俺たちの住む商店街は治安が悪い   作:有苑

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ほのぼのドタバタハートフルコメディな日常?

登場ライバー

水宮枢 尾丸ポルカ 沙花叉クロヱ 鷹嶺ルイ 輪堂千速 猫又おかゆ 白上フブキ ラプラス・ダークネス


日常Ⅲ(メイド喫茶始めました!)

AM10:00

 

「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様♡」」」」」

 

メイド服を身に纏った水宮、ポルカ、沙花叉、鷹嶺、輪堂はメイド喫茶ならでは?らしい挨拶を俺に披露する。こうなってしまったのは5日前…正爾共に再び白上神社に向かい白上と再会した丁度次の日に知り合いから奇妙な提案があったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5日前 AM8:30

 

「ここのカフェでメイド喫茶とかやってみたらどうかな〜〜〜?」

 

突如として店にやって来た猫又からそう言われる。そんな提案は却下してしまいたいのだが、そんな事を言って此奴が引き下がる訳がない。俺は取り敢えず訳を聞く事にした。

 

「メイド喫茶?どういう風の吹き回しだ?」

 

俺がそう聞くと猫又は『まあまずこれ見てよ〜。』と言われ冊子を渡される。表紙らしき所をを見ると中央に派手なフォントで『文化祭!』という文字が印刷され、色とりどりのシャボン玉がその周りを囲んでいた。これはこの街の高校の文化祭のパンフレットらしい。

 

「文化祭か…懐かしいな。」

 

最近高校時代の因縁を片付けたからか、俺は感慨深そうにそう呟いた。

 

「…(らい)くんのクラスは何やってたの?」

 

高校時代の事を俺が懐かしく思っているのを意外に思ったのか、猫又は俺に問う。

 

「3年間全部やったのバラバラだったからなあ…でも1番盛り上がったのはやっぱり3年の時にやったカジノだな。かなり儲けたと思うぞ。」

 

それを聞いた猫又は焦った表情で俺に突っ込む。

 

「いやいやいや!いくら文化祭でも賭け事はダメじゃない⁉︎」

 

「もう5年前だからな、時効だ時効……で?今年の文化祭は2、3日前の夏休み明け直後に終わった筈だが、それとメイド喫茶に何の関係が?」

 

「…明らかに話逸らされたけど、まあいいや〜〜。頼くんもさっき言ってたけどお、この文化祭って出し物で1番稼いだクラスが発表されるじゃん?」

 

おかゆの問い掛けに俺は『だな。』と頷く。

 

「それで今年1番稼いだのがこのクラスだったんだよね〜〜〜。」

 

おかゆはそう言いながら『出し物紹介』のページを開き、指差す。そこにはこれまた派手ながらにも可愛らしいフォントで『メイド喫茶♡』と書かれていた。

 

「…そういう事か。メイド喫茶をやればこの店にも新しい客を呼び込めるし、ついでにお前の店にも客がやって来るかもしれないと。」

 

「まあね〜。で、どう?やってくれる?」

 

俺は敢えて悩んだそぶりを見せる。此奴は却下した所でしつこく食い下がって来る。再三言ってしまったが、猫又おかゆとはそういう人物である。だからこそ、あまり否定的な態度を見せず流そうとしたのだ。

 

「…まあ。うちのバイトに聞いてみねえとな、話はそれからだ。」

 

「おっ、意外に乗り気だね〜〜。じゃあ僕も良い返事期待しちゃおうかな〜〜〜。」

 

おかゆはそんな事を言いながら、向かい側にある自分の店に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がおかゆの提案をポルカに伝えたのは、それから1時間後…丁度ポルカと一緒にレジカウンターで作業をしていた時であった。

 

「メイド喫茶やるって言ったらお前はどう思う?」

 

俺の突然の問い掛けにポルカは『え……』と言いながら硬直する。

 

「どうって言われても……何でそんな事言い出したんですか?」

 

「メイド喫茶やったら良いんじゃないかって知り合いから言われてな…聞いた話だと高校の文化祭で1番稼いだ出し物らしい。」

 

それを聞いたポルカは『ああ、そういう事ですか……。』と納得した表情を浮かべた直後、何か引っ掛かったのか怪訝な顔をする。

 

「知り合いって誰ですか?」

 

「猫又おかゆ……此処の向かいにある『むすび猫又』の1人娘だよ。」

 

その説明を聞いたポルカは『あー…なるほど……。』と少し苦い顔をしながら頷いた。

 

「……知ってんのか?」

 

「………有名ですから。」

 

「……それが悪名じゃないことを祈るよ。」

 

俺たちがそんな事を話していると誰かが扉を開け、呼び鈴が鳴る。俺とポルカが入口の方を見ると、そこにはカウンター越しで見えずらいが何やら小さい水色の物体……少し背伸びして見下ろせばその正体は水宮だった。

 

「ん?………ああ水宮か。どうした?」

 

俺の発言が不服だったのか、水宮は不機嫌な顔をしながらこちらへトコトコと小走りで歩いて来る。

 

「ちょっと頼さん!?なんですか今の間は!?」

 

俺は軽く地雷を踏んだことを後悔しながらも話題を逸らす。

 

「……まあ、気にすんな。で?何の用だ?」

 

「またはぐらかした…まあ良いです、今はそれどころじゃないので。」

 

水宮の発言に俺は『それどころじゃない?』と今さっき水宮があった事を復唱する。

 

「それが…お兄ちゃんが急に変な事を言い出してて、何か知りませんか?」

 

抽象的過ぎる水宮の発言に、俺は詳細な情報を求める。

 

「変な事?なんだそれ?」

 

「急に『1人暮らししたい。』とか言い出して…すぅが全力で止めたんですけど、すぅの話も聞かずに今不動産屋に電話をしてて。」

 

水宮の説明に俺は納得する。というか正爾(まさちか)の性格を知ってる俺からすると遅すぎる気もするが……。

 

「まあ、彼奴も将来を見据え始めたって事だろ。」

 

俺の発言に水宮は『将来?』と疑問符を浮かべる。水宮に情報が伝わっていない事を察した俺は取り敢えず質問をしてみる。

 

「なあ水宮、お前…彼奴に彼女できたの知ってるか?」

 

予想通り初耳だったらしく、水宮は『え!?』と大声で反応しながら俺を見上げる。

 

「『あいつ』ってお兄ちゃんの事ですか!?すぅ何も聞いてないんですけど!?というかどこの誰ですか!?」

 

連続で俺へぶつけられる水宮の驚愕や質問の数々に俺は少し気圧される。

 

「…し、白上フブキって奴だよ。」

 

「白上フブキってあの⁉︎美人でゲームセンスやトーク能力が滅茶苦茶高いっていうあの⁉︎お兄ちゃん、白上神社の看板巫女兼超人気ストリーマーの白上フブキと付き合ってるの⁉︎」

 

「店長それ本当ですか⁉︎」

 

水宮とポルカの口から出て来る怒涛の尋問に俺は『お、おう。多分…そうだぞ。』などと曖昧な声を漏らす。はっきり言って俺は2人の気迫に完全に気圧されていた。

 

「…というか、そんなに有名なのか?ストリーマーって俗に言う配信者だよな?巫女が配信やってんのか?」

 

俺の問いに水宮は頷く。

 

「はい。有名になり始めたのはここ2年ぐらいですね。元々は神社の情報を発信するアカウントだったそうですが、その傍らでフブキさんが趣味として雑談やゲーム実況を始めて…フブキさん自身のルックスも相まって1年ちょっとですぅのフォロワーを越されました。本当に悔しいです。」

 

シュンとした表情を浮かべる水宮に俺は取り敢えず慰めの言葉を掛ける。

 

「まあ…そこはドンマイ。」

 

「ていうか、お兄ちゃんはフブキさんとどこで知り合ったんですか?」

 

俺は水宮の質問に対し『何処か…何処と言われても……。』と言葉を漏らしながら手を顎に当て、考える素振りを見せる。

 

「…少なくとも小学生時代からの付き合いだったらしいぞ。」

 

「すぅ本当に何も聞いてないんですけど……まあ良いです。それよりも頼さん♪夏祭りがある日って暇ですかぁ?」

 

