登場ライバー
なし
2人の青年の因縁と決着
「…間に合え……間に合え!」
俺は今、走っている。目的地は小高い山の上にある、いつからあるのかさえ分からない寂れた神社。
数分前、水宮から突然
途中途中で引っ掛かる赤信号に煩わしさを感じながらも俺は目的地に向かって走り続ける。
自分の身体能力にはそれなりの自信がある、持久力もだ。それでも走って止まってを約10km繰り返すのは流石にキツい、ペースが保てない。
それでも走るしかない。気を緩める暇はない。下手したら取り返しのつかない事になる。
店を出てから恐らく15分ぐらいが経過した辺りで、俺は目的地の麓に到着した。30秒程で息を整え、150段近くある階段を登り始めた。
ずっと階段を上がり続けているとやがて開けた場所に辿り着く。俺から見て1番奥にある本殿、その手前にそいつは居た。
そいつは回収する人などもう1人たりとも居ないであろう賽銭箱に、小銭を1枚投げ入れ鈴を鳴らす。錆びついた聞き心地の悪い鈴の音がこの妙に広い境内全体を包み込む。
その後もそいつは参拝を続ける。俺は一通りの手順が終わるまで動かなかった。息を整えていたのだ、動けなかった訳じゃない⋯⋯⋯。
俺は息を大きく吸い、一気に吐き出す。
「⋯⋯⋯正爾あああぁぁぁッ!」
「⋯⋯来たか。」
俺の大声を聞いてもそいつは驚く素振りを一切見せずに振り返る。
「来たかじゃねえよ!何やってんだよお前⋯⋯⋯。」
知らず知らずのうちに俺の声には悲壮感が漂っていた。
「⋯⋯アイツに会う。」
「彼奴って⋯⋯誰だよ⋯⋯⋯。」
俺は恍ける。知らないフリをする。
「よく言うよ⋯俺より知ってるクセに⋯⋯。」
(⋯⋯開き直った方が良いか。)
「ああ、知ってるよ。けど⋯会うってどうすんだよ!⋯彼奴は消えたんだぞ!?この世界から⋯⋯歴史から⋯⋯俺たちの記憶から!」
「⋯そうだな。俺ももう殆ど覚えてない。髪型だって目の色だって声だって⋯⋯名前すらも思い出せない。」
「⋯⋯じゃあどうやって会うんだよ!?第一、彼奴が何処に行ったのかすらも「
正爾の予想外の返答に俺は絶句する。
「⋯なんで⋯⋯何処で知った?」
正爾は1度視線を俺から逸らし、一息つく。再び視線を戻すと話し始める。
「世界中の文献を漁った、大学に入って余裕ができてからな⋯⋯⋯まずアイツの正体を知りたかった、それに1番時間が掛かった。ほぼ白紙に等しい記憶の中であいつが獣人っていうのは何となく覚えてた。お前と3人で遊んだ時、誰とも種族が被って無かったからな。それが落とし穴だとは思いもしなかったよ⋯⋯⋯。」
正爾は長々と語り出す。俺はほぼ手掛かりゼロの状態から『幽世』なんていう結論を導き出した正爾の執念に驚いていた。
「⋯まさかアイツが神なんて⋯⋯お前は知ってたのか?⋯⋯
正爾の問い掛けに俺は首を横に振る。
「いや、気付かなかった⋯⋯少なくとも、初めて会った時は。」
「そうか⋯⋯アイツが神だと分かってからは早かった。」
その発言に俺は無性に腹が立った。全て終わったような、悟ったような発言に『ふざけるな。』と怒鳴ってしまいたかった。
「それがここ4週間⋯⋯エルフ流のジョークか?1ヶ月も部屋に籠もっておいて⋯両親や水宮心配させといて⋯⋯⋯早かった?」
「早かったよ⋯たった4週間で殆どの謎が解けた。アイツが俺の目の前に姿を表した理由も、急にこの世界から消え去った理由も⋯⋯なあ頼、答えてくれ。アイツは⋯あの神は消えかけたから姿を見せたんだろ?」
信じられないほど悔しいが詰み⋯俺の負けだ。否定する意味がない⋯だとしても聞く必要がある、正爾が何をしようとしてるのかを。
俺は首を縦に振り、正爾の質問を肯定した。
