人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(それは本当に、まるでじぃじみたいな…)
武蔵「はぁあぁっ!!」
彦斎「────!!」
リッカ「………止めなきゃ」
(うん、これはきっと止めなきゃいけない)
「武蔵ちゃんも斬らせちゃいけないし、何より…」
彦斎「─────」
「人の為に振るう刃は…そんなどんよりした顔で振るうものじゃないよ、きっと…!」
(そうだよね、頼さん───!)
「宮本武蔵…。鬼に成り果てる前に此処で終わらせる…!」
河上彦斎。位に至り、道を踏み外さんとした者達をその刃で斬り捨て人に留める者。
このハワイに現れた最後の慈悲、人たる惜別の刃は今武蔵に向けられていた。彼女の信念と共に、その絶技と刃が怒涛の勢いで振るわれ荒れ狂う。
(こ、れは──)
斬り結び、命を取られず刃を交わす武蔵は戦慄と共にその刃を迎え討つ。
その刃は、切れ味や技術といった領域の埒外にあり、その刃は『理』の押し付け…言うなれば『異能』や『無理』を全身全霊で叩きつけるものに他ならなかった。
「!!」
振るった軌跡にあるものすべてが、有象無象区別なく叩き斬られていく。空や木々、大地や車、岩などといったあらゆる区別なく、彦斎の刃に斬られ、断たれていく。
それは車といった刃渡り以上のものですら例外でない。武蔵が追い詰められ咄嗟に隠れた遮蔽物の大岩すら、安々と両断を果たされた事からも確信せざるを得なかった。
(神域とも魔道とも違う──!ただ斬る以外に不要、ただ斬る以外は無用!)
「─────」
(斬ったんだから斬れる!斬れるんだから斬る!そういった領域の、いっそわけのわからない無理を押し付ける理不尽…!)
それに加え、武蔵が瞠目するは更にその技量。彼女の居合、抜刀術は絶大かつ俊敏を極めた歩法に加え、
「斬る────!!」
純然たる混じり気のない【殺意】。その圧倒的な斬るという信念と技量が合わさり、この世に斬れぬものなどない、斬ると決めたら絶対に斬るという決意を、世の道理をねじ伏せ、斬り捨てるものに変えている。
(一念鬼神に通ず、というのはまさにこのこと!狙われることが光栄とすら思える程の混じり気のない殺意と剣気…!敵ながら天晴と言わざるを得ません!)
回避に回避を重ね、居合の死地から逃れ続ける武蔵。
「おっとっ──!」
やがて更に更に追い詰められ、背に大木を背負う形となり。
「はあっ!!!」
必殺の踏み込みを果たし繰り出された彦斎の剣閃が、武蔵の首に向けられ、鞘から放たれる。
「っう───〜〜〜……!」
瞬時に跳躍し、辛くもその軌道から逸れた武蔵は息を呑む。
大木が、真っ二つに断ち切られる。刃渡りなど当然幹の全てを断てぬ細身でありながら。
「ちょこまかと。二天一流の名の通りの卑怯者のようね」
忌々しげに刃を納めて構えながら、武蔵を淀んだ目で見つめる彦斎。
「勝つためには何でもやる天下無双の剣術。転げ回って逃げ回るのもそういう戦術なことくらい知っている」
「あら、博学な事ですこと。私のファンだったりします?」
「刀を生業にするなら五輪の書くらいは読む。実際のところ──」
彦斎が更に踏み込む。土の環境や感覚など気にも留めない爆発のような踏み込み。
「要領を得ないような事ばかりだったけれど──!」
彦斎の剣技、抜刀術には更に底を見せなかった。
(分身──!?)
それは歩法が成せる技か、尋常でない敏捷が成せる魔術か。
河上彦斎たった一人に武蔵が囲まれていた。四方八方から、彦斎の刃が迫りくるという摩訶不思議な状況。
「なら逃げられないようにするだけ。これで何処にも逃げ場はない」
「─────!!」
「終わりよ。宮本武蔵……!!」
瞬間、彦斎の抜刀術が閃く。武蔵は成すすべも無く首と胴体が泣き別れ───
「さぁて、それはどうでしょうか?」
──しかし、笑みと共に天元の刃は振るわれ。
「ッ─────!?」
飛び退く彦斎。
無数に現れていた河上彦斎の分身たちが、たった一刀の下に切り払われた。
「おや、首をまとめてスパッといくつもりだったのに。流石の身の熟し!天晴天晴!」
カラカラと笑う武蔵と、能面の面立ちで見据える彦斎。
「──……天眼、斬るものを見据える空の眼…」
彦斎とて無知ではない。武蔵の成した事もまた絶技であると認める見識を持っている。
収斂、または収束の刃。斬ると決めたものを必ず斬ると決定付ける観の眼から繰り出される一刀は、因果の領域で運命を決定付ける。
「人の信念にどうこう言うつもりもありませんし、位がどうのと未来がどうのと、バカンスに無粋な話題は御法度ということで敢えて私は何も告げることは致しません」
「…………」
「ですので!これは個人的な出会いと縁として、あなたの剣と向き合わせていただきます!」
両手に剣を構え、武蔵は彦斎に向けて笑顔と刃を向ける。
「あなた程の抜刀術の使い手、はたして日本に三人いるかどうか!人を斬り、人に留める絶技の刃、バカンス中に出逢ってしまえば最早斬り結ばなくちゃ収まりません!」
小難しい事は置いておく。とんでもない使い手、無双の抜刀術を振るう剣が、向こうからやって来た現実。
「人斬り、河上彦斎!一切の道理や事情を挟まず、全身全霊で斬り結ぶと致しましょう!あなたにはあなたの、私には私の!信念と遊興どっちが勝るか勝負です!」
「──そう。馬鹿みたいな格好に無双の剣。脆道ではなく素なのね」
武蔵の言葉に怒るでも蔑むでもなく、ゆっくりと構える彦斎。
「バカンス中に最高の剣技を手向けに切り捨ててあげる。悔いなく冥土に逝くといい」
「おうとも!とびきりの美男子でなくとも美少女、河上彦斎!ムサシミヤモト、ブレードバトル仕る!!」
人斬りと剣豪。
砂浜にて、ハワイを巌流島とした戦いが激化せんとしていた。
武蔵(この勝負、長期戦に持ち込む!)
彦斎(……長引かせない。次で終わらせる)
武蔵(心地よい殺気と殺気…!互いの念がハワイの熱気に負けない立ち上りを見せています!)
彦斎(斬る相手と私。いつも通り、とても静か)
武蔵(バカンスに加え神威の刃と斬り合えるなんて!仏様、最高のお土産をありがとーっ!)
彦斎(この戦いで、得るものはない)