人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜   作:札切 龍哦

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迅雷は絆を紡ぐために

「────そう。そうだったの。あなたの雷位は、そういった経緯で手にした…いいえ、手にするしかなかったもの…」

 

リッカは語った。自身の来歴やカルデアでの戦い。そして、雷位に至るまでの経緯と戦いを。

 

武蔵と共に下総に至る前。将門公と共に下総に先んじて至り、英霊剣豪七番勝負の始まりに先し、英霊剣豪と成り果ててしまった母…源頼光との決死の死合に望んだこと。

 

挑む際、霊基の遥か彼方かつ奥に潜む宿業を討ち果たし、解放する為に必要な力。それが雷位であったこと。

 

全てを置き去りに極意に辿り着いたため、肉体に甚大な被害を受けたこと。

 

そしてそれが成り、母を英霊剣豪の宿業から解き放つことが出来たこと。

 

今なおもその極みと頂きは、母の愛と力としてリッカの助けとなり、数多の困難を雷位が切り抜けさせてくれた事。

 

かけがえのない力であり、誇りであり、何よりも──大切な母を斬り捨てて至った位。自慢げに他人に吹聴出来るようなものではなかったことを、赤裸々に話した。

 

「───確かに、そのリンボ某の…高名な陰陽師の呪詛を剣で打ち払うとなれば、位に至る程の覚悟が無ければ無理だったでしょう」

 

聴き終わり、静かに彦斎は息を吐く。

 

「でも、それにしたっていきなり研鑽や努力を越えて極みに至るだなんて…」

 

「それ程、彼女にとって母とは、無償の愛とは尊く大切なものであったのです。とりわけ、リッカさんの半生にあっては」

 

武蔵は頷く。それこそが、彼女が極みに至った理由。

 

自身を子と呼んでくれた事。

 

深い愛に包んでくれたこと。

 

そんな、魂の母が狂わされた事。

 

救う為に、殺さなくてはならない事。

 

親を、子が殺すこと。

 

それら全てを覚悟の上で、彼女は戦ったのだという。

 

「雷位を目指してた、というより…お母さんを助ける為に、それしか無かったから雷位に至った、っていう方が正しいのかな」

 

並の剣技では救えない。

 

殺すだけでは意味が無い。

 

母を救う為には辿り着かなくてはならない。

 

そういった覚悟の果て、拓いた境地が雷霆の速度。

 

千分、万分の1秒の世界。

 

神の雷。

 

そう言った領域でなくば救えないから、至らざるを得なかったとリッカは語る。

 

「……とても」

 

とても、情が深いのね。彼女はまず、そう口に…言葉にした。

 

「神の雷、迅雷の境地。そこに至り、辿り着いて。それを貴女は誰かを救うために振るった。ううん、振るい続けている」

 

「そうなのです。剣を振るうもの、武芸者と呼べば聞こえは良いですが…結局の所、成すことはどこまでいっても命を奪う人殺し。殺生絶えぬ修羅の道」

 

「本当にね」

 

彦斎は見てきた。剣を極めるために、数多の大切なものを切り捨ててきたものを。

 

あるものは血に狂い、剣の鬼と成りて数多の命を啜り。

 

あるものは最愛の妻子を生贄に捧げ、剣の極みに焚べたものもあり。

 

あるものは人を斬ることそのものに憑かれてしまい、無道の悪鬼となったものもあり。

 

それ程に、剣の道とは地獄と共にある険しく恐ろしい道である。

 

「私達は剣のため、道のため、極めるために武器を振るいます。おためごかしの美辞麗句で、白刃の煌めきは誤魔化せません。──でも」

 

でもと、武蔵はリッカの肩を抱く。

 

「彼女は違います。彼女はいつだって誰かの為に、自分の為に。世界の為だけに力を振るってきました。そこにあるのは醜い求道でも、野心に溢れた覇道でもない」

 

「…それは?」

 

「誰かの笑顔や、平穏の為に。そして、自分自身の幸せの為に。彼女の力は、極みの位は、その為だけにずっとずっとふるわれているのです。そう──人の持ち得る、心と共に」

 

武蔵はにっと笑い、リッカに太鼓判を押す。

 

彼女の戦いは、善を護るために。

 

吹けば飛ぶような、世界の理不尽から大切なちっぽけたる宝物を護り抜くために。

 

その為だけに、振るわれてきたのだと。

 

「───成る程ね」

 

彦斎は、合点が言ったように頷く。

 

先の八雷神や、何より絶位の化身たるイザナミノミコトを留めたあの力。

 

雷位を得ていながら、様々な神が彼女に力を貸す理由。

 

それは、彼女という存在が紛れもなく正しい道を進んでいるからだと。

 

「リッカ。あなたの幸せは…何?何故、人を助けるの?」

 

