人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
ルシファー『あぁ。君は…君達は本当に頑張った。勝利の女神達が、未来を掴んだんだ』
シンデレラ『………』
ルシファー『だから、シンデレラ。君は普通の、君達は普通の女の子として…』
シンデレラ『王子様』
ルシファー『!』
シンデレラ『私、今はカルデアにお世話になっているの』
ルシファー『…!』
シンデレラ『教えて。王子様』
『あなたが、カルデアの美しい皆が。何と戦っているのかを』
『偽りの神…自分だけがいいと、自分だけが輝く舞台を作ろうとしている者…』
浜辺にて、肩を寄せ合い座り合うルシファーとシンデレラ。シンデレラがルシファーにもたれかかりながら、彼らが戦う者の顛末を聞き及ぶ。
『ヤルダバオト・デミウルゴス。自尊の獣と呼ばれる、生きとし生ける全ての敵。僕達も、カルデアも、最終的にはこの獣を討ち果たすために手を組み未来を見据えているんだ』
『そうだったの。神様は意地悪だと、残酷だと何度も何度も思ったものだけれど…』
間違ってはいなかったようね。流れる波を見つめながら、シンデレラは呟く。
『野放しにしていたら、世界の…そこに生きる全てのものが踏み躙られてしまう。カルデアの皆は、それが許せないから戦っている。世界という全てに、美しい宝物が満ちているから。全力で護ろうとしている』
『美しいわ。スタッフの皆が輝いていたのはそういう事だったのね』
そう頷いた後、シンデレラは問う。
『王子様は?アスモデウスさんや、魔王の仲間達は何故戦っているの?』
『……あんまり、美しい理由じゃないよ』
魔王は皆、神に不浄だと貶められた者達。それは、自身らの矜持や在り方を捻じ曲げられたに等しい。
『カルデアの皆は世界の、人理の為に戦っている。僕たちは、自分自身の名誉とプライドの為に戦っているんだ』
踏み躙られた誇りを掲げ、今一度神になど隷属せぬ魔王を名乗り。
神の支配を脱却し、自身らの意思と誇りを貫くために戦っている。
『徹頭徹尾、自分たちの為さ。…がっかりしたかい?』
『どうして?』
シンデレラは不思議そうに首を傾げる。
『神に汚された自分達の物語を、新たに書き直す。自分達の物語を、ハッピーエンドにするために戦う。カルデアの皆と違う理由であっても、王子様達は大切なものの為に戦っているのでしょう?』
『…!』
『美しいわ。汚され、貶められ、それでも自分達を磨いて、ハッピーエンドを目指して神様にすら挑む。その不屈の精神と闘志…熱くて火傷してしまいそうよ』
自身の為に戦うこと。ルシファーはカルデアやシンデレラ達の崇高さに触れそれをどこか恥じ、気後れしていた。
だが、シンデレラにとってはそれは自身の戦いにも通じていた。汚れた物語を、新たに書き直す。
『嬉しいわ。王子様と私は、戦う理由も似ていたのね。美しい…本当に美しい運命よ』
彼女は微笑む。カルデアとルシファー達の美しさを称えながら。
『…ありがとう、シンデレラ。アスモデウス達も喜ぶよ』
そして、それを聞いたシンデレラは頷く。
『決めたわ、王子様。私も、私達も戦うわ』
『えっ?』
『カルデアの皆と、王子様達に力を貸すの。世界を脅かす悪い神様を一緒にやっつけて、最高のハッピーエンドを迎えましょう?』
偽神との戦い。カルデアが挑む戦い。その戦いに、シンデレラは力を貸すという。
『シンデレラ。それは…ダメだ』
だが、ルシファーはそれを否定する。
『どうして?王子様の為に戦ってはいけないの?』
『そうじゃないよ!君達は平和を、未来を取り戻したんだ。もう戦いは僕に、僕達に任せて手にした平和を楽しんでいいんだ…!』
シンデレラは幼少の頃から訓練に次ぐ訓練で、当たり前の生活など望むべくもなかった。
それはニケになった者達もそう。戦闘の為にニケになった者達は、死地に送られ戦い続けた。
だが、漸く戦いは終わった。ラプチャーは滅び、平和と地上を取り戻した。
だから、もういい。ゆっくり平和を楽しむべきだ。それはルシファーの変質した心が齎した忠告。
『気遣ってくれるのね、王子様。…でも、それでも譲れないわ』
シンデレラは、強く見つめ返す。
『大切な人を戦わせて、自分だけは平和を満喫するなんて…そんな選択は、美しくないわ。自分だけが良くて、他はどうでもいいだなんて。勝利の女神を名乗るものに相応しくない心持ちよ』
『シンデレラ…』
『私が王子様と分かち合いたいのは喜びだけじゃないの。哀しみも、怒りも、苦しみも…。あなたが抱くものは、全部全部一緒に感じたいのよ』
彼女の心はもう、迷いも曇りもしない。
『私は戦うわ。あなたが誰もを照らす星なら、私はあなたを見つめる勝利の女神として輝いてみせる。あなたが照らす全てを救う勝利の女神として、誰よりも美しく舞ってみせるわ』
ルシファーの手を、そっと握る。
『もう離さないわ、王子様。人類の為に私は戦い、勝利した。今度は、王子様の為に戦いたい。王子様に、とびきりの勝利を届けたいの』
『シン、デレラ…』