水宮は呆れたような、不満そうな表情を浮かべる。だが、すぐさま表情を明るいものに変え俺に聞いて来る。

 

「夏祭りって二週間後ぐらいにあるやつか?」

 

「はい!もし暇だったら…その、一緒に行きませんか?」

 

水宮の誘いを受け、俺は少し苦い顔をしながらその提案を断った。

 

「……それなら予定が入っててな、悪いが諦めてくれないか?」

 

それを聞いた水宮はとてもショックを受けた顔して俯く。

 

「そっ、そうですか…ごめんなさい、すぅも勝手に盛り上がっちゃって……。」

 

「いや、俺も本当に悪い。こっちの都合で断っちまって……。」

 

「いえ、全然大丈夫ですよ。」

 

だが、水宮は『因みに…』と続ける。そして───

 

「誰と一緒に行くんですか?お祭り。」

 

そう聞いてきた。その目に本来ある筈の光は失われており、目元も暗くなっている。

 

「…気付いてたのか。」

 

「それぐらいはなんとなく分かりますよ〜。」

 

そう言って柄にもなく『ふふっ』と笑う水宮を見た俺は、ポルカに視線を飛ばしてアイコンタクトをとる。

 

(…どうする?)

 

(なんとか誤魔化して下さい!)

 

(…善処するわ。)

 

「やっぱりポルカさんと行くんですかあ?」

 

俺たちの視線に気付いていたのか見事に図星を突いて来る水宮の質問に、俺は少し震えながらも肯首する。

 

「よっ、よく分かったな。」

 

「まあ、2人とも動揺していたので……。」

 

状況からは分かりにくいが明らかに詰みかけている空気を感じた俺は、急いで話題の変更を試みる。

 

「…あっ、そっ、そういえば今度2階のカフェでメイド喫茶をする事になったんだが、お前もやるか?」

 

「メイド喫茶?そうですね……」

 

そう言って水宮は真剣に考え込んだ後、何を閃いたのか目をキラキラと輝かせながら力強く答える。

 

「…やってみたいです!すぅもSNSで宣伝しておきますね!」

 

そう言うと水宮は早速スマホを手に取ってアプリを開く。すると横にいたポルカが話し掛けて来た。

 

「店長、ちょっと気になったんですけど、後何人ぐらい募集するんですか?」

 

そう聞かれ俺は少し考え込み、答える。

 

「…この商店街の治安を加味すれば、後3、4人ぐらい欲しいな。」

 

(ただ衣装代は俺が当然払う事になる、その上給料も払う事になるから全体の出費が痛い……彼奴らにタダ働きしてもうか。)

 

俺がそう決断した直後、水宮が話し掛けて来る。

 

「頼さん、ちはにこの事を話したら『千速もやりたい!』って来たんですけど……良いですか?」

 

水宮の提案を俺は許諾する。

 

「ああ、良いぞ。というか助かる。」

 

その後、水宮にネットで注文するから買いたい衣裳を今日中に選び、その写真をメールで送って欲しいという旨を伝えると、水宮は帰って行った。

それを見送ると俺はポルカの方を向き、ポルカにも同じような質問をする。

 

「…で、お前はどうすんだ?」

 

「どうするって…衣裳ですか?」

 

聞き返して来たポルカに俺は肯首する。すると、ポルカはスマホを立ち上げ調べ物を始めた。暫くの間、ポルカは『う〜ん』と唸り声を上げながら画面をスワイプし続けていたがピンと来る物が見つかったのか、眉をピクリと動かす。

 

「店長…これ、どうですか?」

 

ポルカは返答に困る質問をしながら此方に画面を見せて来る。その画面にはポルカのチョイスとしては珍しい、モノクロカラーのメイド服が表示されていた。

 

「自分が似合うと思うなら良いと思うぞ。」

 

「そうじゃなくて、店長が「その服なら髪を後ろに束ねれば上手い事纏まるだろうしな。」え…あ、はい。分かりました。」

 

俺が質問の答えになっていない返答をした事にポルカは腹を立てたが、それを言う前に俺は軽いアドバイスをする。すると、ポルカは少し困惑しながらも頷いた。

 

「⋯店長はポルカが後ろに髪を束ねてこのメイド服を着た姿を見たいですか?」

 

その問いに俺は素直に答えた。

 

「まあ、見てみたさはあるな。」

 

「じゃあ、これでお願いします。」

 

ポルカの要望を聞き入れた俺は『分かった』と言って頷く。壁掛け時計に目をやると10時を回っていた。

 

「そろそろ2階行くから、レジ頼んだぞ。」

 

「はい、任せて下さい!」

 

俺はそんな言葉を聞き2階のカフェに上がり厨房に入る。ポケットからスマホを取り出し電話を掛けると3コール目でその相手は応答した。

 

『はい。秘密結社HOLOXの女幹部、鷹嶺ルイと申します。』

 

『そっちの幹部と言うかメンバーって、全員女じゃ⋯⋯?』

 

そんな質問を食らった鷹嶺は少しの間黙るが、咳払いをして喋りだす。

 

『⋯まず、お名前をお教え願えますでしょうか?』

 

『あー、そうだったな。赫羽(あかばね)頼、ちょっと頼みがある。』

 

『承知致しました。ご要件の詳細は?』

 

『今度うちのカフェでとあるイベントを開催する事になったんだが、人手が欲しくてな。お前と沙花叉を借りたい。』

 

『成程。そのイベントとやらを開催する日はいつでしょうか?』

 

『5日後を予定してる。来れそうか?』

 

『5日後ですか⋯それだと、沙花叉は難しいかもしれませんね。』

 

『別の依頼でも来てるのか?』

 

『いえ、実は⋯沙花叉が風邪を引きまして⋯』

 

沙花叉が風邪を引くという意外な状況に俺は少し物珍しさを感じていた。

 

『彼奴も風邪引くんだな。』

 

『まあ、色々ありますので⋯私と他の者が向かいましょうか?』

 

鷹嶺の提案に俺は思考する。メイド喫茶というコンセプトの都合上、いろはや角ガキを呼ぶのは気が引ける。博衣を呼ぶのも考えたが何かこう⋯言語化できない嫌な予感がしたので取り敢えず鷹嶺のみを呼ぶことにした。

 

『いや、いい。取り敢えずお前だけ来てくれ。』

 

『承知致しました。ところで、イベントの内容を教えて頂けますでしょうか。』

 

そう聞かれた俺はどう説明すれば良いか分からず、無意味な口の開閉を数回繰り返す。

 

『⋯そのだな、知り合いに提案されて⋯メイド喫茶をやる事にしたんだよ。』

 

鷹嶺は俺が割と覚悟を決めてそれを言った事など露知らず、『そうですか』と淡白に答える。

 

『それで⋯お前に聞きたい⋯というか頼みたい事があるんだが、良いか?』

 

『何でしょうか?』

 

『厨房で料理の手伝って欲しいんだが、頼めるか?』

 

『そういう事でしたか。でしたら食材を用意して頂けるのでしたら全て任せて下さい。』

 

『じゃあ頼む⋯それとメイド衣装についてなんだが⋯⋯。』

 

『それについても問題ありません。いつの依頼かは忘れましたが、全員分ありますので。』

 

『分かった⋯いい忘れたが、お前ら今回タダ働きだからな?』

 

それを聞いた鷹嶺は『え?』と恐らく素であろう割と低い地声を発する。

 

『いやだって⋯そういう契約だろ?』

 

『確かにそうですが⋯今月、結構ピンチでして⋯⋯⋯。』

 

『今月って⋯後2週間弱あるぞ?』

 

『はい。ですので、どうか御慈悲を⋯⋯。』

 

(此奴らの事だ、どうせどうにかなるだろ。)

 

そんな思いもあったが、結局俺は給料を払う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5日後

 

本屋

 

AM:9:00

 

当日ギリギリまでメニュー表の作成や室内の装飾などに大変苦労したが、無事に開店する事ができそうだ。沙花叉の風邪も治ったらしく、全員が本屋に集合した。

 

「結局来たんだな。」

 

「なんでメイド喫茶ぁ?こんな事なら仮病で休めば良かった〜〜」

 