「ああ。神は生者の信仰を受けて成り立っている、本来生者に姿を見せない。姿を見せるのは⋯⋯信仰がほぼゼロになった時。俺たちで言う余命宣告であり、神なりの最後の悪足掻きだ。」
「⋯⋯けど俺はアイツを知ってた。だからずっと遊べてた⋯それなのに居なくなった、消えた⋯⋯⋯お前の所為で、違うか?」
来ると思ってた質問だ⋯⋯いや、もっと憤っている状態で言われると思っていた。胸ぐらを掴んで拳を振り上げて、その事実を突き付けて来ると思っていた⋯⋯悲しみが殆どを占めていそうな声色は、俺の予想とは全く違った。
覚悟はできた。腹を割って話そう………親友よ。
「そうだ⋯⋯その通りだ!俺の所為で彼奴は消えた。俺があの時、この境内に足を踏み入れた所為だ!同じ場所に全く異なる神や神の使いが存在する時、両者は信仰の取り合いをする。【空間魔法】や【空間魔術】が互いを塗りつぶし合うように、神たちも信仰の取り合いという名の領土合戦をする。そしてそれは当然強い方が勝つ。」
「アイツはお前に負けたから消えたんだな。」
「⋯お前は⋯⋯お前はこれから何をする気だ?」
俺の質問に正爾は数秒黙り、再び喋り出した。
「⋯⋯⋯⋯幽世に行く「そんなことはさせない。」⋯お前に俺が止められるか?」
「⋯止めるしかねえんだよ。お前が幽世に行ったら今度はお前の存在が消えちまう⋯⋯できるできないの話じゃねえんだ⋯⋯⋯。」
「じゃあどうすんだよ?どうやって俺を止める?」
「⋯⋯俺と闘え。」
その言葉を聞いて正爾は溜息を吐き口を開く。
「はあ⋯俺と闘え?お前が俺に勝てると思ってんのか?」
「⋯⋯ああ。」
俺の返答を正爾は嘲笑う。
「はっ⋯あの時闘って力の差は痛いほど分かってる筈だぜ?そもそも俺とお前には覆しようのない経験の差があった筈だ。だがそれすらも塗り潰す才能の差が俺たちの間にはある。第一、俺がお前と闘って何になる?」
「⋯賭けだ。俺が勝ったら彼奴のことを諦めろ。お前が勝ったら⋯⋯」
「⋯俺が勝ったら?」
「⋯⋯⋯幽世への行き方を教える。」
俺の言葉を聞き正爾は納得したのか、微笑を浮かべた。
「⋯⋯分かった、いいぜ。その賭け乗った。場所は前と同じで良いよな?」
俺は頷き、正爾の提案を呑む。すると俺と正爾の足元に水色に光り輝く魔法陣がそれぞれ顕現する。
「【転移魔法】テレポート」
魔法陣が発光し眩い光が俺たちの足元を取り囲んだ次の瞬間、転移は完了していた。
場所は先程まで居た山の麓。俺から見て左側に先程まで居た神社がある山、右側には水深は浅いが広く大きい河川が流れている。
「さあ、やるか⋯⋯二言は無いだろ?」
「⋯ふっ、生憎と此処に立つと俄然やる気が出てくるんでな。」
「奇遇だな、俺もだ。俺は最初っから全力で行く。お前はどうする?」
こうやって向かい合うと、経緯はどうあれ勝ちたいものだ。返答は決まっている。
「ああ⋯⋯全力だ!」
俺と正爾は互いに微笑を浮かべ、睨み合う。
「【魔術解放】天変地異」
「【魔道解脱】リクリセント」
「⋯⋯⋯【降雷】」
互いが固有魔術や固有魔法を発動したのを合図に、俺は距離を詰め【降雷】を使い雷を宿らせた右拳を正爾の腹に叩き込む。が、俺の手に伝わってきたのは殻のような硬いナニカ⋯それは正爾の肥大化した左手だった。
「⋯駄目か。」
「先手必勝、こういう場面じゃお前が1番取りたがる戦術だろ?お前の技と俺の技の相性は共闘するんだったらフレンドリーファイアを最低限に減らせる程には良いが、敵対する場合は最悪の2文字で表せる。」
「それはお前と敵対した場合、ほぼ全ての相手に言えることだ。」
そんな事を話している間にも正爾は左手を元の形に戻し、今度は右手を変形させて鎌のような形に変える。
