人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(お前は…旧き支配者でなく、新しき世界を臨む者になったのだな…)
【……今なら、少しは理解できるぞ。ニャルラトホテプ…お前が何故、神の座を降りたのか…】
(神の座より、力より。大切なものを。それは…)
クトゥルフ【────!!】
イシューリエル『クトゥルフ。矮小なる神』
ゼポン『しかし、尚神であるもの』
【貴様らは…!】
『『矮小なれど、それは器たりうる。慈悲を与えよう』』
【う、うぉおぉぉおぉおっ!!?】
『その神たるものの器を、新生させん。我等が主の慈悲の下に』
【うぉおぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおーーっ!!??】
イシューリエル、ゼポン。二人の天使は、クトゥルフ……矮小に堕ちながらも神の力と器を持つ彼の間隙をつき、捕らえた。
【うぉおぉぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!】
そして行いしは、無情なる剥奪。彼の霊基はいくら矮小なれど神の霊基…ハイサーヴァントクラスのものを持っている。
即ち、それを利用し、或いは剥奪し力とすれば。それは『神の霊基』たるものになり得る。
『カルデアに拿捕された憐れなる神霊よ』
『その屈辱と矮小なる存在に救いを与えよう』
即ち【クトゥルフの神の霊基を引き剥がす】。ただでさえ弱体化している彼の霊基から、神霊たる属性を力尽くで奪い取らんとする。
それにより、霊基を無記名とし、新たなるハワイを脅かす…または守護する存在を召喚せしめる。
クトゥルフはカルデアのメンバーから距離を取っていた。故に周りに、彼を助けられる者は存在していなかった。
その間隙を、突かれた。
【ぬおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお…………!!】
僅かに残っていた神たる力を、情報を抜き取られていくクトゥルフ。
加速度的にみずからが矮小なる存在へと堕していく。人間から猿へ、猿からもっともっと退化し、微生物へと堕ちていくような虚脱感、倦怠感。
それは復活などを望むべくもなくなる、死以上の死。
【旧支配者クトゥルフ】という神格の、零落の瞬間である。
『憐れなる旧支配者よ』
『愚かなる旧支配者よ』
『『お前に、新たにして最期の慈悲をやろう』』
天使は、クトゥルフに問うた。
【な、に…!?】
『再び、力ある神となりたいか?』
『再び、力ある者となりたいか?』
『『滑稽なる愚者から、新たなる世界の神となるか?』』
【どういう、意味だ…!?】
イシューリエル、並びにゼポンは不可解な問いを彼に投げかける。
『この世界は不完全だ』
『この世界は不明瞭だ』
『『故に我等が主は作り上げんとしている。この世界の向こうにて、肉に縛られぬ世界を』』
二人は、クトゥルフに見せた。
【─────!?】
そこは、あらゆる者が枷と肉体を捨てた世界。
あらゆる苦悩、苦痛、苦悶から解放された世界。光満ちる宇宙に、魂たる森羅万象の全てが飛来し、解放されたままに生きている。
そこには苦悶がなく、苦痛がなく、そしてただ無謬の平穏がある。
【ここは───】
『我が主が創り上げし、世界だ』
『我が主が創り上げし、森羅だ』
『そこには、主の愛と光のみが満ち、全てを満たしている』
呆然と浮かぶクトゥルフに、イシューリエルとゼポンが舞う。
『この世界の万物は、縛られている』
『不自由な肉体に。愚かなる罪に』
『『憐れなる万物。愚かなる万物。穢らわしき万物』』
イシューリエル、ゼポンは侮蔑し、讃える。
『お前達は間違えた。故に作る』
『お前達は誤った。故に導く』
『『肉体の軛、赦されし罪。全てが導かれし理想郷へ』』
【理想郷……】
『神は慈悲深い』
『穢らわしく愚かなお前も、救ってくださると仰せだ』
『『導かれるがいい。おのが最も重い未練を捧げよ』』
【!!】
最も重い未練。それは、即ち。
『それは、神の座』
『それは、あの娘』
『『それらを我等に捧げよ。さすればその身、不足なき神として復活を果たさん』』
神。
憧れ、そして求めてやまなかった支配者にして、完全なる復活。
『『それらを与えよう。それらを齎そう。万物の主の名の下に』』
それを、二人の天使は齎すのだと告げる。
【神の座、不足なき神の座…!】
それは、ニャルラトホテプに騙され失った者。
旧き支配者としての座。それはずっと渇望し、誇りであった自身の究極。
『故に、全てを捧げよ』
『故に、全てを奉じよ』
『『汝が天の座へと至りたいのあれば、取るに足らぬ全てを捨て、新生せよ』』
【貴様らは……!】
『神となりたかったのだろう?』
『支配者になりたかったのだろう?』
