆けとなろうじゃないか!!』
羽根が輝き『ケラウノスの直撃の事実を上書き、無効化する』
【遅れるな、ルシファー】
『勿論!ついてきなよ、魔神ども!』
ここに、至尊ファンクラブ総勢二名の結託が成された。
エフェメロス【あぁもう、コイツホントいい加減に…!】
イプシロン『この嵐のせいもあるよ!ギリシャ神話じゃなくて、エジプトの領域のせいもあるから動きにくい!』
アダム『エジプト…』
ユメ『アダム先生…!?』
アダム『それならばいくつか…』
『───手助けはできそうだ』