人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
河上彦斎「だいたい解った。…龍華は色々忘れて休暇中」
エネミー達「「「「「「「「────────」」」」」」」」
「休日出勤程疎ましいものはない。恩人にそんな真似はさせられない」
「だから───斬る。おにぎりと、お茶の恩に報いる為に」
(位の剣士も探さなきゃ。探して…)
(──一目見なきゃ。極みの太刀筋を)
「うおおおおっ!!!」
気合を込め、放たれた銀色の軌跡を描く斬撃が流星の如く疾走する。
湧き出る敵たち。聖痕を刻まれ編まれた者達が、アビゲイルとラヴィニア…フォーリナーや邪神の眷属へと殺到する中、その垣根となり戦う影が一つ、いや…二つ。
「クトゥーラ嬢、どうかご無理をなさらず」
「無論だ!だが死力は尽くす!」
引き締められた肉体のクトゥーラに、ハスター抱えの道化師のダゴネット。二人が懸命に、防衛の戦線を作り上げていたのだ。アビゲイルとラヴィニアはヨグ・ソトースとエイボンの力を使い、ハワイの乱れた龍脈に干渉しアクセスを行っている。
それらは当然なる無防備を晒すため、クトゥーラとダゴネットが懸命に戦線を維持している様相だ。両手にクトゥルフが手がけた現存されないレアメタルナイフを握り、エネミー達を切り裂いていく。
「一歩、踏み出しましたね。クトゥーラ嬢」
「何っ?」
互いに背中を預け、敵を睨み据えながらダゴネットが声を掛ける。
「貴女はクトゥルフ殿の『人形』ではなく『愛娘』」
「!」
「貴女自身の意志、心があって良いのです」
それは道化師として、そしてハスターの信頼と寵愛を受けた者の言葉。
「自らの意志を貫き、自らの心に従って良いのです」
「………良いの、だろうか」
自らの道を決め、自らの運命を選び進むこと。
それを今、自身は良しとされている。また、良しとしてもよいと。
「成長として、意思を持って。自らの道を選んでも良いのだろうか」
その道が、正しいという保証はどこにも無い。
道の果てに、未来が待っている保証もない。
誰かの示したルール、誰かの導いた道理に従い進むことは、ある意味で楽であり幸福だ。
進む責任、もたらした結果や結末を誰かのせいにできたなら、それは気楽な生き方、生き様であろう。
しかし、自身を個として誇るのであれば、誰かに相応しい自身になりたいと望むのであれば。
暗闇の荒野に足を踏み出さなくてはならない。一寸先が闇であろうと。
整備などされぬ獣道であろうと、揺るぎなくも確かに進んでいかなくてはならないのだと教えられた。
いや、教えられたとは少し違う。
それは、誰もがやっていること。
「─────」
支配し、導いてやらねばならぬとしていた者達。人間達が、当たり前にやっていることだ。
先にアビゲイル、ラヴィニア、ダゴネットとサバフェス…ハワイにて回った際に、それらを見た。
人々が、英霊が、自らの表現や創作を誇りを以て展示している事。
笑顔を浮かべ、自身の魂を以て表していることを。
「……………」
自身にはそれが未だない。
邪神の娘として、誇れるべきものはまだ何も。
父に甘え、威光に縋り、それにより自身は何も踏み出していないからだ。
「さぁここから踏み出しましょう。アビゲイル嬢、ラヴィニア嬢と共に貴女自身の『運命』を」
宮廷道化師の言葉が、背後よりクトゥーラの胸に届く。
「─────あぁ。何故なら」
なぜなら、それは。
支配するべき人間が、当たり前のようにやっていること。自身の運命を切り拓く。
自身らは、カルデアを通してずっと見てきたではないか。
運命に挑み、誇り高く乗り越える人間達。
それらが見せる、忌々しくも輝かしい紋様を。
「支配者として、それは不可欠な成長に当たるからだ!」
いつか、誇り高く立派な存在になる為に。
クトゥルフの娘、偉大なる支配者の後継となる為に。
「この地にて、私は人間どもと共に成長してみせる!」
決意を込めて、ナイフを構え躍り出る。
それこそは、自身に課せられた天命にして使命である。
自身の存在を懸けて。
全力で『新なる支配者の娘』と至るために戦う事こそを誓うのだと。
「そのための助力、惜しみはしない」
ダゴネットはソーンを展開し、本領を発揮する。
「いくよレディ!!『
光速の400倍の速度で飛翔し、襲い来るエネミー達を次々に屠っていくダゴネット。
「クトゥーラ嬢、アビゲイル嬢はラヴィニア嬢の傍にて護衛を!
