人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜   作:札切 龍哦

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ルシファーの部屋

ルシファー『すぅ……』

アスモデウス【………ルシファー、様?】

(お眠りになっていますね…)

【………ふふ、無垢な寝顔…】

(アスモデウス、これより夜間の戦いに参加します。どうか貴方様の祝福と加護を…)

【……………───】
『すぅ……』

【…ルシファー様。アスモデウスは必ずやあなたの御期待に応えます。ですから…】

(ですから、その時は…私と…)

ルシファー『〜……………』

【………いいえ。見返りを求める愛など、愛とは呼べませんね】

(ルシファー様。私はただあなた様のために、悪魔たちの尊厳と人の未来の為に戦います)

【ですので、どうか…その輝きをいつまでも、遍く全てに齎しますように………】

【───失礼致します。善き夢を、ルシファー様……】


無機質な聖性と鮮烈なる混沌

ハワイの夜。無数の静寂。

 

朝と昼、夕闇とはまさに別世界。楽しげな喧騒とは真逆の、星空の下。

 

しかし、その星空が照らすものは穏やかな夜ではない。

 

聖痕を刻まれし『洗礼悪魔』の軍勢───。

 

それらは旧神『ノーデンス』によって施された悪魔たち。ニャルラトホテプを中核に製作されたハワイの空間を侵す存在たち。

 

目的は、邪神にまつわる全てを浄化殲滅する事に帰結する。それは、邪神と敵対する永遠の存在である旧神がもたらし、遣わした指令である。

 

邪神とは悪。それにまつわるものもまた悪である。その唯一の使命をもって、カルデアと敵対し殲滅せんと迫りくるクローニング尖兵。

 

悪魔とは、唯一神…否、偽神において貶められた多神、精霊といった別信仰の形態。

 

または、天使達が羽根と聖性を奪われ堕天したものらの総称。

 

彼らは契約と共に人を堕落せしめるが、逆に言えば契約せぬ、無辜の民を無闇に傷つけ、殺める事は決してない。

 

それに彼等は皆、明けの明星ルシファー…地獄の大魔王たるサタンにその存在を救われ、地獄たる場所に存在を固定させ、庇護された者たち。

 

彼等はサタン、ひいてはルシファーを神よりも称え崇めており、決して裏切ることも離反することもない。

 

かつて地獄に堕とされたルシファー…サタンは地獄の有り様と方針を問うた。

 

【神に挑む?平和に暮らす?どっちがいい?】

 

神に挑戦し、再び戦いを起こすか。

神を恐れ、身を潜めるか。

 

悪魔達は天使達、ひいては偽神の力を恐れ誰も意見を発さなかった。

 

恐怖に支配されていたのだ。

 

ルシファー、サタンは自由を愛した。彼等の心を縛る恐怖を取り除いてあげようと決意した。

 

【恐れるものはない。心と魂は自由であるべきなんだよ】

 

神に戦慄く者たち、地獄の者らを救うため、サタンは単身地獄を飛び出し、偽神が始まりの人類を愛玩する楽園、エデンへと辿り着いたのだ。

 

銅製の三重の門。鉄製の三重の門。ダイアモンド製の三重の門。

 

そして偽神がルシファーを模して作らんとしたクローン【罪】と【死】。

 

それら全てをサタンは軽々と退け、地獄を脱し、エデンにて蛇としてアダムとイヴを誘惑し、堕落させた。

 

サタンは揚々と地獄に戻り、地獄の全てに希望をもたらした。

 

【僕達の心と魂は僕達のもの。誰にも恐れ、縛られる必要はない】

 

【何かを信じなくては立ち行かないというのなら、僕を見つめ僕を信じるがいい。君達を照らし、導き、永劫に共にあろう】

 

【地に塗れようと、翼が折れようと、また立ち上がればいい。君達が立ち上がる限り、この羽根は君達を庇い、癒し続けよう】

 

地獄の王として理想の振る舞いをしたに過ぎなかったが、サタンのカリスマと言葉、輝きは全ての悪魔…。

 

否、貶められた神々や精霊達を力強く鼓舞し、慰め、奮い立たせた。

 

故にサタンに忠誠を誓う地獄の悪魔達は、彼を神よりも崇拝し信じており、そして心酔している。

 

【あんな神の奴隷より、自由な悪魔であるほうがずっといい】

 

【これからは悪が、僕達の善だよ】

 

【隷属する祝福よりも、苦痛に満ちた誇り高き自由を選ぼう】

 

それにより、悪魔は全てサタンに永劫の忠誠を誓っている。

 

故にこそ─。

 

此度の『聖痕』を刻まれし悪魔達は、彼等の尊厳を踏みにじる行為そのものであり。

 

それは、七大魔王の一角の出陣に値する狼藉であった。

 

──

 

【全体整列!!】

 

悪魔たる武装、武具。完璧に統率された悪魔達、その軍勢。

 

一糸乱れぬ完璧な隊列を指揮する、豊満にして蠱惑的な意匠の魔王。

 

しかし淫靡なるは見た目のみ。その視線は誇り高く、その気風は気高く凛々しい。

 

