「うぅっ……グレッグ、あいつら、あんたの知り合い?」
「ん?何だって……?この裏路地に、俺の顔見知りがいる訳な──」
どうやら、嫌な光景を見てしまったらしいロージャが、引き攣った表情で窓の外を指差しながら、グレゴールに声を掛けた。
グレゴールは何の事やらと、見当がつかない様子で窓の外へと目を向け──その先にいた
今まで相手にしてきたネズミ達と同じような襤褸を纏った見窄らしい姿、しかし、目の前で立ち塞がるように道の先で立っている彼等には、明確に違う点があった。
──誰も彼も、露出している体の一部が虫のものへと変貌している。
それは
しかし、グレゴールの
腕だけでなく、頭部にまで虫の様相があり、その顎はギチギチと忙しなく動いている。
SANチェック01/1d6
【正気度ロール】69> 成功 > 1
「うわぁ……ダンテの頭が時計で良かった。あんなのを毎日見る羽目になったら、見る度に吐き気を催しただろうし……」
「というかあれ……グレゴールさんと同じ強化施術じゃないですか?」
「あんな気色悪い虫の頭をわざとくっ付けるってのか?」
「あんまり近寄るなよ。お前にも害虫菌が伝染るぞ?」
「ヒッ、本当ですか!?」
「冗談だって……俺のギャグセンスって変なのか?」
「今のギャグに、笑いどころはないと思うんだけど……」
その自虐ネタで、盛大に笑う人いたらそれはそれでどうかと思う。
というかイジメの時ぐらいでしか聞かないぞそんな言葉。どんな環境で育ったのさグレおじ。
「過去のG社では、大多数の職員がグレゴールさんのように生体武器施術を受けました」
「グレゴールさん、元G社出身だったんですか?その時のG社なら……」
イシューメルが思わず口籠る。
そこから先、彼女が何を言おうとしたのかは、都市の人間なら大抵の人間は察することができるだろう。なぜ彼女が、その単語を発するのを憚ったのかも。
それをよく知る人物であれば、尚のことだ。
だから、グレゴールは苦笑いを浮かべながら、沈黙を選んだ。
「ああいう方々は、普段何処で寝るんですか?」
ウッソだろお前。
いや、空気を重くさせるよりはいいのか?
「世界には空を天井にし、星を照明にして暮らす人も多いものだ」
「むっちゃ壮大に語ってるけど、ただ、ホームレスだからあんな風に暮らすしかないだけじゃんね……」
「なるほど……風流な方々なんですね!」
「<伝わってないし……>」
……ふっ、天然レベル100ってとこね。
直接伝えたってのにまさかの返答、このランディの目を持ってしても読めなかったわ!
「見た感じ、彼らも私達の旅路を邪魔するつもりらしい。降りるべきじゃないか、グレゴール?」
「……あえて俺に向かって言うわけは?」
「さあ、他人の思い出を俺の口から囃し立てたくはないからな。前に出ろ、グレゴール。理由なら君がよく知っているだろう」
「……底意地わりぃ人間だな、あんた」
「はぁ……仕方ない。前に出るの、あんまり好きじゃないんだけどなぁ」
バスに近づいてきていた元G社の集団は、私達の先頭に立ったグレゴールを見て、驚いたような表情を浮かべた。
「──何だお前、何で私達と同じ腕をしているんだ?」
「いや、待て……見慣れた顔だな?」
「……あー、主にポスターとか雑誌に生息してたことはあったな」
「<グレゴール、知り合いか?>」
「同じ陣営に属してたんだろうし、面識なくても知ってることもあるんじゃない?割と有名人だったのかもね」
「……そんなこと、気にしてる場合じゃないと思いますけど。昔話に花を咲かせるような状況にないのは、目に見えて明らかですし……あの、貴方大丈夫ですか?」
「え、何が?」
「あら〜?ランディってば虫が苦手だなんて可愛い所もあるじゃない」
「……?別に私、そんなに虫は苦手じゃ……」
そこまで言って、自分の体が小刻みに震えていることに、ようやく気づいた。
「で、どうしてあいつらは虫の姿を晒して堂々とほっつき回ってるの?グレッグみたいに目立たなくした方が良いんじゃない?」
「……俺はレアケースなんだよ、大抵は必ず頭に昆虫の部位が付いちゃうからな。これを……運が良かったと言うべきは分からないけど」
……ウワーッ!明らかに傷ついた顔してるぅ!?
ちょ、違、違うんだって、蜘蛛は苦手だけど、それ以外なら別にそこまで嫌悪感とかはなっ──クソが震えが止まらねぇ!何だったら自覚してから余計に強くなってるんだけど、何で!?
