人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
(手応えはありましたが、アレで壊れる程度なら尖兵に選ばれるはずはない…確実に息の根を止めなくては…!)
【必ず見つけ出して息の根を……ん?】
ワイキキビーチ
シンデレラ「……………………」
【あの娘は…確か…】
(ルシファー様が確か、受肉プランの技術ノウハウを手にする為に向かった世界の…確か、勝利の女神でしたかしら…?)
シンデレラ「……王子様……」
アスモデウス【!】
シンデレラ「何処にいるの…?何処に行ってしまったの…?」
アスモデウス【……………王子様…】
(それは、もしかしなくても…)
「………………」
彼女はぼんやりと砂浜にて、波を、美しい海を見つめていた。
美しいガラスの靴。青い瞳。青と白のドレスにツインテール。少女の名はシンデレラ。この世界ならざる場所にて『ニケ』と呼ばれた生体サイボーグとも言うべき存在。
その中においても最新鋭かつ最高峰の技術で製造された『フェアリーテイル』モデル、その部隊『オールドテイルズ』のフラグシップ、シンデレラ。それが彼女だ。
彼女はとある存在を探す為にカルデアへとやって来た。仲間達と、平和となった世界全てに別れを告げてまで。
彼女の来歴は始めからニケだった訳ではない。始めは突如現れた機械生命体、ラプチャーに脅かされる無力な少女だった。
命を無慈悲に散らすばかりの最中、彼女は伝説の部隊『ゴッデス』なるニケ達に助けられた。
人類の危機に戦う勝利の女神たち。
その有り様を美しいと思ったから、自分もそうなりたいと願い、彼女は勝利の女神を志した。
血反吐を吐くような訓練、人間を辞める覚悟、人類の為に身を捧げる決意。
それらを受けて、彼女はフェアリーテールモデル『シンデレラ』へと至ったのだ。
「辛かったわ。何度も挫けそうになった…」
目指した理想はあまりに高く、何度も何度も挫けそうになった。
だが、そんな自分を支えてくれる人がいた。
科学者のエイブ。フェアリーテールモデルの製作者。
そして、後に彼女が『王子様』と呼ぶ指揮官。名を、ルイ・サイファー。
『オールドテイルズ』部隊の指揮官を任された、人類最高の美貌と能力を持つとされし者が、自身の上官だった。
彼はシンデレラを、幼少の頃から見守った。
エイブがシンデレラをニケにするために不可欠な訓練を受ける最中、片時も離れずシンデレラを励ました。
君ならなれる。君にしかなれない。
救われ、また自身も救いたいと決意した君は美しい。
この世界で初めて、美しいものに会えた。
君ならなれる。人類の、皆の勝利の女神に。
その揺るぎない言葉は、シンデレラの比類ない力となり全ての苦難を乗り越える力となった。
エイブとルイはシンデレラの比類なき支えとなり、彼女を勝利の女神に導いた。
彼女には仲間も出来た。同じ部隊のセイレーン、ヘンゼルとグレーテル。レッドシューズ。
セイレーンは人魚のような見目麗しいニケ。言葉と液体金属を扱う最新鋭のニケ。
ヘンゼルとグレーテルは様々な物質を生成し扱う双子型のニケ。
レッドシューズは巨大な赤靴ユニットを搭載した、白兵戦に特化したニケ。
そしてそれらを制作した稀代の天才にしてニケ、エイブ。
部隊、オールドテイルズは『明星』の名を冠する指揮官ルイ・サイファーを抱え、伝説の部隊ゴッデスと共にラプチャーを撃滅し、地上を奪還する最終作戦を行う手筈となった。
『ヘンゼルとグレーテルは、勝利の確信を得ているわ』
ヘンゼルとグレーテルは頷く。
『あう!』
言霊を扱うセイレーンは元気よく応えた。
『ふふっ、私達を支える指揮官もいらっしゃいますし、こちらにはシンデレラもいますしね?』
レッドシューズは楽しげに微笑む。
『私達はゴッデスと力を合わせて、最高のハッピーエンドを掴むわ。皆と、指揮官と一緒に』
『僕でいいのかい?アンダーソンの方が相応しいかも?』
『美しくない冗談だわ。ずっと私達を応援してくれた。ずっと私達を見ていてくれた。エイブと一緒に』
『あぁ、そうだ。お前はゴッデスに目もくれず、シンデレラにつきっきりだったじゃないか。くだらん戯言はよせ』
『あう…』
『ヘンゼルとグレーテルは、依怙贔屓は良くないと思っているわ』
『ふふ…指揮官もわかっているんです。シンデレラは、私達の最高の存在なんだって。ですよね?』
『あぁ。ゴッデスよりも美しさでは勝っているさ』
『そんな…褒めすぎよ、指揮官』
『ふん、毎度毎度飽きないな。そら、明日にはゴッデス部隊と合流するぞ!シンデレラ、お前はルイと共に先行合流だ。いいな?』
『えぇ。指揮官がいるなら大丈夫。必ずやってみせるわ。…ね、ルイ?』
