人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
イシューリエル『再び、夜が来た』
ゼポン『この地に穿たれし、夜が来た』
イシューリエル『永劫の安寧を』
ゼポン『永劫の安楽を』
『『全てを忘れ、ただ永劫に』』
【終わらない休暇など、地獄よりも地獄でしょう?】
『『!』』
アスモデウス【今度は遅れを取りませんわ。イシューリエル、ゼポン】
イシューリエル『アスモデウス』
ゼポン『蛇に堕した色欲の化身』
アスモデウス【なんとでもおっしゃいなさい。私の来歴、私の罪過など今はどうでもよろしいのだから】
『『…』』
アスモデウス【今、大切なのは。眼下に満ちる地上の星達を…人間の安寧を護ること】
イシューリエル『お前が護る?』
ゼポン『アダムとイヴを追放させる原因となったお前が?』
アスモデウス【えぇ、私は──】
【色欲の魔王として、お前達の翼と聖性をもぎ取るものですわ】
『笑わせる。本当に笑わせる』
『愚かなるはアスモデウス。神の楽園を終わらせた愚物』
夜空の下、星空にて。美しき翼をはためかせるイシューリエル、ゼポンと扇情的な衣装に蠱惑を極めた肉体を包むアスモデウスが対峙する。
『お前は所詮、堕落せし天使の一つ』
『そんなお前が、神の恩寵を受けた我らに挑むと?』
【─────】
『ならば、滅する』
『偉大なる父、大いなる主たるものの名において』
どこまでも無機質かつ、抑揚のない二人の天使が躍り出る。
『『主よ、我等に祝福をお与えください』』
天に飛び立ち、二人は祈りを捧げ奉る。
【!】
瞬間、降り注ぎしは星の光が落ちてきたかのような光の乱打。辺りの闇を打ち払うが如きの聖なる輝きの流星雨。
『我等と共に光はある』
『光と共に我等はある』
『『消え去るがいい。穢らわしき肉の器と共に』』
二人が招き落としたそれは、人間は愚かサーヴァントのトップクラスのみが対応できる程の質量。
聖杯戦争ならば、これで勝敗は決まるといっても良いほどの圧倒的な力量。
それを前にして───アスモデウスは。
【───ふっ!!】
音を置き去りにする速さで。
光を抜き去る速さで。
『『!』』
腕と、そこに握られた得物を振るった。
【あら?消し去るのではなかったのかしら?】
瞬間だった。コンマ数秒以下の炸裂であった。
放たれた光は、確かに過たずアスモデウスへと降り注いだ。
それらは全て、アスモデウスを肉片もろとも、影すら残さずに消滅せしめんとする力だった。
だが、彼女は今存在している。消滅を免れたのだ。
何故か?
【無理もありませんわね。私達天使に、このような武器は支給されていないのですから】
それは、アスモデウスが待つ【大魔導具】にあった。
【魔王…いいえ、七大魔王と呼ばれる者達には、それぞれ【叛逆礼装】という武具、【失墜解放】という一段階上の霊基を持っています。普段の霊基は抑制、あくまでサーヴァントの上限近くのもの。世界のテクスチャや抑止力を揺るがしかねないですから】
アスモデウスの手には、どくどくと脈打つ、深紅の禍々しい【鞭】が握られている。
【サーヴァントでいう【宝具】のようなものであり、自身の力の何割かを限定解放するもの。それが【叛逆礼装】。神を名乗る傲岸な天の座にあぐらをかく神を叩き落とすために身に付けた力】
その深紅の鞭は、どくん、どくんとまるで生きているかのように胎動を繰り返す。
【色欲の魔王の名を冠した私は、その名に相応しい得物を選びました。それがこの鞭…【生命紡ぐ色欲の臍緒】、アンビリカル・ウィップと呼ぶもの】
臍の緒。産み落とされる子が母胎と繋がり連環する生命の歌を紡いだ証。
【宝具とは別に、魔王の権能として行使するこれを持ち出す意味…。神の傀儡に過ぎない貴方達にも理解できて?】
元来、彼女は色欲の魔王ではない。
正確には、色欲の魔王【たらん】としていた。いや、今も全力で行っている。
慣れぬ淫靡な言葉を把握し、
自らの扇情的を極めた肢体を、淫魔のような衣装で晒し、
そして、自身の肉体を駆使した肉弾戦に終止する。
色欲の魔王として、肉と肉のぶつかり合いは必須と定義した事による戦法の選択。
それらは全て、しかし彼女の徹底した『理性』により起こされている。
自らに劣情を齎した相手を完全に、魔王として支配できるように。
魔王として、邪智暴虐や奸計を完璧にこなせるように。
ルシファーは勿論、ベルゼブブやマモン、レヴィアタンに笑われぬように。
彼女は生まれながらに悪でなく、その心は淫靡な肉体に備わるべきでなかった程に清廉である。