俺は此奴の固有魔法をよーく知ってるし、理解しているつもりだ。それでも明確な勝ち筋は無い。此奴の固有魔法『リクリセント』の効果の1つ目は“物質の改変”。さっきのように手を硬化させたり刃物のように鋭くすることができる。2つ目は“物質の培養”。これにより手を元の何倍の大きさに変えたり、好きなように形を弄る事ができる。
「【飆風】」
俺は正爾の右肩目掛けて【飆風】を放つ。横方向の竜巻のような風貌のそれは、正爾に着弾すると爆風を起こし姿を見えなくさせた一方で正爾の身体を一気に抉る。正爾の右腕は本体から分離し川沿いの岩場に落ちる。
「ぐっ⋯⋯やってくれたなお前。」
こんなものでは意味がない、それは俺も分かっていた。
正爾は右腕を手に取ると抉れた部分同士を触れさせる。すると正爾の右腕は再び本来の機能を取り戻した。
「⋯⋯やっぱり駄目か。」
“物質の改変”と“物質の培養”この2つを掛け合わせることで此奴は【回復魔法】では到底不可能な部位の直接的な再生を【治癒魔術】よりも低コストで可能にした。そして最も厄介な点は⋯⋯⋯。
「【ファフロツキーズ】」
俺は正爾を中心とした半径3mの地点に赤黒い物体を落とす。
「んな事したって無駄なんだよ。」
正爾はそう言いながら左手を上に振り上げる。すると落下していた筈の赤黒い物体は突如として静止する。すると、それらは正爾の頭上に集まり巨大な斧を形成する。
⋯⋯これだ。此奴の固有魔法の最も厄介な点⋯それこそがこの効果適応範囲。自分の身体とか、自身が接触した範囲とかそんなもんじゃない⋯⋯此奴の“物質の改変”や“物質の培養”の適応範囲、それは⋯⋯正爾が認識した有機物無機物例外無き全て。要するに俺の物量特化の固有魔術である『天変地異』の殆どの技は有効打にならない。
「さあ頼ッ、喰らいやがれッ!」
正爾は左手を俺が居る方向へ振り下ろす。するとそれに連動して巨大な斧も振り下ろされ、俺を襲う。俺は右側へ全力でダッシュしてギリギリで避ける。
「そんなんで油断しねえよなあッ!」
巨大な斧は地面に触れる直前に今度は無数の礫に姿を変えると、俺の居る方向へ飛んでくる。
「クッ⋯⋯【壁陣】」
俺は反射で右手を無数の礫に向けると【壁陣】を発動させる。巨大な石の壁が出来上がり礫を防いだかに思われた次の瞬間。
「なっ⋯⋯ゴッバッ!」
正爾は石の壁すらも巨大な杭に姿を変えさせ俺に突撃させる。当然防御など出来る筈もなく直撃⋯俺は吹っ飛び河川に倒れる。
(クソッ⋯反射で防御すんのは悪手だな。避けるか迎撃するぐらいでしか対抗できないが、此奴の遠距離攻撃は全てが追尾システム持ちだと思ったほうが良いし、叩き潰してもその破片からまた弾が創られる⋯明確な対応手段もないか。⋯⋯にしても川の水冷てえな。)
足首ほどの高さしか無い水嵩だが倒れてしまえば全身が水に触れる。水の冷たさに耐えながら俺は立ち上がり思考する。
(さーてどうしたもんか⋯勝ち筋は死にかければまあある。ただその死にかける過程すらも結構キツイ。上手いこと隙を作って懐に潜り込む必要が有る訳だが、此奴は今の攻防ですら1歩も動いていない。即ち更にデカいアクションを起こす必要がある。けどなあ此奴が本気出せば絶対防戦一方になるんだよなあ。【空間魔術】でさえ此奴の【空間魔法】の方が強いから論外だ⋯なんで魔術師が魔法使いに出力で負けてんだよ⋯⋯。)
「臆せず掛かって来い。本気で来いよ⋯頼。」
「はは⋯本気でやれば俺の四肢潰すなんざ造作もないお前が『本気出せ』か⋯⋯。」
「言うじゃねえか⋯余裕ぶってんじゃねえよ。」
(こちとらお前に勝つために色々思案してんだ。後少しぐらい余裕あるフリさせろ。)
「そんなに言うなら⋯ボコしてやる⋯⋯覚悟しろ。」
正爾は右掌を俺の方へ向ける。すると俺の右腕が膨張し異形へと変貌すると正爾はそれを操り俺を殴ろうとする。だが俺もそこまで馬鹿じゃない、こうなるのは正爾の発言から何となく分かっていた。
