探索者が逝くSAN値直葬の地獄巡り   作:遊心喜一

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EP1-5「とことんむかつくヤローだぜ……」

 旧L社支部の跡地に侵入した(あなた)達を待ち受けていたのは、たとえようのない悪臭だった。

 腐敗しウジが湧いた死体が辺りに散乱しており、人体が腐敗した臭いや血の匂いが、閉鎖的な空間に凝縮され、鼻腔を深くえぐってくる。

 (あなた)達は一瞬で吐き気を催すほどのその刺激に、何人かが顔を歪ませ、思わず口と鼻を押さえたり、えずくような息遣いを漏らした。

 


 SANサンチェック1d3/オア1d6+プラス1


 【正気度ロール】37>成功1d3 > 1


 

 「うぇっ……!ひどいにおいが、おえっ、ぷ……は、鼻がもげそう……

 「……ほらシンクレア、これで鼻を覆って、少しずつ呼吸を整えていきな」

 

 気休めかもしれないけど、何もしないよりはマシだろう。

 私は、悪臭に耐えかねていたシンクレアに手早くハンカチを差し出した。

 

 「あ、ありがとう、ございます……

 「うぅむ…肺の中へ五味が頻りに付きたり。却りて頭が澄む臭いなり」

 

 ……おぉう、マジで言ってる?この臭いで、頭が冴えるって?

 独特なイサンさんの感性を前に、遠い目になりかけた私の隣で、ダンテの時計の針が、チクタクと何かを分析するように規則正しく音を立てた。

 

 「<死んでからかなりの時間が経ったみたいだ>」

 「そうだね、旧L社が倒産してもう久しいから」

 

 ……にしても、経過した年月を考えると、この遺体の残り方は異常だ。正直、もう骨だけになっていてもおかしくはないぐらいだから。

 でも、ユーリちゃんの反応を見るに、これらの死体が支部の職員であったことは確実だ。

 おそらく、支部が崩壊した後も生き残っていた職員達が、脱出することも叶わず、それでも生き延びようと足掻いた結果なのだろう。

 

 「流石です、管理人様!正確な観測に感服いたしました。これらの死体はまさしく崩壊期に至った死体であると見受けられます」

 

 ……あー、やめやめ。コイツらは運が悪かったんだ。

 私の知らない人が、私の知り得ない所で死んだだけ、どうしようもない。

 そう自分に言い聞かせ、無理やり思考のスイッチを切り替えた。これ以上深掘りしても、気分が沈むだけだ。

 

 「はぁ、虫達の宴会真っ盛りってところね……」

 「うへぇ……やめてよぉ……なるだけ直視しないようにしてたのに、想像しちゃったじゃん……」

 「……先を急ごうか」

 「あら……グレッグ?もしかして、あなたも虫が苦手なの?」

 「……これは老婆心から言うんだけど、まさか虫の死骸を人の顔に突きつけるような、幼稚な真似は──」

 

 グレゴールの警告は、むしろロージャの悪戯心に火をつけたようだ。

 彼女は口元を歪ませて悪い笑顔を浮かべると、足元に転がっていた、黒くて小さな物体に手を伸ばし始めた。

 その手が()()に触れる前に、私はロージャに声を投げかけた。

 

 「──ストップ。ロージャ〜?今、何を拾おうとしたのかな〜?」

 「あはぁ……バレちゃったか〜?」

 「ふぅ……頼むから、マジで勘弁してくれ……」

 「おいそこ!ふざけるのも大概にしろ!管理人様に余計なことで手を煩わせるような真似はするな!」

 

 おっと、お局様に怒られちった。

 とはいえ、今のはウーティスの言う通りちょっと緩みすぎてたな。

 都市じゃ、こうやって誰かと一緒に行動する場面が少なかったから、ちょっと浮ついてるっぽいな、気をつけないと。

 

 ウーティスの注意の言葉で、悪ふざけは収まった。一同は張り詰めた空気の中、少しだけ辺りの状況を調べて、直ぐに先へと進むことにした。

 


 

 奥へと進んでいくにつれ、明らかにここ最近出来たばかりの死体が増えてきた。

 横たわっているそれらにはバスの道中で戦った、旧G社の元軍人達の姿もあった。

 その時、先頭に立っていたウーティスが腕を上げて、皆を静止した。

 