『お願いよ、王子様。私をあなたの勝利の女神でいさせて。あなたの為に、何度でも物語を紡いでみせるわ。だって──』
耳にそっと、囁く。
『大好きな人の為に頑張るのが、女の子というものでしょう?あなたはこんなにも、私を夢中にさせたのよ。だから──』
置いていくだなんて、許さないから。そう、ルシファーの首に小さくキスマークを付ける。
『……ふふ、困ったな』
淀みない瞳で見つめるシンデレラに、笑みを返す。
『……ありがとう。僕の勝利の女神』
『どういたしまして、王子様。──私はずっと、貴方という星に寄り添い続けるわ』
額と額を重ね合い、告げる。
『私の全ては、王子様のものよ。その美しい声で、心で。私を求めて』
『力を貸してくれるかい、シンデレラ』
『勿論よ、王子様』
『僕の為に、戦ってくれるかい』
『力の限り、美しく戦うわ』
『僕の…勝利の女神に、なってくれるかい』
『その為に、私は生まれたの。その為に、私は生きてきたのよ』
『シンデレラ。僕の事を、信じてくれる?』
『信じるわ。愛しているもの、王子様』
二人はそっと、視線を交わしあう。
『──全ての物語のハッピーエンドの為に戦おう、シンデレラ。誰もが笑顔に、完全無欠の結末を迎える為に』
『えぇ、勿論よ。私は輝き続けるわ。王子様の瞳の中で、誰よりも』
シンデレラの世界に向かったルシファーの目的だった、アンドロイド技術を手に入れる事はこれ以上なく果たされた。
シンデレラ──人類が辿り着いた最高峰の勝利の女神の力を借りる事が叶ったのだ。
『それなら、君だけじゃない。皆の力も借りに行かなくちゃね』
『エイブやセイレーン、ヘンゼルやグレーテルの事ね?美しい提案だわ、王子様』
『あぁ。そして皆はカルデアに所属してもらうことにするよ』
『えっ…?』
『何の裏表も、私利私欲もなく…ううん、私利私欲と世界を救う事を完璧に出来るあの組織が、君達の所属に相応しいんだ』
『王子様…。あなたが其処まで言うのなら、喜んで。でも…』
シンデレラは、強く告げる。
『忘れないで。私達にも、カルデアの皆にも。王子様やアスモデウスさん達が必要不可欠だということを。皆が欠けずに、ハッピーエンドを迎えなくてはいけないことを』
約束して、と手を握る。
『もう二度と。あなたを大切に想う人を、哀しませないで』
『────』
…ルシファーは、密かに願いがあった。
自身を尊び重んじてくれた、エアの手で殺されること。
大魔王を討ち取り、この世界にて比類なき功績を打ち立てて貰うこと。
それが、自身の光にして友であるエアへ、自身が捧げられる最高の贈り物だと…
『王子様…』
握られていた手から、震えが伝わる。
『お願い、お願いよ…約束して…』
──その願いもまた、自分勝手に相手を哀しませるものだと。ルシファーは理解した。
いいや、目の前にいる勝利の女神が教えてくれた。
『──勿論だよ、シンデレラ』
ルシファーは…
『僕はもう、誰も哀しませない。完全無欠のハッピーエンドを迎える為にこの身を捧げるよ』
その傲慢なる願いを、捨てる決意を定めた。
『共に行こう。誰もが笑顔になる美しい物語の為に!』
『えぇ──ありがとう。美しいわ、王子様…!』
他者を曇らせる願いなど、あってはならない。
ルシファーは、今、本当の意味で。
──誰もを照らす輝きを、放ち始めた。
シンデレラ『その為には一度、私達の世界に戻らないといけないわ』
ルシファー『エイブ達かぁ…元気に…』
シンデレラ『していると思う?』
ルシファー『…そうだよね…でも、会わなくちゃ』
『それが、責任を取るって事だから』
(──だよね、アダム。やっと君の立派さ、解った気がするよ…)
〜『フェアリーテール』タワー社長室
エイブ「──────!!!」
シンデレラ『エイブ、見て…!王子様よ…!』
エイブ「ルイ…シンデレラ…!」
ルシファー『やぁ、エイブ。君は変わらな──』
エイブ「────今まで…!!」
ルシファー『!』
エイブ「何処で!何をしていたァッ───!!!!!」
ルシファー『ぐはあっ────!!!』
シンデレラ『………──堪えて、王子様』
エイブ「お前!お前は!!1年もの間何処で何を!お前は!!」
ルシファー『ぐふっ、うぐっ、ぐっ…ぐはっ…!』
シンデレラ『美しいマウントポジションだわ…』
ルシファー『ごめん、エイブ…!君の怒りは…』
エイブ「どれだけ娘達が心配したと思う…!」
ルシファー『!』
(涙…)
エイブ「どれだけ娘達が…どれだけ…どれだけ……!」
ルシファー『────ごめん、エイブ…』
エイブ「うっ…ううっ……どれだけ心配したと…馬鹿者が……ううっ……」
ルシファーは、エイブに目をかけ多額の投資と支援を行っていた。
フェアリーテールモデルを製作できたのは、ルイとしての功績をフルに使った支援ありきのもの。
言葉はなくとも、エイブは深くルイに感謝していた。シンデレラたちの指揮官はルイでなくば認めないと打診するほど。
ルシファー『……責任を取るって…大変だなぁ…』
エイブに馬乗りで殴られた顔以上に…
上から落ちる涙により、心が痛み続ける、ルシファーであった。