人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
?【マシュ、起きなさい。マシュ】
マシュ「ん、んん…?」
リリス【もう朝よ。迎えが来るから、帰れるように備えなさい】
マシュ「あな、たは…リリス、さん?なぜここに…?」
リリス【私には放浪の呪いがかかっているの。1週間以内に、いた場所から100キロ以上離れないと消滅してしまう呪い。だから、カルデアと夏草を定期的に行き来してるというわけ】
マシュ「放浪の、呪い…」
【だから、夏草とカルデアの連絡係も兼ねているのよ。さぁ起きなさい。ご飯、作っておいたわよ】
マシュ「え!?ご飯をですか!?」
リリス【えぇ】
リリス(・・・やはり解除されたとしても、私がビーストである以上完全には逃げられないようね)
(あの鳩には、余計な気を遣わせたわ・・・謝りましょうか)
〜
パパポポ「ふむ……」
「…『アンビースト』、か……」
【簡素なものよ。でもまぁ、何も食べないよりはマシでしょう】
放浪の女性、リリス。カルデアにふらりと来訪した、イヴより先んじる始まりの女性。彼女は汎人類史における始原の女。
汎人類史の男性優遇思想に否を突きつけ、楽園を出て魔物の女王と化した古き存在であり、その姿は…女性らしさをまるで感じられない拘束具に留められたもの。彼女は神に呪われており、その姿を晒すことは許されない。
更に、彼女には先の放浪の呪いにより長く定住できない。別の場所へ一ヶ月以上行かなくば、血を噴き出し死に至る呪いをかけられている。偽神直下の呪いであり、完全解呪はパパポポの真価無くば叶わないのだ。
【さ、召し上がれ。日本だから和風にしたわ】
そんな彼女が手掛けたのは、和の定食。味噌汁、鮭、たくあん、肉じゃがに白米といった、日本の魅力の朝ごはん。
「わぁ!いただきまぁす!」
マシュは喜色満面にてリリスの食事を頬張る。その料理は、マシュへの嫌悪を込めた不味いもの…
「美味しいです!これが『おふくろの味』というものなのでしょうか!?」
のはずがなく、きっちりと考えられ、基本に忠実かつ丁寧に作られた美味なもの。他者に食べさせることを考えた和風料理の粋であった。
【まぁそうかしらね。私も一応、始まりの女なわけだから。当然マシュの母親でもあるかしら】
無表情…。否。重厚なフェイスハガーマスクと片目を覆われた顔から覗くは片目のみ。
その片目が、嬉しそうに細まっていることから、彼女もまた嬉しいのだろう。
「やっぱり!……あ、でも私は、違うかもしれません」
【違う?】
「私はデミ・サーヴァント計画により作り出されたデザインベビーなので、自然出産とは違います!だから、リリスさんの司る大地から生まれたというわけではなく…」
マシュは、デミ・サーヴァントの依代として作られたデザインベビー。ギャラハッドの素体となる為に作られたもの。
【あぁ、そう】
「はい、そうなんです。ですから…」
【だから何よ?そんなの関係ないわよ。少なくとも、この私にはね】
リリスは拘束具で縛られた手を、マシュの頭に置く。
【人間はね、どう生まれたかよりどう生きるかのほうが大事なの。そりゃあなたは、生まれは人であることを望まれた人形…ヒトモドキだったかもしれない】
「……はい」
【でも、今のあなたと今につながるあなたは違うでしょう?あなたは人として懸命に生き、過ごして、輝くような色彩を得て、ヒトモドキから立派な一人の人間になった。……うん、そうよ。私と違ってね】
その声音は優しく、その手は柔らかく、視線は慈しみを持ちながらマシュを見つめる。
【人でない何かが、色彩を得て輝き人になる。私が、私達がいつか夢見た人の歩みと輝きをあなたは体現してくれた】
「リリス、さん…」
【他の私はどうなのか知らないし、知ったことでは無いけれど。それでもここの私は言わせてもらうわ】
リリスは、グランドマザーとしてマシュに告げる。大地としての彼女の言葉を。
【よく、立派に育ってくれたわね。私はあなたのこと、好きよ】
「リリスさん…!」
【おめでとう。あなたはもうヒトモドキじゃなく、立派な一人の人間よ。これからもどうか、頑張って懸命に生きていきなさいね】
リリスの言葉に、マシュは笑いながら頷く。
「はい!…私はまだ、ギルガメシア姫様のように全てを尊ぶ事はできません」