天使達は囁く。
『一言だけでよい』
『一言だけでよい』
『『ただ一言。『捧げる』と告げよ。さすれば、新なる宇宙へとその御霊は導かれん。神の福音と共に』』
【───────】
捧げる。それを告げれば、全てが手に入る。
渇望していた神の座。支配者としての座。
その為には、捧げると口にし捧げれば良い。
大切なものを。自らの全てを。
【──クトゥーラ……】
愛娘。敬虔な信者にして妻が産み落とした忘れ形見。
彼女にはずっと告げてきた。支配者たる自らに相応しい娘となれと。
その為に育ててきた。いつか自らに相応しい跡継ぎ…後継者たらんとする為に。
【────】
ならば、彼女も本望な筈だ。
共に、ニャルラトホテプやカルデアに阻まれ、失ったものを取り戻す為に生きてきた。
この場で取引をすれば、全てが報われる。
恐らく、娘は捧げられるのだろう。
恐らく、自らの全ては捧げられるのだろう。
だが、それは本望の筈だ。
零落し、矮小となっていた自身が十全なる力を取り戻す。
娘はその生贄、礎となるのだ。
子は親に尽くすものだ。
ならば、子は礎となるべきだ。
理想がそこにある。
待ち望んでいた全てが、そこに待ち受けている。
自身が望んでいた全てが、そこに。
【──────ふ、ふははは】
ならば、何を迷うことがあろう。
ならば、何を躊躇うことがあろう。
【ふははははははははは─────!!】
クトゥルフは哄笑する。
自身の選ぶ道は、一つだと。
『理解したか?邪神』
『理解したか?愚神』
『『さぁ、告げよ。ただ一言を』』
いよいよクトゥルフから剥がされる神格の領域は致命的となる。
新生しなくば、取り戻さなくば致命的な程に。
【あぁいいとも!告げてやるとも!!】
クトゥルフは天使達に、高らかに告げる。
【貴様らに捧げるものなど!何一つ無いわ────!】
───それは、何一つ捧げぬという決裂の言葉。
『─────』
『─────』
クトゥルフの、魂を込めた拒絶であった。
【舐めるなよ、神の人形風情が…!我はクトゥルフ!旧き支配者だ!!】
彼の存在が希薄になる。薄く、脆弱となる。
しかし、その気迫は決して陰らない。
【その我が、誰かの慈悲になど縋るものか!我がくれてやるものなど何一つ無い!あぁ、そうとも!何一つ無いのだ───!!】
〜
どうか、苦しみも哀しみもない世界をお作りください。
この子を、よろしくお願いします。敬愛せしクトゥルフ。
私の、あなた……。
〜
今は亡き、妻との誓いも。
〜
お父様、私は必ずやあなたに相応しい娘となってみせます!
あなたという偉大なる父に相応しき娘に!ですから…
どうかその日まで、このクトゥーラをおそばに置いてください!
〜
今も在る、娘との日々も。
【貴様らの慈悲など不要!貴様らの作る世界など不要!!】
その存在は矮小になれど、その魂は誇り高く。
【我は支配者!我はクトゥルフ!!旧き支配者たるものだ!神を名乗る痴れ者に伝えるがいい、木偶人形ども!!】
彼は、何も捧げはしなかった。
【いつか必ず────『新しき支配者』が、天の御座より貴様を引き摺り下ろすと────!!】
故に、全てを失った。
【ぉ─────】
『『……………』』
力なく倒れ伏す、小さき蛸のような生物。
【ふ、ふふ……愚か者は、貴様らのほうだ…】
それでも、その気風は未だ神の域。
【貴様らの齎す慈悲など……微塵も我には響かなんだぞ…万物の創造主が、聞いて呆れるわ…ふふ、はは、は……】
『『────愚物めが………』』
イシューリエルとゼポンは、震えていた。
『我等を侮るか』
『我等を蔑むか』
『『肉に縛られし、下等なる愚物どもが……!!』』
怒りを顕に、震えていた。
『我が神を讃えよ…!』
『我が神を崇めよ…!』
『『劣等種には、それこそが相応しい───!!』』
怒りに満ちながら──
【───】
身動き一つ取れぬクトゥルフに…
光の裁きを、叩きつけた。
─────しかし。
?【─────【フライバレット】!!】
『『!!』』
その一撃を、銃弾が阻む。
『『これは……!?』』
【ハァイ♪】
躍り出る、颯爽たる何者か。
【ハリケーン・ビスショット!!】
イシューリエルとゼポンに叩き込まれる、無数の弾丸。
『ぐうぅうぅっ!』
『こ、れは…!』
【ルーチェモン特注の、フォールダウン・ウイルス。あんたらみたいな操り人形には効果てきめんでしょ?】
二丁拳銃を持つ、何者か。
『…位相電子生命体…』
『ホメロス、イグドラシル…コンロン…』
『『我等に歯向かうか……!』』
忌々しげに、天使は消え去る。
【……取り返せたのは1割だけ、か】
その存在は、クトゥルフの神格を掠め取っていた。
【依頼は果たしたわよ、ニャルパパさん♪それと…】
倒れ伏す、クトゥルフに…
【カッコよかったわよ、支配者さん】
そっと抱き上げ。
その存在は闇へと掻き消えるのだった。