まずい、この状態で下手に弁解しても余計に気を使わせちゃうだろうし……何も思い浮かばねぇ!ど、どうしてこんなことに……。
結局この後、速攻戦いになったけど、私は待機組として後方に下げられた。
グレゴールは暫くの間、目に見えて落ち込んでいた。申し訳ねぇ……。
「着いた。どう?やっぱりカロンは道を知ってたでしょ」
「やっぱりって何がやっぱり何ですか!?私とシンクレアさんが両サイドでどれだけ苦労したと……」
「それでもやっと東南と東北が区別できるようになって良かったです、カロン」
二人の活躍もあって、バスは何とか目的地の旧L社跡地へと辿り着くことができた。
バスのメンバーはゾロゾロと窓際によって、その様相を見た。
「<これが……旧L社なのか?>」
「私も直接見るのは初めてですね……。酷い有様、
「白夜と黒昼……懐かしいなぁ」
当時、外を歩いてたら急に周りがパッと明るくなって、何事!?って振り返ったら空に馬鹿でかいビームが放たれてたんだよね。
急な異変でビビりまくって、腰抜かしてたなぁ……当時の私。
「そんな……どうやったら建物がこんな有様になるんですか?」
「はっ、金持ちのボンボンには見慣れねー光景みてぇだな」
「お喋りはそこまで、下車する」
「<ありゃ?知らない人達がいる……>」
「ユーリさんと同じ事務所の方々です。L社支部にも既に何度か訪問したことのある経験者でもあります」
「挨拶しようか。左側にいる方はホプキンスさん、そして右側の方がアヤさんだ」
「こんにちは〜」
「あ、ああああっ、あ…」
「赤い視線様!お会いできてほ、本当に光栄です……!噂では何度も聞いてきましたがこうやって直接……」
うーん、分かりやすい奴だなぁ……。
ヴェルギリウスは、おべっかを使う彼に適当に相槌を返して、早々に本題を切り出した。
「あそこの古びた倉庫、見えるな?中に地下へ降りられる階段がある。階段からはこっちの、ユーリさんが担当することになる」
「……はい」
「こっちのフィクサーさん達もキャリアがあるから、突発的な状況にも上手いこと対応してくれるはずだ」
しかし本当にそうでしょうか?
いや、冗談抜きでちょっと見ただけでも怪しい点が幾つかあるんだけど……。
……まぁ、そこら辺は上手い事やれば良いか。他の皆もはなから信用してる奴なんてここには……。
「あぁっ、フィクサーと共に協働する日が来ようとは……!アヤ殿、ホプキンス殿、よろしくお願いしますぞぉ!」
あぁ、うん。一人いたわ。
嬉しそうにアヤちゃんの手をブンブン振ってるわ。
「これくらいで良いよな?私の同行はここまでだ。バスでお前達を待っている」
「<あれ?そんな急に?>」
「いつまでも面倒を見てもらえると思っているのであれば、それは大きな誤算でございます、ダンテ」
「俺らがあくせく働いてる間、あんたは一人で足を伸ばして休んでるっていうのか?」
「そもそも私が同行してしまうと、お前達にとっては観光に行くのとそう変わらないんじゃないか?」
「まぁ、それはそうだよね。てか、ヴェルギリウスが動くってなったら、正直私達要らないだろうし」
「……お前、そうやってあっさり引き下がんのかよ」
「道中の事を思い出してみなよ。誰かがバスを守っててくれないとすぐ変なのが寄ってくるんだからさ。ヴェルギリウスならどんな相手が来ても安心だろ?」
「……」
「……不満たらたらって感じだね。まぁ気持ちは分からなくもないよ。でもね、ヒースクリフ。このバスに集められた面々は、皆それぞれ何かしらの目的を持ってリンバスカンパニーに所属することを選んだ筈だ。もし彼も同じなら、自分の目的のために最短の道を選ぼうとするはずだ。彼が直接手を下した方が、余計な手間も時間もかからないのは確かだろうしね。だから、彼が動こうとしないのも、もしかしたら
「……勝手にそう思ってろ。特別にガイドさんまで付けたんだ、やり遂げてこい」
……何だかんだ言いながら最後には激励をくれるんだな、やっぱりあれだよねヴェルおじって。
ツンデレだよね。
まぁ、ぶっちゃけ、おじさんにツンデレされるよりも可愛い女の子がツンデレしてる方が可愛いと思うけど、うん。……なしよりのありだね!
「……お前、急にどうした?」
「ん?何が?」
「いや、何かこう、違くねぇか?」
「……何さ、流石の私もこれから危険な場所に行くって時にいつまでも悪ふざけしてるような阿呆ではないよ。多少なりとも気を引き締めるぐらいはするさ。そんなことよりも、どう?胸のしこりは多少なりとも解消できた?」
「……まぁ、そうだな。出鱈目並べて適当こいてる訳じゃねぇとは思った。……だからまぁ、今はそれなりにマシな気分だよ」
「そりゃ良かった」
皆がそれぞれと交流を交わしている間、私はファウストに確認したかったことを聞きに来ていた。
「ファウスト、ちょっと良い?確認しておきたいことがあるんだけど」
「何でしょうか」
「……私達に防毒マスクみたいな装備品て、支給される?」
「残念ながら、そのような身を守るための装備品が支給されることはないでしょうね」
「あー、うん。ですよねー……分かってましたよ。ちくしょう」
Lobotomy Corporationこの企業はエンケファリンという特殊なエネルギー源を提供する会社だった。
しかし、このエンケファリンというエネルギーを抽出するために必要だったのが、
そんなものを管理していた会社の施設内部に何の仕掛けもないなんてことはあり得ない。
確実に鎮圧の為に使われていた装置がある筈で、管理者がいなくなった今、それらは外敵に無作為に発動する罠と化しているだろう。
こんな場所に入るというのに何の用意も無しに突っ込むなんてことは本来あってはならないことなのだが……。
そりゃ、都市の企業がさ、不死身の集団に態々身を守る道具持たせる必要なんて感じるわけないよね。
罠があっても取り敢えず1人をスケープゴートすれば、はい、解決。
人の心とかないんか?
もはやタイトルを考えることの方が本編を考えるよりも難しいよねと思う今日この頃。
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