人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
彦斎「調子のいい。貴女はいてはいけないと言ったのは誰だったかしら」
武蔵「あはは、申し訳ない!そこはそれ、素敵なご飯で水に流しましょう!というわけで、はいここ!」
『料亭高天原・あな屋』
彦斎「……あな屋?」
リッカ「あっ(察し)」
〜
イザナミ『あなや〜!よーこそよーこそ!はわい日本料亭、あな屋!女将の伊邪那美命ことナミでございますです〜!よーこそー!』
ツクヨミ『アルバイトの…ツクヨミ、です。よろ…』
アマテラス『ワフ!』
玉藻「やや!ご主人様にムサシ某、そしてそちらは根の国色の落ち武者さんです?ともあれささ、どうぞこちらへ〜♪」
彦斎「………は?」
リッカ「ここ料亭というか大社とかじゃないかなぁ…!?」
彦斎「は…?」
イザナミ『なんとこの料亭!この妾御手製の料理のみ!!あなや、神気立ち上る懐石料理を手頃なお値段で!是非ともりぴぃとしてたも〜!日本人は九割引き!あなや日本人ふぁーすとー!!』
彦斎「伊邪那美命の料理?ごめんなさい帰るわ」
イザナミ『待ってぇ!?』
武蔵「ちょっと待った!本当に美味しいんですからものは試し!」
彦斎「離して…!やめて…!ヨモツヘグイしてる場合じゃないの…!」
「絶対…!イザナミの料理なんて食べたりしないっ…!」
「死ぬほど美味しかった……」
イザナミこと伊邪那美命が経営している日本料理専門店・高天原料亭あな屋。海鮮を始めとした日本料理の全てを格安で食べられる上最高級の旅館を兼ねる日本御殿もかくやの料亭にて、彦斎はイザナミ料理に無事完落ちしていた。
「そうでしょうそうでしょう!イザナミお祖母様の取り計らいにて日本人は団子一本の値段でほぼ食べ放題なのですからもー病みつき!止まりませんねー!」
「だからそんなぶくぶく肉がついているのね。胸とか尻とかに」
「ぶくぶくしていませんー!!肉はつくべきところにちゃんとついていますから!言い方ァ!」
顔二天一流火の型な武蔵をスルーし、彦斎は出されたおむすびや刺身を完食し、キラキラとした晴れやかな面持ちを見せる。
「私の絶位…受け止められたあの矛の事が不思議だったけど合点がいった。伊邪那美命の和魂を降ろしていたのね。それじゃああれは、天沼矛…?」
「うん!イザナミおばあちゃんが私の守り槍として託してくれてるんだ!」
「───成る程。やっぱり、どんな姿でも…伊邪那美命は私達を想ってくれているのね」
安堵したような、確信したかのような言葉の様子に武蔵が怪訝に尋ね返す。
「どんな姿でも?今の言い方、まるであなたが降ろしたイザナミも含むような物言いに聞こえましたが」
武蔵の懸念も無理はない。
伊邪那美命。冥府の女神たる彼女はひたすらに恐ろしく、悍ましく、戦慄と共にあった。
「あれほど恐ろしいものは山の翁様以来見たことがありません。流石は日本の創世の女神といった神格でございました。そんなあの女神を宿したあなたが正気なのも大層な驚きですが…」
「……私は、伊邪那美命だけは信仰しているの。最低最悪なのは位だけで、伊邪那美命は素晴らしい神様だから」
『うへへ〜、えへへ〜!げんちゃんあなや嬉しき〜!こちらさーびすの鯛と鮪と河豚でーす!あなや食べてたもー!』
ニッコニコのままサービスを振る舞うイザナミを、今だ信じられなさげな目で見つめながらも、自らの信仰を語る彦斎。
「……位は、人理の英雄が刻むもの。私の人生が、人理に刻んでしまったのが先の絶位」
「絶位…」
「活人の側にある雷位、閃位。中庸の空位に対し……紛うことなき殺人の剣。斬り、殺し、断絶することしか出来ない剣こそが絶位。神威の対極、冥府魔道の剣」
確かに、彦斎の剣は壮絶なものであった。斬ったものを斬り、ただ殺す。
それが、彦斎という剣に世界が付けた値打ち。
「…式ねぇや、じぃじと同じ領域」
直死の魔眼の両儀式。
存在そのものが死となった山の翁。
その人外の領域に、彼女は剣のみで踏み込んだのだと言う。