不満そうな顔で愚痴を垂れる沙花叉を俺や鷹嶺が呆れた心持ちで見ていると、俺の横に居たポルカが裾を掴んで来る。

 

「店長、なんであんな奴呼んだんですか!」

 

小声だがはっきりとした口調でポルカは俺に訴える。

 

「人手も要るし、客とのトラブルを回避する為にも必要なんだよ。」

 

「分かりましたよ⋯⋯。」

 

ポルカの口調にはまだ納得していないというのが分かりやすく表されていたが、取り敢えず俺は全員に指示を出す。

 

「後1時間もしたら開店だから、2階のスタッフルームの横にある更衣室で着替えてきてくれ。俺も45分後ぐらいに様子を見に行くから、分かっといてくれ。」

 

各々が『はーい。』などと返事をして、2階に上がって行くのを俺はただ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェ

 

AM9:30

 

「ねえルイ〜wここに中学生居るんですけど〜〜www」

 

各々がメイド服に着替えメニューの確認や調理器具の確認などをしている時、突如として沙花叉が枢さんを煽る声が聞こえた。

 

「はあ〜ッ!?そっちこそすぅと大して身長変わんないくせにッ!」

 

枢さんの言う通り、沙花叉の身長はヒールを履いて漸く枢さんより少し高いぐらいの身長である。

 

「別に〜〜?沙花叉には“これ”がありますから〜〜〜www」

 

そう言いながら沙花叉は自身のたわわに実った2つの果実を両手で持ち上げ、枢さんに見せ付ける。枢さんは当然反応した。

 

「はっ、はぁぁああああッ!?いらねえ脂肪つけやがってッ!ふざけんなッ!」

 

「沙花又の“こ・れ”で〜〜、愛しの店長くんを虜にしちゃおうかな〜〜〜、なんてwww」

 

その発言を聞いた枢さん⋯そしてポルカさんが『お前ぇ⋯⋯。』や『いい加減にしろよぉ⋯⋯。』などと言葉を零す。それを聞いて流石に不味いと思った私は沙花叉に近づき、その頭を小突いた。

 

「ん?ルイどうし⋯イタァッ!⋯ちょっとなにすんの〜〜!?」

 

「相手を挑発するもの体外にして⋯それにあんたはポルカさんへの謝罪も含めて此処に来たんでしょ?」

 

「それはその内謝るってば〜〜www」

 

反省の色を見せずにケラケラと笑う沙花叉の頭を、私はもう1度叩く。そしてポルカさんが居る方へ向かった。

 

「申し訳ございません。先日此処を襲撃した際、一般人である貴女にも手を出してしまった。」

 

「別に怒ってねえよ⋯傷も治ったし。」

 

その態度から明らかに嫌悪されていることを悟った私は、諦めて『そうですか⋯。』と零し枢さんの方を見る。

 

「すうちゃん⋯取り敢えず落ち着こう。うん、そうしよう。ね?」

 

千速さんが枢さんを慰めており取り敢えず心配はなさそうだ。

 

「う、うん。分かったよ⋯ちは。」

 

「確かにすうちゃんはナニがとは言わないけど小さいよ?だけどそれがすうちゃんの魅力だから⋯⋯⋯。」

 

千速さんの発言に枢さんは明らかに不機嫌になり地団駄を踏む。心配はなさそうなんて事は無かったようだ。

 

「ナニが小さいってちはぁぁあああッ!身長か?胸か?それとも全部かぁッ!?」

 

枢さんがそう叫び千速さんの下半身をポコポコと叩いていると1階から声と共に階段を上がる足音が聞こえた。

 

「お前らー、準備できたか?」

 

声の主は頼さんだった。枢さんがそれにいち早く反応し、先程の不機嫌っぷりはどこへ行ったのか『はい!もう上がってきて大丈夫ですよ!』と言いながらルンルン気分で階段付近へ歩いて行く。

 

「頼さん、その⋯似合ってますか?」

 

緊張しているのか、枢さんは少し声を上ずらせながら頼さんに問う。心なしかその身長も少し縮んでいるように見えた。頼さんは少し黙った後、微笑みながら口を開く。

 

「⋯ああ。似合ってると思うぞ。」

 

「本当ですか!?⋯じゃあ可愛いって事ですよね!?」

 

頼さんから賛美の言葉を引き出そうと、枢さんは頷くしかない質問をさらにぶつける。明らかに上機嫌な枢さんの周りにはキラキラとした小さな星々が舞っているようにも見えた。

 

「おう、かわ「店長!ポルカも似合ってますか!?可愛いですか!?」お、おお。だと思うぞ⋯急にどうしたポルカ?」

 

頼さんが枢さんの質問に返答しようとした次の瞬間、ポルカさんがその返答に割り込む。

 

「ちょっと、急に入って来ないで下さい!」

 

「別に〜?ポルカは店長に衣装の感想を言って欲しかったのと、夏祭りの時に着てく浴衣の相談をしたかっただけで、ポルカに遅れを取った誰かさんの事は全く気にしてないからさ〜。」

 

「なんだとー!?そっちは最近までただの客としか見られてなかったクセに!」

 

「はあ〜〜!?別にそんな事、気に⋯気にしてねえからあ!」

 

2人のやり取りはマウントの取り合いから煽り合いに発展する。頼さんは『何睨み合ってんだお前ら、喧嘩すんじゃねえよ。』と言って2人を諌めるが睨み合いは終わらない。

 

「⋯じゃあ頼さん的にはどっちが可愛いんですか!?」

 

枢さんがそう言い出す。それにポルカさんもそれに便乗する。

 

「そうですよ!ポルカたちがこんなに言い合ってるのは店長の所為なんですから店長が結論を出して下さい!」

 

とんでもない責任転嫁の暴論に頼さんも堪らず『え⋯えぇ⋯⋯。』と困惑の声を漏らすが、頼さんは納得できないという顔をしながらも手を口元に当て視線を斜め上へ上げる。

 

「⋯どちらかと言えば⋯⋯⋯いや、何でもない。水宮は自分の髪色と同じ水色とピンクが、白を基調とした衣装の差し色として十分な存在感を発揮していて、水宮自身とも上手く調和している。ポルカはポルカで、大人しい印象を持つモノクロの衣装とポルカ自身の派手な髪色やメイクの対比が互いを引き立て合い、体よく纏まってると思う。どっちもどっち、それで良いだろ?」

 

余りにも具体的な批評に2人は言葉を詰まらせながらも反応を示す。

 

「いや⋯あの、そんな具体的に言う必要は⋯⋯確かに嬉しいですよ!?けど、すぅたちが求めてるのはそういう評価じゃ⋯⋯⋯。」

 

「そっ、そうですよ!⋯どっちが可愛いか聞いてるのに『どっちもどっち』ってなんですか!せめてどっちも可愛いって言って下さい!」

 

その要求に対し頼さんは『はいはい。』と言って軽く躱し『もうそろそろ開店だから準備しろ』と私たち全員にそれぞれ指示を飛ばす。当然厨房を任された私はキッチンに入り、カウンターからカフェ全体を見渡しながら考え事をする。

 

2人から『どちらが可愛いか』そう聞かれ頼さんは視線を斜め上に上げた。その顔は真剣に考えているようだった。私は目が良い。鳥⋯さらに鷹の獣人だからだ。そしてそんな私の目は『どちらかと言えば⋯』そう頼さんが零した時、一瞬だけ視線が落ちたように見えた。そしてその視線は、どちらかと言えばポルカさんに注がれたようにも感じたが『どちらにせよ、確かめる必要はない。』私はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

それから2時間が経ち、カフェ全体には活気が満ちていた。

 

開店前は『本当に人が来るのか』という一抹の不安が心の何処かで騒いでいたが、そんな事は杞憂だったようでカフェは満席。全員が接客や調理に精を出していた。

 

「ルイー、オムライスとメロンソーダ〜。」

 

私はそう言った沙花叉を一瞬見て頷く。

 

「ルイさん、特製パスタ1つお願いします。」

 

今度は枢さんがオーダーをくれたので目を合わせ明るく返す。

 

「はーい、分かりました。」

 