 「止まれ、前方に挙不者を補足」

 「……?挙不……者?って何?」

 「挙動不審者……敵かもしれないってことだ」

 

 沈黙が流れ、緊張が走る。きっと、私達は全員、同じことを考えているのだろう。

 この先にいる存在が、もしかしたら、幻想体なのかもしれない……言葉にしなくても、その疑念が、静まり返った空気の中に漂っているのが分かった。

 だから(あなた)は、前方に()を凝らした。

 


 【目星】 (1D100<=75-10) > 37 > 成功


 

 ……見覚えのある特徴。間違いない、あれは──

 

 「旧G社の連中だね。数は、確認できる範囲で3人」

 「……間違いないんだろうな?」

 「うん、()には自信があるんだ。……どうする?」

 「……いずれにしろ、ご対面といくしかないだろうな」

 「──おい!そこ、誰だ!

 

 その直後に、相手も私達の存在に気がついたようだ。

 私達は先へと進み、声の主と対面した。

 

 「……何だ?この近辺には俺たちだけしかいないって話だろ」

 「入口の方で処理できなかったのか?いつの間にか他のネズミ共が入ってきたみたいだな」

 「おい、虫野郎共!この道で転がってたあの死体はお前らの友達か?」

 「死体!?お前このクソや──

 「おい、落ち着け」

 

 ヒースクリフの言葉に瞬時に怒りを露わにした敗残兵の一人は、仲間に諌められ、その言外に含まれた意味を理解したのか顰めた顔を収めて私達に向かって話しだした。

 

 「……どこから来たゴミクズ共かは知らないが、聞け。どうせ、お前らもエンケファリンを取りに来たんだろ?ここはもうほとんど漁られてて残っている物も少ない。ここからもう一階だけ下りていけばまだ沢山のエンケファリンがあるだろうから容易く手に入るはずだ」

 

 相手は、私達が崩壊した支部を漁りに来た同類だと誤認したらしい。あまりに露骨な誘導──浅ましい魂胆が透けて見えるわ。

 

 「そこはお前らに譲るよ。互いに取るもん取って良い感じに別れよう……か、は、はは──は?

 

 含み笑いを浮かべていた敗残兵たちの目が、ふとこちらの背後に立つグレゴールを捉えた。

 

 「……ちっ、バレたか」

 

 グレゴールが観念したように言葉を漏らすと、敗残兵たちは無の表情から一転、憎悪を剥き出しにした。

 

 「……お前、この裏切り者が……」

 「あはぁ、お前は前方に所属してたみたいだな。どうだ、それでもポスターよりかは実物の方が良いだろぉ?」

 「馬鹿なことを言うな!!お前なんかに敬礼してたなんて、反吐が出る……!」

 「ありゃぁ、実物に対してやったわけでもないのにそう言ってくれるなよ」

 「お前はそのくっだらねぇ特別待遇で、施術の副作用なく平凡な人のフリをして生きてきたんだろうけどな……俺達はそうじゃなかった、この欺瞞野郎が。俺達は戦争で敗北してすぐに捨てられたんだよ」

 

 忌々しげに敗残兵達はグレゴールを睨みつける。

 

 「……捨てられたのは俺もだよ。軍人なら全員同じじゃないか?その中でお前達は、捨てられた虫ケラみたいに生きていくことを選んだみたいだな?」

 「……おい!敵を挑発して良いことは何も無いだろう!」

 「あんたも軍出身なら分かるだろ?目の前に立っている者達と戦うことになるか、そうならないかくらいは」

 

 相手は既に変貌した腕を構えている。

 ここで戦わずに前に進んだとて、どの道彼等との戦闘は避けられなかっただろうしこっちの方が都合がいいだろう。

 