『あぁ。美しい君を、存分に見せてやろう』
ラプチャー、それを生み出すクイーン。
クイーンを討たなくては無限に溢れ出すラプチャーにいずれ人類は排除される。
翌日に──伝説の部隊、ゴッデスとの共同作戦による、宇宙ステーション奪還作戦が開始される。
巡航ミサイルすら飲み込むラプチャー、那由多に届かんばかりのラプチャーを潜り抜け、宇宙にいるクイーンを討つ作戦。
シンデレラは、その作戦の切り札だった。そして彼女の悲願だった──ゴッデス部隊と共に戦う夢がすぐそこにある。
『ふぅ───』
幾度となく覚悟してきた瞬間に、高鳴りが収まらない彼女の下に二つの着信が届く。
『シンデレラ?明日に向けて、セイレーン達と打ち合わせをしませんか?』
レッドシューズの誘い。
『シンデレラ、星が綺麗だよ。少し話さない?』
ルイの一時。
『どうしようかしら……』
彼女は悩んだ末、指揮官との一時を選んだ。
明日の作戦の先行として、息を合わせる必要があったからだ。
『ルイ…?眠れないの?』
シンデレラの目に映る指揮官は、星に負けないくらいに輝いていた。
『それはそうさ。明日が待ち遠しいよ』
『そうね。待ちに待った、憧れのゴッデスと一緒に戦える。本当に、本当に長かった』
身を寄せ合い、家族の様に星を見る。
『私は、なれるかしら。ゴッデスの様な勝利の女神に』
ゴッデス。伝説の部隊。
リリーバイス、レッドフード、ドロシー、紅蓮、ラプンツェル、スノーホワイト。そしてアンダーソンという指揮官から成る最強にして伝説の部隊。
戦術にて負けなし。常勝無敗の勝利の女神たち。
自身を救ってくれた女神たち。
美しき女神達に、明日肩を並べる。
『ゴッデスの様な、じゃないさ』
ルイは答える。
『エイブも僕も、ゴッデスにはあまり興味がない』
『えっ?』
『君だよ、シンデレラ。僕らは…特にエイブは、君こそが勝利の女神に相応しいと信じている』
ルイとエイブには深い交友があった。オールドテイルズの有用性を上層部に語り、エイブに資金を下ろさせた事をきっかけに彼女とは朋友である。
『エイブは君だけをずっと見てきた。エイブにとっては、君はもう勝利の女神なんだよ』
『私が…』
『彼女の瞳に映る君は、いつだって光り輝いていたよ。誰かのように、じゃない。君自身が誰よりも輝けばいい。この星たちのように。この星たちの何よりも』
ルイはシンデレラをそっと撫でる。
『君は既に誰よりも美しい。だから誰かの影に隠れなくていい。君こそが主演だ。君こそが、誰よりも美しく輝くんだ』
『私が…ゴッデスよりも?』
『そうだよ。勿論僕も、君が一番だと信じているよ』
ルイは、シンデレラを抱き寄せた
『あ、あっ…ルイ…』
『ほら?僕の瞳に映る君は美しいだろ?』
そこに映っていた自分の顔は、ふやけて見れたものではなかったけれど。
『ありがとう、ルイ。私は…なりたいわ』
エイブやルイの瞳の中で、誰よりも輝く存在になりたい。
勝利の女神として、家族の様な皆に勝利を届けたい。
『あなたの瞳の中で、誰よりも輝く存在になりたい。いいえ、なってみせる』
『信じているよ、シンデレラ。美しき勝利の女神よ』
『任せて。…さぁ、眠りましょう?明日は、私達の最高の舞踏会が始まるのだから──』
シンデレラは、ルイと共に立ち上がり、明日に備えて眠りに付く。
……その日の、夜であった。
セイレーン、ヘンゼル、グレーテル。
───オールドテイルズの仲間達が、原因不明の『侵食』と呼ばれる現象により暴走し、敵となった日。
物語が、致命的に狂い始めた日は。
〜
『どうしたの!?セイレーン!ヘンゼル!グレーテル!返事をして!』
シンデレラは、紅く目が輝く仲間達に必死に呼びかける。
『しっかりして!何があったの!?私よ、シンデレラよ!分からないの!?』
セイレーンは、ヘンゼルは、グレーテルはシンデレラに答える。
【全ては、クイーンの、為に】
『な───』
【【全てはクイーンの為に】】
『クイーンの、為に…?どういう、こと…?』
侵食。ラプチャーにニケの脳や制御ユニット『NYMPH』を侵され行動が変質すること。
条件も不明。治療法も確立されていない。
発症すれば、そのニケは処分されるしかない。
レッドシューズは、既に殺されていた。
『シンデレラ、ルイ…!ここから逃げろ!』
エイブが叫ぶ。
「三人はもう私達の知る三人じゃない!侵食され…人類の敵になった!」
『何を…何を言っているの…?エイブ…』
【【【……………】】】
『美しくない冗談はやめて、三人共…?さぁ、ほら、一緒にお部屋に戻りましょう…?』
シンデレラは呆然と三人に近付く。
【────】
『!!』
セイレーンは口を開いた。