「えー、なんか態度違くなーい?」

 

それを見た沙花叉が文句を垂れる⋯いつもの流れだ。

 

「はいはい⋯分かったから、ちゃんと周りに愛想振り撒きなさいよ。」

 

「ちぇ、はいはーい。」

 

沙花叉は悪態を吐きながらも振り返り、再び注文を取りにテーブル席へ向かって行った。こうやって私が沙花又を嗜めるのも、毎度のことだ。

 

「⋯なんか、メイド喫茶と言うより⋯居酒屋でバイトしてる気分ですね。」

 

横の流しで皿洗いをしている千速さんが放った、そんな言葉に私は苦笑する。ふと、顔を上げて店内を見回すと、沙花叉が接客している右横の席で少し困ったような、拒絶反応を示すような顔で客と応対するポルカさんに目が留まった。

 

 

 

 

「もっと近づいてそれやってよ、ね?ね?」

 

「あの⋯その、これ以上はちょっと⋯⋯⋯。」

 

ポルカさんはそれを拒否するが客の男はしつこく食い下がる。そして『1回だけだから』などと言ってポルカさんの手首を掴もうと右手を動かした。が、男がポルカさんの手首を掴むよりも先に、いつの間にか近くに来ていた沙花叉がその男の手首を掴む。そして―――

 

「おっさ〜ん、それセクハラだからさ〜やめてくんねwww」

男の腕を高らかに上げ、わざとらしい大声で注意をした。沙花叉らは当然の如く周りの注目を浴び、カフェ全体を静寂が包み込む。男は不味いと言わんばかりに慌て、顔を真っ赤にして沙花叉の言葉を否定する。

 

「は⋯は?な、な、何を⋯何を言ってるんだ!ぼ、僕はただちょっとしたお願いを⋯⋯」

 

「はあ?お願い?つーかそんな女の子に飢えてんだったらキャバとか風俗行けよ⋯ゴミ。」

 

聞くに堪えない言い訳を並べる男にいい加減キレた沙花叉は、顔を男の眼前まで近づける。隠す気のない『殺る』目で脅された男の顔はみるみる見る見るうちに赤ではなく青白く染まっていき、脱力してソファに尻餅をついた。

 

「そうそうwwwそうやって大人し〜く食べててね〜〜。」

 

沙花叉は男にそう言った後、ポルカさんの方を向いて何か言葉を囁く。ポルカさんはそれを了承したと言うように頷くと、先程まで沙花叉が接客をしていた席の側に沙花叉と一緒に立つ。

 

「ごめんね〜〜急にどっか行っちゃって〜。」

 

その席に座っていた少し太めの男は、それを聞くと沙花叉の方を向いてにこやかに微笑んだ。

 

「別に気にしてないよ〜クロヱちゃん♡」

 

「ありがとね〜wじゃあちょっとサービスしちゃおうかな〜。えっと⋯お兄さん?」

 

沙花叉に『お兄さん』と呼ばれた男は口を大きく分けて笑い声を上げる。

 

「そこは普通、御主人様じゃないw?良いよ良いよ、おじさんで。」

 

「やっぱそうだよね〜〜。じゃあこっちの子ともっと美味しくなる呪文掛けてあげるから、一杯頼んでね〜〜〜。」

 

「えっ!?ぽ、ポルカもやるんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫〜、沙花叉も一緒にやってあげるからさ〜〜。」

 

「おっ、じゃあおじさんもダイエット中だけど、2人の可愛さに免じていっぱい注文しちゃおうかな〜〜。」

 

 

 

 

「⋯⋯大丈夫そうね。」

 

一連の流れを見た私は呟く。

 

「そうですね。あっ、ルイさんこっち食器洗い一先ず終わりましたよ。」

 

そう言いながら横で背伸びをする千速さんに、私は『ご苦労様です。』と労いの言葉を掛け、少し休憩することを勧める。

 

「裏で少し休んできても良いですよ。」

 

「えっ、いやいや大丈夫ですって⋯それにルイさんも休憩してないんですし⋯⋯⋯。」

 

「私は大丈夫よ。基本的に昼夜問わず活動してるから。」

 

私がそう言っても千速さんは『だったら千速だってまだ頑張れます!』と厨房で働き続けた。私は感心と呆れが混じった溜め息を吐く。沙花叉の方を見ると、ポルカさんと共にスタッフルームに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩という名目でポルカはクロヱさんに連れられ、スタッフルームに入る。

 

「あの⋯ありがとうございます。助けてくれて。」

 

それを聞いたクロヱさんはニヤッと笑みを浮かべて答える。

 

「別に気にしなくて良いってば〜〜、沙花叉もこんな事やらされて結構ストレスだったしぃ。あ〜後、前ここ来た時に攻撃してごめんね〜?」

 

助けてもらっても尚、ポルカの心のどこかにクロヱさんを許せないという気持ちがある。

 

「⋯まだ許してないですからね。」

 

「別良いじゃんか〜〜、店長くんとの距離も縮まったみたいだしぃ?」

 

クロヱさんのその言葉にポルカはあからさまに反応してしまう。

 

「なっ、なんでそれを⋯!」

 

「分っかりやすいよ〜www恋する乙女ってのは⋯で?いつ告白すんの?」

 

ポルカは俯きほぼ無言と変わらない声量で、クロヱさんの問いに答える。

 

「1週間後にある夏祭りで⋯⋯。」

 

ポルカの答えにクロヱさんは『ふ〜ん』と興味を持っているのか持っていないのか判断がつかない反応を示す。

 

「その様子だと結局日和って何もできなさそうだけど〜〜?」

 

「うるせえなあ!」

 

ポルカは少し熱くなってしまい、敬語が抜ける。

 

「あ、すいません。」

 

「⋯それがアンタの素ならそれで良いんじゃない?」

 

「いえ、助けてくれた年上の人にタメ口はちょっと⋯⋯。」

 

ポルカがそう言うとクロヱさんはつまらなさそうな顔をする。

 

「ま、いいや。それじゃあ、迷えるポルカに沙花叉が告白のアドバイスと喝を入れてあげましょう!」

 

「え?」

 

クロヱさんの発現にポルカは素っ頓狂な声を上げる。

 

「まず1つ、展望を掲げるのは、悪い事じゃない!2つ、前に進むのも、怖い事じゃない!そして3つ!目を見て真っ直ぐと伝えれば、きっと想いは届く⋯この3つを忘れないように!」

 

ポルカは堂々とそんな事を言うクロヱさんをただ呆然と眺めていた。

 

「⋯じゃ、沙花叉先に行ってるから〜〜。あんまサボんないでね〜〜www」

 

そう言い残し扉を開けてカフェに戻って行くクロヱさんの背中が、ポルカにはとても大きく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM0:30

 

俺はフブキを連れて本屋へ向かう。『本日限定!メイド喫茶♡』などと書かれている立て看板を横目に本屋の扉を開け、中に入る。頭上⋯というより2階から騒がしい大勢の気配を感じながらも、真正面のカウンターを見据える。視線の先には椅子に深く腰掛け、天井をぼーっと見上げる頼が居た。

 

「よう、頼。」

 

「頼君、来ましたよ〜。」

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

2人揃って呼び掛けるが、反応は無い。俺は1度振り向きフブキと顔を見合わせる。

 

「疲れてるんですかねえ?」

 

「さあ⋯?取り敢えず近づけば気付くだろ。」

 

俺は再び前を向くと、カウンターに向かって歩き出す。頼の目の前に立つともう1度声を掛けた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ん?あ、ああ。お前ら⋯来てたのか?」

 

俺たちの存在に気付いても尚、どこか上の空の様な反応を示す頼に俺は再三問い掛ける。

 

「質問の答えになってねえぞ⋯本当に大丈夫か?お前、明らかに勘鈍っただろ。」

 

それを聞いた頼は頬杖を突きながら通路の奥に視線を飛ばす。

 

「⋯確かになぁ。勘が鈍った⋯というよりこれあれだな、未来が讀めなくなってる。」

 

それを聞いた俺は『はあ?』と声を上げる。

 

「『未来が讀めなくなってる』って、いつからだ?」

 

