人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
?「リッカ、朝よ。もう朝、起きて」
リッカ「う、うぅ〜ん…?モーニングコール…?」
?「あなたには、聞きたいことと聞いてほしいことがある。だから…起きて。さぁ」
リッカ「ん?……んん!?」
メイド彦斎「あ、起きた。おはよう、リッカ」
リッカ「彦斎ちゃん!?」
「昨日ぶり。モーニングサービスは無料。朝ごはんは出来てる、皆いる」
リッカ「うん、うん…なんでまたここに?」
彦斎「人を探してる。宮本武蔵と、ついでにヘラクレス」
リッカ「和洋真逆だぁ。なんでまた?」
彦斎「位持ちの剣豪に…伝えたいことが」
「伝えたいこと…」
彦斎「あとヘラクレスは個人的に斬るため」
リッカ「個人的に!?」
「で。幕末の人斬りがなんで当たり前の様にメイドの格好してリッカに纏わりついてんのよ」
ホテルアザトース最上階スイートルーム。朝御飯の準備を手伝っていたじゃんぬは突如降ってわいた人斬り美女河上彦斎についての追及をいの一番に行っていた。
「私から言わせてもらえば、フランスの片田舎の頭のおかしい娘の水着で自作の刀を振り回しているオルタに言われたくないと感じる」
「しょうがないでしょ、それが大本なんだから!口の減らない人斬りね!あんたも物騒な日本出身なわけよね!」
どうせヤバい奴よこいつも!半ギレ気味にも朝餉で仲間外れにしない辺りに彼女の面倒見の良さが光る。今日は頼光手製の和食だ。
「安心して。リッカのバカンスを邪魔するつもりはない。あなたは仲間や友達と、自由気ままに楽しんで。私はついでに用事を済ませるだけ」
「えー!彦斎ちゃんも楽しもうよ、良かったら!」
「そうよそうよ。せっかく知り合った相手にはいサヨナラするなんてリッカがやるわけないでしょ?諦めて縁結びなさいな」
「…意外。ガラ悪いのに優しさに溢れてる」
「ガラ悪いのは余計よ!ガラ悪くしないとキャラ被るのよ、頭のおかしいアレに!」
もうだいぶ手遅れな黒い聖女に突っ込みながら、彦斎は鮭定食に箸を運ぶ。
「まず、何から話そうかしら。私は位持ちの剣士を追っている。そう言ったのは覚えてる?」
「うん。武蔵ちゃんを追っかけてるのはそれの関係?」
「そう。無限を越えて零に至る『空』の座。神仏に至る至極の一刀、それを有する剣士…それがこの場の、宮本武蔵…」
じゃんぬは緑茶をすすりながら、問いかける。
「そもそも位ってどれくらいあって、どういううものな訳?ブレイドマスターとか、チャンピオンとかそんなもの?」
「………詳しく定義することは出来ない。歴史上の人物の偉業にて『開眼』されなくては道は拓けないし、かといって開眼した人間が極意や極致に辿り着けるものでもない」
「魔術師とかでも、開位から冠位まであるよね?剣道初段とか、そんな感じ?」
リッカの例えに、神妙に頷く彦斎。
「例えば……リッカは、『雷位』って知ってる?」
「!!」
「雷位って、そりゃぁ…──あ、いいわ続けて」
秘密にしていると察し、じゃんぬは話を促す。
「雷位が発足、つまり人理に『開眼』したのは立花道雪が最初。雷を、刃で断ち切ったとされる伝説と伝承は、やがて人理に位として刻まれた」
「立花、道雪…」
「雷、即ちそれは天空。ぎりしゃ、とかいう場所では天空の雷霆。それは空、神の領域そのものを人が『斬れる』という事象に定義した偉業を以て、剣の極致に押し上げられた…」
つまり、立花某は『開眼』に至った開祖にして人理における雷位創設者にあたるとされると彼女は問う。
「此処が少しややこしいのだけど…『開眼』されなければ位は位として定義されない。つまり、人理において何者かが0を1にしなければ、位は現れないの」
「…………?」
「即ち、『人理の英雄が成し遂げなければ位は列席されない』という事。立花道雪が雷を斬らなければ、他の誰が何をしようと位は現れないという事。…当たり前のように聞こえるけど、創始者と伝承者の違いって感じ」
つまり、開祖と皆伝者は違うというものだと彼女は言う。
「開祖がいなければ位は生まれない。誰も習得することは出来ない。けれど、開祖が出来るのは位を見出し人理に刻むだけ。それだけが、比類なき人理の奇跡だから」
「それ以上は、磨くことも伝えることも出来ないって事?」
「そう。『開祖』が見出した位を『奥義』『極致』『絶技』と呼ばれる領域に押し上げ、研ぎ澄ますには、『開祖』が成した偉業を更に上回る事を、歴史上の誰かが果たさねばならない」
つまり、位を極めるにはまず『開祖』が位を見出し開眼させ人理に偉業と共に刻み込む。
そしてその刻み込まれた『位』を、人類史における何者かが同じように開眼し、その一生の間に『奥義』にまで昇華しなくてはならない。