何をするかは一目で分かった。
『言霊──停止……!!』
空間の全てのニケに作用する言霊。
彼女の命令は確実に実行される。
即ち──ニケの生命活動の停止。
『セイレーン───!!』
シンデレラは耐えられるかも知れない。
しかし、エイブは量産型。その命令からは逃れられない。
『あああああああああああああああっ────!!』
シンデレラは、決断する他なかった。
セイレーンの顎を砕き、喉を潰した。
【────、───、───】
『ああっ、あああっ!ああああああっ───!!』
潰されても潰されても、命令を唱えようとするセイレーン。
シンデレラは涙を流しながら、エイブを護るためにセイレーンを壊し続ける他なかった。
『どうして…!?どうして!?』
どうして、どうしてこんなことに。
彼女は涙を流し、慟哭する他なかった。
【【反物質、生成】】
ヘンゼルとグレーテルが、周囲を灰燼に帰す物質を生成する。
『ッッッ────!!』
躊躇うことは許されなかった。
『ガラスの靴───フルコンタクト……!!』
ヘンゼルとグレーテルを止めなければ、全てが終わる。全てが消滅する。
殺さなくては。
殺さなくちゃ───。
『シンデレラは、凄いね』
『────!!』
脳裏に閃く、仲間達の記憶。
『ヘンゼルとグレーテルは、シンデレラとエイブと指揮官が大好きだと思っているわ』
『っ、っ……!!』
殺さなくては未来がない。
殺さなくては──
『シンデレラ!』
『『シンデレラ───』』
『あ───────あああああ…………っ!!!』
シンデレラは────
仲間達を殺す事が、出来なかった。
反物質爆弾により、オールドテイルズの基地は完全に壊滅した。
セイレーン、ヘンゼル、グレーテルはその場から消失。撃破する事なく逃走を許してしまった。
『シンデレラ!』
『ルイ!シンデレラが…!!』
ルイは重要な機材、エイブのラボにいち早くシェルター防護を張り治療体制を整えていた。
『嘘…嘘よ……どうして…どうして……』
エイブを守り抜きながらも、武装とボディに深刻なダメージを負ったシンデレラ。
彼女はルイが守り抜いたラボと、エイブの手により即座に治療に入る。
指一つ動かせぬその最中で、彼女は聞かされた。
セイレーンと、ヘンゼルとグレーテルが侵食され、ラプチャーの敵としてゴッデス部隊と交戦した事。
ゴッデス部隊を壊滅寸前にまで追い込んだこと。
───そして、トドメを刺さんとしたその時。
指揮官…ルイ・サイファーが、侵食された三人のボディを完全に破壊し、脳を摘出した事。
暴走したオールドテイルズを『処分した』として、三人は破棄される扱いになった事。
シンデレラが合流出来なかった事で、宇宙ステーション攻略は失敗に終わった事。
そして、その侵食の原因は『レッドシューズ』にあったこと。
レッドシューズはラプチャーと人間の共存を標榜したカルトの司祭であり、侵食のコードを進化させ、ニケをラプチャーの支配下に置かせる研究をしていた。
ラプチャーと共にあれば、争う必要はなくなる。
シンデレラを侵食する予定であったが、その正体に気づいたルイに阻まれ、ルイ抹殺の為に三人を侵食させた事。
本来の目的は『シンデレラ』を侵食させ【アナキオール】としてラプチャーと人類の【橋渡し】にするのが目的だったこと。
ルイの手で、レッドシューズは殺された事。
オールドテイルズは『人類の裏切り者』の疑惑がかかっていること。
ルイに、シンデレラの処分要請が下っていること。
長い治療の末、シンデレラは傷を癒し全快した。
エイブの声を聴きながら、シンデレラはルイにあるものを渡す。
『私達の物語は、汚されてしまったわ』
それは、自決用の拳銃。
『指揮官。王子様。どうかあなたの手で終わらせて』
ニケは自殺は禁じられており、処分は指揮官の手で行われる。
『美しいあなた。美しいエイブ。もう私たちは、あなた達に相応しくない』
シンデレラは涙と共に、目を閉じた。
『私達は人類の敵。あなたに討たれるのなら本望よ』
オールドテイルズは人類の裏切者。
その指揮官も無事では済まない。
だが、最後の部隊の自分を討てば、きっと名誉は回復する。
これが自分に出来る最後の恩返し。
『私を殺して、王子様。ごめんなさい、エイブ』
ルイに拳銃を握らせ、自身の額に導く。
『あなたたちの──勝利の女神に、なりたかった───』
シンデレラは、それを最期に…
そっと、目を閉じた。
シンデレラ「…………………」
アスモデウス『待ち人来たらず、という顔ね』
シンデレラ「………あなたは?」
アスモデウス『私はアスモデウス。もしかしたら…』
『あなたの探し物を、助けられるかもしれない女ですわ』