人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
たきな『どうしました?千束』
千束「アダ先って、キヴォトスの先生じゃん?」
たきな『そうですね』
千束「人類の始まりで、要するに最強じゃん?」
たきな『…その、ようですね』
千束「じゃあさ〜……」
「頂点に、挑んでみなくちゃ嘘じゃん?」
『…何をする気ですか』
「ふふーん、また後でねたきな!」
『ちょ、千束…!』
「アダ先〜〜!」
アダム「む、まだ私に用か?」
千束「ありありのアリーヴェデルチ!」
アダム「入り用なのかさよならなのかどちらなのだ?」
千束「実はさ〜、アダ先とさ〜」
「ガチで、ヤりたくなっちゃった♪」
「よーし、準備はいい?アダ先!」
銃をプレゼント、そして内緒でデータ採取。千束のアダムへのスキンシップはそれまでの筈だった。
「私、こう見えて最強の肩書き名乗ってんで!容赦しなくてオッケーよー!」
しかし、彼女からの提案…『ガチめの組手!』なるものを行うため、アダムは急遽トレーニングルームの格闘エリアへと招かれていた。
スポーティな格好の千束に、上着を脱いだアダム。共に二人が、数奇に相対する。
「私としては、例え訓練でも生徒に手を挙げたくはないのだがな」
「解ってるよ、アダ先が優しいっていうのは!でもほら、暴れる生徒を優しく、柔らかーく無力化するテクは学んどくべきだと思うんだよね〜」
入念にストレッチを行い、千束が告げる。
「無力化する為のタッチとか体術とか?アダ先の業務にバッチリ教えてあげられるよ多分〜!」
そう気軽に挑発する千束であるが、アダムは見抜く。
(遊びはない。挑戦者の目だ)
目がギラつき、輝いている。最強の自負を持つ者が、自身の全霊を示さんと昂っている。
『彼女は彼女の組織において歴代最強の名を冠しているそうだ。挑みたくなったのだろう、お前に』
「────飽くなき自負と誇り故か。ならば…」
アダムは一息付き、構える。
「受け止め、応えよう。頂点の先に道があることを示す為に」
「やる気になってくれた?さっすがアダ先!愛してるぅ♪」
ちゅっ、と投げキッスを飛ばし───
「じゃ、───始めるよ!」
それを合図に、最強のエージェントたる千束と最初の人類たるアダムの…
熱烈な、くんずほずれつガチめの組手が始まった。
(アダ先のデータや活動記録はたきなと一緒に確認済みだけど、正直デタラメすぎてフェイクやダミー案件かと思っちゃうものばかりなんだよね)
千束はフェイント、並びにジグザグな不規則移動を絡めながら思慮する。
(データ取るなら、やっぱ肌合わせ!それに──)
もし。もしここで例え組み手でも。
始まりの人類たるアダム・カドモンに。自身の力が通用するのなら。
(自信を持って名乗れるよね!最強の座!)
自分で名乗るにはダサい最強の称号。
目の前に、それを保証してくれる相手がいる。
(上があるなら、睨まなきゃ嘘!挑める座山なら登らなきゃ嘘ってね!)
自身の練り上げた全てをぶつけて尚、到れるか否かの頂点に。
挑んでみなくちゃ、女が廃る!
「さぁ──挑ませてよ!アダム先生!」
獰猛なまでの笑みを見せながら、アダムとの距離をゼロにする。
「!」
「懐、深いね!でも…!」
床を踏み抜く勢いで踏み込み、顎を砕かんばかりの掌底を構える。
「早速一本!!」
身体を極限までしならせ、一撃で生命を刈り取らんばかりの気迫を込めて。
「もらっちゃおっかな───!!」
叩き込まんとした、その瞬間───。
────『床に倒れ伏した千束を、アダムが見下ろしていた』
「────は?」
「大丈夫か?受け身も取らずに倒れたぞ」
何が起きたのか分からなかった。
何をされたのかすらも。
「え、ちょ。なんで?」
素っ頓狂なまでに素朴な疑問。
自身は今、アダムの顎に掌底を叩き込まんと構えたはず。
それが、何故?
「まだやるか?千束」
アダムはさらりと手を伸ばす。
その姿には、傷や乱れ一つない。
「───っ、よくわかんないけど!」
素早く倒立からの距離を取り、仕切り直す千束。
「わからん殺しでギブアップなんて、ありえないから!」
再び、いや先程以上に鋭く、フェイントや死角への移動、視線のミスディレクションを絡めた縦横無尽の動きを披露する。
(見据えろ、見逃すな。アダム先生の筋肉の動き、そして初動の兆候を…!)
千束は史上最強の名に恥じない実力の持ち主だ。
相手の照準と射線を正確に読み取って回避し、
数人の敵をたったひとりで相手取って無力化できる程に。
特に回避に関しては、至近距離から放たれたアサルトライフルの掃射が1発も命中しないほどであり、非常に優れた反射神経と相手の発砲タイミングを読む洞察力からなる高度なスキルだ。
彼女の司令すらも「至近距離から撃ったところで当てるのは難しい」と太鼓判を押している。
観察力に類する能力が非常に高く、相手の服や筋肉の動きを見て次の行動を予測することができる。じゃんけんも特に対策されない限りは100%勝利できるほど。
(アダム先生はとびきりのスペシャルだけどあくまで人間。筋肉や動きが人外だなんてあり得ない!)
なら何故先程自分は地に伏した?
何をされたかすらも分からずアダ先を見あげていた?
(せめて何をされたかくらいわかんなきゃ、赤っ恥もいいとこ!)
