人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
夏の日。
誰も彼もが浮かれ、余暇を楽しむ季節。
だが、誰も彼もが騒ぎ浮かれていては世界は成り立たない。
誰かしら、働くことを行わなくてはならないものである。
それは当然…
夏のイベント、サバフェスにおいても同様である。
【さてと。こうして名誉運営スタッフに選ばれた以上…カルデアのため、ファミリーの為に頑張らなくちゃいけないな。よーし、やるぞ~】
前書きの通り、世の中を回すために皆が遊ぶ間働くことになった褐色の神父が一人。
名を【ニャルラトホテプ】。這い寄る混沌との異名を戴く、外宇宙に存在する外なる邪神であり、カルデアの暗部【ケイオス・カルデア】の管理者でもある。
本来ならば人間を嗤い、弄ぶ邪悪なのだが色々あって漂白。家族とカルデア大好きな血の繋がらない子にたくさん恵まれたパパである。そんな彼は今、騎士王に任命されサバフェスセッティング運営を一任されていた。
【マイノグーラに物資を担当させて、ナチャ辺りに小道具を担当させるとしよう。デリバリーはハスターの眷属に…暇してるクトゥルフ連中に声をかけてこき使うか】
聞くだに冒涜的な名前が羅列するが、彼等もまたカルデアお抱えの邪神達である。ハスターは基本的に日和見、マイノグーラはマトモより、ナチャは趣味人でありクトゥルフは娘と些細な活動に精を出す。
なんと今回、スタッフに回るのは邪神を筆頭にしたフォーリナー組であった。これには、きちんとした理由がある。
【シーズンのハワイなんて団体をねじ込めるわけないからなぁ…サバフェスの開催地がハワイだというなら、こちらも頭を捻る他あるまい】
その時、扉が叩かれ、ニャルの下に来客が現れる。
「こんにちは〜♪人類の管理AI、BBちゃんです!ニャルラトホテプさん、スタッフとして準備は出来てますか〜?」
ムーンキャンサー、BB。彼女と共に、とある事を考案していたのだ。
【あぁ、勿論だ。さぁ始めようかBBちゃん】
ニャルラトホテプは立ち上がる。
【ハワイ貸切、サバフェスの会場作りってやつを】
〜
「それにしてもニャルラトホテプさん、あなたは人間に零落した筈なのにまだこんな事が出来るんですね。BBちゃんビックリです〜!」
女子高生と共に歩くニャルラトホテプ。事案気味だが、彼は気にせず『会場作り』に精を出す。
【カルデアの皆をハワイに招待するのもいいが、それだと現地でのトラブルやくだらん被害に煩わしい想いをさせてしまう事になる。親愛なるカルデアの皆には、完璧なるバカンスを楽しんでもらいたい】
「その為にやる事が…これなんですよね!きゃー♡スケールが神クラスでーす!こわーい!」
BBのわざとらしい驚きは、以下の事象に向けられていた。
【というわけで、【ハワイを一から作る】。特異点にならないよう、厳重に厳重を重ねてな】
まず、ニャルラトホテプは【ドリームランド】なる夢の世界の一部を切り取り、現実世界へと呼び寄せた。
【ドリームランドは人々の夢の中にある。夢とは人々が見る理想の陽炎だ】
「それは得てして『現実よりも素敵なもの』でありますよね!」
【あぁ。故に『人々が夢想する最高のハワイ』を実現させる。夢であるが故に、それは現実よりも素晴らしい夢のようなハワイとなるだろう。当然、カルデア一行貸し切りだ】
それほどの行使をすれば、微小特異点が生まれる可能性すらある。そうなればカルデアの面子はバカンス返上の憂き目に遭う。片手落ちもいいところだ。
故にこれは、【人理の影響も、抑止力すらも関与できない邪神】がする必要があったのだ。
【出来たぞBB。『ドリームランド・ハワイ』の完成だ】
そこにあったのは、本来のハワイの水面下の地理に設置された『夢想のハワイ』。何もかもが同じ『夢想』という違いしか無い、ハワイそのものだ。
「きゃー!邪神ってチートですね!でも夢であり、人理定礎もないのなら…ふとした弾みですぐさま消えたりしちゃいませんか?」
【そこは問題ない】
ニャルラトホテプは邪悪な笑みを零す。