 「……大人しく見逃してやろうと思ったんだけどな」

 「はっ、心にもないことを言うんだね」

 「テメェらも、あの裏切り者のクソ野郎もろとも切り刻んで殺してやる」

 「呆れたヤツら。オレたちがエンケファリンを持って来たら、そのまま後ろから頭をズガンといくつもりだったくせに」

 「どーかん。自分達は態々危険な場所に向かう必要もなく、消耗した私達をぶっ殺して楽できるぜ〜って魂胆だったんだろ?」

 「そ、そうだったんですか?」

 「底辺の底辺まで落ちぶれた奴らに義理ってもんが残ってるとでも?マシな奴らでも割と後ろから殴るってのに。そんなちょろいのを期待してんのか、お前」

 「シンクレア、残念な事にね。()()()()()()ってのは都市じゃあ呼吸するのと同じくらいありふれた事象なんだよ」

 


 

 幾ら従軍経験があって、身体改造施術を受けているからとはいえ、数の利に優っている上に、人格技術がある私達にたった三人だけで勝てる訳もなく。

 哀れものの数分で彼らは物言わぬ骸と化した、なむ……。

 

 「他の警備会社に就職したとしても、これよりはマシだと思うんですけど……」

 「一生を軍人として生きてきた者達だ。他の職業で新たな出発をするには適応し、変えなければならないものがとても多かっただろう」

 「それに、没落した翼出身ってのは物凄い烙印だ。誰かが拾ってくれたら靴底でも舐めてあげなきゃならないくらいには……」

 

 その言葉を聞いて、今までの辛い出来事を思い出してしまったのだろう。

 ユーリは憂いのある表情を浮かべて、顔を下にした。

 

 「あ……ごめん。浅はかだったな」

 「いえ。G社もL社も状況は同じだったでしょうし。……翼が折れるというのは、そういった混乱を引き起こす事件ですからね」

 

 グレゴールは肯定するように、静かに頷いた。

 

 折れた翼の羽というレッテルはとても重い、そう大袈裟でもない仕事にありつくことすら難しくなるのだ。

 正直、こういう話を聞く度に思うのだが、翼が折れるのなんて上の奴らがやらかした結果であって、末端の職員にそこまでの責任はないだろう、むしろ翼に所属できるってことは優秀な人材だってことだし。欲しがらないのかね?

 ……そうなっていない時点で、都市の人間にとってはそれだけ失敗したという部分が大きいのだろう。

 或いは、折れた翼の羽なんて縁起が悪いとか思っているのだろうか?

 

 そんな風に思考しながら前に進んでいると──

 


 【目星】 (1D100<=75-10) > 22 > 成功


 

 小さな影が動いているのが目に留まった。

 

 「──皆止まって」

 

 急いで、皆に対して制止するように促す。

 

 「<どうした?またG社の連中か?>」

 「いや、違う。人間じゃない、何か小さい奴らがこっちに向かってくる……!」

 「──!管理人様、戦闘の準備を。各員臨戦体勢をとれ!」

 


 

 暗闇から姿を現した怪物は、タンポポのような綿毛に無数の歯を生やし、黒緑色の太い触手と、そこに果実のように幾つもの眼がぶら下がっていた。

 その目が、ギョロリとこちらを捉え、肉を噛みちぎろうと歯をカチカチと鳴らしながら突進してくる。

 

 「いやぁ……、列車以外でこういうの相手にすることになるとはなぁ……っと──」

 

 突進を【回避】しつつ、手に持った【両刃剣】で、すれ違い様に怪物を斬りつける。

 しかし柄の先端にある刃は、怪物の白い綿毛状の本体をHP18→17浅く切り裂いただけだった。鋭い歯がカチカチと鳴る音が響き、またも怪物はこちらに目掛けて突進してくる。

 貪欲な怪物は、開いた口でひたすら何かをかみ殺そうとする欲求だけに満ちているようだった。

 だからこそ、分かりやすい。私は余裕で怪物の攻撃を躱し、攻撃を──

 

 振るったが失敗躱された。敵の攻撃も失敗躱した

 失敗当たらない失敗当たらない失敗当たらない失敗当たらない……。

 

 「だぁーっ、もう、しつこいなッ!お前に食わせる肉なんてここにはないんだよッ!てか当たれ!動くな!」

 「キィッ!」

 

 相手の攻撃も当たらない代わりに、こっちの攻撃も当たらない。

 や、やべーぞ、泥試合だ……。

 

 「やけに手こずっているな、ランディ。列車とは違った環境で慣れないのか?」

 「うわっ、ウーティスチーフ!?見てたなら、手伝ってくださいよ!」

 「悪いがッ──こちらの制圧がまだ済んでいないのでな。まぁその調子だったら、暫くは保つだろう。そいつは引き留めておけ、ランディ」

 「え、ちょっ、まっ──」

 

 そう言い残して、ウーティスチーフは他の怪物を殺しに行ってしまった。

 

 「……ウォォォォッ!!やってやろうじゃねぇか、チクショォォォォッ!!