そんな彼女が、【色欲の魔王】として完全に敵を討ち果たさんとする際に握る武器。
それは鞭。扱いが極めて難しく、なおかつ相手に激烈な苦痛…
そして【被虐】の快楽を叩きつける用途に長けた色欲の魔王の神器。
皮肉な事に、色欲の魔王が振るうそれをアスモデウスは完璧に使いこなした。
それはルシファーやレヴィアタンのような天賦の才でも、マモンやベルフェゴールのような生命の研鑽でもない。
ただ、血の滲むような鍛錬。
放つ衝撃波に、跳ね返った鞭の先端に、幾度も肉体を切り裂かれながらも彼女は色欲の魔王の力に向き合った。
来る日も来る日も、地獄で彼女は鍛錬を続けた。
鞭という難解かつ複雑なそれを習得するまで、何度でも何度でも。
彼女は、ある意味で極めて人間に近しい者であった。
絶大な力と地位に甘えず、持ち前の真面目さと誠実さで鍛錬を続け、自己を磨き続けた。
彼女は努力の天才であり、故にルシファーに見初められた。
地獄にありながら、清廉にて高潔な魂が座る色欲の魔王の座。
その矛盾は、やがて誰もが未踏の領域へ彼女を導く。
【ほらほら、まだ始まったばかりでしてよ!】
タクトを振るうかのように、色欲の鞭が空間を縦横無尽に引き裂いていく。
『これは…』
『運命の、逆転…』
そう、彼女の鞭は一振り一振りが【因果の逆転】を巻き起こしている。
一振り毎に【当たった】から【振るった】という効果を付随する色欲の魔王の権能。
クー・フーリンのゲイ・ボルクと同じ、魔法一歩手前の権能。
彼女は普段、色欲の魔王として意識して振る舞っている。
しかし、この鞭を振るう間は、そういった【気負い】を忘れ捨て去る。
【さぁ…地上の真砂の如き人間を下劣に嗤った罪、贖ってもらいましょうか。絶望、そして失墜。その羽根を1枚1枚毟り取り、至高の苦痛の果てに至る快楽を以て】
『『……!』』
【ご安心なさいな。堕ちれば堕ちたで…輝ける星は見つかるものでしてよ?】
その言葉を皮切りに、色欲の魔王アスモデウスの本領は嵐のように吹き荒れた。
神の祝福をいくらもたらそうと、魔鞭の疾風の如き守護がどうしても突破叶わず。
『っ!』
『ああっ…!』
紅き暴風雨が如き鞭の乱打、嵐の渦中にあるイシューリエルとゼポンは瞬く間に切り刻まれ、血を噴き出していく。
【うふふっ、よい血化粧ですこと。血を噴き出す寸前の真っ赤な肉の断面図…美しいことこの上ありませんわぁ】
鞭を手にしたアスモデウスに、普段の理性は沈殿している。
この鞭は、いつか天界にて神に振るわんとしていた決戦宝具。
本来ならば天使にはあまりにも役不足かつ、色欲の魔王として振る舞った自身を思い出し三日間はベッドでのたうち回る諸刃の剣。
しかし、彼女はこれを解放した。
先に仕留め損なった、汚名を返上する様相もある。
愛するルシファー、尊敬する魔王達に恥じない為というのもある。
しかし、このような恥を押す事を誓った最後の一押し。
【あははははははははははっ!!】
それは『嗤われた』事。
リッカを、人を、懸命に生きる人を、願いを嗤った事。
色欲とは、情動である。
人が人を想い、人が人を慈しむことも情動である。
願いを抱き、それが無様であろうと、そう願った渇望は尊重されるべきだ。
それを天使は嗤った。
天使が自ら考えることはバグであり奇跡だ。
つまり、イシューリエルとゼポンの嘲弄はそのまま神の意志。
彼女はそれが許せなかった。
どれほど未熟でも、どれほど愚かでも。
どこまでも愛しく、どこまでも愛らしい。
アダムとイヴの過ちから、あんなにも素敵な人間と、それを取り巻く人々が生まれた。
そんな景色が、そんな奇跡がただ愛しい。
それを、奴らは嗤った。
万死に値する。
【さぁ───消え去りなさい!!】
彼女は空間を叩き割り、多次元多領域から無数の乱打を一斉に二人に叩きつける。
【『
それら全てが、天使の肉体を粉々に破壊し──
【あっはははははははははははは────!!】
魔王の哄笑が、響き渡った。
イシューリエルの魂『穢らわしきアスモデウス』
ゼポンの魂『悍ましきアスモデウス』
アスモデウス【!】
(これは…)
アスモデウスは見た。
天使達の肉体…。
それは、生体パーツを組み込まれた機械。
『無駄な事だ、アスモデウス』
『既にこの地の覚醒は始まっている』
二つの魂は告げる。
『やがて目覚めるだろう』
『この偽りの地を許さぬと』
『『そして、永劫が始まる』』
素早く鞭を振るい、二つの魂を砕かんとしたその時。
【!あれは…!?】
地上に──
大量の【敵性エネミー】が現れていることを、アスモデウスは見定めたのだった。