【人柱を用意するからな】
「えっ────」
その時、ハワイの雛形に向けて巨大な【神】が叩きつけられた。
【私の神格…【這い寄る邪神】を『トラペゾヘドロン』にて釘打ちにし、その強度を以てバカンスの間を保たせてみせよう】
世にも悍ましい絶叫を上げながら、這い寄る混沌はハワイに組み込まれていく。理想のハワイを形にする骨格、人柱として。
【これでドリームランド・ハワイは気候や時間進行まで管理者の思いのままになった。這い寄る混沌の権能を管理者権限に紐付けたから、上手くやってもらえると嬉しいね】
なんでもないことのように告げ、本来ならば何百工程もかかるところをニャルは手早く終わらせる。
「あのぉ…ノータイムで神の力を世界の中核にするとかえげつなくてドン引きなんですけどぉ…」
【ドン引きしてる暇なんてないぞ〜。そーれ】
ニャルの手管に呆れ混じりに息をつくBBに、ニャルは流れるように手を肩に置く。
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
その時、BBの霊基に変化が起こる。
普段の扇情的な学生服と教師コートから、これまた蠱惑的な水着の姿へと。
【ハワイの女神は……まぁペレでいいか。はい神格権限譲渡。これでよし、と】
「これでよし、じゃないですよ!?いきなり何するんですかぁ!?」
【君、管理AIなんだろう?今ハワイと私の神格の力を君に託したから。さしずめ君はBBペレ・ニャルラトホテプだね。水着霊基にしておいたよ〜】
はい完成と気軽に告げ、なんとニャルラトホテプはBBの霊基をサラリと改造したのである。それはハワイの運営を任せるとの意思表示でもあった。
「えっ、あの……いいんですか?あなた自身の力まで…」
【いいのいいの。君の気質、私とよく合うし。根っこがどこまでも真面目な君なら、這い寄る混沌の力も使いこなせるはずだよ。人類大好きで共通してるしね】
「だ、誰が人類大好きですか!?というかあなたも人類大好きだったんですか!?」
【失礼な。私ほど人間を愛している神はいないんだぞ傷つくなぁ。まぁそれはいいや。君はあのハワイでまさに神が如き力を振るえる。その力を、カルデアの皆の為に使ってあげてくれ】
一仕事終えた、とニャルは伸びをし部屋を後にする。
【さーて、家族達の水着を見繕いにいかなくちゃな。BB、ハワイの管理は任せたよ】
彼自身に、自身の力への興味はもうない。
必要ならば、サラリと使い潰し渡してあげる程度のもの。それを今回は、BBへと譲渡したのだ。
「…そりゃぁ、此処までお膳立てして下さったなら…やりますけどぉ…」
何もかもお見通し、みたいな態度で。聖杯を用意して特異点を発生させてようやくみたいな離れ業をさっさとやってのけ、管理をこちらに放り投げる。
「むー!なんだか本物の神様はこんなだよみたいな、マウント気味の行動が腹立ちます!BBちゃん的に!」
小悪魔系後輩としては、目の上のたんこぶは一つで良い。
「こうなったらですね、私も何か素敵なイベント一つでも…!」
そう、いつものBBちゃんムーブをしようとした時…。
【あ、そうそう】
「!」
ポンと、BBに何かが投げ渡される。
【ドバイ計画もサブプランで考えてるから、そっちの方をやってくれる?】
「はい?ドバイ…ですか?」
【ちょっと面白そうな世界線を見つけてさ。是非とも頼むよ。あ、これは前払いね】
くらえー、とニャルがBBにビームを授ける。
「きゃ〜〜〜〜〜!?え、なんですかこの肌の色〜!?」
そこにいたのはこんがり小麦色に焼けたBB、情熱のペレBBが爆誕。
【ひょっとしたら…君自身もホントの意味で『人類の隣人』になれるんじゃない?】
「!」
【じゃ、後はよろしく。私もスタッフの名を借りた客として楽しむぞ〜♪】
ひゃっふー!とはしゃぐおじさんの背中を…
「はっ!?ちょっと待ってください!?肌はもとに!もとに戻れるんですよね!?ちょっと〜!?」
BBは騒がしく見送るのだった。
BB「それにしても…ドバイ?そんな場所に何が…」
「─────」
「──────これは」