人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
彦斎「…………………」
武蔵「あら?やっぱり挨拶がグローバル過ぎたかしら?リッカさん、この方は?見かけないお顔ですが?」
リッカ「彼女は河上彦斎!最近知り合った人斬りさんだよ!」
武蔵「河上彦斎…!?」
リッカ「!やっぱり武蔵ちゃんにも彼女に思うところが!?」
武蔵「まっさかぁー!河上彦斎と言えば美少女と見紛う程の美少年!それが女性だなんて冗談きついぞー!リッカさんってばこのこのー!」
リッカ(お互いがお互いに女性説を否定してるの面白いなぁ…)
「あ、彦斎さん?こちらが本当の…」
彦斎「大体解った。カルデアとは非常識…」
武蔵「!?」
「…ごめんなさい。現実を受け入れるのに少し時間がかかった。もう大丈夫。あなたは武蔵。宮本武蔵と理解した」
星条旗ビキニでウォーターバイクを乗り回す武蔵ちゃんを宮本武蔵と受け入れるのに時間をかけた彦斎は一呼吸置いた。それはそうだろう、マイネームイズムサシミヤモトと叫ぶ女がいたらそれはちょっと強火な武蔵フリークとしか思えないだろうからだ。
「理解していただけたようで何よりです。私は正真正銘宮本武蔵!そちらこそ、よくも…!よくも私の河上彦斎を女にしてくださいましたッ…!!」
牛若丸以来の無念!!そうがっくりと大地に伏す武蔵もまた、河上彦斎の女体化に打ちのめされていた側である。事実では河上彦斎は女性ばりに端正な美貌を持つ美丈夫であったとされる彼が美少女となれば落胆もしよう。失礼極まるが。
「でもリッカさんの隣に映えるからいいかぁ!よろしくねぇ!!」
宮本武蔵は気にしなかった。どういう訳かクラスを変えバーサーカーとなっていた彼女に小難しい理屈は通用しないようだ。
「……真面目な話、してもいい?」
疲れるんだけどこの星条旗ビキニ、と無言で訴える彦斎に頷き促すリッカ。彼女は徹頭徹尾真面目である。
寧ろ、真面目でなくば人斬りなどできないのかもしれない。暴論ではあるが。
「宮本武蔵。あなたは位を持つ剣士と聞いた」
「!……へぇ。位に御興味があるとはお目が高いわね」
瞬間、空気が張り詰める様子を見せリッカが固唾を呑む。
「如何にも。リッカさんと下総巡り、英霊剣豪七番勝負を切り抜けた先に至りし天元の境地。一刀参拝、無限を越えて零に至りし我が位、名を空位にてございます。お見知り置きを、彦斎ちゃん?」
挑発めいた言葉かつ、さりげに武蔵はリッカの耳を寄せる。
(あら?リッカさんの雷位はお伝えしてないのかしら?)
(う、うん。その…自慢の力でもあるけど、同じくらい…)
同じくらい、辛い思い出でもあるから。そう口に含んだリッカに頷き、頭を撫でて武蔵は離れる。
「そう。伊達に武蔵を名乗ってはいないようね」
「そりゃあ勿論。天下無双を名乗るだけの覚悟と自負はありましてよ?」
「なら、改めて尋ねさせてもらう。心して答えてちょうだい」
その言葉と共に、彦斎は武蔵を見据える。
「宮本武蔵。極みの果てにある位と絆、あなたはどちらを選ぶ?」
「…?」
その言葉の意味を、リッカは測るにしばし空白を要した。
それはそのまま、彼女が剣鬼でも修羅でもない人の証明。
「───嗚呼、それを尋ねてしまいますか」
だが、武蔵には即座に合点がいった。その問いの意味を。
「躊躇いなく絆、と答えられる方を私は知っています。故に私はこう答えましょう」
「…………」
「無論、極みの果て。零の先。其処に至る道を私は選ぶ。手にした刀、目指した剣の道を、逸れて諦めることはないでしょう。…如何なる絆を、知ろうとも」
「武蔵ちゃん…」
そう。宮本武蔵が目指す剣の道を彼女自身が諦めることはない。それが、彼女という存在の生きる道。
例え背中を預けられる存在が、同じ位を持つ者が現れたとして。それを諦めることは、投げ出すことはないと。
「…たとえその先が、無明の果て。貴方の全てが零に還る果てなのだとしても?」
「えぇ、勿論。私の掴んだ位とは、私の選んだ剣の道とはそういうものなのです」
それを告げながら、武蔵はリッカに目線を送る。
(まぁ、完全なる零だなんてなるはずが無いのは承知済み!ここは格好をつけておきましょうということで!)