俺はカフェの調理場から調達し左手で革ベルトに通しておいたナイフを取り出すと、迷わず右腕を根本から切り落とす。
「【治癒魔術】」
その後俺は即座に【治癒魔術】を発動して腕を生やす。【治癒魔術】を発動すると必然的に治癒する部位に意識が向く。その隙を突いたのか、正爾はいつの間にか俺の懐まで移動し俺の右脇腹に蹴りを叩き込む。
「グッ!?…………グォハッ!」
蹴られた勢いで俺はそのまま対岸まで吹っ飛び、堤防のコンクリート壁に激突する。
「ガハッ……はあ…はあ………う”ッ、グホッ……う”ぇ”……。」
1ヶ月前にラミィと闘い闘技場の壁に激突させられた時以上の激痛が全身に走り、【治癒魔術】を発動させる間もなく俺は吐血する。
(クッソ…速い……にしても嘘だろお?吐血するかあ普通?……うわ…危ねえ…あと少しで脊髄逝くところだった⋯⋯⋯。)
俺は姿勢を変えずに上体を上に少し持ち上げて前を見る。すると途轍もない速度で目の前まで移動してきた正爾のアッパーパンチが俺の顎に直撃した。
「なッ!?……ア”ッ”……ア”ァ”………。」
俺は仰け反り、今度は後頭部をコンクリート壁にぶつける。顎を狙われた事もあり、俺は痛がる言葉すらも発せられなかった。
「昔…癒月先生が言ってたよな…『俺とお前は似てる』って……。」
そう言いながら正爾は左手で俺の胸倉を掴むと俺の身体を引き寄せる。その力には明らかに怒りのような感情が籠っていた。
「な⋯何の話だ⋯⋯?」
「⋯いや⋯ただ⋯⋯⋯そんな訳ねえだろって話だあッ!」
そう叫びながら右腕を振り上げ俺の顔面を殴り始める。
「俺に勝てると本気で思ってるのか!?因果の渦に巻き込まれ、中心に立った結果その力を得たお前と因果とは何の関係もなく完全にその外に立つ俺…大切な人を亡くし続けるお前と大切な人を意地でも取り戻そうとする俺ッ!その違いは明白だろおッ!」
『大切なものを亡くし続けるお前』⋯この言葉に物凄い怒りを覚えた俺は、歯を食いしばりながら正爾の左手首を掴み全力で叫んだ。
「『亡くし続ける』?⋯⋯ふざけんなッ!今まで大勢助けてきた⋯救ってきたッ!」
俺の叫びは魂の叫びと言うより、駄々をこねる子供のソレだった。俺の慟哭に正爾は一瞬怯んだが、それ故に理性を取り戻し理知的に俺を捲し立てる。
「おい頼⋯今話してんのはこれからの話しだぞ、今まで何人助けてきたか喪ってきたかの話じゃない⋯それにお前が俺たちの住む街で助けてきた連中は、お前の『大切な人』なんつー大層な存在じゃない違うか?」
正爾が理知的になって俺を捲し立てるほど、先程までの怒涛の攻撃と俺の怒髪天を衝く正爾の言葉が同時に刺さり俺は感情的になって行く。
「ああ⋯そうだよだったら何だッ!?大切だとかそうでないとかどうでもいいッ!俺は全員救うし誰も喪わな「いい加減認めろよッ!⋯全員救う?誰も喪わない?あの時危険な状態だったアイツを消失させ、今たった1人の親友を喪い掛けてんのは何処のどいつだぁあああッ!」⋯⋯ゴォ”ッ”⋯⋯グハッ⋯⋯⋯。」
正爾は魂の叫びと共に拳を俺の頭部の左側面にぶつけた。俺はその衝撃で倒れ込む。しかし、俺の全身が地面に触れる直前に正爾が俺の背面の襟を掴みそれを静止させる。そして正爾は襟を掴む右腕に力を込め、俺を河川にぶん投げた。
俺は河川の中央に着水する。浅い河川といえど中央の水深は2m強。更についさっきまで殴られ続けていた為、俺は為す術もなく流される。だが突如として流れが止まる。途轍もなく嫌な予感がした俺は水中で目を開き正爾を見る。すると、正爾は右手を開いたまま前に突き出し空気を握りつぶす動作をした。
(⋯⋯⋯マズイ!?)