【あそこまでたどり着ける人間なんていないわ、少なくとも今の人類はね】
「それでも。それでも私はあの方を尊敬し、自分なりにやってみてはいるのですが…。もし、私を嫌いという方が現れた時、その方すらも好きになれるかどうかは、分からないのです」
自分を好きな人間を、愛するのは容易い。
だが、自分を嫌悪する人間を果たして愛することができるのか。
「リリスさんは、親愛を私に示してくださいました。そのおかげで今、私はリリスさんが大好きになれました!」
【嫌いという相手は、好きになれない?】
「仲良く、好きになりたいとは思います。ギルガメシア姫のように、ゲーティアにすら感謝を告げられる領域には難しくとも、せめて、自分は好きでいられたらと…」
リリスに母性を感じたか、マシュは静かに胸中を語る。
「誰かを本気で憎めるか、嫌えるかは、皆さんと一緒にいる今でもまだ、分からないんです。私は誰かを、嫌いになることが出来るのかと」
【……】
「楽園や夏草の皆さんは勿論、敵ですら憎んだこと、嫌った事はありません。ですがそれは、姫様のような高みにいない人間としては…歪んでいるのではないかと、思うんです」
味噌汁を啜りながら、マシュは問う。
「誰も嫌わないとは、誰も好きではない。そんな気も…してしまうような気がするんです」
マシュの悩みは、人間らしいものだ。
好悪、いつか彼女の前に現れる不倶戴天。
そんな存在を、愛することは出来るのかと。
【──ふふっ】
「リリスさん…?」
【可愛らしい悩みね。そんなこと、わかりきっているでしょう?】
リリスは、笑いながら告げる。
【自分の事を嫌いだ、なんて真正面から言ってくるやつに遠慮はいらないわ。思いっきり殴り返してやりなさい】
「な、なんと!?」
【いいじゃない。自分を嫌い、憎む相手に容赦なんて要らないわ。力のかぎり、殴りつけてやればいいのよ】
リリスは、マシュに楽しげに告げた。
【まだあなたの人生は始まったばかり。だから説明、告げておくわ。どうしようもなく気に食わない、そりが合わない、憎くてたまらない存在は必ず現れるわ。マシュ、あなたの前にもね】
「憎くてたまらない…」
【そういう手合いは、大抵胸に結論ありきのものよ。嫌いなことにもっともらしい理由をつけるから、誰に何を言われようと変えない、聞かない、変わらない。そんな理不尽に、何故あなただけがいい顔をしなくちゃいけないのかしら】
ぽん、と拳をマシュの胸に置く。
【言葉で殴ってきたのだから、態度で蹴ってきたのだから。あなたが返すのは言葉でも媚でもないわ。反撃の咆哮と、硬い硬いグーパンよ】
「ぐ、グーパンですか!」
【そうよ、叩き込んでやりなさい。お前が私を嫌いなら、同じく私もあんたを嫌う。白黒はっきりつけようぜってね】
不倶戴天、共に歩むことが不可能ならば、あるのは最早戦いのみ。
【殺し合いまで行って、最終的にとことんやるといいわ。嫌いなら嫌いで結構。勝ったあと、存在レベルで清清したと笑ってやりなさい。我慢する必要なんて無いのよ、マシュ】
リリスはもう一度、告げる。
【対話を尽くし、尊重を尽くし。それでも尚行き着く先が不倶戴天であるならば。戦うことは間違いでも悪でもない。あなたの人生を、あなたの生命を、ほかの連中に無価値だなどと言わせてはだめよ】
「リリスさん…」
【せっかくヒトモドキから、立派な人になれたのだもの。その生命、その在り方。あなたが一番大切にしてほしいわ。だって…】
そう、リリスにとってそれは間違いなく。
【ヒトモドキのまま楽園を出た、私には出来ない生き方だったのだから。眩しくて妬けちゃうわ、もう】
そう、けして届かぬ星なのだから。
「リリスさん…!ありがとうございます!あの、私!」
【ん?】
「リリスさんの事は、好きです!いいえ、今もっと好きになりました!」
マシュは、笑顔を浮かべ告げる。
「私の人生を『尊重』してくださり!ありがとうございます!」
【──そういうところよ、キリエライト。御礼を言えて偉いわね】
荒野の悪霊でない、はじまりの女たるリリスにとって。
【さ、早く食べなさい。じゃんぬが用事を済ませ次第帰るのよ】
「はいっ!」
マシュの生は、
リリスが生み出したいと願った『リリン』。
自分が夢見た、人間の在り方なのだから。
その頃
『いざ来たれ!薙の運命相談所』
じゃんぬ「ここ、よね…?」
じゃんぬは今…
夏草に最近出来た『運命相談所』に足を運んでいた。