人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜   作:札切 龍哦

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シンデレラ『────』

ルシファー「改めて…久しぶり、シンデレラ。別れてからどれくらい経ったかな?」

シンデレラ『一年よ』

ルシファー「一年…」

シンデレラ『本当に長かったわ…一年、あなただけを探して旅をしてきた。本当に色んなところを』

ルシファー「…そっか、そんなに」

『色んな事を、伝えたいと思っていたのに。色んな事を、言ってやりたいと思っていたのに』

ルシファー「…!」

シンデレラ『言葉が出てこないわ…。どうして?涙が止まらないの…』

「シンデレラ…」

シンデレラ『会いたかった…本当に、会いたかったの、王子様…』

ルシファー「…大丈夫、話さなくてもいいよ」
シンデレラ『!』

ルシファー「君の中のNYMPHで、直接受け取るから。じっとして──」


あとがき

世界は救われた。ラプチャーは一掃され、人類は再び地上を取り戻した。

 

地下施設『アーク』はニケ記念館として改装され、ニケ達の特区施設としての改装が進む。

 

全てのニケ達は記録され、人類に人権を認められた形で特区に居住。

 

『勝利の女神を辱めた時、次に滅びるのはお前達だ』

 

ルイ・サイファーの言葉通り、ニケ達は人類勝利の貢献者として丁重に、隣人として扱われる事となる。

 

ゴッデス部隊は史上最強の部隊として。

 

オールドテイルズは史上最高の部隊として。

 

人類、そしてニケ達の永遠の憧憬の対象となった。

 

しかし、喜びばかりが満ちていたわけではない。

 

ルイ・サイファー…『明星』の戦死。

 

命と引き換えにクイーンを、シンデレラと共に倒した最高の指揮官。

 

その葬儀は各国を挙げたものとなり、誰もが彼を悼み、惜しんだ。

 

セイレーン、ヘンゼル、グレーテルはレッドシューズによる侵食の被害者として罪を問われず。

 

エイブはニケ制作のパイオニアとして自らの企業を立ち上げる羽目になる。

 

『立場があれば、娘達を護りやすくなる』

 

そうした上での、政界からの横槍を防ぐ判断であった。

 

『指揮官…なんで…どうして…』

『ヘンゼルは指揮官に助けてもらったわ。グレーテルは指揮官にとてもとても感謝しているわ』

 

侵食された三人は、サイファーに助けてもらったと告げた。

 

侵食されたニケは、例えるならば絶対に壊れない壁を隔てながら、狂った自分の行動を延々と見せつけられるのだという。

 

セイレーンは叫び、嘆き、声を上げ続けた。

 

ヘンゼルとグレーテルは涙し、懇願した。

 

どれほど抵抗しようとも、壁の向こうの自分はシンデレラやエイブを殺そうとする。

 

大切な人を傷つけた絶望に、三人は心が壊れそうになった。

 

その時、指揮官たるサイファーが彼女らを救った。

 

『今助けるよ』

 

そう告げ、彼女達を隔てる壁…侵食されたNYMPHとボディを破壊した。

 

ニケは脳があれば、ボディを移し復元できる。

 

故に三人は、こうして生還できた。

 

『まだ、話したいことがいっぱいあったのに…これから、仲良くなりたかったのに…』

 

『ヘンゼルも、グレーテルも、悲しくてたまらないわ…』

 

ルイの墓は、巨大な慰霊碑と共に建てられた。

 

誰の目にも見えるように。星の様にと。

 

ゴッデス部隊も、その墓参りに顔を出した。

 

『奔放で、自身こそが絶対という自信を漲らせたやつだった。彼の言葉が真理とすら思えるカリスマも持っていた…まさに、星だったな』

 

アンダーソン指揮官は彼を評した。

 

『罪作りな人。…シンデレラは?』

 

リリーバイスが、エイブに問う。

 

『あぁ、シンデレラは…』

 

シンデレラは…

 

ただの一度も、彼の葬儀にまつわる全てに顔を出していなかった。

 

遥か、都心や人里より離れた秘境。

 

雲一つない、空と大地が繋がった地平線が広がる世界。

 

『─────、───』

 

そこに、シンデレラはいた。

 

彼女は決めていた。地上を取り戻したら何をするかを。

 

この地平線の下で────

 

大切な皆と、ゆっくりとした一時を過ごすことを。

 

 

空が、青いわ。

 

雲一つない、何処までも突き抜けるような青空。

 

何処までも何処までも広がる、美しい光景。

 

私達が取り戻した、美しい地上。

 

王子様、見えている?

 

この景色を、この地上を、私達が取り戻したのよ。

 

本当に、クイーンは強かったわ。何度も何度も、命の危機を感じたわ。

 

でも、その度にあなたが声を上げて指揮してくれた。

 

あなたの言葉が、私を奮い立たせてくれた。

 

あなたの言葉が、私を諦めさせないでいてくれた。

 

王子様。あなたと私が取り戻したのよ。

 

二人で掴んだ、最高のハッピーエンド。

 

私は、皆の勝利の女神になれたのよ。

 

ずっとずっと、夢だった勝利の女神。

 

人類の希望。美しい物語。

 

美しいわ。美しい、本当に美しい結末。

 

大満足よ。そう、これ以上無いくらいに。

 

それなのに。

 

それなのに────

 

『────』

 

色が、無いわ。味気無い、灰色の景色。

 

色褪せてしまったよう。美しい筈の景色が、上手く見えないの。

 

滲んで、ぼやけて、霞んでしまって。よく見えないの。

 

どうしてかしら?

 

何もかもがハッピーエンドの筈なのに。

 

何もかもが、最高の終わりを迎えたはずなのに。

 

何故?どうして?