「⋯恐らく、俺たちが幽世から帰って来た辺りだろうな。」

 

俺たちが話していると、フブキが『あのぉ⋯』と話に参加する。

 

「『未来が讀めなくなってる』って何のことですか?」

 

フブキを置いてけぼりにしていた事に気付いた頼は『あ〜、えっとな〜〜』と言いながら説明をする。

 

「俺は色々あって少し先の未来が讀めるんだよ。まあ、本当に少し先だけどな。」

 

「へ〜、凄いですねえ。なんで讀めなくなっちゃったんでしょうか?」

 

フブキの何となくの問いに俺は軽く返す。

 

「それが分かったら苦労しないんだよなあ。」

 

これ以上考えても無駄だと感じた俺は、頼にそろそろ2階へ上がる事を伝える。

 

「んじゃ、そろそろ2階向かうわ。」

 

「おう、まあゆっくりしていってくれ。」

 

頼に背を向け出入り口の横にある螺旋階段を上り、俺たちは2階へ向かう。ふと、カウンターに目をやると、頼がこちらに軽く手を振っていた。

 

 

 

 

 

2階に上がると、中々メルヘンな内装に居心地の悪さを覚える。元々このカフェにモダンで渋い印象を持っていたからか、それを余計に感じる。サイバーピンク系というものだろうか?非日常感を感じられて面白いものかも知れないが、コンセプトを考えるとフブキと共に来るのは場違いだったかも知れない。

 

横に居るフブキの方を見ると少しソワソワとしていた。緊張か気恥ずかしさかは分からないが、俺と同じ様な心持ちなのだろう。

 

少しその場で辺りを見回していると、胸辺りに盆を抱えた千速がこちらにやって来る。

 

「おっ、お帰りなさいませ、御主人様ッ⋯www」

 

俺がここに来たのがツボに嵌ったのか、千速は『御主人様』辺りで吹き出し、今も尚俯きながら肩を震わせている。

 

「笑うなよ、こっちが困るから。」

 

「すっ、すいません⋯wwwまっ、まさか来るとは⋯www」

 

その後も千速の笑いが収まることはなく『こちらへどうぞ⋯www』などと言われ、窓際のテーブル席に案内された。

 

俺はフブキと向かい合う様に座り、出されたお冷を1口飲む。すると、同様に出されたお冷をじっと見つめていたフブキが話題を切り出す。

 

「確か⋯『ちはちゃん』でしたっけ?」

 

千速ではなく『ちはちゃん』とフブキが言ったのはフブキ自身、千速との面識がなく名前の手掛かりが千速の衣装にあしらわれていた『ちはちゃん♡』という名札しかなかった為であろう。

 

「ああ、千速の事か?」

 

「そう、その子です⋯仲良いんですねえ。」

 

次の瞬間、このテーブル席のみに謎の重力を感じる。

 

「ああ⋯妹の友人だからな、面識ぐらいはある。ただそんだけ、別にお前より好きな女なんてこの世に居ねえよ。心配すんな。」

 

俺がそう言うと、フブキは少し目を逸らしながらお冷に手を伸ばす。

 

「それもそうですねえ⋯ごめん。白上、意地悪な質問をしちゃいました。」

 

フブキは敬語を外し、俺に謝罪をしてくる。そんなフブキを見ていると、俺の頭の中に黒い提案が浮かぶ。

 

「別に気にしてねえよ。ただ⋯浮気を疑われたのは腑に落ちねえなあ?」

 

俺はニヤリと微笑みながらそんな事を言う。それを聞いたフブキは顔を真っ赤にして、恐る恐る聞いて来る。

 

「なっ、何をすれば//?」

 

俺はできるだけ平然と、平静を保ったまま告げる。

 

「前と同じ様にデート行こうぜ。ただ、今回は夜の街をだ。俺がどれだけお前を愛しているか、その身体に叩き込んでやる。」

 

「はっ、はひ⋯⋯//」

 

フブキは耳を垂らしながら麻酔を打ち込まれた小動物のように力なく答える。だが、フブキは突然耳をピンと立たせ辺りをキョロキョロと見回す。

 

「ん?どうした?」

 

「どこからか嫌がると言うか、助けを求める声が⋯⋯。」

 

そう言った後も、フブキは辺りを見回し続ける。通路に身を乗り出すと『⋯あッ!あの子です。』と言いながら1番奥に居る店員を指さした。その店員をよく見るとテーブル席から伸びた手に下半身を弄られており、その顔は苦悶に満ちた今にも泣き出しそうな表情をしている。

 

「あの野郎ッ⋯⋯!」

 

俺は立ち上がってその客をぶん殴ろうとでも考えていた。無理もない、なぜならそのセクハラを受けている店員は枢だったのだから。

 

だが、俺がそう考え立ち上がる直前、銀髪の店員がその客の手首を掴み高らかに掲げる。

 

「この人、未成年に手ぇ出そうとするロリコンで〜〜〜す。」

 

自信満々にそう言い放つ銀髪の店員。呆気にとられるが、それと同時に自身の熱が冷めるのを感じる。俺は『大丈夫そうだな』などと安堵の声を漏らしソファに座り直すとフブキに声を掛けた。

 

「⋯何か注文するか。」

 

フブキはそれに賛同し、テーブルの端に置かれているメニュースタンドからメニュー表を手に取って開く。

 

「そうですねえ⋯白上は定番?のオムライスにでもしましょうか。」

 

フブキに『はい次、どうぞ。』と言われメニュー表を渡される。

 

「おう、悪い。俺は⋯まあパスタ⋯いや無難にカレーライスの方が良いな。」

 

「ひと口下さい。」

 

「⋯トレードだ。」

 

そんな事を言うと俺は店員を呼ぶ。偶然にも接客に来たのは先程枢を助けてくれた銀髪の店員だった。

 

「あれぇ?カップルで来るなんて冷やかしですか〜www」

 

「助けてやってくれてありがとな。えっと⋯クロヱ。」

 

俺は銀髪の店員の胸元にあしらわれていた名札を頼りに感謝を告げる。そんなチグハグな返答を聞いたクロヱは『ぽえ?』と言いながら首を傾げる。

 

「俺の妹なんだよ、あの水色髪のちっちゃいの。」

 

それを聞いたクロヱは納得したような表情を浮かべ『あ〜、そういう事ね〜〜』と言って続ける。

 

「良いの良いの、沙花叉より未熟で幼い子がああいう奴の被害に合うのは沙花叉も腹立つしさ〜〜。」

 

「一応言っとくが、アイツは未成年じゃねえぞ?」

 

「分かってるけどさ〜。ぶっちゃけあの容姿じゃ小学生って言われても信じるくな〜いwww?」

 

そう言いながらケラケラと笑うクロヱに俺もつられて笑みを零す。

 

「まあ、それは俺も思ってるよ。」

 

「⋯正爾君、そろそろ注文しませんかあ?」

 

そう言ってフブキは俺とクロヱとの会話を中断させようとする。その発言にクロヱはいち早く反応した。

 

「ごめんってば〜www愛しの彼クンと仲良〜くしちゃってさあwww」

 

フブキの事を分っかりやすく煽るクロヱをいい加減俺も止めようとする。だが、その直前に『あっ、愛しの彼クンと言えばさ〜〜』と、クロヱは又もや何かを言い始めた。

 

「枢も大変だね〜〜。あんなに分かりやすく店長くんの事好き好き言ってるのにさ、あれほぼ脈ナシでしょ?それに店長くんはどっちかと言えばポルカの方に気があるみたいだしさ〜〜。」

 

『頼の奴がポルカに気がある』なんて言う初耳の情報⋯と言うよりは今まで気付く事すら無かった新事実に俺はクロヱを問い質す。

 

「どうしてそうなる?」

 

「いや⋯ね?店長くんの視線が何とな〜くポルカに向いてることが多い気がしてさ〜〜。それに今度やる夏祭り?の時に『絶対告白する!』なんて息巻いてたから、嫌でも意識する羽目になると思うんだよね〜〜〜。」

 

それを聞いた俺は頼の一風変わった行動に妙な納得を覚えてしまう。そして枢が頼を夏祭りに誘った日、何故か不機嫌な状態で帰って来た事に合点が行く。ポルカに先を越されたか何かで断られてしまったのだ。