ラヴィニア嬢はそのまま龍脈の操作に集中を!」
「解った!」
「えぇ、お願いね!」
『やってみせるわ…!』
「出来損ないとはいえ元は円卓の騎士。強く麗しき令嬢の方々の邪魔はさせません!!」
常識を遥か無視した速度にて、縦横無尽にて戦場を蹂躙するダゴネット。
「ハスターお爺様、クトゥーラ嬢が一歩を踏み出しましたよ。
御三方のことはお任せください」
自身が仕え奉る黄衣の王、ハスターに言霊を届けるダゴネット。
「…!」
その時、爽やかにして異質な風が辺りに吹き荒れ、飛翔するその身を保護するように吹き荒ぶ。
「あぁ───恩寵に感謝を。ハスターお爺さま」
その風は、物言わぬ了承と激励となってダゴネットの背を押す。
「クトゥーラさん!ラヴィニアをお守りしましょう!必ずやってくれるわ!」
すると、大魔導士エイボンの圧倒的な力、そして魔力を感知したか、大量のエネミーが生成され殺到する。
それらは、二人…否、三人ですら手を焼く大軍師団とも言うべき編隊。
「それは友情、友への信頼か!」
「えぇそうよ、ほうき星を共に見て、あの罪のセイレムを共に出た私達の…信頼なの!」
「そうか、それが友情というものの効果なのだな…!」
戦力差は最早個では押し返せない領域にある。
しかし、その顔に絶望は見られない。
『こんな私が、皆と共にあれるのはエイボンのお陰…』
「大魔導士、エイボンの力…」
『そして、この力を振るい助けたいと願うみんなのおかげでもあるの』
ラヴィニアの、アルビノの白く特異で美しき肌の顔が上げられる。
『あなたも、きっと解るわ。光溢れる世界に満ちるこの気持ちが』
「───あぁ、分かりたいと願う!」
それこそが、必要なもの。
「私の支配に、必要なものだと信じよう!」
エネミー達を切り裂きながら、力強く頷く。
(お父様、私は残念ながらあなたの望むままのクトゥーラにはなれないようです)
そして彼女は告げる。
(ですが!私はお父様が望む以上の私となってみせます!)
銀閃が輝き、鮮血と光が輝く。
(私はクトゥーラとして!新しき支配を目指すものなのですから!)
瀬戸際にて閃く邪神とその血縁達の奮闘は、紙一重にて続く。
しかし、クトゥーラは人間の────妻の面影を残した彼女の改造を厭うたクトゥルフの意向による───延長な為、超常的な権能を持たない。
「くうっ!!」
練度を増したエネミーに、得物を吹き飛ばされてしまう。
「しまっ───」
瞬間、囲まれ無数の死の刃たちが迫りくる。
「くっ─────!!」
態勢を取り直す。僅かに、間に合わない。
(怯えるものか───!!)
せめて睨み、心折れぬと奮ったクトゥーラの目に。
「!!」
『断罪の冥刃』が、降り注ぎ、全てが裁かれる様相を見た。
「あれは────」
空中に、冥界の闇が如き武装を纏いし淑女。
『─────』
「……邪神の悪夢…狩人ナイア…」
辺りの敵を一掃し波を留めた事を確認した彼女は、一瞥の後に夜空を翔け新たなる戦場へと消える。
「今のはナイアさんだわ!でも何故、声もかけずに行ってしまったのかしら…?」
「………」
振るわれし、冥府の神の権能。
幾多にも調整されし力、研鑽されし技。
ニャルラトホテプの神が如き力を振るった娘。
「───いつか」
そう、いつか。
「話を、してみたいものだな…」
あれほどの力を得た理由は、動機は何であったのか。
それを、敵ではなく。叶うならば友として聞いてみたいと思う。
『うん、これなら行けそうだわ…!』
防衛の完了と共に。
クトゥーラは、冥神を纏う彼女の遺した軌跡を見上げていた。
ナイア(きゅ、救援は差し出がましい真似でしたでしょうか…。クトゥルフの娘様、頑張っていらしたのでつい…!)
(お声もかけずに去ったのは失礼極まる愚行…!あぁ、ただ気恥ずかしく逃げるように去っただけと今更お伝えするのは…!)
「……良ければ、お友達になれたら…というのは高望みでしょうか、お父さん…」
星辰が輝く。
【いいんでない?】と、星の並びは告げ。
友達ネガティブなナイアは、空を駆けるのであった。