 

鏡よ、鏡。美しい私を映す鏡よ、どうか教えて?

 

『─────っ、ううっ……!』

 

……あぁ、そうよ。

 

鏡は映していないわ。最高の物語の立役者を。

 

私の、一番の大切なピリオドを映していないわ。

 

ほら、見て?こんな顔をしている私は、ハッピーエンドを迎えたのかしら?

 

『あぁ、あぁっ───!』

 

一つ、二つ。涙が落ちる。

 

曇りない鏡が、また滲んでいく。

 

『っく、ううっ……ううっ…!』

 

いけない、いけないわ。鏡を拭かないと。

 

私はシンデレラ。私は勝利の女神。

 

鏡に映る私は、最高に美しくなくてはいけないの。

 

鏡を拭いて、拭いて、拭いて……

 

『ひっく、うっ…ひっ、ひっく…!』

 

あぁ、駄目よ。涙が落ちてしまう。

 

拭いても拭いても、涙が鏡を曇らせてしまう。

 

エイブに怒られてしまうわ。泣き虫だって。

 

セイレーンを心配させてしまうわ。泣かないでって。

 

ヘンゼルとグレーテルにからかわれてしまうわ。泣き虫だって。

 

『え、へへ』

 

笑わなくっちゃ。

 

私は笑顔でいなくっちゃ。

 

『うふふ、ふふっ…』

 

私は勝利の女神。

 

私はシンデレラ。

 

誰より美しいニケ。

 

あなたの。

 

指揮官の。

 

『─────あ』

 

王子様の………

 

────もういない、王子様の。

 

『ああ、ああっ…………あああああああああ…………っっ!!』

 

王子様。

 

私の王子様。

 

護れなかった。いなくなってしまった。行ってしまった。

 

『あああ!あああっ───あああああああああ───…………っっ!!』

 

私の、大切な王子様───

 

『王子様…!王子様、王子様…!』

 

どうしていなくなってしまったの?

 

どうして私を置いて、星になってしまったの?

 

『嘘、嘘よ…!こんなのが、こんなのが…!』

 

ずっと一緒と言ってくれたのに。

 

私を美しいと言ってくれたのに。

 

あなたがいたから、私は頑張れたのに。

 

勝利の女神に、なりたいと思えたのに。

 

『ハッピーエンドの筈がないわ…!返して!返して…!王子様を!私の王子様を返して…!』

 

小さい頃に、私を見つめてくれて。

 

君なら出来ると、ずっと応援してくれて。

 

あなたのための、勝利の女神になりたいと思えたのに。

 

『私は…私はこれから、どうしたらいいの…!?』

 

エイブには怒られてしまったけれど、ハッピーエンドの後の事は考えていたの。

 

雲一つない、空と大地が繋がった静かな場所。

 

ほら、あそこにお家があるでしょう?

 

あそこに、皆で住もうと思っていたの。

 

皆で一緒に。皆で平和になった地上で生きていこうって。

 

そして、私と王子様は結ばれるのよ。

 

ガラスの靴を履いて、ドレスを着て、皆から祝福されて。

 

それが私のハッピーエンド。

 

それが私の、物語の結末。

 

それなのに、どうして?

 

どうして私から、離れていってしまったの?

 

『嫌よ、嫌…。こんな広い地上で、貴方より素敵な人になんて出会える訳ない…』

 

私は永遠に一人ぼっちになってしまうの?

 

王子様の迎えが来ないまま、ずっとずっと灰被りのままなの?

 

『貴方以外にこの身体に触れてほしくない…貴方以外に抱かれるなんて絶対に嫌…』

 

お願い。お願いよ、王子様。

 

一生のお願いを、どうか聞き届けて。

 

『ずっとずっと…迎えが来ないまま。灰にまみれて終わりだなんて…こんな美しくない結末だなんて、あんまりよ…』

 

私を抱きしめて。

 

唇を重ねて、愛を囁いて。

 

私は全てをあなたに捧げるわ。

 

あなたは私に、全てを捧げなくてもいい。

 

ただあなたの隣りにいられるだけで幸せなのよ。

 

こんな細やかなお願いも、叶えてくれないの?

 

『王子様……私の王子様……』

 

神様、いるならどうか私の願いを叶えて。

 

ただの一度だけでいいの。ただの一度だけ…。

 

『もう一度──微笑んで。私を、勝利の女神と呼んで…』

 

私を、美しいと言って。

 

私の心も、身体も、想いも、魂も。

 

何もかも、あなたのものよ。

 

だから、だからどうか。

 

たった一度でいいから──。

 

『王子様───私を、迎えに来て──』

 

鏡はまだ、曇ったままだ。

 

拭いても拭いても、晴れることはない。

 

青い瞳から、真珠のように溢れ出す涙が永遠に鏡を曇らせる。

 

これが、最後の顛末。

 

勝利の女神、シンデレラの物語の最後。

 

───魔法の解けた、灰被り姫。

 

その、最後のページであった。

 




シンデレラ『───王子様?』

ルシファー『………─────』

シンデレラ『どうしたの?』

ルシファー『………ごめん』

『ごめんよ、シンデレラ…』

シンデレラ『───初めて見たわ』

ルシファー『え…?』

シンデレラ『あなたの、涙』

ルシファー『!』

シンデレラ『───やっぱり、王子様は美しいわ』

『その涙さえも…宝石みたいよ…』



アスモデウス(ルシファー様…!)

(シンデレラちゃんを笑顔にしなかったら、また叛逆させていただきますからね…!)

レヴィアタン(もう色欲降りなよあなた…)
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