 

「それでさ〜、どうすんの〜www?ポルカの告白を店長くんが了承したら枢、結構可哀想な事になると思うんだけど〜〜〜www?」

 

クロヱからそんな事を言われるが、俺は飽くまで平然と返す。

 

「俺はどうもしねえ。枢の事は俺が1番分かってる。それに、例え頼の奴がポルカの告白を了承したとしても、枢は諦めねえよ。まあ、頼が告白を了承するとは思えねえけどな。」

 

「え〜?沙花叉は上手く行くと思うけどな〜〜、なにせ沙花叉が直々にアドバイスと喝を入れてやりましたから〜〜〜。」

 

俺とクロヱがそんなやり取りをする中、フブキはジッ〜と俺を見つめ続けていた。その目は一般的にジト目と言われるようなものだったが、俺はその視線から枢の圧とはまた違う、鈍く重いナニかを感じていた。俺はその視線に気付くとフブキの方に向き直る。

 

「⋯そろそろ注文するか。」

 

「ごっ、ご注文をお伺いします〜〜⋯⋯。」

 

クロヱもその視線に気付いたのか、空気を変えるように無理矢理明るくした声で聞いてくる。

 

「⋯正爾君。」

 

フブキの呼び掛けに俺は食い気味に『はい⋯。』と返す。

 

「今度のデート、白上がいーっぱい可愛がってあげるので⋯くれぐれも抵抗しないで下さいね⋯♡」

 

その時、俺は察した。『フブキには勝てない』と⋯よくよく考えれば当たり前だ。フブキにとって俺は途轍もない執念で自分を取り戻しに来た、推定初恋の男なのだから⋯⋯⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM1:30

 

メイド喫茶が開店してからというもの俺は一切何もせず、ただ呆けていた。前日までの装飾準備などでの疲労もあるだろうが、それでも異常なぐらい俺は疲れていた。その上、正爾の指摘で気付いたが未来を讀む事もできなくなっている⋯単に疲労で集中できていないだけならまだ安心なのだが⋯⋯何故こうなってしまったのか。

 

心当たりは在った。

 

「“産霊霊験(むすびれいげん)”か⋯⋯⋯。」

 

俺がそう呟いた直後、机の上に置いておいたスマホが振動する。スマホを手に取り画面を見ると、そこには『鷹嶺ルイ』と表示されていた。

 

鷹嶺に『何かトラブルがあったら電話で伝えろ』と言っていた事を思い出す。滅多な事がない限り、沙花叉1人居れば暴漢も片付くと思っていた俺は慌てて応答ボタンをタップした。

 

「どうした?⋯何かあったか?」

 

少し早口で俺が電話越しにそう聞くと、鷹嶺は少し悩んでいるような声色で答えた。

 

「⋯その、ちょっとした迷惑客が来ていまして⋯対応に困っているので、手伝って頂けないでしょうか?」

 

それを聞いた俺は鷹嶺に『分かった、向かう。』と返して電話を切る。席を立ち上がり玄関付近まで歩くとすぐ横にある階段を上って2階に上がった。

 

 

 

 

 

2階へ上がり店内を見回すと、柄にもなく困惑の表情を浮かべているクロヱと目が合う。クロヱは俺を見ると『あ⋯えっと、あれ〜⋯だよ〜?』と苦笑いを浮かべながら1つのテーブル席を指差す。その席の側には輪堂が立って接客をしているが、先程の沙花叉と同じく苦笑いを浮かべながら『そっ、そうですね〜〜』などと必死にリアクションをしていた。その席に例の迷惑客が居ることを悟った俺は、意識して顔を少し顰めながら席に近づく。

 

「やはりメイド喫茶と言えばといえば王道の御主人様とももえキュンが私を狂わせるあー最高過ぎるwメイド服の美女にご奉仕されるのがたまらな〜い秋葉以外でもしかもこの街で感じられるとはしかもショートスカートしかもあのガーターベルトの食い込み具合いからしてあの太ももは拙者の計算ではワンタッチ最低でも1000千万ドル店主も分かってますね是非拙者にも指南をして欲しいですwそもそもメイド喫茶とは⋯」

 

「え⋯⋯は?んん?え?ん?は?ちょま⋯え?あ?ん?⋯⋯⋯え?」

 

俺はその迷惑客の顔を見て絶句する⋯というより訳の分からない状況に脳が理解を拒み、不明瞭な疑問符が口からボトボトと零れ落ちる。

 

それもその筈、その席に座り沙花叉や鷹嶺と言った恐らくこのカフェの店員全員を困らせていたのは、それこそ沙花叉や鷹嶺のボス⋯ラプラス・ダークネスこと角ガキだったのだから。

 

「おっw、らっ、頼氏も来たんですかwこっ、ここのオムライスwとっ、とてもオススメですよw」

 

俺は『子供っぽいというかただの子供』という角ガキの印象が、よく分からない黒い何かで塗り潰されて行くのを感じる。

 

「お前⋯何やってんの?どうした、その丸メガネ?⋯⋯おい沙花叉、俺はこの角ガキをどうすりゃ良いんだ?」

 

綺麗な川で水遊びをしてると思ったら、その川がガンジス川から分岐したものだと知ったら誰だって焦るだろう。正常な判断などできる筈もない。そんな俺は不本意ながらも沙花叉に助けを乞う。

 

「え〜っとね⋯まあ取り敢えず1階に連れてけば良いんじゃない?」

 

「⋯分かった。」

 

俺は沙花叉の提案を呑むと角ガキの首根っこを掴み軽く持ち上げる。

 

「あっ!おいちょっと待て!吾輩まだ『特性ドリンク』ひと口も飲んでなーいッ!」

 

「ああ、それ沙花叉たちが飲んどくから心配しないでね〜www」

 

「おい沙花叉ふざけんな!」

 

「迷惑だから静かにしろ!」

 

俺は暴れる角ガキを無理矢理1階に連れて行く。個人的にも色々と話を聞きたかったので取り敢えずカウンターにもう1つ椅子を用意して其処に角ガキを座らせた。

 

「おい!頼てめえ何すんだよッ!」

 

角ガキは掛けていた丸メガネをカウンターテーブルに投げ捨てながら強い口調で指摘してくる。

 

「お前こそ何やってんだよ⋯なんか余計に疲れた。」

 

俺はそう言いながら自分用の椅子にドスンッと腰を下ろす。

 

「吾輩はただそういう趣味なだけだよ⋯何か悪いか?」

 

角ガキの当てつけ感の強い質問に俺は少し言葉を詰まらせる。

 

「⋯少なくとも自分の部下が仕事してる所で“アレ”をやんのは悪いと思う。」

 

「この質問で『悪い』って言って来る奴初めて見たぞ。」

 

「俺も初めて言ったよ。」

 

角ガキは俺の返答を聞くと『はあ⋯』と溜め息を吐きながら椅子に座り直す。

 

「仕方ねえだろ⋯いつものテンションであいつらの様子見に行ったら、絶対沙花叉の奴がバカにして来んだよ。」

 

そんな事を言う角ガキの横顔は意外にも大人っぽいものだった。俺は角ガキへずっと気になっていたことを問う。

 

「いろはって新入りか?」

 

それを聞いた角ガキはノータイムで『いや⋯』と答える。

 

「あいつと会ったのは確か50年ぐらい前だし、1番の新入りは沙花叉だぞ。」

 

再び俺は『⋯じゃあ2番目か?』と質問する。それに対し角ガキは『そうなるな』と淡白に答えた。

 

「そうか⋯。」

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

少しの間沈黙が続いたが、俺は1番気になっている疑問を投げかける。

 

「⋯なんで厩戸烏を潰そうなんて考えてる?」

 

その問いへの返答も、飽くまで淡白なものだった。

 

「大した理由はないぞ⋯誰かの差し金で誰かが不幸になるのは腹が立つってだけだ⋯まあ、沙花叉の奴はちょっと違うけどな⋯⋯。」

 

『沙花叉の奴はちょっと違う』それを聞いた俺は質問を重ねる。

 