彼女の問いに、リッカは答える。

 

「私自身の、幸せのため!」

 

迷いなく、リッカは応える。

 

「貴方の、幸せって?」

 

「ご飯をお腹いっぱい食べて、ぐっすり眠ること!」

 

「それが、人を助ける事に繋がる?」

 

「人を助けた後のご飯は、すっごく美味しいから!」

 

そう。『誰かの為に』『何かの為に』振るわれる力には限界がある。

 

人である限り、生きている限り、それは摩耗しいつか色褪せる。

 

だからこそ、必要なのは自身も幸せにする事。

 

誰かを救う事で、自身が救われる者こそが、真に誰かを救い続ける事が出来る。

 

自身を救う事で、人を救う。

 

みずからが痛みを知るから、誰かの痛みを癒したいと願う。

 

人殺しでは至れない、例え、自身を殺しに来た者の未来すら慮れる者。

 

そういった『仁義』や『礼節』。人として逸れてはならぬ道を、彼女は歩んでいるのだと…聞き入り、彦斎は感じたのだ。

 

「彦斎さんは、武蔵ちゃんに言ったよね?位か絆、どちらかか大事だって」

 

リッカは改めて、彦斎に尋ねる。

 

「──えぇ、そうだった。これは位に至ったものに問わなくちゃならないこと」

 

「私は、どっちも大事だよ。位に至れたのは、お母さんとの絆があったから。絆を護るために、位を自分の意思で掴んだんだから!」

 

リッカは迷いなく、そう答える。

 

「私の雷位は、駆け抜けて辿り着くもの。そんな私だからこそ、言えることとやれることがあるんだ」

 

「…それは?」

 

「彦斎さんも武蔵ちゃんも、私は絶対に一人にしない!お母さんがくれたこの位で、絶対に二人に辿り着いてみせる!絶対に、どこにいようと迎えに行く!」

 

空位が、零の向こうに至ったとしても。

 

絶位が、全ての縁を断ち切らんとしても。

 

自分は絶対に迎えに行く。雷霆の速さで、必ず会いに行く。

 

「極みに至ったというのなら、私は二人と同じ景色が見えてるってことだから!」

 

「私達を…一人に、しない…」

 

「そう!」

 

リッカが、彦斎と武蔵の手を握る。

 

「繋いだ縁は、絶対に斬れない。ううん、斬れたとしてもまた私が繋ぐ!」

 

「…!」

 

「私の力はいつだって…私と皆、そして皆が生きる世界の為に振るうと誓ったものだから!」

 

迷いなく、リッカは応えた。自身の覚悟と想いを。

 

「どうです?彦斎ちゃん。彼女は知っているのです。わかっているのです。全てを斬り伏せる位に至りながら…『斬ってはならない』ものが、この世界にある事を」

 

武蔵もまた、確信を以て告げる。

 

「天下泰平の中でしか生まれ得ない、絆と平和を護り、絆を紡ぐ剣──澄み渡る空を駆け抜ける剣。それはきっと──」

 

 

それはきっと、こう呼ばれるのだろう。

 

───晴天の、霹靂と。

 

「───………」

 

その言葉を聞き、彦斎は頷いた。

 

「まぁ武蔵の最後の言葉は使い方違うんだけど」

 

「良いこと言ったじゃないですか私!?」

 

「でも、リッカの想いと、位への意思はよく伝わったよ」

 

「ホント?」

 

「うん。───剣の位か、絆かどうかなんて、聞くまでもないくらいには」

 

そして、彦斎はそっと巻物を取り出す。

 

そこには、火位、水位、風位、土位、空位、閃位、雷位、閻位、鬼位、鏖位と書かれたもの。最後の三つには、切り裂かれるように塗りつぶしの跡がある。

 

「剣の極みにて、絆を護る。澄み渡る天を駆ける雷、その閃きよ」

 

──この蒼き空に、天下泰平よ永遠に。

 

その願いと共に、空位と閃位、雷位の名を…

 

そっと切り取り、懐へとしまい込んだ。




彦斎「リッカ。私はもう少し此処にいる。ここは特異だから、出来ることがあるかもしれない」

リッカ「ほんと!?」

彦斎「だから、その…もう少し、よろしくね」

リッカ「うん!勿論!」

武蔵「彦斎さーん?私とはよろしくしてくれないのー?」

彦斎「あぁ、リッカの代わりに私が斬ってあげるからよろしく」

武蔵「もー!素直じゃないぞこのこのー!」

彦斎「───ともかく」

「これから、よろしくね」

出逢う位に至ったものを、切り捨てる人生。

しかし、斬らずともよい絆はここにあった。

そう告げる彦斎の顔は…

晴天のように、晴れやかであった。
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