 


 

 つ、疲れた……。

 あの後、他のメンバーの手を借りる事なく、何とか攻撃を当てて勝利できたけど……幸先が不安だ……。

 

 「そんな……私、こんな幻想体は見たことない……」

 「……知らないだって?」

 

 ホプキンスはユーリを蔑むような眼差しで、強く睨む。

 

 「あっ、いえ……その……」

 

 ユーリにとっても想定外の事態であったのだろう。追及の言葉に上手く返答を返せず、彼女は言葉に詰まり、視線を泳がせる。

 

 「俺達がわざわざ堕落した翼の羽を拾った理由が何か、分かってないのか?」

 「L……L社支部の依頼を少しでも安全に解決しようと……」

 「よく分かってるじゃないか。下級管理職出身に望むものなんて別に無かったしな。道案内。そしてあの幻想体だか勉強会だかいうのをどうやってフルボッコにすれば良いか教えること。けどな……初めて見るとかほざかれたら俺たちはどうすればいいってんだよ?あ゛ぁん?

 「はぁ〜ホプキンス、そんなにカリカリして〜お腹でも空いたの?優しくしてやってよ〜」

 

 アヤちゃんが茶化すように宥めても、ホプキンスは聞く耳を持たなかった。それどころか、獲物を追い詰めるような鋭い視線をいっそう深め、震えるユーリを執拗に睨みつける。

 雇った目的を考えれば、ああいう風に言うのも無理はないと思うが、コイツらのことを()()()()()()()私からしてみれば、その執拗な追い込みがただただ不毛に映った。

 

 「──普通にフルボッコにすればいいじゃん。どうせコイツら、幻想体じゃないんだから」

 「は?……あのですね。ここは旧L社なんですよ?幻想体以外に他に何がいるってんです?いくら赤い視線様の手下だからって、適当な事を言うのは──」

 「こんな状況で適当言うわけないだろ?……ユーリちゃん、幻想体って死んだ時どうなった?」

 「あっ……た、卵状の核になります」

 「そう。だから……ほら見て。ちゃんと死体になって残ってるコイツらは幻想体とは違うって訳」

 

 ユーリちゃんと一緒に相手が幻想体ではないということを示すと、早く言えよと小声で呟いた後に罰が悪そうな顔で咳払いをしてホプキンスは押し黙った。

 ユーリちゃんに謝れや、この野郎……。

 

 「あの……ありがとうございます」

 「ん?あぁ、いーのいーの、やー誤解が解けて良かったよ」

 「……あなた、やけに詳しい口ぶりでしたけど幻想体の事知ってるんですか?」

 「あっ、そうです。ランディさんってもしかしてL社の職員だったんですか?」

 「あー、や、違う。私は旧L社とは何の繋がりもないよ」

 

 シンクレアとイシュメールが訝しげな目でこちらを見てくるが、本当に私は旧L社とは何の繋がりもないのだ。

 ただ──。

 

 「……昔っから、ああいう手合いの化け物には縁があるんだよ。……切っても切り離せない──呪いみたいなもんさ」




グレゴール章なのにランディがクッソ目立ってる……。
けどしょうがないんだ、この章ランディにとっても割と重要な章なんだ。許せグレゴール。
正直1章はプロムンストーリーのお試しって感じでグレゴール章って感じせんのよなぁ……。
だから、この世界線のLimbus Companyの第1章は主人公がランディで、ヒロインがグレゴールってことで──いいですよね?

ランディのどんな人格がみたいですか?「恒常〜S1」(投票が多い人格が優先)

  • ツヴァイ協会
  • シ教会
  • センク協会
  • リウ教会
  • セブン教会
  • ヂェーヴィチ協会
  • ディエーチ協会
  • W社
  • R社
  • G社
  • 剣契
  • LCCB
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