【アスモデウス、並びに地獄に満ちる悪魔の軍勢は此処に至った。その意志と意味は語るに及びません。分かりますね!】

 

アスモデウス。色欲の魔王。貶められし楽園の管理者。

 

彼女が率いしは、悪魔の軍勢。神に戦いを挑んだ軍勢、地獄の勢力。

 

それらを束ねし役割を担当するは、色欲の魔王たる彼女。

 

バアルは側近であり、マモンはサタンにのみ傅き、ベルフェゴールは怠惰の泥濘に沈み、レヴィアタンは隔絶した存在。

 

ルシファー、サタンに地獄の軍勢の指揮官を託されしはアスモデウスであり、彼女こそは魔王にして元帥でもあるのだ。

 

【我等サタンの眷属にして地獄の規律と理性!彼に永劫の忠誠を誓いしもの!我らが敵はこの自由と誇り、矜持を苛む全ての狼藉もの!】

 

アスモデウスの言葉に、地獄の軍勢は一糸乱れぬ統率にて応える。

 

【我等が護るべきは、明けの明星が照らす地上の星々!同盟者たるカルデアの者達!】

 

アスモデウスは悪魔達に、その生来の人当たりの良さと美しさにてよく接し、よく労り、よく鍛えた。

 

魔王らしからぬその気風により、サタン、ベルゼブブに次ぐ悪魔達の信頼と信用を勝ち取っているのだ。

 

【尊重と尊厳を護るために戦うのです、悪魔たちよ!貶められようと、我等が魂を堕落させること何者にも能わず!】

 

アスモデウスはその蠱惑的かつ威圧的な風貌から誤解されがちであるが、彼女は何者も見下さず、侮蔑せず、侮りはしない。

 

なぜならば、彼女にとって万物全ては『明けの明星が照らせし星々』であり、そこには自身を含め差異なく等しい価値を持つと確信しているからだ。

 

故に、カルデアや人間の為に戦うことになんら禍根を残しておらず、むしろ彼が愛する人々の為に戦うことすら望んでいる。

 

彼女は最も、人間という種を想う魔王と言えるだろう。

 

【さぁ参りなさい!我等が忠誠を踏み躙りし外なる旧き神…!その愚かなる尖兵に死を以て報いを!!】

 

アスモデウスは指揮のための鉄棒と鞭を持ち、軍勢に指示を出す。

 

相手は、地に満ちる聖痕の悪魔のクローン達。

 

悪魔でありながら、天使の羽根を付けられ脳を改造されし者たち。

 

無秩序なる聖なるものたち。

 

完全なる統率の悪魔たち。

 

遂に激突し、夜のハワイに壮絶な血飛沫と肉片とが舞い。

 

それらは全て、血煙となるほどの激闘と激しいぶつかり合い。

 

【あぁ───】

 

それはアスモデウスに幻視させる。

 

それは、天界にて巻き起こった天使達との決戦。

 

アスモデウスは参加できなかった、偽神の喉元に牙を突き立てた戦い。

 

それは、愛するルシファーの輝ける戦いであり…自身が参加できなかったもの。

 

【ルシファー様はかつて、何者にも縛られぬが故に神にすら反旗を翻した】

 

自由とは、大切な者を護る責任と共にある概念。

 

故にアスモデウスが護る責任は悪魔の尊厳。

 

並びに──。

 

【あの神を騙る獣、それらを討ち果たす可能性を持つ人間たち。それらを決して、失わせたりしないために】

 

ルシファーは変わった。

 

『有象無象のどうでもいいもの』という平等から、『一つ一つがかけがえのないもの』という尊重へ。

 

カルデアの者たちもまた然り。ルシファーにとっての大切なものたち。

 

人間は脆く、弱い。アダムとイヴが刻まれた原罪により、ずっと苦しんでいる。

 

彼女は人を嘲らない。罵らず、侮蔑しない。

 

弱いのならば、庇護し護るは当然の事。

 

それは力を持ち、強さを持ち、立場と権威あるものの責務。

 

そして、アスモデウスは知っている。

 

知恵と生命の実を、いつか人が手にした時。

 

やがて、人は神に至り。

 

座に巣食う獣を討つことを。

 

その可能性に至るその日まで。

 

決して、人々を神の手で滅ぼさせはしないと。

 

【さぁ恐れる事はありません!貴方がたにはこの魔王、アスモデウスがついています!】

 

意志なき秩序、誇り高き混沌がぶつかり合う。

 

際限なく湧き出るクローンの悪魔達を、懸命に押し留める。

 

【なんとしても──カルデアの者たちの安寧を護るために!さぁ、誇り高く戦いなさい!!】

 

色欲の魔王。

 

それは何よりも──

 

『情』に、溢れるものであった。




アスモデウス【……!】


そこに現れしは、かつての同僚。

イシューリエル『───』
ゼポン『───』

エデンの警備隊、イシューリエルとゼポン。

アスモデウス【何故、あなた達が…!?】

彼等もまた、聖痕を刻まれしクローン。

その二人が…。

クローニングされし悪魔を率いる、指揮官にあたるユニットであった。
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