次の瞬間、河川の水は無数の巨大な棘に変わり俺の全身の至る所を貫いた。
(河川の流れを止めたのはこの為か⋯⋯グッ⋯痛いし冷てえが⋯おかげで頭が回りやすくなった⋯魔力だってまだ有る⋯それに正爾の攻撃への対応策もたった今思いついた⋯⋯本気の反撃だ⋯受けてみろ⋯⋯⋯正爾ッ!)
「【霧中霧散】」
俺が水中でそう叫ぶと俺を中心とした半径5m以内の水が消失した。正爾が河川の水を固形化させていた為、消失した空間に水が流れ込む事はなく、俺は河川の底に立つ。
「【降雷】【波及】【霹靂】———【万雷撃滅】」
俺は3つの技を詠唱に変換し【空間魔術】の効果範囲内でしか発動できない全範囲の雷撃技であり俺の切り札の1つ【万雷撃滅】を使用する。その威力は辺り一帯の生物を根絶させ、攻撃範囲は俺を中心とした半径50mという【空間魔術】の効果範囲とほぼ差異の無いもの⋯というどれを取っても一級品の正に切り札。その猛攻に対し正爾は周りの岩などを使い全力で防御しているが、これは“雷による全体攻撃は正爾の固有魔法の弱点である正爾が認識できない程の一瞬の攻撃には適応できない”という点を突いている為、雷自体を消すことが出来ないからである。
⋯⋯そして俺の本当の狙いはこれではない。
「【霧中霧散】」
俺は再びそう唱えると今度は俺自身の姿を一時的に消す。そのまま【万雷撃滅】に対処し続けている正爾のガラ空きの懐に入り、殴る姿勢を取る⋯つまり【万雷撃滅】は消費魔力が凄まじいが単なる目眩まし。俺は【霧中霧散】を解除して正爾に触れられる体制に移行する。
「な⋯⋯くっ⋯⋯!」
だが正爾もそんなもので当たってくれる程の存在ではない。気付いた瞬間、俺の足を変形させるなり消失させるなりして不発にさせようとしてくるだろう⋯しかし、それは俺も知っている。だからこそ俺は【霧中霧散】を解除すると同時に別の技を発動した。
「【絶対真空】」
【絶対真空】⋯この技は一時的に俺を中心とした半径2m以内の空間を“俺が生存できる範囲”まで調整した上で真空にすることができる。実際は完全な真空にする事も可能だが、その空間の中心にいるのは当然俺。その為使い方を誤れば見事に自爆する。さらに半径2mという極小規模な範囲でしか使えないという、ほぼあってないような技だ。だが、俺は“正爾の固有魔法を不発にする”という目的でこれを発動し、気圧などを変えずに気体のみを1秒間だけ消失させた。
これにより空気中に存在する魔法を発動する材料である魔素も消失し正爾は固有魔法は疎か、他の通常魔法も使用不可になった。
それに比べ俺が扱う魔術の糧は魔力⋯使用者自身の生命力から捻出される物の為、この環境下でも発動することができる。
(⋯認めるよ、正爾⋯⋯いや分かってる。俺の所為で両親は⋯爺ちゃんは死んだのかも知れない事も⋯彼奴だってそうだ、彼奴だって俺の所為で消えちまった⋯⋯それでも⋯それでも俺は⋯今あるものを全力で守り抜く⋯⋯俺にはそれができる力があるから⋯そう信じているから。)
俺は魔力を全力で絞り魔術を拳に纏わせ発動する。
「【臨界】」
拳を正爾の腹に叩き込んだ瞬間、青白い光とともに途轍もない爆発が起きる。正爾はその衝撃で吹っ飛ばされ河川に倒れた。俺も当然無事では済まず右手全体が火傷を負っていた。
「はあ⋯はあ⋯⋯これで⋯⋯これで俺の勝⋯⋯え?」
俺が勝利を宣言しようとした瞬間、背後に気配を感じた。後ろを振り返るとそこには右腕を鎌のような形に変えた正爾が居た。
(…なんで⋯さっきまでのは分身?じゃあいつから⋯あの鎌⋯⋯⋯俺が【飆風】を放った時か⋯⋯そういえばあの時落ちていた腕は普通の右腕だったっけ⋯⋯けど⋯あんなに⋯あんなに高性能な分身を創れる訳がない⋯⋯⋯⋯。)
その時俺は思い出した。俺が師匠から受け取った未完成の設計図を正爾に渡したことを⋯それをたった1年で完成させた正爾の偉業を。