「その割には嬉しくなさそうに見えますが?魔剣と言えど極みは極み!何を蔑むことがありましょうか!」
「頭の中も筋肉なのは羨ましいわね。悩まなくて」
「辛辣ぅ!!」
「……私は、剣で何かを切り拓く事が…未来を変えることが出来ると信じて剣を振るっていた。先生の教えや、桂…ペテン師の世界を変えるだなんて戯言も真に受けて、ひたすらに斬って斬って斬り続けた」
それは、自身が世界に対して何か善き方向に仕え尽くすことが出来たらと言う願いのもとに振るわれ続けた。
世直しのため、攘夷のため、世界を変えるため、日本の夜明けを迎える一助の為。
斬って斬って、斬り続けた。
しかし───積み重なる骸が増える内、積み重なる屍が増える内、彼女の心には疑念が過る。
人を斬り、人を殺めた先に真に明るい未来など待つものなのかと。
だがそれしか自分には出来ず、それしか自分には叶わなかった。
だからひたすら、斬って斬って斬り続ける他無かった。
やがて、桂はさっさと身分を捨て、木戸某と名乗り自身を捨て。
自身の斬った相手にもまた、愛するものがあり、その恨み辛みや憎しみが、寄る辺もなく自身への怨嗟となり。
それもまた斬り捨て、斬り捨て、斬り捨てた後に。
自身はやがて、自身の刀はやがて死を齎す絶対のものとなり。
自身に世界が齎したものは【絶位】という位。
夜明けを、未来を求めて剣を振るった。
全てを断ち切り、終わらせ、無に還す事こそが本懐と世界に告げられた。
その時の慟哭と虚無は、彦斎の膝と魂を折るに充分だった。
「最早寄る辺もなく、縁もなく。生きる意味も希望も見出だせなかった私の、最後の縁がかの女神だった」
鏖殺の荒野にて首に刃を突き立てたその時。
血の雨と共に、黄泉の漆と共に、かの女神は彦斎へと語りかけたのだと言う。
【おお、あなや───そなたも縁を絶たれしものか───】
全身が総毛立つ程に悍ましく、恐ろしい声。
しかし、不思議とその声音は柔らかい。
【哀しかろうや、悔しかろうや、口惜しかろうや──今だ小さき娘なれど、この世に縁なき哀れなる身に落ちようとは──】
その存在は這い出した。
そして、彦斎に手を伸ばす。
【あなや、泣きたもう事なかれ──あなや、嘆くことなかれ──】
「あな、たは……」
【妾がおるぞよ、童の娘──黄泉の女神の身なるかや、お前の想いがわかろうぞよ───】
全身が焼け爛れ、湧いた蛆虫が彼女を焼く炎で死んでいく。
それでも、血走る目には溢れんばかりの慈悲がある。
【妾がおる。お前を独りにはさせぬぞよ。お前の生、妾が斬れぬ縁となろうぞ──】
「──誰…?」
彼女が呆然と呟くと、その異形はこう答えた。
【伊弉冉命…伊弉冉命なるや、娘よ…】
「イザナミ──」
【妾もまた、縁を絶った寄る辺なき身。故に分かろう、お前の苦痛。故に分かろう、お前の無念──】
やがて、彦斎を焼け爛れた腕で抱く。
【その位、その剣を妾が護ろうぞ。やがてそれは、我が呪詛と一つになりて万の命を断ち切らん──】
「呪詛……」
【あなや、然り。【浮世の命を千人殺めよう】。お前が斬ることしか叶わぬ身なれば、せめて我が身だけは──】
そう、我が身だけは。
【お前の縁で、あり続けようぞ──】
絶位により、全ての縁が絶たれた先で。
同じく、最愛のものとの縁が絶たれた女神が彼女を救ったと言う。
「だから私は、イザナミを信仰している」
同じ、無縁の者として。
「こんなに慈悲深い女神を、知らないから。…見た目は怖いけど」
全ての縁を断ち切る絶位。
全ての縁はなくなったとしていた彼女であっても。
日本の女神は、見捨てなかった。
たとえ自分が…
どのような、姿であろうとも。
その慈愛だけは、健在だったのだ。
イザナミ『あなや、いらっしゃいませー!』
?「んー、ここから何か懐かしい気配がしたような…」
イザナミ『おや?』
宇津見エリセ「あ、すみません。一人でお願いします」
イザナミ『勿論です!ごあんなーい!』
(はて?あなやあの娘、どこかでお会いしたもうや…?)