(───、うん…!)
その答えを聞いた彦斎は、静かに佇む。
「そう。……やはり、そうなのね」
「?」
「貴方も、位の先を目指す。遥か先、人の全てを捨てた領域にへと」
ゆらり、と、彦斎の振る舞いが変わる。
「!この気配……」
「何もかもを捨て、何もかもを顧みずにその先を目指す。──その過程で捨てられるものがどれほど大切で尊いものか、知ってか知らずか」
高まっていく、隠しきれぬ殺意。
「絆を知らぬ獣ならばそれで良し。でも、あなたは絆の尊さを知りながらもそれを捨てて求めると口にした」
「彦斎さん、あなたは…」
「かなぐり捨てられ、置いていかれる者の重みよりも。何も残らぬ虚しき極みの座に焦がれるならば。それを目指して人を捨てんとするならば」
ゆっくりと、得物を手にし。
「その道を断ち、人に留めるのも私の役目」
「!!」
「人が剣に成る必要は無い。あなたが人であれるよう──」
白刃を───
「────人である内、斬り捨てる」
────閃かせた。
「────ッッ!!」
瞬間、リッカを抱え飛び退いた武蔵。
そこにあったもの、全てが断ち切れていた。木々、地面、バイク、ハワイそのもの。
「位に至った剣士に幾度も会い、先の問いを投げてきた」
ゆらり、ゆらりと幽鬼のように歩む彦斎。
「後に羅刹、悪鬼外道、修羅と呼ばれし落伍者は、皆同じ答えを返してきた」
その目を淀ませ、メイドの衣装をした『人斬り』は見据える。
「至った位に全てを捧げ、仲間を、妻を、子を、手にした全てを擲ちそれを求める。有るかも分からぬ極みの先へ」
「彦斎ちゃん…!」
「それで置いていかれる者が、どれほど嘆き悲しむか知りもせず、知ろうともせずに」
リッカは、その歩みにダブる影を見る。
(!)
その歩み、その剣技。その理念。まるで異なる姿なれど。
(じぃじと、同じ…?)
キングハサン。ハサンを殺すハサン。
その歩みは、その理念は、最後の慈悲にも似て。
「二天一流、宮本武蔵。あなたも所詮、私が斬って捨てた剣鬼と同じだった」
「ッ!」
「絆を捨て、仁を外れ、尚も極みの世迷言に誑かされ、人の道すら外れんとするならば」
(この感覚…!何度も味わった危機に知る、死神の鎌が如き戦慄!)
武蔵はリッカを素早く庇い剣を抜く。
「リッカさん下がって!どうやら貴方の拾い物、冥府魔道よりの使者だったようです!」
「武蔵ちゃん!彦斎ちゃん…!」
「──せめて、人であるうちに。誰も哀しむ涙を流さぬ様に」
『人斬り』の河上彦斎は、ゆっくりと構える。
「私のこの手で、斬って捨てると致しましょう───」
「──これは非常に困った事に、なっちゃったわね…!」
向かい合う、二天一流の剣。
人を斬る、神威の絶技。
武蔵は直感する。
このハワイで起きた、突発の死合。
────必ずや、どちらかが死ぬと。
武蔵「リッカさん!」
リッカ「!」
武蔵「確信しました、あの物騒な人斬りを調伏せられるはあなただけです!」
リッカ「武蔵ちゃん…!」
武蔵「あなたなら大丈夫!胸を張って告げちゃって!辛いは分かりすぎますが…!」
彦斎「さぁ───人として斬り捨てる……!!」
武蔵「出来ればどちらかが、真っ二つになる前に──!!」
そして、ハワイのビーチにて。
究極の死合が、人知れず始まった。