アダムの視線は見えている。筋肉の動きも見据えられる。
特殊な器官や、摩訶不思議な力はない(確か鳩とかタブレットとかあったけど今はノーカン)。
ならばできるはずだ。ならば分かるはずだ。
自分ならやれる。
きっと必ずアダム先生に、背中にタッチくらいできる!
(───ここっ!!)
数回の鋭いステップの切り返し。アダムの視線が千束の動きに揺れた。
「ッ────!!」
その時千束は、アダムの脇をすり抜けるように駆け抜けた。
「!」
(私は感覚派だから解っちゃうよ、アダム先生もそうでしょ!)
アダムの背後。そこは認識と視界の外。
どれほど感覚が優れようと、超反応ができようと。仮に神経系のインパルスが限界に早かろうと。
(見えない相手に、何かできる相手はいないってね──!)
服をとり、足を払い無力化し拘束する。
(今度こそ、貰った───!!)
アダムは未だ千束を捉えていない。あまりに速い切り返しに翻弄されたか。
千束の比類なき格闘術が、今まさにアダムに炸裂し──。
「───────」
「っ────!!」
…千束は。
自らが先に地を舐めた理由を、理解した。
(なっ、う、そ───)
死んでいた。
砕かれていた。壊されていた。殺されていた。
アダムの周囲全域。僅かな隙間すら逃さぬ範囲にて。
『千束はアダムに急所を砕かれ、絶命していた』
(うそ、待っ、やば────!)
百手の内、九十九手にて千束は死んでいる。
死角など生ぬるいものはない。
絶死。そこにいれば必ず死ぬ。
(避け、無理───!)
たった一つの生を掴む。組手などとは最早思う事なく。
(あそこに───!)
ただ一つあった、逃げられる場所。九死に一生を得る無二の場所。
受け身など間に合わない。そこに飛び込まなくては生命はない…!
「────」
同時にアダムの腕の筋肉が隆起する。
来る!殺される!
「─────っあぁぁあっ!!」
その時、千束は『自身から投げられた』。
アダムの軽い手の動きに合わせたかのように、全身全霊でアダムに投げられたのだ。
「かふっ───!!」
受け身も取れず、肺から空気が押し出され、吐き出される。
「げほっ、げほ…!」
彼女らしからぬ、不格好な五体投地。
「素晴らしい観察力、洞察力、そして反射神経と動体視力だ」
呆然とする千束に、アダムは再び歩み寄る。
「人間同士の戦いにおける全てを兼ね備えている。まさに君のエージェントとしての素養は完璧と言っていい」
「………………」
「いいセンスだ、千束」
輝くような笑みと共に、サムズアップするアダム。
「しかし、センスと感覚を強く頼りにするものはそれ故に自身の感覚こそを無二のものとして世界を捉えがちだ」
片膝にて、千束を覗き込む。
「確かに私は君を捉えられなかったとも。まさか至近距離で人を見失う経験をするとは思わなかった」
「……じゃあ、なんで?」
「君のセンスと感覚は至高の域だ。『だからこそ、私の放った殺気と圧に完璧に反応してしまう』」
アダムは千束を捉えてなどいない。
ただ、自身の周囲に『一点だけ除いて覇気と圧、殺気を飛ばし空間を塗り潰した』。神座における渇望とか、覇道神とかが行う世界の塗り潰し…掌握である。
千束という個の頂点に対し、『千束以外の全てを掌握したのだ』。
彼女は完璧にアダムを見切った。
それ故に、『アダムに完全に破壊される未来を、そのセンスで完璧に再現してしまった』。
死地に彼女がいるはずがない。
ならば、用意された安全地帯に退避するしかない。
そこが用意されたものだとすら気付けない。
故に傍目から見れば、『アダムが触れず千束を投げた』ように見えただろう。
「君が真の達人、真のエージェント、真の最強だからこそできた技…その名も『覇道投げ』だ」
彼女が比類なき力とセンスを持つ『最強』だからこそできる技。
アダムはそれを、千束に惜しみなく披露した。
「最強とは区切りだ、終わりではない」
彼女の才能に、礼賛し褒め称えながら。
「君は最強、そして最強のみが到れる入り口にいる。それが、君という存在にレクチャーできる授業だった」
そっと頬を撫で、笑みを送る。
「君の限界はここではない。もっともっと強く、美しくなれ。錦木千束」
「…アダ先…」
「遥かな頂で、君を待つ。最強たる君にしか到れぬ道を往け」
最強は、ゴールなどでは無いのだから。そっと、手を差し伸べる。
千束はぼんやりと、アダムを見上げ…
「……ました」
「ん?」
「…ありがとうございました!アダム先生!」
アダムの手を、満面の笑みにて握り返し。
速やかに、自らの手にて立ち上がるのだった。
休憩室
千束「正直さー、傲ってました」
アダム「傲る?」
千束「アダ先に、私ワンチャンあんじゃねとか思ってました!ごめんなさい!」
アダム「自信があることはいいことだ。確かな実力も備わっているのだからな」
千束「やさしー!…でね、アダ先のお陰で気合入りなおった!」
アダム「!」
千束「アダ先私の目標に決定!いつか絶対叩き伏せてやっから覚悟しろよー!」
アダム「──フッ。楽しみにしている」
千束「見てろー!あ、じゃあ勝者の権利としてさー…」
アダム「?」
千束「私と……シャワー、浴びちゃう?」
アダム「────」
アダムは立ち上がり、キーを渡す。
千束「へ?」
アダム「本気ならば扉を叩け。その、私の部屋の鍵を使ってな」
当然の如く、シャワー室を後にしながら。
アダム「一人の男として、迎え入れよう」
鍵を残し、そっと退室する。
シャワー室に残された千束は…
千束「………キヴォトスの子達が…」
(ハマるの、分かるわ〜……)
暫し、アダムの背中を見つけていた。