いよいよというように、俺の首は完全に鎌の間合いに入る。
「俺は⋯俺は魔法道具大成の第一人者、水宮正爾だああッ!」
(ああ。駄目だ。勝てない。負けだ。…クッソ、また喪うのかよ⋯俺は⋯⋯⋯。)
俺は何も出来ず、無抵抗のまま首を刎ねられた。
「⋯ん?ここは⋯⋯⋯ああ、負けたのか。」
俺は目を覚まし起き上がる。右手を首に当てる。俺の首は何事もなかったかのように繋がっていた。全身の穴も塞がっており、その上体も十分に動かせるぐらいには回復していた。
「ああ。お前の負けだ。まさか分身をやられるとは俺も思わなかったけどよ⋯あれ創んの滅茶苦茶大変だからな?魔法の癖に体力半分ぐらい持ってかれんだよ。」
正爾は俺の横にある岩の上に座っていた。
「だったら俺の勝ちでいいだろ。」
「それは駄目だ。さあ、約束だ。幽世への行き方を教えろ⋯それと俺と一緒に来てくれ。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭に大量の疑問符が生成される。
「⋯ん?⋯⋯え?⋯⋯⋯は?俺も一緒に行くのか?」
「え?⋯そりゃそうだろ⋯⋯俺幽世の事殆ど知らねえから1人だと絶対道に迷うし⋯⋯それに俺幽世の行き方も知らねえし。」
「知らない!?⋯⋯じゃあさっきの参拝は何だよ!?⋯⋯幽世に行く儀式じゃねえのか!?」
「いや⋯あれは決意表明と言うか⋯⋯アイツにも届いてればいいなあと思ってやっただけだし⋯⋯⋯後お前が来るまで暇だったんだよ。枢から俺が神社に行ったって聞けば絶対来てくれると思ったんだが思ったより時間掛かったからな⋯⋯そういえばお前【転移魔術】使えなかったっけ?悪い悪い、すっかり忘れてたわ。だったら迎えに行けば良かったな。」
「⋯⋯お⋯お前まさか最初からそのつもりで!?」
「そりゃ⋯そうだろ。」
『何言ってんだコイツ』という様な目で見てくる正爾に、俺は沸々とよく分からない感情が湧いた。
「さ⋯さ⋯⋯「さ?」最初っから言えやこの野郎ぉぉおおおおおッ!」
俺は思いっきり怒鳴りながら正爾の頭をポコポコと叩く。
「なっ、何だ!?やっ、やめろ!痛いッ!痛くないけど何か痛いッ!」
「じゃあ何のために俺たちは殴り合ったんだよぉぉおおおッ!」
「いや⋯それはお前が『闘って勝ったら幽世への行き方を教える』って言ったから⋯⋯⋯。」
「それはそうだけどッ!⋯俺はてっきりお前が1人で行っちまうものだと⋯⋯⋯。」
「あー、なるほど。通りであんなに全力だった訳だ。俺はそんな度胸あっても成功する可能性が低いならやらねえよ。」
「お前なあ⋯⋯⋯もういいや、面倒くさい。」
「今の口調お前の素だろ。」
「⋯⋯はあ。話戻すぞ。」
盛大な勘違いをした上に、こんな事を言い合うのも馬鹿馬鹿しく思えてきた俺は話題を変えた。
「⋯⋯一緒に行ってくれるか?」
「当たり前だろ⋯俺だって彼奴について気になることが1つ在る。」
「そうか⋯ありがとな。」
「別に良い⋯1回帰るぞ。服着替えてえし準備する必要も在る。」
「⋯分かった。いつ戻ってくれば良い?」
「⋯⋯じゃあ11時頃だ。」
俺の提案に正爾は『分かった。』と言いながら頷く。俺たちは帰路に就き、あの時とは違い共に帰っていった。
はっきり言って意味のない衝突だったかも知れない。しかし俺はあって良かったと理屈ではなく感情でそう思う。互いのことを深く知れた、そんな気がしたから。
一方その頃
水宮「すぅは頼さんと一緒に夜ご飯食べたことあるもんね!」
尾丸「ポルカだって怪我した時すごい心配してくれたし、その時誰かさんと違って咄嗟に名前呼びされちゃったからなー。」
水宮「なんだとー!最近まで殆ど喋る機会なかったくせにー!」
尾丸「あ?やんのかオラー!」
可愛らしい小動物たちは醜い争いをしていた。