開眼せず死ねばそれまで。数百、数千年先にまた新たな担い手が奇跡を超えた確率で生まれるのを待つしかないという、途方もない研鑽への道。
「……あれ!?じゃあ空位に至った武蔵ちゃんの前に、開眼してた誰かが人理に空位を刻んでいたってこと!?」
「そうなる。空位という概念を刻んだ誰かがいたから、あなたの知る武蔵は空位を極められた。互いに互いがいなければ、位を極めることは出来ないから」
「────………ひょっとして……まさか…」
リッカには思い当たる節がある。武蔵ちゃん以外にそんな魔法めいた剣技を持つ存在を。
「そんなのいるわけ……いや、なんとなく心当たりあるわ。魔法剣技…」
「秘剣・燕返し…!佐々木小次郎…!」
佐々木小次郎。正確には、その皮を被った農民。
生涯に刀を振るうだけでその域に至った、剣聖に相応しき農民。
「…その佐々木小次郎が空位を見出し、宮本武蔵が極めて空位に至った。成る程、確かライバル関係だったわね」
つまり、二人がいなくば成し遂げられない偉業であると彼女は語る。
「故にこそ…私は伝えなくちゃいけない」
「…?何を伝えるってのよ」
「位の果て。その先、向こうに何があるのかを」
彦斎は語る。自分はそれを知り、伝えなくてはならないのだと。
「彦斎ちゃんは、それを知ってるの?」
「……私は、色んな世界を知っている。その果てで、位の行き着く先を垣間見た」
位。それは極地にて『世界の理』そのものに至るもの。
「位は比類なき極みにして極点。それを極めた者は、どのような経緯にして道筋であれ『神威』すらも斬り捨てる領域に至る」
「武蔵ちゃんも…そうなるってこと?」
「位の種類にもよる。空位の至る極致とは…『零の先』」
零の先。零に至りし、その果てへ。
「零を越え、混沌すらも断ち切る一刀。それこそが、空位の極意にして極致」
「混沌……」
「私はどういう訳か、位が至る極致を把握している。私が世界を放浪している理由は『位を絶やさないこと』かもと感じている」
「なんで極致とかいうのを知るのが、位を絶やさない事になるのよ?」
「簡単な話」
彦斎は茶を啜る。
「位の極致に至った者は、世界に存在できないから」
「「……!」」
「神を斬り、理を斬り、世界の道理を斬り捨てる。それを極めに極めたら、それはまさに神秘そのもの。位を極めた剣士は、高次にして至高を越えた『位』そのものに永劫名を刻まれる。高次に存在を押し上げられ、そして…浮世に帰ってこられない」
「世界に…存在できない…」
「物事を極めるとはそういう事。仏で言う悟り、輪廻からの解脱。仏は禅と問答により悟りを開いた。言うなれば『位』を極めることは『解脱』の道なの」
位に開眼したもの。
それらは、等しく『解脱』の道に立つのだと。
「……まるで、他人事を聞いてるようには見えないわね」
「!そ、そんな事ないよ!?」
「そう?……安心してほしい。だから私がいる」
彼女は彦斎は頷く。
「私はどういう訳か、位を知り、極みを知っている。そして、世界に存在を許されず極みに昇華される前にしてやれる事がある」
「……何よ、それ」
「望むなら、輪廻からの解脱を、世界からの消滅を望まないのなら」
そして、その目は濁る。
「私が斬って捨てる。世界なんてものに召される前に、人としてその人生を終わらせる」
「……!」
「位として、ただそれを極めた記録として刻まれ全てを喪うのを無念と思うなら、はたまた世界がそれを強制するのなら。『位』の極致を永遠の空にする。それが、私の役割なんだと思う」
即ちそれは、人ならざる道を閉ざさんとするもの。
「私は人斬り。人を人のまま斬る為に、存在しているのだから」
「────…………」
リッカは彦斎を見る。
間違いなく…
この出会いは、運命なのだと確信しながら、
リッカ「……雷位は」
彦斎「?」
リッカ「雷位の極致は、どんな感じなの?」
じゃんぬ「リッカ……」
彦斎「興味があるの?…雷位の極致は、『天空の裁断』」
リッカ「天空の…!?」
彦斎「天を、雷を、稲妻を、雷霆を。澄み渡る天をその絶刀の下に叩き斬る迅速と豪断の窮極。天は裂け、永劫なる星の速さすら越えるその剣閃は、森羅万象の全てを遥か超越する」
リッカ「───────」
じゃんぬ「………マジ……?」
リッカ「そうなったら…使い手はどうなっちゃうの?」
彦斎「誰も追いつけない高みに、そして速さに。遥か超越した極致は、自身が雷霆となりて」
「────瞬きすらも捉えられず。世界の遍く全てに轟いた後に消え去るでしょう」
「「────!」」
リッカに宿った、位の極致。
それは、天空全てを裁断する領域と。
稲妻の如く、超越の後に消え去る刹那であった。