「沙花叉は少し違うってどういう事だ?」

 

そう言われると角ガキは天井に視線を移し答える。

 

「⋯我輩たちが沙花叉と出会ったのは、沙花叉が5、6歳の時⋯場所はここから遠く離れた国の国境沿いのとある街だ。」

 

「⋯なんでそんな幼少期に出会ったんだ?」

 

「我輩たちがその時にアジトとして使ってた部屋の大家が沙花叉の両親だったんだよ。」

 

秘密結社のアジトが賃貸住宅な事に呆れつつも、俺は耳を傾け続ける。

 

「で、吾輩たちが数日遠出した時にその街が厩戸烏の爆撃を受けて壊滅した。」

 

突然の急展開に俺はそれが起こった訳を聞く。

 

「⋯なんでそんな事が起きた?」

 

「言っただろ、『国境沿いの街』だって⋯自分の国でそんな場所に位置している街が爆撃を受けたとしたら、お前は誰の仕業だと思う?」

 

俺は乾いた溜め息を漏らしながら呟く。

 

「隣国か⋯。」

 

「そういう事だな。その数少ない生き残りが沙花叉だ。」

 

厩戸烏とは世界征服を目論む組織⋯国家間での摩擦を増やし戦争に持ち込ませるなんて言う工作もお手の物だろう。

 

予想もしていなかった壮絶な過去だが、俺は純粋に疑問に思った事を質問する。

 

「⋯よく生きてたな。いや、身体能力が高いのは元から分かってはいたけどよ。」

 

「まあな⋯沙花叉は倒壊した瓦礫の下敷きになってたんだが、その瓦礫との間に沙花叉の両親が2人揃って挟まって死んでたんだよ。」

 

脳裏に聞かされた情景が浮かぶ。俺はただ『そうか⋯そうだったのか⋯⋯』と返すことしかできなかった。

 

「親戚の居場所も分からねえから吾輩たちが引き取る事にしたんだが、本当に苦労したぞ。沙花叉の奴、それがトラウマで寝る時に布団被らねえんだよ。その所為で時々風邪引くしな。」

 

「⋯お前が今日来たのは、沙花叉の身を案じてか?」

 

「⋯そうなるな。」

 

それを聞いて俺は、自身が微笑んだのを感じる。それを見た角ガキは訝しんだ目をしながら『⋯⋯悪いか?』と聞いて来た。

 

「⋯いや、大切なんだなって⋯そう思っただけだ。」

 

「⋯当たり前だろ。吾輩たちにとって沙花叉は、どれだけ成長しても、いつまで経っても子供だ。あんな風に振る舞ってるけどな、沙花叉は自分よりも弱かったり幼かったりする奴に対しては吾輩たちの中で1番優しいと同時に、我輩たちの中で1番厩戸烏を憎んでんだ。だから吾輩たちの話を聞かずにこの本屋を襲撃したし、それに1番共感していたこよりも同行した⋯吾輩の勝手な憶測だけどな、あいつは少し焦ってたんだよ。」

 

そんな事を言う角ガキは何処か遠い目をしていた。

 

「⋯⋯お前⋯特異だよな。」

 

角ガキの突然の物言いに俺は怪訝そうな目をしながら『はあ?』と返す。

 

「⋯いきなり何だよ。」

 

「いやただ⋯いろはから聞いたんだよ。お前の固有魔術『天変地異』について⋯。」

 

角ガキはそう言うが俺には何の説明にもなっていない。何処か噛み合わない受け答えに俺は少し腹を立てていた。

 

「俺の固有魔術が何だ?」

 

「いろはからは『汎ゆる現象を再現できる』なんて言われたが、実際は汎ゆる属性の冠絶奥義を発動できるんだろ?」

 

いろはにも伝えていない事を見抜いた角ガキに俺は『⋯そうだな?』などと歯切れの悪い反応を示す。

 

「⋯だったら何だ?」

 

「だからそれが特異だって言ってんだよ。本来固有魔法や固有魔術は“属性の範疇に収まらない技”、もしくは“従来の技と比類しない威力を発揮する技”がそれに分類される。後者の場合、その条件から使える技のレパートリーが1つの属性に絞られる。そして使用者本人が最も得意としている属性というのが基本だ。にも関わらず、お前のそれは多種多様な属性の技を放つ。それはお前が属性に関係なく、汎ゆる魔術学に精通している事を意味する。吾輩だって永遠とも言える時間を生きてきたが、お前みたいな奴は初めて見た。」

 

角ガキは一通り言い終えると身体の向きを変えて俺を真っ直ぐ見る。

 

「⋯もう1度聞きたい。吾輩たちと一緒に厩戸烏を潰すのを手伝ってくれないか?」

 

角ガキの言葉に俺は数秒黙り、断る言い訳を考える。

 

「⋯お前も十分焦ってるじゃねえか。」

 

それを聞いた角ガキは視線を逸らす。その姿は明らかに動揺していた。

 

「な、何言ってる。吾輩が焦る?吾輩には時間なんてまだ⋯⋯。」

 

角ガキの言い訳を俺は見逃さなかった。

 

「お前にあっても、他の連中にはねえだろ?沙花叉とかな。」

 

角ガキは俯き黙り込む。

 

「これは俺の勝手な持論だがな⋯魔法や魔術を使う人間は、死相が見えてるも同然だ。今が健康でも、些細な事が発端となって突然衰弱死する事だってある。」

 

角ガキは勢いよく顔を上げてこちらをギロリと睨む。

 

「だったら力を貸せ!そこまで分かってんなら、沙花叉の気持ちだって分かるだろッ!」

 

「⋯悪いが、俺は何処まで行ってもただの本屋だ。それに俺には世界なんて言う大層な規模じゃなくて、これぐらいの商店街や街を守る方が性に合ってんだよ。」

 

端から見れば酷い人間だろう。世界中に苦しんでいる人間が居て、力を持っているにも関わらず、日常を優先しようとしているのだから。

 

それに、言い訳がましいかもしれないが俺は正爾と闘い⋯そして敗れた。できる事なら認めたくないが、それ以来自分の力に限界を感じているのもある。

 

「そんなにこの本屋が大切か?」

 

角ガキの問いに俺は『勿論だ。』と力強く答える。

 

「祖父から受け継いだ大切なものだ⋯それに俺は、ただ生きるだけじゃ何も残せないからな。」

 

それを聞いた角ガキは『そうか⋯』と呟く。その後立ち上がって財布を取り出し、中身を漁る。

 

「はいこれ。いくらか忘れたから取り敢えず2000円出しとくぞ。」

 

「別に要らねえよ。話聞かせて貰ったしな、俺の奢りだ。」

 

それを聞いた角ガキは『⋯じゃあ帰るわ』と言って本屋を出て行く。

 

その後は特段大きな騒ぎもなく、少し特殊な1日は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後

 

PM5:20

 

ポルカは少し焦り気味で歩いていた⋯目的地は頼さんが待っている本屋。着慣れない浴衣に袖を通した時から心臓はうるさく暴れており、その心臓に玄関の扉を開けるのを邪魔された所為で予定時間より遅れてしまったのだ。そんな心臓を落ち着かせる為にも沙花叉さんから言われた言葉を反芻する。

 

(『展望を掲げるのは、悪い事じゃない。前に進むのは、怖い事じゃない。目を見て真っ直ぐと伝えれば、きっと想いは届く』)

 

色々あったけど沙花叉さんには感謝している。メイド喫茶の時にポルカを助けて気遣ってくれた。それにポルカの背中を押してくれた。『それにしっかりと応えなくてはいけない』そんな使命感すらもポルカを支えてくれる。迷いはない。頼さんがどう答えようが⋯いや、絶対に頼さんを頷かせてみせる。

 

ポルカはそんな決意を胸に歩く。下駄が地面を小突き、少し不規則な音を奏で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本屋

 

PM5:15

 

いつもより早めに2階のカフェを片付け、いつも通り1階のカウンターに置いてある椅子に座る。ポルカが来るまで暇だったので適当にスマホを弄っていると正爾から連絡が入る。

 

『明日暇か?』

 

それを見た俺は、明日が定休日だということを思い出す。

 

『別に用事もねえけど』

 

『じゃあフブキと3人でショッピングモールにあるゲーセン行こうぜ』

 

その誘いに俺は無粋かもしれないが質問をする。

 

『⋯2人で行けば良いんじゃねえか?」

 

『フブキが3人で遊びたいって言ってんだよ。』

 

それを見た俺は納得する。確かに3人で遊んだのはあの1回きりだ。

 

『分かった。何時集合だ?』

 

その1文を送ったと同時に扉が開かれる。そこには朱色を基調とした浴衣を身に纏うポルカが立っていた。俺は立ち上がり玄関に向かう。

 

「店長⋯その、ポルカこういうの着るの初めてで⋯似合ってますか?」

 

ポルカのその問いに俺は素直に答えた。

 

「ああ。似合ってるし、可愛いと思うぞ。」

 

俺がそう言うと、ポルカは顔を赤色に染める。

 

「⋯行くか?」

 

「そっ、そうですね⋯」

 

俺たちは本屋を出ると肩を並べて歩いて行く。ふと、俺はポルカにあることを問う。

 

「メイド喫茶⋯楽しかったか?」

 

「⋯はい。大変でしたし、嫌な事してくるお客さんも居ましたけど⋯沙花叉さんたちが助けてくれたので、楽しかったです。」

 

それを聞いて俺は安堵する。正爾に聞いたところ、水宮も沙花叉に助けられていたそうだ。沙花叉を呼んで正解だったと、個人的には思う。

 

「そうか⋯良かったよ。」

 

すると、ポルカが少しモジモジしながら聞いて来る。

 

「店長⋯手、繋いでも良いですか?」

 

「⋯別に良いぞ?」

 

特に断る理由もないので了承してポルカの左手を握る。ポルカの手はかなりの熱気を帯びていた。

 

「店長の手⋯暖かいですね。」

 

「お前程じゃないと思うけどな?」

 

それを聞いたポルカは驚いたような顔をする。

 

「え⋯本当ですか!?」

 

「まあ⋯熱疑うぐらいには熱いぞ。」

 

俺がそう言った途端、ポルカは『あ〜〜』と納得したような声を上げる。

 

「いつもの事ですよ。ポルカ平熱高いから⋯病院でも初中後止められるんですよね〜、本当に困っちゃいますよ。こういう所だけ獣人の特性が反映されるのは。」

 

ポルカの発言に俺は何か引っかかりを感じる。

 

「こういう所だけ?てっきりお前は、獣人の形質が強いと思ってたんだが⋯⋯。」

 

俺の問いにポルカは少し俯いて答える。

 

「⋯よく言われますよ。こんな立派な耳とか尻尾生やしてるのに、運動も魔法学もからっきしで⋯⋯変だと思っちゃいますよね?」

 

今度は逆にポルカから質問をされ、俺は黙り込む。ポルカはそんな俺を見て『別に良いですよ。』と言い、理由を話した。

 

「⋯先天性の疾患なんです。混血型形質発現不全って言うんですけど⋯知ってますか?」

 

俺は肯首する。流石にそれぐらいは知っていた。

 

獣人と人間との間にできた子供⋯所謂ハーフと言われる子に稀に起こる遺伝性の疾患だ。ハーフの子は基本的に両親のどちらかの種族の形質を色濃く受け継ぐ。その際、受け継いだ形質が身体に反映されない事がある。そうなると遺伝情報的には獣人の形質を受け継いだ子にも関わらず身体能力が人間と変わらなかったり、魔法が使えなかったりするのだ。

 

「⋯ああ。知ってるよ。」

 

少し暗い顔をして言う俺を見てポルカは笑う。

 

「なんでそんなに悲しい顔してるんですか?別にもうそんな気にしてませんから⋯ほら、着きましたよ?」

 

そう言われ顔を上げると、目の前にいくつもの屋台が立ち並んでいた。それと同時に人も多く、かなり混雑していた。

 

「店長、何買いますか?」

 

「⋯お前はどうすんだ?」

 

ポルカから質問された俺は、取り敢えず質問で返す。すると、ポルカは少し屋台を見回した後、目星を付けたのか1つの屋台を目指して歩いて行く。

 

「おじさん、たこ焼き1つ。」

 

「あいよ!120円ね〜。」

 

「違いますって!じゃあ8つ下さい。」

 

「あいよ!800円ね〜。」

 

「⋯定価より安くなってませんか?」

 

「良いよ良いよ、おまけだおまけ。」

 

ポルカはそんなやり取りをしてたこ焼きを購入した。俺も俺でたこ焼き屋の横にある屋台に顔を出す。

 

「すいません。チョコバナナ2つ、これでお願いします。」

 

「1000円ね。じゃあはい、200円のお返し。」

 

「ありがとうございます。」

 

そんなこんなで俺もチョコバナナを購入した。

 

「あれ?店長チョコバナナ買ったんですか、それも2つ。」

 

「お前も食べると思ったからな。はいこれ。」

 

そう言ってポルカにチョコバナナを渡す。

 

「ポルカが好きかも分からないのによく買ってきましたね。」

 

「お前が好きじゃなかったら俺が2つとも食べるから問題ない。」

 

それを聞いたポルカは笑みを浮かべた。

 

「店長って思ったよりも子供舌なんですね?」

 

「まあな⋯これ食ったらぶどう飴といちご飴と綿菓子買いに行くぞ。」

 

さらに俺のもっと買う宣言を聞いたポルカは困惑した表情を浮かべる。

 

「⋯リンゴ飴は食べないんですか?」

 

「あれそんな美味くないだろ。」

 

「いや分からなくないけど!」

 

 

 

 

 

 

そんな会話をして、屋台で買った物を食べている内に時間はあっという間に経ってしまい、後は花火を見たら帰宅するぐらいの感覚になっていた。

 

「店長⋯こっち⋯⋯。」

 

そう言われ俺はポルカに手を掴まれたまま屋台の脇を通って人混みを抜ける。

 

「⋯⋯ポルカ?」

 

ポルカの顔は赤く、目も泳いでいる。

 

「あの、ポルカ⋯ポルカね⋯⋯ずっと店長の事が⋯好きでした。」

 

「な⋯。」

 

俺はポルカにそう告げられ、固まる。

 

「別に枢みたいな大層な理由もなくて、ただの一目惚れだけど⋯ずっと、ずっと好きで⋯店長が好きな物が、ポルカの好きな物になるくらい大好きで⋯⋯だから、店長⋯⋯!」

 

ポルカが再び口を開き言の葉を発すると同時に花火が打ち上がり、その爆音でポルカの声が遮られる⋯⋯だが、そんなもので邪魔をされる程ポルカの想いは柔なものではなかった。

 

「ポルカと⋯付き合って下さい!」

 

そう告げられた途端、言おうと考えていた言葉が消え去り、自身の口角が上がるのを感じた。気持ちが動転し、言葉が詰まる。そんな自分を内観して、俺もこの状況に毒されてしまった事を悟った。

 

だが、それでも答えを返せない。今まで感じなかった奇妙な兆し⋯それを振り払うのも、受け入れるのも億劫な己が発したのは何とも無様で滑稽で⋯愚かな返しだった。

 

「少し、時間を呉れ⋯3日以内に絶対返す。」

 

俺はその後、ポルカを自宅まで送り届けて自宅へ帰る。こうして、俺たちの夏は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【白銀自警団より被害報告】

 

日付・時刻 9月1日 午後1時頃

内容 大規模小売店舗(SC)『ショッピングモール・IAGAMA』にて、指定暴力団『ヘルニア』主体の局地的範囲によるテロリズムが発生。その後、一般人2名により鎮圧。以下、被害内容(被害者の姓名は個人情報保護の為、秘匿。)

 

 

被害内容

死傷者数 189名

内訳

負傷者数 0名 死亡者数 189名

※上記の他に指定暴力団『ヘルニア』の構成員数十名の死亡が確認されたが、集計対象からは除外。

 

尚、今回の事件の鎮圧に尽力した一般人2名には白銀自警団が勲章を授与し、その功績を称える。




総帥のオタク台詞は友人に担当してもらいました。
っぱ持つべきものは友よ。
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